車内は混んでいて、空いている席はほとんど無かった。オレ達以外の乗客は、ジャージ姿や制服姿の学生ばかりで少々騒がしい。どうしたものかと周囲を見渡していると、制服姿の女の子がこちらに声を掛けてきた。
女の子はとてもかわいらしいが、いかにも内気そうな子だった。
「あのう……。その荷物、結構大きいですね。旅行ですか?」
女の子はモジモジしながら、の荷物をそっと指差した。
「うん、そうだよ。列車でいろんなところを旅してるんだ」
久松は、鞄から一眼レフを取り出して、彼女に見せ始めた。
「へえ、そうなんですか」
彼女は、久松のカメラを興味深そうに見ている。
話を聞くと、彼女は佐久間駅近くの高校に通っていて、この春に二年生になるそうだ。文芸部に所属していて、鉄道を題材にした小説を書いていると話してくれた。
「ふうん、そうなんだ。もしかして、今日も部活だったの?」
久松がそう訊ねると、彼女は小さく頷いた。
気がつけば、電車は駅に近づいていた。
「間もなく、水窪、水窪です。降り口はー」
周りの乗客は、降りる準備を始めていた。
席に座っていた彼女もゆっくりと立ち上がり、大きな伸びをした。
どうやらオレ達と同じく、この駅で降りるようだ。車掌に切符を見せて、改札を抜けたところで、久松は彼女を呼び止めた。
「あの、もしよかったら、この写真あげるよ」
彼が鞄から取り出したのは、旧型国電が写った一枚の写真だった。
「あっ、いいんですか?」
女の子は、遠慮がちに写真を受け取った。
「いいよ、別に。同じ様な写真が家に何枚もあるから」
そう言う久松の顔は、何やら照れくさそうだった。
女の子と別れたオレ達は、旅行雑誌の地図を確認し、駅をあとにした。
その後、地元の小学校近くで旅館を見つけた。
旅館と銘打ってはいるものの、どちらかと言えば、民宿のような外観だった。
「ごめんください」
入り口の引き戸を開けて声を掛けると、奥のほうから返事が聞こえてきた。
しばらくして、玄関にやってきたのは、優しそうなおばあさんだった。
部屋が空いているか訊ねると、
「ええ、空いてますよ。二人で一部屋になりますけど、いいですか?」
と、訊いてきた。
「ええ、もちろん」
オレと久松は声をそろえて言った。旅行雑誌には要予約と書いてあったのだが、アポ無しにも関わらず、おばあさんはオレ達を快く迎え入れてくれた。まあ、運よく部屋が空いていたというのが大きな理由だろう。
案内された部屋は、二人でも十分に広い和室だった。部屋の中央には、大きな座卓が一つ置いてあり、座布団が何枚か置かれていた。おばあさんは、料理の用意をする旨をオレ達に告げ、部屋から立ち去った。夕食ができるまでの間、トランプやオセロをしたり、雑談をしたりして時間を潰した。
ああ、二人みたいに気ままな鉄道の旅をしてみたいものだ。