個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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96話

 「へっちょい!」

 

 「常闇くん、風邪?」

 

 「いや、息災だ。我が粘膜が仕事をしただけのこと」

 

 「なんだそれー」

 

 木枯らしが吹き始めた11月、相澤先生から今日はお客さんが来るから共用スペースに待機しているように、と連絡を受けた私たち1年A組は雑談に花を咲かせつつ、誰が来るんだろうなあと楽しみ半分、期待半分で待つ。そんな中盛大に特徴的なくしゃみをした常闇くんをみんなが心配する。エリちゃんが「だいじょうぶ?」と常闇くんを心配そうに尋ね、常闇くんは問題ないと返した。言い回しが難しかったのかエリちゃんは頭を傾げているけどね。

 

 エリちゃんは、かなり表情が変わるようになった。ちょっと物静か気味なのは多分元の性格で、明るくなったように思う。今となっては2か月前の状態が嘘のように思えてきた。ここまで精神的に持ち直すことができたのはきっと、皆がエリちゃんを気にしてケアをしてくれたり、積極的に話してくれたからだと思う。私の隣に座って白ハロを抱っこしているエリちゃんを見て、私は一人頷いていた。

 

 「おかあさん」

 

 「なに?エリちゃん」

 

 「お客さん、って誰?」

 

 「それがねー、相澤先生教えてくれなかったの。だから、サプライズだね」

 

 「なー、来賓ってことは俺たちが知らない人かもしれねーんだろ?」

 

 おかあさんと、私を呼ぶエリちゃんに優しく答える。このおかあさんっていうのは、エリちゃんにとって親、という意味じゃなく……一番安心できる人って意味だと思う。私を母親として慕っている、ということではなく家族として一番傍にいて安らげる人ってこと。エリちゃんにとってその象徴がおかあさん、だから私をそう呼びたい。そういうことなんじゃないかな。

 

 そう、エリちゃんと私は家族になった。国の審査を通って私の両親がエリちゃんの里親になるっていうのが法的に認められたのだ。行政の判断にしては随分と速い気がするが、それはエリちゃんの個性が関係している。エリちゃんの個性は忌まわしきオーバーホールが目を付けたこともあり、第一級の超強個性だ。人を治療するどころか、やろうと思えば殺せてしまう。破壊と再生を両方できてしまう強い個性。

 

 その個性の作用範囲外にあると思われるのが、私と試せてはないけど私の両親だ。エリちゃんの個性の作用範囲は、純生物であること。異形型の中でも無機物が体内に入り混じって矛盾した状態の私たちには効かない可能性が高い。だが、エリちゃんの個性が成長して効くようになってしまう可能性ももちろんある。それでも、今効かない可能性が高いというのは最重要だ。

 

 仮に、養護施設に預けるにしてもその個性を知った職員や子供たちがエリちゃんを腫れもののように扱ってしまうかもしれない。杓子定規な対応でおなじみの行政も考えてはいたということだね、一応。それに個性関係のいじめというのも考えられる。私はかなりマシな部類だったと思うけど、経験者としてはアレは堪えるのでないに越したことはない。

 

 それと両親の社会的立場も強く働いた。警備会社の部長ポジション、お父さんに至っては現場にも出ることがある。これが何を意味するということかというと、仮にヴィランに襲撃を受けた場合でも一般の人よりは耐えられる可能性があるということだ。というかお父さんに至ってはヒーロー免許持ってるしね。使ってないけど。お父さんの個性、異形型だけどどっちかといえば増強型に近い感じで人気が出なかったんだって。

 

 纏めると、エリちゃんの個性が効かない、養護施設にいれた場合の危険性、さらには預けた場合の安全性。この3つが決め手となって異例の速さでエリちゃんの里親は私の両親に決まったというわけだ。嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいのだけども、私でよかったのかという思いは常に付きまとう。

 

 「そういや、お前エリちゃんの両親に会って来たって?」

 

 「会ってきた、まあそうだね。お参りさせてもらったよ」

 

 里親が完全に決まった時、私の両親とエリちゃんは顔合わせをして、エリちゃんの両親のお墓へ参らせてもらった。死穢八斎會も1枚岩ではなく、逮捕された人間の中に所謂前組長派の人がいて、その人が司法取引の中でエリちゃんの生家とご両親のお墓の場所を教えてくれたそうだ。自分は何もできなかったが、どうか組長の孫のことは悪くしないでくれと繰り返しお願いしていたことを、相澤先生越しに私は知った。

