『俺を見ていてくれ』
「んー、チャート発表から連日このニュースだねぇ」
「しょうがないよ……オールマイトがいない初めてのビルボードだから……」
「めらめら……」
本日は休日、朝ごはんを食べた後片付けを済ませた私とエリちゃん、そしてデクくんが共用部のテレビを見ながら雑談に花を咲かせている。テレビに映っているのはつい先日発表された下半期のヒーロービルボードチャートの結果だ。その映像には2位の速すぎる男ことウィングヒーローホークスに煽られてコメントをするエンデヴァーの姿があった。
万年2位の繰り上がり、と揶揄する人もいるが2位の座にいたのは紛れもなくエンデヴァーの実力なので、圧倒的だったオールマイト先生がその座を去れば必然的に彼が1位になるのは自明の理だった。それはきっとエンデヴァーの望む1位の取り方ではないにしろ、その座についたからには求められる役割があると思う。
俺を見ていてくれ、有言実行どころか不言実行に定評のあるエンデヴァーらしい言葉だと思う。実生活のことを知ってる身としてはあまりいい印象はないのだけれど、ヒーローとしてのエンデヴァーの決意表明としては満点だったのではないだろうか。それはそうと舞台裏でホークスが燃やされてそうだなあ、と私は予想している。ああいうのエンデヴァー嫌いそうだし。
エンデヴァーの燃え盛る炎がきれいだったのか、めらめらと口に出したエリちゃんがじっとテレビを見ている。純度の高い燃焼を常に行っているエンデヴァーの炎は確かに美しいと思う。実直な彼のパーソナリティがそのまま出ている感じだ。最近のエリちゃんはいろんなものに興味を示し始めたのでちょっとだけ大変だ。子供らしくてたいへんよろしいのだけれども。
「じゃあ、僕は先に失礼するね。オールマイトに呼ばれてるんだ」
「あ、今日ナイトアイも来るって聞いてるから、しごかれてきてね」
「ほんと!?益々頑張らないとね!」
「デクさん、頑張って」
「ありがとうエリちゃん!行ってきます!」
休日ではあれど、デクくんには休みはない。いや、休みはあるんだけど自主練に当てているというのが正しいか。休みだからこそ、といえるかもしれない。なぜなら授業のことを考えることなくオールマイト先生が付きっきりでデクくんに修行をつけているのだから。オールマイトファンとしても彼の弟子、次代としても外せない用事だよね。
そうそう、ナイトアイは一応オールマイト先生と話し合ってデクくんがワンフォーオールを持ち続けることに納得したみたい。まあ、通形先輩が「いらないです」とずばっと言い切ったってこともあるだろうけど。だから、時間を見つけては雄英に足を運んでデクくんに通形先輩にやったように経験と予測をつけさせに来てるのだとか。あとインターン中止になっちゃったから通形先輩の顔を見るついでに、という形みたい。麗しき師弟愛だねぇ。
「……おはよう。楪、緑谷みたか?」
「んー、今日は自主練だって。さっき出て行っちゃった。えーくんは今日は爆豪くんとお出かけだし、私も何しようかなあ」
「暇なのか?」
「暇だねぇ。ねえエリちゃん?」
「おかあさんと一緒だから、暇じゃない」
「やだ凄い可愛いこと言ってくれるー!」
なんて健気なことを言うんだこの子は。私はエリちゃんをぎゅーっと抱きしめてうりうりと頬ずりする。私に声をかけたのはカジュアルな服に身を包んだ轟くんだ。轟くんは休みのたびに必ず出かける、入院中のお母さんのお見舞いに行くというのはクラス全員が知っているので今日もお見舞いに行くのだろう。あれ、でも緑谷ってことはデクくんに用事があったのかな?
