結局、奥多摩の自宅に着いたのは、周囲がしんと静まり返る時間帯だった。
玄関では、母さんが心配そうにオレを出迎えてくれた。ダイニングとひと続きになっている居間には、憔悴しきった久松の母親と眼鏡をかけた、いかにも神経質そうな若い男が居た。こんばんはと挨拶すると、久松の母親はこちらを見て会釈をし、眼鏡の男性がオレに声を掛けてきた。
「君が北山君だね? 弟が迷惑をかけてすまないね」
男性は申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。
どうやら、彼は久松のお兄さんらしい。オレは慌てて、頭を上げるように言った。なぜ我が家に居るのかと訊くと、オレの帰りを待っていたと話してくれた。そして彼は頭を上げ、一体どういう状況なのか説明して欲しいと申し訳なさそうに言ってきた。
久松が行方不明になるまでの経緯と警察に聴取されたことを詳しく話すと、久松のお兄さんは、
「う~ん、そうか。まったく、あいつは何処へ行ったんだ……」
と大きなため息をついた。
母さんが二人にお茶を出し、今後の対応をどうするか話し合い始めたので、オレは風呂に入ることを告げて脱衣所に向かった。
トイレで用を済ませ、脱衣所で服を脱いでいると、仕事から帰ってきた父さんが玄関のドアを開ける音がした。
「お~い、帰ったぞ~」
いつものように父さんがそう言うと、母さんが慌てて玄関までやって来て、居間にお客さんが来ていると小さな声で話しているのが、玄関とつながるドア越しに聞こえてくる。
「えっ、こんな時間に一体誰なんだ?」
「久松君のお母さんとお兄さんよ。久松君が旅先で行方不明になっちゃって、隆だけ家に帰って来たのよ」
父さんは、
「う~ん、そうなのか……。まったく、どうしたものか……」
と大きなため息をつきながら言った。
「とりあえず挨拶だけはしておいてくれない? もう遅い時間だから、二人には帰ってもらいましょう」
母さんの提案で父さんは渋々、居間に入って行った。
ドア越しに二人の話を聞いていたオレは、脱ぎかけていた衣服を洗濯機に投げ入れて風呂に入り、大急ぎで頭と体を洗った。
風呂から出て寝巻きに着替えたところで、父さんが脱衣所にやって来た。
「あっ、お、おかえり……」
オレは自室に向かおうとするも、父さんが無言で腕を掴んできた。
内心やれやれと思いつつ、久松のお兄さんに説明したことと同じことを話すと、父さんはふてぶてしい態度で頷いた。
「話は分かった。とにかく今日はさっさと寝ろ」
父さんはそう言って、やっとのことで腕から手を離してくれた。
「お、おやすみ、父さん……」
オレは父さんから逃げるようにして、二階の自室へと向かった。
部屋の電気を点け、窓のカーテンを閉めると大きなため息が出た。
「ああ、面倒なことになったな……。無事だと良いのだが……」
警察署の警官は、久松を絶対に見つけると約束してくれたが、十分な手がかりが無い以上、久松が発見される確率はほぼゼロだろう。仮に発見されたとしても、死んでいるかもしれない。できれば、無事に帰ってきてほしいのだが……。
「ああ、連絡を待つしか無いのか、クソッ……」
何もできない苛立たしさのあまり、近くにあった椅子を蹴り飛ばした。