個性「メ化」   作:カフェイン中毒

96 / 138
94話

 「えっとね、えっとね!最初は大きな音でこわくって、でもダンスでぴょんぴょんして、青山さんとデクさんがぴかってなって」

 

 「うんうん」

 

 「手を叩くと星がでて、キラキラってしてて……!」

 

 エリちゃんは一生懸命全身を使って私たちのショーダンスの感想を一杯喋ってくれる。その顔は明るくて、自然な笑顔に彩られていた。よっぽど楽しんでくれたんだろう、何時も言葉少ないエリちゃんとは思えないほど矢継ぎ早に、次々に言葉が出てくる。皆、爆豪くんですら片付けの手を止めてエリちゃんの感想を聞いているあたりみんな気にしててくれたんだろう。身をよじって通形先輩の抱っこから抜けてとててと小走りでやってくる。

 

 私はしゃがんで手を広げて、エリちゃんを受け止める。私の腕の中に自ら飛び込んできたエリちゃんは最後に一番思いが籠った言葉を言ってくれた。

 

 「わたし、わあああっって言っちゃったの!」

 

 「楽しんでくれてありがとう、エリちゃん。笑えたね」

 

 「うんっ!」

 

 強く強くエリちゃんを抱きしめる。エリちゃんのほっぺと私のほっぺがくっつく、子供らしい暖かな体温が興奮でさらに高まってるのを感じた。本当に……本当に良かった。楽しんでくれて、本当なら一番喜ぶべきはエリちゃん自身のはずなのに、私が泣きそうになっちゃってるよ。デクくんもみんなも少し涙ぐんでいて、峰田くんなんかもう半分泣きながら声を荒げている。

 

 「おらサボるな!楪はもういいからエリちゃんと文化祭回って来いよ!ミスコンでいい席取っといてくれ!な!」

 

 「そうだー!エリちゃんをもっと楽しませてやれ!」

 

 「行って来いよー!」

 

 「みんな、ありがと!お先に失礼します!」

 

 峰田くんの粋な提案にみんなが乗っかってくれる。確かに文化祭は今日1日しかないし、イベントも目白押しだ。エリちゃんを目一杯楽しませてあげるにはちょっと時間が足りないほど。なので、私は有難くみんなの後押しを受けて片付けから離脱しエリちゃんと通形先輩を伴って文化祭の真っただ中に繰り出すことにした。

 

 「通形先輩のクラスは何をやっているんですか?」

 

 「俺たちかい!?俺たちはね、焼きそばさ!」

 

 「おお、エリちゃんお腹空かない?通形先輩のクラスの焼きそば食べにいこっか」

 

 「焼きそば……!」

 

 「私よりきっとおいしいよ~?」

 

 「ハードルが上がるんだよね!」

 

 エリちゃんは、通形先輩のクラスの焼きそばが気になっている様子。でもそうだよね、文化祭といえばクラス単位でやる屋台も醍醐味の一つだよね。A組でも食べ物関係の提案は出るには出たんだけどランチラッシュを超えるものを提供するのは不可能だと飯田くんが断じて不採用になった。こういうのは雰囲気が大事だし、皆もそこまで期待はしてないと思うんだけどなあ。真面目だよね、委員長。

 

 実は初めて訪れる3年生のエリア、というか2年生のエリアも私は訪れていないんだけど通形先輩は有名人みたいでヒーロー科じゃない他のクラスの人たちもちらほら挨拶したり寄って行ってと声をかけてくれる。私やエリちゃんの行動範囲は基本1年生のエリアばっかりなので新鮮だなあ。エリちゃんにも皆手を振ってくれて、優しい。

 

 「おい通形!デートか!?」

 

 「はっはっは!そうさ!」

 

 「え?」

 

 「でぇと?」

 

 私とエリちゃんの声が重なる。あ、そうかこれ傍目に見たら男女二人で文化祭を回っていることになるのか。いやエリちゃんいるじゃん、デートじゃないよ。あ、これ通形先輩のユーモアか!さっきまでエリちゃんとデートしてたしそういうことなのね。通形先輩、なんというかこう、ユーモアのセンスが若干ズレてるような気がしないでもない感じがする……!

 

 「俺が奢るんだよね!皆!焼きそば3つ!」

 

 「あ、二つでお願いします。エリちゃんと私で分けるので!」

 

 「そうかい!?じゃ、二つね!」

 

 「さらっと自分の分注文してるんじゃねーよミリオ―!」

 

 「わ、その子がエリちゃんか!よしっ!お兄さんが腕によりをかけて焼きそば作っちゃうよ!」

 

 「わぁ……!」

 

 なるほど、ソース焼きそばじゃなくて塩焼きそばなんだ。じゅわっと鉄板に豚バラ肉が敷かれて、もやしに玉ねぎ、キャベツが後に続く。塩コショウでいためられた野菜炒めに店番らしい先輩はエリちゃんに見せるように丁寧に焼きそばを作ってくれている。エリちゃんはよく私がお料理してる時も手元をよく見ているから完成されていく料理を見るのが好きなのかもしれない。エリちゃんのお腹の容量を考えるとはんぶんこしてもちょっと多いくらいだけど、大丈夫かな?

