「失礼します。ご飯ができましたよ」
一時間程して、おばあさんが料理をお盆に載せて持ってきた。料理は豪華なものではないが、結構なボリュームで、非常に満足できるものだった。
「ああ、食った食った」
「ああ美味しかった」
腹が満たされたオレ達は、畳の上にしばらく横になっていた。約三十分後、オレは先に風呂へ入ることにした。眠っていた久松を起こして、
「そんじゃあ、先に風呂に行ってくる」
と告げると、彼は眠そうな声で、
「ああ、いいよ。後で起こしてね」
と答えた後、再び眠りに落ちてしまった。彼の寝顔に思わず笑ってしまいそうになりながらも、オレは風呂へと向かった。風呂は、何処の家でもありそうなごく一般的なもので、さほど広くはなかった。
シャワーを浴びた後、ゆっくり湯に浸かりながら翌日の予定を考えていると、急に照明が落ちた。
「えっ、何だよ、もう……」
突然の出来事に驚き、動けないでいると、バチッという音と共に照明が点いた。オレは妙な胸騒ぎを覚えつつも、頭と体を洗って風呂を出た。
ジャージに着替えて部屋に戻ると、久松の姿はどこにも無く、彼の荷物とオレの荷物があるばかりだった。トイレにでも行ったのかと思い、しばらく部屋で寛いでいたが、いつまで経っても部屋に戻ってこない。
おばあさんを部屋に呼び、久松を見かけていないか訊いてみた。
「いやあ、見ていないわね。トイレじゃないの?」
「ああ、そうですか……。じゃあ、ちょっと様子を見て来ますね……」
仕方ない、トイレまで行ってみるか。
おばあさんに布団の用意を頼み、トイレに行ってみたが、誰も居なかった。
散歩にでも行ったのかと玄関に向かうと、彼の靴が無かった。
「まったく、オレが起こすまで寝るつもりじゃなかったのかよ」
マイペースな奴だなと思いながら部屋に戻ると、食器は片付けられ、二人分の布団が敷かれており、おばあさんは部屋から出て行くところだった。おばあさんに久松は散歩に出かけたようだと伝えると、
「あんたの友達の帰りが遅くなるようだったら、私を呼びなさい」
と言ってくれた。
「分かりました。お手数かけてすみません……」
オレは申し訳ないと頭を下げつつも、おばあさんの厚意に甘えることにした。
おばあさんが部屋を出て行ったあと、久松の帰りを待ちながら、自宅から持ってきた文庫本を読んだり、色々なことを考えたりしている内に、知らぬ間に眠ってしまった。この時はまだ、久松がまさか大変な目に遭っているとは思ってもみなかったのだった。
今回は短めです。次回は、久松の視点になります。