文化祭が終わってしまい、完全に眠ってしまったエリちゃんをベッドで寝かしてあげるためえーくんと私はゆっくりと寮に戻っていく。片付けを途中で抜けてきてしまって申し訳ないな、とえーくんにも謝ったんだけどエリちゃんが優先だろと男前な返しをしてくれて少しだけ心が軽くなった。
寮の中に帰ってくると、すでにちらほらと帰ってきてる人がいて私やエリちゃんに気付くと挨拶を返してくれようとするが、エリちゃんが眠ってるのを見て皆静かになった。私はそれにフフフと笑いながら自分の部屋まで行ってエリちゃんを自分のベッドに寝かす。ハロと白ハロを大きくして、エリちゃんが起きるまで見守ってもらおう。彼らが居ればエリちゃんが私がいない時に起きても自分で下に降りてくることができる。というか起きた瞬間に私が気づいてマッハで部屋まで戻る。
すやすやと眠るエリちゃんの寝顔に、きゅんとしながら私は彼女に布団を被せ、エアコンを適温に設定し頭を撫でてあげてから自分の部屋を出た。そのころにはもうクラスの大部分の人が戻ってきていてめいめい今日のことについて話していた。そんな感じで共用スペースに戻ってきた私ではあるけど、珍しいものを見ることができた。デクくんが、共用スペースの台所に立って砂藤くんと何やらやっているのだ。ぴこん、と面白スイッチが入った私が何をしているのかな、と台所を覗きに行く。
「デクくんがお料理なんて珍しいね?砂藤くんと一緒ってことはお菓子作り?うわ!この果物どうしたの!?」
「お、楪。手伝ってくれよ。実はな、経営科のたこ焼き屋手伝ったお礼にこれもらってよォ。折角だし打ち上げに使おうと思ってな。皆立って食べられるようにフルーツ飴にしてんだ」
「へー、ナイスだね。いいよ、手伝う。デクくんもそうなの?」
「僕は、エリちゃんがリンゴ好きだって聞いて……。屋台でりんご飴なかったから、作ってあげられたらなって」
なるほど、デクくんは優しいな。わざわざエリちゃんのためにりんご飴作ってるんだ。ってことはエリちゃんが寝てる今がチャンスなんじゃないかな!?サプライズになるよデクくん!台所の一角を占有するリンゴ、みかんにバナナ、ブドウにイチゴ、パイナップルにマンゴー。なるほどこれは一苦労かもね。と私は新しく小鍋に砂糖と水を入れてフルーツをカットしつつ火にかける作業を始める。
フルーツ飴というやつは簡単に作れば手間なんてないようなものだ。もちろん手が込んだものを作ろうと思えばいくらでも手を入れることはできるけど、お祭りっぽい感じのフルーツ飴って簡単だからこそ雰囲気が出るんだよね~。そう思いながら斜めにカットしたパイナップルに溶かした飴をコーティングする作業をしていると砂藤くんがぎょっとするものを手に取った。唐辛子である、それも辛いでお馴染鷹の爪じゃなくてハラペーニョというやつだ。あ、それ私がサルサソースを作った余りでみんなに使っていいよーって冷蔵庫に入れてたやつか!
「ハラペーニョなんてどうするの?」
「爆豪って絶対ぇフルーツ飴なんて食わねえだろ?爆豪用に愛情たっぷり唐辛子キャンディだ」
「ははあ、なるほど。お、デクくん上手いね。りんご飴、完璧だ」
「そうかな。エリちゃんが喜んでくれるといいんだけど」
私や砂藤くんは食紅を使わない透明な飴でフルーツ飴を作っているけど、エリちゃん専用に作っているりんご飴だけは赤い食紅を使ってお祭りでよく見るそれそのままに作っている。艶々と赤い光を反射するりんご飴を冷風発生装置の前に置いて急速に冷やし固めてりんご飴の完成だ。私たちが作るフルーツ飴もクラスの人数分完成して、トレーに乗せて皆の所に持っていく。いつの間にか峰田くんがバナナを使って飴を作っていたが何も見てないことにした。
「うわー!おいしそー!」
