個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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89話

 ハイハイハイハイ!とクラス中の皆の手が上がる。私は別に何してもいいかなーと思っているのでみんながやりたいことをやれればいいかな。いや、私が提案すると何もかもがメカメカしくなるので……例えばの話だけど誰が論文朗読会とか喜ぶの?せっかくの文化祭なのに。カフェとかするならお料理とかさせてもらえればなーくらいのテンション。

 

 私は椅子を引いて、隣で新しく専用の椅子と机を貰ってそこに座っていたエリちゃんを膝に抱き上げる。これなら黒板がよく見えるし、みんなの顔も見えて輪に入っていきやすいだろう。私のハロとエリちゃんの白ハロが机の上でコロコロしだすのをよそに、みんなの挙手スピードと声量は際限なく上がっていく。声が大きいなあ。

 

 「くっ!なんという変わり身の早さ!だが必ずまとめ上げてやるぞ!上鳴くん!意見を!」

 

 「メイド喫茶とかどうよ!?」

 

 「奉仕か……!悪くない!」

 

 え、それ私含む女子勢がメイド服着るってことだよね?うーん、メイド服かあ。ミニスカみたいな所謂メイド喫茶とかで着られているメイド服はなんか抵抗感あるんだけど、クラシカルなロングスカートのメイド服だったら着てみたいかも。長袖ロングスカートで私の手足が隠れていい感じに柔らかい印象になるんじゃないかなあ。エリちゃんにも可愛い服着せてあげたいし、そういう方向性はあり寄りのありだ。なんか楽しくなってきたぞ。

 

 「ぬるいわ上鳴!」

 

 「では峰田くん!」

 

 「オッパブッッ?!?!」

 

 めしゃり、と私が無言で放ったロケットパンチが峰田くんを直撃して梅雨ちゃんが構えた頭陀袋の中に吹き飛ばす。梅雨ちゃんは無言で袋をロープでぐるぐる巻きして天井に峰田くんを吊るした。重しは私の腕。もごもごやっている峰田くんを女子全員で冷たい目で見つつ、会議は踊っていく。単純に言えば進まないともいう。

 

 腕相撲大会にびっくりハウス、クレープ屋、ダンス、ふれあい動物園……若干理解不能だが暗黒学徒の宴だの僕のキラメキショウ☆なんていうよくわかんないものまで多種多様な提案が黒板を埋めていく。私にも意見が求められたので素直に喫茶店と答えておいた。無難だけど、なんだかんだ私は料理をするのが好きなのだ。楽しいよね、みんなが作った料理をおいしそうに食べてくれたらさ。

 

 一通りの意見が揃ってわいわいわいとあーだこーだの喧々諤々。意見が取りまとめられることはなく、みんながみんな好きに意見を言い始める。流石は我の強いヒーロー科である、やりたいことを前にした圧倒的バイタリティには恐れ入る。そういえば私はどうすればいいんだろう?エリちゃんがいるからそこまで準備とか手伝えない気がする。

 

 キーンコーンカーンコーン、となにもきまらないまま無情にも夕方のホームルームは終了してしまう。むくり、と寝袋から起き上がった相澤先生を前にみんながぴたりと動きを止める。だってこれ……相澤先生が嫌いな非合理的な奴だから。相澤先生の恐ろしさはみんな骨身に染みているのでちょっと……いやかなり怖い。ごめんなさい相澤先生!許して!と峰田くんを地面に落として腕を回収した私含むみんながぶるりと震えた。

 

 「実に非合理的な会だったな……明日、朝までに決めておけ。さもなくば……公開座学とする!」

 

 相澤先生の眼光に、私たちは水飲み鳥のように首を縦に振り続けるのだった。

 

 

 

 

 「はい、補習お疲れ様。とてもいい子だったわ……少しずつ離れられるようになってきたわね」

 

 「ええ、ですけどやっぱり……寂しいのかもしれませんね」

 

 むぎゅ、と私に抱き着くエリちゃんを預かってくれていたミッドナイト先生から受け取る。授業後、私たちインターン組はインターンで公欠していた分の補習があったのでその時間分をエリちゃんが私から離れられるようにする訓練に当てることになった。白ハロがいれば基本は問題ないのでミッドナイト先生や13号先生にお願いしてちょっとだけ離れている。

 

 ちなみにいの一番に手をあげてくれたプレゼントマイク先生は声が大きすぎてエリちゃんに怯えられてしまって暫く部屋の隅でいじけてた。自慢の金髪トサカヘアーもなんだかしなびていたような気がする。少し経てばエリちゃんは落ち着いて抱き着く力を弱めた。そういえば、話し合いには参加できないけど文化祭のアレソレはどうなったんだろう。

 