 

 「はい!どうぞ!ミリオにつけとくわ」

 

 「え、いや払いますよ!」

 

 「ここは俺にかっこつけさせて欲しいんだよね!」

 

 お財布をごそごそとポケットから抜こうとする私の機先を制して通形先輩は私より先に財布を取り出しそのまま会計を済ませてしまった。お、奢られちゃった……!先輩に!えーくんがちょくちょく奢ってくれたりはしてたんだけど私先輩にご飯奢られるの初めてだ。座れる場所があるみたいなので、失礼してそこでエリちゃんと一緒にパックに包まれた塩焼きそばをいただいた。

 

 「おいしいかい?」

 

 「……おいしい」

 

 「っしゃぁ!どーだ見たかミリオォ!」

 

 「流石なんだよね!」

 

 ふぅふぅとあつあつの塩焼きそばを一生懸命冷ましてからはふはふと頬張るエリちゃんが、美味しいというと店番の先輩はガッツポーズをして通形先輩にアピールする。やっぱり通形先輩は凄い人なんだな、と私はエリちゃんと塩焼きそばをはんぶんこしながら勢いよく焼きそばを啜る通形先輩に改めて尊敬の念を送るのだった。

 

 

 

 「……???」

 

 「エリちゃんにはまだ難しかったかな~」

 

 目の前に通るまつげが凄い顔面を模した装甲車に首を傾げるエリちゃん、現在ミスコンの真っただ中。この装甲車の持ち主であるミスコンの覇者こと絢爛崎先輩を不思議そうに見ている。これどんなアピール何だろう?流石は3年間サポート科に在籍してるだけあって技術力には舌を巻く勢いだけど、果たしてこれが絢爛崎先輩本人のアピールになってるのだろうか。

 

 私も首をエリちゃんと同じように傾げながら見ていると、次は波動先輩の番だった。おお~ドレス凄い似合ってる。彼女はふわりと個性で浮くと、まるで妖精のように私たちの上空を飛び回り始めた。個性のねじれた波動の軌跡と、波動先輩本人の飾らない美しさが相まって、会場中が見入ってしんと静まり返る。綺麗だな……。

 

 とん、と波動先輩がステージに着地した瞬間、周囲の時間が動き出す。エリちゃんもはっとなって小さな手でぱちぱちと拍手をしていた。司会の人も意識を取り戻して、波動先輩を褒め称えている。通形先輩もポカンとしているあたり、彼もまたこれは予想外だったのだろうか。何というか、他の参加者とはオーラが違う、そんな印象を受けた。

 

 この後から仕事なんだよね、という焼きそばの店番に行くという通形先輩を見送り、今度はえーくんと一緒に文化祭を回ることになった。デクくんはお茶子ちゃんと回るんだって。指摘したらめちゃめちゃ慌てて面白かったなあ、お二人さん寮生活になってからなんとなーく仲がいいように思ってたからこういう時に一緒に回ればいいと思ってたからちょうどいいよ。エリちゃんを心配してくれるのは嬉しいんだけど。

 

 「あれ?障子くんに砂藤くん。何してるの?出店?出店許可を強奪したりした?」

 

 「違う、経営科のたこ焼き屋なんだが別の人気店に客を奪われてな。経営科はそれの対策会議中だ。近くにいたからと留守を任された」

 

 「材料使っていいから勝手に食っててくれって言われてよォ。結局断れなかったんだよな」

 

 「……くるくる、すごい」

 

 「そうか、エリちゃんたこ焼き見るの初めてか?旨いぜ?」

 

 なぜか別の科の人に一時的に店番を投げられてしまったらしい障子くんと砂藤くん。断らないあたりに二人の根底にある人の良さを感じる。手際よくくるくるとタコ焼き器を操る障子くんの手元をまるで魔法を見るかのように一心不乱に見るエリちゃんに障子くんは少し照れている様子だ。普段あまり感情を表に出すタイプじゃない障子くんにしては珍しい。砂糖君は別のタコ焼き器でミニケーキを焼いたりしている。

 

 「せっかくだ、食べていくといい。切島も消費を手伝ってくれ」

 

 「おっ!?いいのか障子!?ちょうど腹減ってたんだよなあ!」

 

 「こっちのケーキも食べてくれ。即席だが悪くねえと思うからよォ」

 

 「ありがと砂藤くん。エリちゃん、熱いから冷ましてからね」

 

 「いい匂い、する」

 

 ソースをかけて、マヨネーズを絞り出し、青のりパラパラ、鰹節わっさー、と複製腕をそれぞれ操って別個の作業を同時にする障子くんから船型のパックに乗っけられた大粒のたこ焼きが渡される。エリちゃんはその作業をする障子くんを尊敬の目で見つめている。その視線が障子くんにはなんだかむず痒いらしくて、ちょっと目を逸らす彼に私は思わず笑ってしまった。じと、とこちらを見る彼にごめんごめん、と手刀を切って、冷ましたたこ焼きをエリちゃんにあーんしてあげる。