 

 両親にお参りに行きたいと言ったのは、エリちゃんだった。本当なら、内内に私と両親でご挨拶に行こうとしてたんだけど……エリちゃんから本当のお父さんとお母さんにちゃんとごめんなさいをしたいと申し出た。個性事故によるそう言った事例は……ないわけではない。昨今の複雑かつ高威力になった個性では、そういう事故は起こり得てしまうからだ。だから、前にどんどんと進もうとするエリちゃんの意思を尊重して、私と両親は彼女を連れて彼女のご両親のお墓参りに行かせてもらった。

 

 エリちゃんは、遺骨の入ってないお墓に小さな手を合わせて、ひたすら祈っていた。両親と私も同じく。ただ、必ず無事に育て上げると私のお父さんは口に出して宣誓した。ご両親が私たちをどう思ってくれるかは、分からないけど。墓前で誓ったことを無駄にするつもりはないし、必ず守ると私は誓った。あとは見ててもらうだけだ。

 

 ガチャリ、と玄関の扉が開く。どうやら来賓だという人が来てくれたみたいだ。私たちは飯田くんの号令でお出迎えの態勢に入る。誰かなー?

 

 「煌めく眼でロックオン!」

 

 「猫の手手助けやってくる!」

 

 「どこからともなくやってくる」

 

 「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」」」

 

 「プッシーキャッツ!お久しぶりです!」

 

 「元気そうね、キティたち!」

 

 「虎さん、お久しぶりです。その節はどうも。洸汰くんも!元気だった!?」

 

 「ああ、元気そうで何より」

 

 なんと!来賓だというのは夏休みの合宿でお世話になったプッシーキャッツの皆さんだったのだ!エリちゃんは息が完全に合った決めポーズを見て首を傾げているけど。いやー、久しぶりだなぁ。それに洸汰くんの姿もある!がちゃっと私が立ち上がって虎さんに神野のお礼を言うと、後ろにちょこんと洸汰くんがいるのが見えた。むむむっ!身長が伸びたね!成長期だなあ。

 

 「久しぶり洸汰くん!手紙、ありがとうね!宝物だよ!」

 

 「ちっとでかくなったかぁ!?元気そうでよかったよ!」

 

 「うわわっ!?」

 

 洸汰くんと関係があるデクくんとえーくんが駆け寄り、確かに大きくなった洸汰くんの脇にえーくんが手を差し入れて高い高いという感じに持ち上げる。えーくんの筋力なら洸汰くんなんて羽根より軽いだろう。最近相澤先生にお前増強系も持ってないよな?て確認取られてたくらいには力が強いし。流石えーくんカッコいい!

 

 「ふふ、緑谷くんこれとこれ、見て」

 

 「うわっ!?やめろよ!」

 

 「靴!?お揃いだ!後リストバンドも!」

 

 「赤がいいって聞かなくてねー」

 

 マンダレイが洸汰くんの靴と腕を指さす。そこにはデクくんが良く履いている赤くてごつくておっきな靴と同デザインで洸汰くんサイズの靴が揃えられていた。へー!お揃いだ!凄い凄い!そして赤いリストバンド、もしかしてこれフルガントレットの待機状態じゃない!?やだ!洸汰くん立派にデクくんのファンになってる!

 

 かわいー、と思わずニマニマした私とえーくんにデクくんは顔を赤くしつつも洸汰くんにお揃いだね、と声をかける。洸汰くんはまだやっぱり恥ずかしいのか無言になってこくん、と頷いた。かー、青春というやつかこれが!ミッドナイト先生があんな感じなのがちょっとわかるかもしれない。むふふ……。

 

 「しかしまた、どうして雄英に?」

 

 「復帰のご挨拶に来たのよ」

 

 「復帰ですか!?おめでとうございます!」

 

 「ラグドールの個性、戻ったんですか?活動見合わせの理由って……」

 

 「戻ってないよー!アチキは事務仕事で3人をサポートしていくの!題してOLキャッツ!」

 

 「タルタロスから報告は貰うんだけどね」

 

 そう、個性「サーチ」……夏合宿で私と爆豪くんと一緒に攫われたラグドールはオールフォーワンに個性を奪われた。私も一被害者としてタルタロスから定期的にオールフォーワンの尋問の結果を聞いてはいるんだけど、依然私の左目の行方は分かってない。個性因子を使っての個性のコピーという話もいまだに謎のままなのだ。

 