 インターン組の補習はインターンが超短期間で終わったせいで短くなり今日で終わりなのでこれ以降の話し合いは積極参加できるのです。エリちゃんに話しかけてくれるデクくんに話しやすいようにエリちゃんを再度預けながら私たちはそのまま寮に帰る。寮の共有スペースに入ると……

 

 「「「「………………」」」」

 

 すごく難しい顔をしているA組の皆がいた。爆豪くんだけいないのは恐らく参加する意思があまりないからだろう。それはいつも通りなのでいいとして、このどうしたらいいか決めかねているみたいな感じの空気は何だろうか。私たちが揃って首を傾げていると透ちゃんが私たちに気づく。

 

 「あー!おかえりー!補習組も参加してよー!煮詰まっちゃってるの!」

 

 「あ、うん!飯田くん今どんな感じなの?」

 

 「ああ、緑谷君。落ち着いて考えてみたんだが、他の科のストレス……その発散の一助になるような企画を出すべきではないかという話になっているんだ。俺たちはヒーロー科、他人に迷惑を掛け続けるわけにはいかないだろう?」

 

 「いいんじゃねえの!?そういうの大好きだぜ俺!」

 

 「ところがそーゆーわけにもいかねーのよ切島」

 

 えーくんがいつも通り拳を打ち付けながら飯田くんの提案したテーマに沿った企画を出すというのに賛成する。それに困ったような顔で声を上げるのは瀬呂くん。やれやれと肩をすくめながら事情を説明してくれる。

 

 「今さぁ。体験系がいいんじゃねえかって話してんだけど、素人芸ほど萎えるもんねーじゃん?どうすっかな、ってさ」

 

 「あー、そやねえ」

 

 「じゃあ、ダンスは?三奈ちゃんいるし」

 

 「流石は希械ちゃん!ナイス援軍!」

 

 「いいんじゃねえか、ダンス」

 

 「轟!?意外な援軍が!」

 

 三奈ちゃんのダンスは見ごたえあるし、教えるのも上手。だから文化祭までの1か月あれば結構なレベルまでみんなを押し上げることができると思う。私がソファに座りながらそう提案すると、それに乗っかってきたのが轟くん、なんて意外な!?轟くんだったら蕎麦推しし続けるものかと思ってた!いや、それは流石にひどいか。彼は飯田くんのノートパソコンを一言断ってから操作し、一つの動画を映し出した。

 

 「こういうの、いいんじゃねえか?」

 

 「轟から出る発想じゃねー――!?」

 

 上鳴くんの驚愕の声に、ちょっとだけ同意。ノートパソコンの画面に映し出された動画は、言うなればクラブorディスコ。サイケデリックな照明が乱舞しステージ台に立った演者とそれを見る観客が一体となって大盛り上がりしている奴だ。轟くん曰く、飯田くんの提案には賛成で、それを実現するためには楽しませるんではなくて、楽しめる場を提供するのがいいんじゃないかとのこと。なるほど、確かに!

 

 「仮免補講からの連想なんだが」

 

 「……DJでもやってきたの?」

 

 「それはプレゼントマイクがやってた」

 

 「どんな補講だったんだよ……」

 

 「けどよー、もう一回言うが素人芸ほどストレスなものはねえぞ?」

 

 瀬呂くんが再度釘を刺す。まあ、その通りだけど……三奈ちゃんがはーい!と手をあげる。私教えられるよ!と青山くんを指しながら三奈ちゃんが言えば、青山くんは今朝の奇妙な動きとは全く違う洗練されたツーステップを披露する。おおっ!とみんなが沸いて芦戸に任せれば行けんじゃね?という上鳴くんの声でみんながその気になった。

 

 「待て素人共!ダンスとはリズムだ!もっと言えば音そのもの!パリピどもは極上の音じゃねえとノらねえ!」

 

 「音楽といえば……!」

 

 「え、何?」

 

 「響香ちゃん、だね」

 

 「ケロケロ」

 

 峰田くんの魂の叫び、それに反応した透ちゃんがある一人を指さす。音といえば響香ちゃん、楽器といえば響香ちゃん、音楽といえば響香ちゃん。つまりはヒアヒーロー、イヤホン=ジャックのことだ!唐突に自分にお鉢が回ってきた響香ちゃんはおろおろと動揺してイヤホンジャックを振り回している。エリちゃんも響香ちゃんのことは歌のお姉さんという認識でいるらしく、無表情ながら一目でわかる期待の目で響香ちゃんをじーっと見つめていた。

 

 「耳郎ちゃんの楽器で生演奏!」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ!ウチのはホントただの趣味!表立って自慢できるもんじゃんないっつーかさ……!」

 

 「そういうことか、昼間のアレはよ……!いいか!耳郎!お前はすげぇ!」

 

 「ちょ、上鳴!いきなり何言ってんの!」

 

