「ねえ、起きてくれるかい?」
オレがおばあさんに何度も体を揺さぶられて目を覚ましたのは、日付が変わって間もない頃だった。
「うーん、一体何ですか……?」
オレは目を擦りながら、おばあさんに状況を尋ねた。
「もうこんな時間よ、まだ友達は帰って来ていないのかい?」
おばあさんがあまりにも深刻そうなのを見て、やっと目が覚めた。
「まったく、何してんだよ、あいつ……」
この場所に居ない久松に対して、一人悪態をつきながら部屋を見渡すと、久松の荷物が無いことに気が付き、久松を見ていないか聞いてみた。
「すみません、友達の荷物が無いんですが、戻って来たのは見ていないんですか?」
「いや、他のお客さんの対応で忙しかったから、見てないわね。もしかしたら、あんたが寝ている間に戻って来たんじゃないの?」
何ということだ。では、ここへ戻ってきた後に一体何処へ行ったというのだ。写真を撮りに行ったにしては行動が不自然すぎる。
オレを置いて家に帰ることも有り得ない。まさか、誰かに攫われたというのだろうか? 色々と考えているうちに訳が分からなくなってきた。
「どうしたの? 落ち着きなさい」
混乱のあまり一時パニックに陥ったが、おばあさんが宥めてくれたので、何とか落ち着くことができた。
「とにかく、警察に通報しましょう。私達では探しようが無いわ」
おばあさんの言う通りだ。オレやおばあさんが探したところで見つけようがないし、ミイラ取りがミイラになっても困る。
「すみません、お願いします。友達の家と自宅に連絡したいので、あとで電話を貸していただけませんか?」
「いいわ、是非そうしなさい」
二人で話し合った後、警察を呼んだ。オレやおばあさんだけでなく、寝ていた他の客も起こされて事情を聞かれた。警察はオレやおばあさん、他の客の証言で久松の捜索を開始した。
宿やその周囲の捜索が行なわれたが、午前三時頃で一時中断され、朝まで持ち越されることとなった。久松の家と自宅に電話したあと、部屋に戻って布団に入ったのだが、全く眠れなかった。
結局、布団の中で朝まで起きていた。眠たい目を擦りながら部屋で朝食を取ったが、全く食欲が起きず、ほとんど食べることができなかった。
朝食後ぼんやりとしていると、おばあさんがやって来た。
「申し訳ないんだけど、警察からあんた宛に電話がかかってきたから出てくれるかい?」
おばあさんが言うことには、警察はオレにもう一度詳しく事情を訊きたいらしく、署まで来て欲しいとのことだった。
「ああ、面倒くせえ……。もしかして、オレやおばあさんを疑っているのか?」
おばあさんは拗ねるオレを宥めながら、電話が置かれている玄関まで連れて行ってくれた。オレは渋々受話器を取り、電話に出た。
『お待たせしました。詳しいことは昨夜、散々話したと思うんですが?』
苛立ちを相手にぶつけると、相手の警官は名を名乗って一言謝り、どうしても来て欲しいと言って来た。
『分かりました。何時までにそちらへ伺いましょうか?』
オレは苛立ちを押さえながらも、相手の都合の良い時間を訊いた。
『う~ん、そうですねえ。十時はどうでしょうか?』
『分かりました、十時に伺います』
時間を再確認して電話を切ると、大きなため息が出た。
「何でこんなことになるんだよ、クソッ!」
苛立って電話を置いている台の上面を叩くと、心配そうに様子を伺っていたおばあさんがビクリと体を震わせた。
「あ、あんたは何も悪くないんだから、自分を責めちゃだめよ」
おっといけない、おばあさんを怖がらせてしまっている。
おばあさんの言う通り、イライラしても仕方が無い。
「すみません、一旦部屋に戻って用意してきます」
オレは軽く頭を下げ、部屋に戻った。
「さてと、これからどうしようか……」
警察署のある場所を訊くのを忘れていたが、タクシーを呼んで運転手に近くの警察署まで行くよう告げれば何とかなるだろう。
問題は、事情聴取を受けた後の予定をどうするかである。
いくら考えても全く思いつかない。
とにかく、やらねばならないことがたくさんありそうだ。
「ああ、面倒くせえ……。まあ、仕方ねえな。さっさと用意するか……」
布団を畳んだ後、洗顔と着替えを済ませ、おばあさんを呼んで食器を下げてもらった。その後、再び電話が置いてある玄関に向かい、電話帳で水窪駅周辺のタクシー業者を調べた。
「えーっと、番号は……」
番号を確認しながら、ゆっくりとダイヤルを回す。三回呼び出し音が鳴ったあと、相手が電話に出た。
『はい、〇〇です』
十時に警察署へ行く用事があるので、それに間に合うよう迎えに来て欲しい旨と旅館の名前を相手に告げた。