 

 それでもやっぱり中身は少し熱いので、ほふほふと言いながら美味しそうに食べるエリちゃん、お気に召した様子だよ障子くんと彼を見るとかなり穏やかな表情でこっちを見ていた。エリちゃんにしては速いペースでたこ焼きを食べているところを見るに相当お気に召したのではないだろうか。食べ終わったのを見計らって私はエリちゃんの脇に手を入れて持ち上げて、障子くんの膝の上に乗せる。どうしていいか分からないらしい障子くんに

 

 「たこ焼きの焼き方、教えてあげて」

 

 「……わかった」

 

 エリちゃん、多分やってみたいという感じを醸し出していたので私は障子くんにタコ焼き器を指し示しながらお願いしてみた。何となく障子くん、エリちゃんに触れたりするのを避けてたように感じたから。同じ異形型だから何となくわかる、普通の人への接し方の難しさというやつ。エリちゃんは、私という異形型と2か月の間みっちり生活していたおかげか障子くんを怖がる様子は一切ない。

 

 ためらいがちに開始されたたこ焼き作りのレクチャーをエリちゃんは真剣そのものという様子で聞いている。複製腕をエリちゃんの腕に添えて生地を流し込んだり、ネギや天かすを入れて、タコを入れる障子くん。エリちゃんがよいしょ、よいしょと一生懸命たこ焼きを丸くしようと頑張ってるのを微笑ましく見てると、いつの間にかギャラリーが集まっていて、砂藤くんが作っているミニケーキやエリちゃんが作っているたこ焼きの注文が入り始めた。おおっと。

 

 とりあえずえーくんは列整理に走り、私は余っているタコ焼き器で追加のたこ焼きを焼き始める。障子くんが作り置きしていたのを含めて飛ぶように売れていく。エリちゃんは一生懸命で気づいてないけど、マスコットが追加されたことで華がでてきたのかな?経営科の人ごめんなさい、とりあえずちょっとだけ面倒を見ようかな。

 

 

 

 「エリちゃん、楽しかった?」

 

 「うんっ!また、やりたい」

 

 「タコ焼き器買うか~?タコパってやつ。芦戸のやつが喜ぶんじゃね?」

 

 「いいかもね、それ」

 

 たこ焼きを丸くする作業を大いに楽しんだエリちゃんはいつの間にか人垣に囲まれていたことに気づいてびくびくしていたが、障子くんが複製腕の被膜でエリちゃんを包んで気を遣ってくれた隙に私がたこ焼きを焼ききって人がまばらになった隙に脱出できた。エリちゃんは障子くんを怖がることなく、複製腕をつんつんつついたりしていた。障子くんは怖がられなかったことに安堵していたけど、多分エリちゃんは気にしないだろうなっていうのは分かってたからね。

 

 ヒーロー科を中心にエリちゃんは大人気だ。どの学年もヒーロー科は言うに及ばずサポート科、経営科、普通科の人もエリちゃんを見つけると初めて会うにもかかわらず、やれ商品サービスだの、やっていってほしいとか優しくしてくれる。お祭りの雰囲気とかが大らかにしてくれてるのかな。お腹いっぱい、と満足気なエリちゃんがうとうとしだしたので木陰のベンチでエリちゃんを膝の上に乗せてえーくんとおしゃべりする。

 

 「今日のショーダンス、楽しかったね。バンドもできて、エリちゃんも笑ってくれて……大成功だったんじゃない?」

 

 「そうだな!お前ずっと頑張ってたし、俺たちも気合入ったもんだしよ。緑谷が遅刻したのはひやひやしたけどな!結果オーライだろ」

 

 えーくんはエリちゃんの頭を優しく撫でながら清々しそうに感想を言う。A組のショーダンスは最高に盛り上がったと私自身も思っているのでえーくんの感想も頷けるというもの。私にとっても大切な思い出になった。新しい左目で見つめた最初のクラス皆で成し遂げた思い出だ。私たちの出し物を見てくれた人たちから道中声をかけまくられたのできっと見てくれた人たちにも私たちの思いは伝わったのだろう。それは……とても嬉しかった。

 

 プレゼントマイク先生が文化祭の終了を告げる放送をするのを聞きながら、私はえーくんの隣で、眠ってしまったエリちゃんを抱きながらいつまでも日常が続いてくれたらな、と一人思うのだった。




 文化祭、終了!峰田は閉めるところは閉める、いいキャラクターだと思います。粋なこともちゃんと言える、セクハラさえなければ……。アンケートの結果も鑑みてチームアップミッションと雄英白書の要素も作品にいれていくことにしました。

 お知らせですが、隔日更新が結構リアル生活に影響を及ぼしてしまっているので、更新期間を延ばさせてもらいます。まあ、いつも通りの4日から5日に1回更新ですね。体壊しちゃいましたごめんなさい。

 では感想評価よろしくお願いします。次回もまた

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。