 もしかして響香ちゃん、趣味のことで私たちに引け目を感じてたりしたの?そんな、私はとても素敵な趣味だと思うんだけどなあ、音楽。上鳴くんの飾らないドストレートな言葉にかぁっとほっぺを赤くして恥ずかしがる時の癖らしいイヤホンジャックを手に持ってつんつんと先っちょを合わせ始める。いいぞ上鳴くん、もう一押し!彼のストレートな言葉が逆に心からのそれだと分かってしまう響香ちゃん、何だったら声紋もぶれてないしね。上鳴くん本気だ。

 

 「あんなに楽器できるとかめっちゃカッケーじゃん!俺はおめーのこと尊敬するぜ!?」

 

 「っ……!」

 

 「そうだよ、人を笑顔にできるかもしれない趣味だよ。十分ヒーロー活動に根差していると思う」

 

 上鳴くんと口田くんの怒涛の波状攻撃にさらに真っ赤になっていく響香ちゃん。あっちゃー、やりすぎかも。キャパシティ超える前に助けようかな、とソファを立ち上がろうとしたら私が割って入る前に察した百ちゃんがやんわりと二人を止める。百ちゃん、響香ちゃんととても仲がいいからね、私より早く彼女の状態に気づいたんだろう。

 

 「お二人の主張もとても分かりますが、でもこれは耳郎さんの意志が大事なのですわ。無理強いはできませんの」

 

 「いや、やるよ。ここまで言われてしり込みするのも……ロックじゃないよね……!」

 

 「よっしゃ!これで決まりだな!A組の出し物は……!生演奏とダンスでパリピ空間の提供だ!」

 

 

 

 

 

 「楪、ちょっと。管理人室で話がある」

 

 「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 クラスの出し物会議が終わって、夕飯前。時間を見つけてくれたBIG3が遊びに来てくれて通形先輩がエリちゃんを抱っこして一緒に遊んでくれている。私はそれを楽しく見守っていたわけなんだけど、そこでぬっとあらわれた相澤先生に管理人室に連れ込まれる。エリちゃんが離れてる今じゃないとできない話なんだろうか。

 

 「お前、自分の両親からなんか聞いてるか?」

 

 「え、いやなにも聞いてはないですけど……」

 

 「……そうか。エリちゃんの里親の件……お前の両親が名乗りを上げてな。場合によってはそのまま決まりそうなぐらいだ」

 

 「え!?」

 

 お、お父さんにお母さんがエリちゃんの里親に立候補したぁ!?ちょ、ちょっと何を言ってるのか分かんないよ!?どうしちゃったんだろう……?それにまだまだ時期尚早だ。確かに私は両親にエリちゃんのことを話して暫く一緒に生活するということも話したし、何回かエリちゃんとの生活がこんなにも楽しいと両親に報告した。エリちゃんも私のお母さんとお父さんの顔を知っている。けど、それとこれとはまた別でしょう?

 

 「知っての通り、エリちゃんの個性のコントロールが出来なければ里親の元へなんて出せない。ただ、コントロール出来ても暴発する可能性はある。所詮は身体機能だからな、スイッチでオフにできるものじゃない」

 

 「ええ、個性はそういうものです。私でもたまに失敗しますし」

 

 「そういうことだ。その場合……エリちゃんの個性の暴発は致命的になる、が……個性が効かない可能性がある二人が名乗り出た」

 

 「あー……確かに私の両親なら効かない可能性はありますね」

 

 エリちゃんの個性が効かない条件はいまだに謎に包まれているけど、可能性が高いのは生物的に矛盾していることだ。つまり、異形型かつ無機物などのありえないものが混ざり合って人として成立していれば効かない可能性がある。その点骨格と手が機械のお父さんと内臓の一部と足が機械のお母さんは条件を満たしてはいるはずだ。あとで聞いておかないと。

 

 「ただ、だいぶ先の話だ。一応耳に入れておくべきだと思ってな。仮にお前の両親に里親が決まれば……無理に引き離す訓練をしなくてもいい。お前が家に帰ればいつだって会えるだろう」

 

 ちくり、と私の胸が痛む。そう、私はエリちゃんと少しずつ離れられるように訓練をしている。エリちゃんに気づかれないように。いつも私が傍にいてあげられるわけじゃないのは分かってるし、私の元を離れなきゃいけないのも分かってるけど。私から離れる時間があるたびに、またオーバーホールの所にいた時みたいな諦めの顔を見せる彼女にひどく胸が痛んだのだ。

 

 依存してるのは私のほうかもしれないね、と苦笑しながら私は相澤先生にお礼を言った。どっちにしろ両親は問い詰めないとね。私だと甘やかしちゃうだけだろうから、両親が考えることも何となくわかるけど……意図がちょっとわからないし。




 この世界の峰田くんは耐久が高いです。主にお仕置きのせいで。エリちゃんは小動物、間違いない。

 では感想評価よろしくお願いします。次回もよろしくお願いします。

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

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