「衣装とか、どうしましょう」
ででん!と各パートの代表者枠、三奈ちゃん、えーくん、響香ちゃん、百ちゃん、私が集められ、演出組の瀬呂くんが私たちを前にそう宣言する。衣装、衣装ねえ……確かに大事だよね。ステージの中で踊る私たちが例えばジャージとかだった場合没入感がまるでない。三奈ちゃん曰くディズニーのパレードのようなものにしたいらしいので、それっぽい衣装は必須なのだ。
「意外性の瀬呂~デザイン案とかない~?」
「俺かよ!まあ、なくもないくらいだけどさ。どういうのがいいっていう意見が欲しいんだよ」
「色は統一したいよね、あとバンドとダンス隊は違うのがいいかも。バンドはバンドTシャツで、ダンス隊はダンス衣装みたいな」
「デザインが決まれば私がお作りしますわ」
「うーん、ヤオモモに頼りすぎるのも良くないよね。できればみんな同条件で行きたいじゃん?個性ばっかり使ってるのもあまり、ね」
「じゃあ、バンドTシャツはクラス全員分作っちゃおう。衣装については、いいものがあるの!」
カキン、と手を打った私の言葉にみんなの視線が集まる。確かに必要なものははい、と私たちがぽんぽん出してたらみんなでやってる感薄れちゃうもんね。それなら普通に手に入るものは普通に買ったり何かして、手に入らない特別なものとかを私たちが作っちゃえばいいんだよ。というわけで私が出したのはちょっとオシャンティなチョーカー。ちょいちょいと響香ちゃんを手招きしてカチャカチャとチョーカーを首に嵌める。
「おお!響香ちゃん似合ってるー!流石希械ちゃん、ナイスデザイン!」
「なんか照れる……」
「んで希械、これなんだよ」
「ふふふ、では3、2、1……イリュージョン!」
「「「「おおおおっ!!!」」」」
「ちょっ……はっず……!」
ぱっとエフェクトがかかってまるで魔法少女の変身シーンみたいに上から下に響香ちゃんの服が変わっていく。Tシャツにパンツスタイルだった彼女の服は今は煌びやかなアイドルのような衣装に変わった。ご丁寧にそれっぽい小さなシルクハットが頭に斜めに被さっている。いきなり変わった衣装に顔を赤くして恥ずかしがる響香ちゃん、かわゆい。
「どう?これは名付けてフォールドプロジェクター!体の表面に空間投影した映像を定着することができるの。もちろん映像だから触れないけど、物理演算は仕込んであるから本物の服と同様に動くんだよ」
「これやべーな。楪びっくり箱かお前」
「耳郎さん、素敵ですわ」
「でね、私がこれを提案するのは理由があって……ダンスの最中にお着替えとかできたら……楽しくない?」
「「「「それめっちゃいい!」」」」
演出組含むみんなが声を揃えて立ち上がる。古今東西のライブなどで行われる早着替え、アレは着ている衣装にいくつか仕込んでそれを解放することで服が変わる、みたいなものだけどこれを使えば話は変わる。どんな衣装でも、どんな服装でも、自由自在だ。モデリングは私が見れば一瞬、あとはハロにお任せってね。
「めっちゃいいじゃん早着替え!」
「これさ、どうやって元に戻すの?ウチ流石にこれはね……」
「首元一回撫でてみてー」
「えっちょっ!希械!」
「あはは、ごめんごめん」
響香ちゃんの衣装が今度はフリフリのアイドル衣装にかわる。うん、やっぱり可愛い。流石に弄り過ぎたと反省した私はチョーカーを撫でて投影映像を消す。普段着に戻った響香ちゃんは軽く頬を赤らめて私に抗議する。なるほど、三奈ちゃんが私を弄り倒すときはこんな気持ちなのかぁ。これは確かに楽しいね、やり過ぎは可哀想だけどさ。
他にもなんかねえか!?と尋ねる瀬呂くんにあんまり機械に頼り過ぎたらダメじゃない?主役は私たちと観客だし、と返すとはっとなってそうだな!といってくれた。多分私が介在するのはここまでにした方がいい気がする。機械を使えばなんだって自由自在なのは間違いないけど、それは心が通ってないものだ。みんなでやるからこそ意義があって、意味がある。いいものになると思えば提案するけど、全部が全部私が噛んでたらキリがない。だから、今回はここまでだ。あとはみんなで作っていけばいい。
「ダンス、するの?」
「うん、するよ。エリちゃん明日楽しみにしててね」
「……ん」