 悪いとは思っているんだ、という嘘塗れだろう台詞が記載された報告書にはこちらを煽るだけのオールフォーワンが載っているだけで、核心に迫ることができていない。個性を使えばラグドールの個性を返す、というやつの言葉を信用できるわけもなく、タルタロスに封印しておくことしか今はできないのだろう。だから、ラグドールの個性はいったん棚上げの状態なのだそうだ。何もさせないことがやつを抑える唯一の方法なの、というマンダレイの顔は明るいものではない。

 

 「それならば、なぜこのタイミングで復帰を?」

 

 「それがね、今度発表されるヒーロービルボードチャートJPの下半期、私たち411位だったんだ」

 

 「え、すごい」

 

 思わずポロリと言葉が漏れる。私の足元にやってきてじっと洸汰くんを見るエリちゃんに洸汰くんは自己紹介して手を差し伸べた。エリちゃんもぽそ、と自己紹介をしておずおずと手を取る。白ハロとハロが二人の仲を取りもち、ちょっとだけ恐る恐るの会話が始まるのを見守りつつ、私はマンダレイの言葉を分析する。

 

 ヒーロービルボードチャートJP、ようは日本の中にいるヒーローを人気、実績、実力その他総合的な面でランキング付けしたものだ。年2回発表のソレがもうすぐテレビでやるんだけど、前回32位だったプッシーキャッツが411位だった。急落したように見えるんだけど、違うの。ヒーロー飽和時代とも呼べるこの時代で、神野から全く活動してなかったプッシーキャッツたちが3桁の順位を保っている。これは凄いことだと思う。

 

 つまり、それだけ固定ファンがいて、人気があるということの証左なのだ。これ実はとんでもない事なんだよね。だって、ヒーロー飽和社会、4桁では足りないヒーローがいるのに何も活動してなかったプッシーキャッツが3桁順位にいる。どれっだけ支持率が高かったのだろう。そんな結果を耳にしたなら、動かざるを得ないよね。

 

 お茶だけでもしていってくださいよ、と半ば強引にプッシーキャッツの皆さんを席に案内する。百ちゃんが高級な紅茶を入れて、砂藤くんが私と一緒に作ったホールケーキを切り分けて持ってきた。すぐ行かなきゃならないと遠慮していたプッシーキャッツの面々もここまでされてしまっては席につかざるを得ない。

 

 「そういえば、この子は」

 

 「私の娘です」

 

 「「「「娘ぇ?!」」」」

 

 「言い方よ、言い方」

 

 「だってこれ以外言うことある?」

 

 「義理のをつけろって言ってんだよ希械」

 

 「な、なんだ……ホントに産んだのかと思ったわ」

 

 「いや何年前だと思ってるんですか。私まだ16ですよ?」

 

 洸汰くんとハロ達と遊んでもらっているエリちゃんをマンダレイがさして尋ねる。1歳お姉さんのエリちゃんだけど、ほぼほぼ同年代なおかげなのか洸汰くんがリードする形で楽しそうに遊んでいた。別に隠すことはないので実質私の娘みたいなものですと答えてみると、結構驚いたのかプッシーキャッツの息の合った突っ込みを見れた。なんか得した気分。

 

 だって、結構似てるわよ?とマンダレイが私とエリちゃんを指して言う。まあ、髪色と目の色一緒ですからね。私の場合本当は目の色蒼いんですけど。しかし、そんな風に見えるのかな?仮にエリちゃんが実娘だったとしたら私は10歳かそこらで産んでることになっちゃうし、犯罪だよ。というかそんな風に見える!?老けてますか、私は。

 

 「なんだか見ないうちに大きくなったわね」

 

 「身長はもう伸びてないんですけど」

 

 「そういう意味じゃないわ。人としての大きさよ。貴方に限らず、このクラス全員ね」

 

 「風格が出てきたと言ってもいい。その年にしてプロの空気を身につけつつある」

 

 「実力はまだまだだけどね!精進するように!」

 

 流石はヒーロー、エリちゃんの事情をうっすらとだけど察してくれたらしい。洸汰くんとエリちゃんは少しだけ仲良くなれたのか、砂藤くんが持ってきたケーキとオレンジジュースを一緒になって食べている。微笑ましいなあ。しかしプッシーキャッツ、結構べた褒めに私たちのことを褒めてくれる。褒めてもケーキしか出ないぞ。あ、持ち帰りにマドレーヌいかがですか?バター多めのフィナンシェもありますけど。砂藤君お土産入りまーす!

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

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