「デクくんに用事?」
「まあ、そうだな。正確には飯田、緑谷、お前に用事があった」
「私にも?」
「急で悪いんだが、今日ついてきてもらえねえか?」
「お母さんのお見舞いに?」
轟くんはクールな顔のまま私たちに用事があったという話をした。うーん、顔がいいって女子の皆は言ってるけど確かにイケメンな顔だよね轟くん。実はちらほら文化祭の時に聞いたんだけどバンドの時轟くんがいないのが残念っていう声があったのは事実。轟くん人気だねえ。それはともかくとして。
お母さんのお見舞いについてきてほしい、1-Aで一緒になってからそんなことを轟くんが言うようになったっていうのは初めてのことだった。だってずっと轟くんって一人でお見舞いに行ってるものだし、ごくごく一部の人しか知らないけど、家族のあれこれで今その時間を取り戻しているところだろうから邪魔するわけにもいかないじゃないのさ。そんな轟くんがわざわざお見舞いについてきてほしいっていうには何か理由があるはず。
「どうして、って聞いていい?」
「……この間、お母さんに今日行くって手紙書いたら……私のことは大丈夫だからお友達と遊んだりしてもいいのよって返ってきた。ずっと休みはお母さんのところ行ってたから、心配されちまった」
「なるほど、それでお友達がきちんといるっていうことを伝えて安心させたいと」
「ああ。お前らのこと、結構話したつもりだったんだが……気にしてたみてぇなんだ」
なるほどね。轟くんのお母さんとしては、休みの時に毎回来る息子が話だけじゃなくちゃんと友達と学校生活やれてるか不安でたまには休日に遊んで来たら?という話をしたんだけど、轟くんはそれを友達がいるかどうか不安になったから安心させたいなっていう風に受け取ったんだ。なるほどなるほど……私はいいんだけど……
「エリちゃんももれなく付いてきちゃうけど平気?」
「おみまい?」
「そう。轟くんのお母さんが元気になりますようにーって」
「来てくれんなら多分、平気だ。それよりもエリちゃんって……」
「ああ、それは平気。わかった、じゃあご一緒させてもらいます」
「わりぃ、ありがとう」
残念ながら、今日は相澤先生は不在、ミッドナイト先生はパトロール。他の先生にエリちゃんを預けていくという手もないわけじゃないけど、今日は一緒だよと約束した手前それは憚られた。そうなれば一緒に連れて行くということになるんだけど、轟くんが心配してるのはエリちゃんの病院への恐怖のことだろう。それに関しては、もう平気だ。克服とはまた違う、分かったというべきだろうか。彼女が病院の……医療機器やそれがある部屋を怖がっていたのはそれが自分を傷つけるものだったからだ。
けど、今はそうじゃないことを理解している。健康診断で来る優しいお爺ちゃんのお医者さんがエリちゃんの警戒心を解いてくれた。だから、直接メスなどの危ないものを見せない限り大丈夫だ。今日の個性エネルギー測定もゼロ。暴走はしないだろう。もちろん先生方の判断を仰ぐことにはなるだろうけど、エリちゃんとお出かけするのはお医者さんにも推奨されてるのでお見舞いにはいけると思う。
「準備してくるからちょっと待っててもらえる?」
「ああ。急いでねえからゆっくりでいい」
「ありがと」
おめかししようか、とエリちゃんを抱き上げて私は自分の部屋に戻る。お土産は……作ってる時間がないから昨日焼き上げたフィナンシェでいいかな。真空パックしてあるし保存は効くはずだから。そういえば私、轟くんのお母さんに初めて会うんだよね。わ、なんか緊張してきたぞ。体育祭で轟くんと本気で戦ったのは見られてるだろうし、顔くらいは知られてるのかなあ。
「緊張するなあ……」
「そうか?お前が職場体験で言ってくれたみてえに、優しい人だから大丈夫、だと思う」
病室の前にて、私はエリちゃんと並んで立ちながら不必要な緊張を感じていた。背筋がピンと伸びて、高い背丈がより高くなってしまったみたいだ。私とエリちゃんでお揃いにしたサイドテールのシュシュを何となく直してしまう。お友達の親御さんに会うのなんてえーくんを除けばそれこそデクくんのお母さんである引子さんくらいだし、それもお見舞いの一度きりだ。私から行くの初めて。エンデヴァー?ノーカンでお願いします。
こんこん、とノックをする轟くん、待ったなしか!いや家族だもんね、そうだよね!どうぞ、という声が中から聞こえてドアが内からスライドして開く。顔を出したのは、白い髪にところどころ赤が混ざった眼鏡の女性だ。一言で言えば、美人さん。この人が轟くんのお母さん?にしては若いような……まさかエンデヴァー!?いや絶対ないな、ないない。流石にない。何を考えてるんだ私は全く。