あっという間に文化祭の準備の日々は過ぎていった。何と明日が文化祭の当日である。エリちゃんと深く関わりがある私とデクくんは何が何でもという感じで張り切っている。私はエリちゃんと一緒に眠るのが毎日なのでみんなより少し早めに自分の部屋に引っ込んだ。練習は万全、エリちゃんには内容を秘密にしてるのは申し訳ないし、寂しい思いをさせちゃってるのかな。
エリちゃんは、文化祭が近づくにつれてどんどんと、そわそわ、わくわくしたような空気を醸し出すようになっていた。私が放課後練習に行く前にエリちゃんとぐるっと校内をお散歩するのが日課みたいになってたんだけどエリちゃんはどこへ行っても人気だった。3年のヒーロー科では通形先輩や波動先輩に構ってもらえて、2年生の去年相澤先生が担当していたクラスの人たちにチラシを貰ったりとかね。
もちろん好意的じゃない人もいる、こっちを遠巻きに見てあまりいい感じではない視線をエリちゃんに注ぐ人とか、聞こえるように嫌味を言う人とかね。さりげなくエリちゃんから見えない位置に移動したりとか聞こえないようにしたりとかはしてたけども、表立って何かを言ってこない以上それより先は私も何もできないし、全部録音してあるにしろそれを使って先生に伝えるなどして排除してしまったらますますヒーロー科ヘの悪感情を強めることになってしまう。
特にそのやっかみが多いのが1年生たちで、通りすがっただけでざわざわ言う人もいるし、しょうがないにしろいい気分はしないかな。ただ、心操くんが所属するC組はヒーロー科への偏見は全くないみたい、むしろそんなことがあって大変だったんだなあという感じで気遣ってくれる人の方が多い。お前らのせいじゃないだろ、という心操くんの人徳のたまものかな。
すやすや、と明日を楽しみにしていつもより遅い時間まで起きていたエリちゃんが限界を迎えて私の隣で眠ってしまう。枕もとにいる白ハロが優しく目を光らせながらエリちゃんを見守っていた。エリちゃんの精神状態は私と生活をしているこの2か月ほどでかなり改善されたように思える。白ハロをプレゼントした日から、うなされる回数が減って文化祭で私たちが出し物をすると伝えた時からさらにぐっと減った。
エリちゃんが戻してしまった両親がエリちゃんのことをどう思ってたかなんて私にはわからないけど、ただ一つ言えることは……彼女はきちんと愛されていたということだろう。押収品のアルバムを相澤先生から見せてもらった。エリちゃんの両親のことを知るために。そこに広がっていたのは笑顔、エリちゃんによく似たお母さんと優しそうなお父さんに挟まれた赤ちゃんの時のエリちゃんを見て、確かに幸せだったんだろうなと辛くなった。
1週間前、私は自分の両親と連絡を取った。聞きたいことがあったからだ。それは、エリちゃんについて両親がエリちゃんの引き取り手に手を挙げた理由を知りたかった。下手な同情や考えなしの行動をする人たちじゃない。異形型の個性を持って生まれた私の両親は当然のように個性差別を受けて生きてきた、そしてそれは今も真綿で首を締めるかのように緩く、しかし確実に続いている。
家庭環境が悪い、という話じゃない。異形型それ自体がまだまだ社会に受け入れられていないのだ。エリちゃんは異形型ではなく発動型、角という異形の部分はあれどほとんど人間だ。わざわざ傷ついている女の子をもしかしたらまた傷ついてしまうようなところに引き込む人じゃないっていうのは両親を見て知っている。もちろんえーくんのご両親のように偏見のない人もいるが、確実に悪意のある人はいるのだ。
「エリちゃんも個性柄、差別を受ける可能性があるだろう。そうなった時の対処は私たちが一番よく知っている」
「個性が効かないかもしれないっていうのも重要よ。エリちゃんが絶対に安心できる……貴方のような人が必要なの」
「だから、私たちが立候補したのさ。それにね、もう一人くらい、娘が欲しかったんだよ」
「やっぱり、貴方に会えなくなってしまうのはきっとエリちゃんにとって良くないの。養護施設に入ってしまったら、会うのだって一苦労よ。面会だって制限されてしまうわ」
両親は私にエリちゃんを引き取ることを決意した理由についてそう説明してくれた。確かに養護施設に入ってしまったら私とエリちゃんは容易には会えなくなってしまうし、引き離されることになると思う。いいか悪いかで言えば……私には判断できない。だって、今エリちゃんは私に少なからず依存してしまっている状態だから。離れることはできるようになったと言っても、まだ不安は少し残っている。