「フルーツ飴かぁ!そういえばなかったよな」
「お祭りっぽい!」
「打ち上げだー!」
きらきら輝く宝石のようなフルーツ飴を皆がそれぞれ好きなものを手に取って、乾杯の音頭をまつ。当然ながらその音頭を取るのは我らがロボットダンス委員長、飯田くんである。飯田くんは最初はこの一か月間を全部最初から振り返ろうとしていたけど、流石にそれはみんなからブーイングが飛んだ。皆、早くどんちゃん騒ぎをしたいのだ。明日の全体後片付けの前に、景気づけをしたいんだよ。
「では、簡素に……皆!お疲れさまでした!」
「おつかれさまー!」
飯田くんの音頭に合わせて、全員好きなフルーツ飴を掲げてから、勢いよくかぶりついた。私はリンゴが食べたかったのでエリちゃん用とは別のりんご飴をがりっといい音をさせて噛み砕く。甘い砂糖の単純な味とリンゴの甘酸っぱさが合わさって、体に染み入っていくようだ。ミッドナイト先生風に言うなら、これが青春の味というやつなのだろう。
「んだこれ!辛えのか甘えのかわかんねえだろうがぁ!無駄な気を回してんじゃねえ!」
「あ、爆豪くんそれ砂藤くんの愛情がたっぷり入っているから残さずに食べてあげてね」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ!」
「またまたー、シュガータイム楽しみにしてるくせにー」
「あ゛あ゛!?」
お祭り気分で気が大きくなっている私がハラペーニョ飴を見て砂藤くんに文句を言う爆豪くんを弄ってみると、デクくんがあまりにも驚愕の顔でこっちを見るものだからちょっと面白い。でも知ってるんだよ爆豪くん、週に一回行われる砂藤くんのお茶会「シュガーマンのシュガータイム」に、結構な頻度で参加しているということを!私もよく参加したり砂藤くんと一緒に何かを作ったりするんだけど、砂藤くん流石個性が甘いもの関係なだけあってお菓子系なら私よりも上手だからさ。私の出番ないんだよね。
ただ、ご飯とかそういうものだったら負ける気はしません。たまにやる料理勝負ではいまだ負け知らず。スイーツ対決は砂藤くんの勝ち越し。寮の中のイベントとしてちょくちょくやってるんだ。実は甘いものも食べるという爆豪くんへの弄りに彼は額に血管を浮かべてキレ散らかしそうになっている。いつもの私ならこれでビビってえーくんの後ろに引っ込むのだが、まあ室内だけど花火の一つや二つ上がってもいいでしょう。爆豪くんもガチで傷つけには来ないしね。
「けほっ」
「楪さん大丈夫!?」
「何でデクくんまでアフロなの?」
「なんかかっちゃんがついでって……」
「ええ~……」
いや理不尽だな爆豪くんや!アフロヘアーに生まれ変わった私と、モジャヘアーが爆発でねじ切れたデクくん。爆豪くんは鼻で笑いながら一口でハラペーニョ飴を頬張り、バリバリ噛み砕いている。ギャグ漫画っぽく煙を吐き出して見せた私を心配するデクくんだけど、多分デクくんの方が威力強いなこれ。平気だよー、と個性を使ってすぽっと鬘を取る様にアフロを外す。いつも通りのロングヘアーと目隠し前髪に戻った私、便利でしょ。
暫くやいのやいのやっていたんだけど、ここで玄関の扉が開く気配がした。このタイミングってことは教師の誰か、というか相澤先生だろう。相澤先生は非合理的なことは嫌うけど、こういう場をわざわざかき乱したりはしないし、むしろ楽しめるときに楽しんでおけっていう人だから。皆特に気にすることなく今日の感想を言い合っている。ヒーロー科の歌姫なんてあだ名がついた響香ちゃんを弄り倒す三奈ちゃんとかね。峰田くんはバナナ飴を泣きながら全部食べてる。食べ物を無駄にしない精神はとてもとてもいいことだ。しょうがないから一本食べてあげよう。がりっとな。何でそんな目をするんだろう?