「姉さん、来てたのか」
「焦凍!?そっか、今日学校休みなんだ。えっと……こちらの人はもしかして……」
「友達。お母さんに会わせてあげたくて、来てもらった。楪、この人は俺の姉さん。冬美姉さんだ」
「轟冬美です。そっかー、姉さん焦凍にも彼女が出来た、のか、と……???」
なるほど、轟くんお姉さんいたんだ、初めて知った。冬美さんというらしい轟くんのお姉さんは一瞬私を轟くんの彼女だと思ったらしい。いやいや不釣り合いなんですよ、イケメンとこんなウドの大木みたいな女は。轟くんの彼女かあ……百ちゃんあたりがお似合いな気がする。天然同士だし。冬美さんは私を見上げていたせいで、足元のエリちゃんに遅れて気づいたらしい。かなり慣れた様子でしゃがんでエリちゃんに目線を合わせてくれた。
「貴方の名前は知ってるわ。体育祭で見たもの、楪希械さんよね?この子は貴方の妹さんかしら?」
「エリ、です」
「挨拶できてえらい!それに関してはうーん、まあちょっと複雑でして……有体に言えば義理の娘ですかね……?里親は両親ですけども、私がこの子にとってはおかあさんということで……」
「あんま突っ込まないでやってくれ、言いづらいし、複雑なんだ」
「教師やってればそういうことは間々あるわ。ごめんなさいね、聞きにくいこと聞いて。立ち話もなんだし入って行って。お母さんも待ってるわ」
そう言って扉の外から内に招かれた私たち、とてとてと続くエリちゃんに歩幅を合わせてゆっくりと中に入ると、ベッドの上で体を起こしている女性と目が合った。優しそうな顔を綻ばせた女の人は美しい所作で私に頭を下げてくれる。慌てて私も頭を下げる。そっか、この人が轟くんのお母さんかな。冬美さんと轟くん、似てると思ったけどお母さんは余計にそっくりだ。親子だな、と私は当たり前の感想を抱く。
「初めまして、轟冷です。焦凍ったら私があんなメール送ったからわざわざお友達にお願いしてくれたの?そんな、気にしなくていいのに」
「別に、どっちにしても紹介したかった。緑谷とか飯田はまた今度連れてくる。俺の友達をお母さんに知ってほしかった」
「初めまして。楪希械といいます。こっちはエリちゃんです。轟くんには色々お世話になってます」
「俺、お前には世話になりっぱなしだ。赫灼の時とか」
「そう?アレはとっかかりを掴むのをお手伝いしただけだし、私は見てただけだよ?」
轟くんとちょっとした会話をしてるとエリちゃんがお土産を渡したい、と申し出てくれたので片手に持ってたお土産をエリちゃんに託すと冷さんの所までとことこ歩いて行って、お大事にしてください。とお土産の袋を手渡してくれた。そこでエリちゃんは恥ずかしくなっちゃったみたいでぴゅーーっと戻ってきて私の後ろに隠れる。冷さんはそれを微笑ましく思ってくれたみたいで、優し気な笑みを湛えていた。
「ちょうど冬美があんな感じだったのよ。小さい時ね。懐かしいわ……楪さん、焦凍は普段どうですか?ちゃんと学校でお友達と仲良くやれてますか?」
「轟くんはみんなと仲良くやってますよ。今日は私だけでしたけど、私より仲がいい親友が二人もいますからね。それに、文化祭でも轟くん大活躍だったんですよー!」
「文化祭?焦凍からはバンドとダンスで色々やるって聞いていたわ」
「見ますか?轟くんドアップでお届けしますよ」
「見れるの!?」
文化祭のショーダンスは体育館中に仕込んだカメラによって私が隅から隅まで、何だったら一人につき3カメラくらいの勢いで全員を同時に録画してたりする。これはみんな了承済みで、もう少ししたら私が編集したショーダンスの動画が映像媒体で公開予定だ。ちなみに飯田くんの案で、文化祭で見れなかった皆さんにも見てもらえれば、とのこと。動画の公開は相澤先生に公開予定の動画を見せてから許可が下りるかどうか決まる。
動画ありますよ、といった私の言葉に一本釣りされたのは冷さん、ではなく冬美さんだった。にこにことエリちゃんを見ていた彼女は私が動画を保存しているのを知った途端すさまじい勢いで私に詰め寄る。見たいんだ、轟くん裏方だからあまり出番はなかったのだけれども。じゃあ流しましょうか、と私が投影映像で公開予定の編集版と轟くん寄りカメラを2画面同時で再生する。
わー、外部の人に見られるの初めてだから緊張するなあ。と思いながら私は動画を再生するのだった。
轟くん回。本誌のヒロアカで毎回胸が抉られるのどうにかならないかな....
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