けど、あの年頃の子供だったら両親に甘えた状態でいるのは普通のことだとは思う。特にエリちゃんは、ずっとそれが出来なかった。だからそれを取り戻すように私に甘えている状態……なのかもしれない。確かに両親がエリちゃんを引き取るのは選択肢としては最良なのだろう。けど、エリちゃんのためになるのだろうか……それともこの考え自体が傲慢なのかな。
わからない……わからないの。エリちゃんをどうしてあげたらいいのか。私にはわからない、何が彼女にとって最良なのかをずっと考えている。私はエリちゃんが好きだ、大好きだ。この2か月一緒に過ごすうちに彼女に対する情を抱えてしまった、抱いてしまった自覚はある。少しづつ、外の世界に目を向けて感情を取り戻していく彼女が愛おしいと思っている。
だから、私は離れるべきじゃないのかと思ってもいる。答えの出ない迷宮のような自問自答に沈みながら、私は目を閉じて眠りにつくことにした。
「あれ?デクくんは?」
「あー緑谷?青山ぶら下げる用のロープとかを朝練のついでに買いに行ったよ。こっから15分ぐらいのホームセンター」
「なんだ、私に言ってくれればいいのに。絶対に切れない炭素ワイヤーロープとかあるし」
「お前とか八百万を便利道具扱いしたくないんだよ、皆」
「ふーん……」
「あ、希械ちゃん真っ赤ー」
「だってー!」
翌日の事、午前7時に起きた私とエリちゃんは朝ごはんを一緒に食べて身支度を済ませて共用スペースにおりてきた。文化祭の開幕は午前9時、私たちの出し物は午前10時から開園ということになっている。クラスのみんなで作ったバンドTシャツに袖を通し、フォールドプロジェクターのチョーカーを首につける。エリちゃんの分もバンドTシャツを作ってあるので彼女にも着せてあげて、思いっきりおめかし。1日沢山動くだろうから髪の毛をポニーテールでまとめてあげて、白ハロがはまったネックレスを首にかけてあげる。
そうして共用スペースにやってきた私たち、すでにみんな勢ぞろい……なんだけど一人足りない。デクくんだ。最近朝にワンフォーオールの特訓をしていることは知っていたからそれかなと近くにいたえーくんに聞いてみると何でも出し物で使うロープが練習でかなり傷んでしまっているのを昨日、私と百ちゃんが寝てから発見したらしく朝練のついでに朝早くからやっているホームセンターに買いに行ったのだとか。
でもこんなギリギリで買い出しなんて……間に合うのかな。私は午前中いっぱいエリちゃんを預かってくれるということで寮にやってきた通形先輩によろしくお願いします、とエリちゃんを託してみんなと一緒に最後の準備に入る。作っておいたフォールドプロジェクターを全機起動、皆が一瞬でステージ衣装に変わった。問題なし。昨日作って運んだアンプなど音響機器へ外部接続、大丈夫。
「ハロ!チェック!」
『オールグリーン!オールグリーン!』
「演出隊の皆、ハロをよろしくね」
「ああ、世話になるなハロ」
今回、私はダンスにバンドと大忙しなのでアンプなどの電子関係や演出で使う細々した機械制御は全部ハロに任せることになる。その際の指示は轟くんと瀬呂くんにお任せしてるので今のうちにハロを轟くんに手渡した。そうこうしているともう既に午前9時を回ろうとしている。デクくんはまだ、戻ってこない。
「電話置いて行っちゃったんだよね、デクくん」
「っかしーなー。ここまで時間かかるような用事じゃねーと思うんだけど」
「っとにあのクソデク……後で爆破してやる」
「いつも通りだね……」
『へい!エブリバディ!さあさあ来たぜ文化祭!開幕だぁ!』
外からプレゼントマイク先生の威勢のいい開始の合図が聞こえる。私たちは不安になりながらも準備をするために体育館に移動し始める。念のため寮に残ってくれるという青山くんにお願いして私たちは準備を始めに行くのだった。
文化祭、開幕します。マクロスのフォールドプロジェクターは便利ですね、あれ一つで色々できちゃいそう。思い悩む楪さん、エリちゃん問題は難しいですねえ。
ではでは感想評価よろしくお願いします。次回もよろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