「盛り上がってる所悪いが楪、ちょっと」
「え、はい。何でしょう」
「あー、管理人室までこい。大事な話だ」
ぬっという感じで共用スペースに現れた相澤先生に指名される。なにかな?明日の全体片付けのゴミ箱係のことなら了承済みなんだけども。大事な話、とわざわざ言うあたり何か重要なことがあるのかもしれない。残りのりんご飴を芯ごと全部食べた私はみんなに断ってから管理人室に入る。ハロと視覚共有してエリちゃんが安らかな寝息を立てていることを確認して相澤先生に向き直った。
「単刀直入に言う。エリちゃんの里親が9割9分9厘お前の両親に決まりそうだ。貯蓄、仕事、家庭環境もろもろ……国の審査を通りつつある」
「……本当に、ですか」
「ああ。このまま不測の事態が起こらない限り、個性訓練を終えればそうなるだろう。エリちゃんは?」
「今は、寝ちゃってます。多分そろそろ起きてくるとは思いますけど……」
「話してやってくれ。俺からよりも、お前の方がいい。お前ももう、我慢するな」
ドキッとした。相澤先生に言われた我慢するな、という言葉に。エリちゃんの気持ちは分かっていたつもりだ。だからこそ、私はエリちゃんが私の所からいつでも巣立てるように何とか一線を引いた対応をしてきた。彼女の気持ちに寄り添いつつもそうじゃない方向に向けるように誘導していた。少しづつ、1日の中で離れる時間を増やしていった。
両親がエリちゃんの里親に立候補した時に私が感じたことは心配とか、焦りとかではなく……安堵だった。同時に私はこんなことを考えた最低な自分を嫌悪し、唾棄していた。たかが一緒に生活した程度で、たかが母親と重ねられた程度で親にでもなった気分なのかと。無邪気に私に好意を向けるエリちゃんをぬいぐるみか何かとでも思っていたのかと……オーバーホールと同じじゃないかと。
いつの間にか私の日常に入り込んでいたエリちゃんがいるのが当たり前になっていて、いつか必ず離れなければならないというのは分かってたのに、一緒にいられる期間が増えたんだとまず喜んだ。こんな感情が自分の中にあるのが信じられなくて、悲しかった。だからずっと、私では絶対にダメだと考えていたんだ。
「我慢なんてしていません。いずれは私はエリちゃんの前から消えなくちゃならない人間です。両親に任せるのだって反対です。エリちゃんは私を見るたびに本当の母親を思い出しています。自分が戻してしまったおかあさんを。そんなのは……良くない」
「傲慢だな」
べちこん、と相澤先生は手に持っていたファイルで私の頭を叩いた。相澤先生にしては珍しいそれに私は俯いていた顔をあげる。相澤先生は目を逸らすことなく私を見据えていた、私はそれに後ろめたくなってまた、目を逸らしてしまう。
「悩んでいたのがお前だけだと思うなよ。確かに最初からお前はエリちゃんにとって特別だった。けどな、エリちゃんは考えてたぞ。それで、選んだ。お前自身の傍にいたいと自分からな。気づいてるか、エリちゃんが自分から触れるのはお前だけだ。緑谷でも通形でもなく、お前だけだ。エリちゃんは、お前が自分の母親じゃないことをちゃんと理解している。した上でお前をしたっているんだ」
「……いいんでしょうか、私でも」
「俺から言わせてもらえればな、お前は立派にエリちゃんと家族してるよ」
相澤先生の言葉は無責任ともとれるそれかもしれない。けど、相澤先生は相澤先生で毎日エリちゃんと一緒に生活しているし、過ごしてる時間なら私に次ぐだろう。きっと私に言えないことも伝えてるに違いない。迎え入れていいのだろうか、私と家族になって、と伝えていいのだろうか。……相澤先生に言われて自分を見つめなおす。どうすればいいのか、それは最初から決まっていた。私が勝手にしり込みしていただけで。両親はそれを見透かした上で、相澤先生は察したうえでずっと見守ってくれていた。私は立ち上がる。
「どこ行く」
「エリちゃんが起きました。気持ちは決まったので、言いに行きます」
相澤先生は頷いてくれた。私はそのまま、共用スペースの喧騒を背にして、自分の部屋へ行く。私の部屋の中では目を擦っていたエリちゃんが入ってきた私に気づいて、ぱっと顔を明るくした。私はエリちゃんに笑いかけながら、前置きする。
「エリちゃん、大事な話があるの。聞いてくれる?」
「大事な、話」
「そう。エリちゃんの里親……新しい家族、私のお母さんとお父さんに決まったって。さっき相澤先生が教えてくれた」
エリちゃんの横に腰掛けて、エリちゃんにも分かりやすいようにそういうと、エリちゃんは隣でこの先の言葉が本題だと察して、身を硬くする。不安は勿論ある、受け入れてもらえるのかだってわからないけど言おう。2か月、たったそれだけでこんな言葉を言うのはおかしいのかもしれない。だけど、偽らざる私の本音だ。
「だから、エリちゃん……私と家族になってくれませんか?」
「……いい、の?」
「私は、エリちゃんと家族になりたいな」
「もう、
「……いいよ」
「っ……!お、おかあ、さん……!」
言うが早いか、エリちゃんは私に抱き着いてそう呼んでくる。私は彼女を抱きしめ返してから、返事をした。おかあさん、エリちゃんがくれた信頼の証。そう呼ばれるにふさわしい人間であろうと、私は決意をする。それまでずっと、そう呼ばずに我慢していたエリちゃんは、堰を切ったように泣き出した。私はそれを受け止めて、何度も確かめるようにそう呼ぶエリちゃんにずっと、返事をし続けた。
エリちゃん、家族が増える。原作相澤先生はどうやってエリちゃんをみつつ生徒たちを導きヒーロー活動してたんでしょうね。二足の草鞋レベルじゃないのですが
ではでは感想評価よろしくお願いします。次回にまた
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