霧の峠   作:chukuasama

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第十五章 事情聴取

 荷物は宿に置いたままで、必要なものだけを持って、タクシーで警察署へ向かった。

 宿を出て数分で警察署に着いた。

「ああ、なんだ。こんなところにあったんだ……」

 昨夜は宿にたどり着くことばかり考えていたから、駅に近いところに警察署があるとは気が付かなかった。 まあ、あんなことにならなければ、今頃こんなところに来る用事もないのだから、気付かないのも仕方が無い。何だか損した気分だが、歩きたい気分でもなかったので、丁度良かったということにしておこう。

「あの、十時にここに来るよう呼び出された者ですが……」

 廊下でたまたま通りかかった警官にそう声を掛けると、部屋まで案内してくれた。

 部屋に入ると、警官が何人か居た。そのうちの一人が、

「あんたを疑うようで本当に済まないが、話を詳しく聞かせてくれないか?」

 と声を掛けてきた。声を掛けてきたのは、刑事ドラマに出てきそうな、ラフな感じの警官だった

 その後、前日のことを事細かく訊かれたが、宿に来た警官に話したことと同じようなことを話した。

「ふーん、成程。まず、風呂に入っていて、停電があったと。それで部屋に戻ったら、あんたの友達が居なかったんだな」

 オレの話を聞き終えた警官は、内容を整理するように呟くと、考え込んでしまった。

 しばらくして、口を開いた。

「あんたの友達に何か普段と変わった様子は無かったのか?」

 彼の問いにオレが、そんなことは無いと答えると、

「そりゃ、そうだろうな。あんたの話を聞く限りだと、あんたの友達は旅行を楽しみにしていたんだろうから、自殺は有り得ないだろうし……」

と、腕を組んで再び考え込んでしまった。

 その状況を見ていたほかの警官が、話はもういいから、帰ってくれても構わないと言ってくれた。

「えっ、いいんですか?」

 口下手なオレの説明では、納得してくれないだろうと思っていたが、意外とすんなり事情聴取が終わってしまったので、思わず拍子抜けしてしまった。

 頭を下げて退出しようとすると、先程まで考え込んでいた警官が椅子から立ち上がり、

「ああ、済まない……。つい考え込んでしまった。絶対あんたの友達は見つけてやるから、安心しろよ」

 と、オレの肩を軽く叩いて励ましてくれたのだった。

 警察署を後にしたオレは、タクシーを呼ぶ気にもなれず、宿まで歩いて帰った。

 部屋に戻るとおばあさんが居て、何も無かったかと心配そうに訊いてきた。

「いや、ここに来た警官に話したことと同じことを話しただけです」

 おばあさんをこれ以上心配させないようにできるだけ普通に答えた。

「ああ、よかった。それで、これからどうするの?」

 なんとか安心させることはできたが、これからどうするのか全然考えていなかった。これ以上ここに居ても仕方が無いが、警察に久松の捜索を任して家に帰る気にはなれない。しかし、もう一泊する気にもなれない。では、どうするか。

「うーん、そうですねえ……。とりあえず、警察が動いてくれそうだと久松の家に連絡して、ここを出ます。お騒がせしてすみませんでした」

 オレが頭を深々と下げると、友達のことを待ってあげてもいいのではと言ってきた。おばあさんの言うことも一理あるのだが、これ以上他の宿泊客には迷惑を掛けられない。万が一、久松がこの宿に帰ってきたら、オレがこの宿を出たことを伝えて貰うしかあるまい。

「おっしゃることも分かるんですが、これ以上ここに居たら、他のお客さんに迷惑が掛かるんで家に帰ります。」

 苦渋の決断ではあったが、自分ではどうしようもないので、帰宅することにした。もちろん帰宅するとは言っても、久松が居そうなところを探してからだ。それで居なかったら、あきらめて帰宅するしかない。

「それもそうねえ。それじゃあ、何か進展があったら必ず電話してね」

 おばあさんは何とか了承してくれた。

「分かりました。あっ、そうだ。もしも警察がここに来た時は、この紙を渡してください」

 オレは自分のカバンからメモ帳を取り出して自宅の電話番号を書き、一枚紙を千切っておばあさんに渡した。

 二人分の料金を支払って宿を出た後、水窪駅周辺や前日に行った渡らずの鉄橋付近を探してみたが、久松を見つけることはできなかった。

「まったく、あいつは何処へ行きやがったんだ?」

 帰りの電車の中で、久松を見つけられなかったことに苛立っていると、どこかで会った覚えのある女の子が声を掛けてきた。

「あれ、昨日の人ですよね? もう一人の人はどうしたんですか?」

 なんと、前日電車の中で話しかけてきた子だった。

「ああ、泊まっていた宿から居なくなっちまったんだ。警察に二度も同じようなことを聞かれて面倒だったよ、まったく。どうしようもないから、連絡先を書いた紙を渡して、家に帰ることにしたんだ」

 昨夜のことを話すと彼女は、

「そうなんですか……。余計なことを訊いてすみません……」 

 と、申し訳なさそうに俯いた。

「ああ、別にいいよ……」

 話を変えるため、何処まで行くのかと尋ねると、近くの町まで出かける所だと話してくれた。友達と遊ぶ約束をしているそうだ。

 その後もしばらく話をしていたが、やがて電車は彼女が降りる駅に着き、お別れとなった。女の子と別れた後は何もすることが無く、ただ呆然と外の景色を眺めていたが、そのうちに眠ってしまった。

 尿意で目が覚め、車内のトイレで済ませて外を見ると、電車は伊那松島駅を出たところだった。ここまで来れば、あとは辰野駅で東京方面の電車に乗り換えて立川駅まで行き、奥多摩行きの電車に乗るだけだ。特急あずさか快速電車をうまく利用すれば、日付が変わる前までには家に帰れそうだ。

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