霧の峠   作:chukuasama

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湯田中の旅館をあとにした隆と洋子は、湯田中駅付近で男に声をかけられる。


第三章 旧友

 翌朝、目が覚めた頃には、午前八時を回っていた。

「やべっ、もうこんな時間だ」

 洋子とは、午前九時ぐらいにチェックアウトする約束をしているので、あまり悠長にしていられない。大急ぎで荷物をまとめ、着替えをすませたオレは、財布と携帯電話を持って、昨夜のレストランへと向かった。

 レストランの前まで来ると、ちょうど洋子が出てくるところだった。

「おはよう、洋子。寝坊して済まない」

 だが彼女は、大して気にしていないようだ。

「別に構いませんわ、ロビーで待っていますから」 

 待たせてしまうのは申し訳ない気もするが、思い通りにいかない旅もいいものだ。

「ありがとう、それじゃあ朝飯喰ってくるよ」

 半時間待っていてくれと頼み、店内へ入った。

 窓際の席に座ると、とても大きな窓からは、温泉街が見渡せた。

「ああ、今日は雨が降らないといいな…」

 旅館前の通りには所々水たまりができている。これからの天気のことを気にしながら、ウェイターを呼んだ。

 ちょっと優雅な朝食を済ませたオレは、ロビーへと急いだ。

「お待たせ」

 洋子は新聞を読んでいたが、オレに気が付くと、それを綺麗に畳んで元の場所に戻した。

「さてと、そろそろ行きましょうか」

 待たせてしまったお詫びに荷物を持ってやろうかと言うと彼女は、

「大丈夫ですわ、自分で持てますから」

 と断った。

 旅館を後にしたオレ達二人は、散策も兼ねて、湯田中駅まで歩いて行くことにした。やがて、湯田中郵便局の前に差し掛かった。その時、狭い路地から細身の男がゆっくりと出てきて、オレに声をかけた。

「やあ、北山、久しぶり」

 オレは、男がいったい誰なのだろうかと、記憶を探った。過去にどこかで会った気もする。

「もしかして、久松か?」

 やっとのことで思い出した。ずいぶん雰囲気は変わってしまっているが、高校生時代の友人、久松健二であることは間違いない。

「やっと思い出してくれたか。君とはあれ以来、十二年ぶりだな」

 彼はそう言うと、懐かしむようにぼおっと空を眺めた。

 十二年前の春、オレと久松は、卒業の記念に旅行した。特に記憶に残っているのは、飯田線城西駅~駅間にある「渡らずの鉄橋」と呼ばれるS字型の鉄橋を見に行った日のことだ。その日の晩、オレ達二人は、とある事件に巻き込まれて、旅は台無しになってしまったが、今では良い思い出だ。

「北山さん、この方はあなたのお友達?」

 そうだ、洋子に彼を紹介しなくては。

「ああ、そうだ。彼は高校生時代の友人、久松健二だ」

 洋子は、彼と握手を交わし、

「私は、岸辺洋子です。よろしく」

 と簡潔に自己紹介した。

 そういえば彼とは、あの旅行以降会うこともなく、たいして連絡を取り合っていなかったので、すっかり疎遠になっていた。だが、こうして偶然にも再会したのは、何かの縁だろうか。

 彼にいろいろと質問してみたが、

「まあ、いろんなことがあったけど、今は、○×出版の記者をしている…」

 と、そっけなく答えるだけで、詳しく話そうとはしなかった。

 何やら複雑な事情がありそうなので、それ以上尋ねることはやめておいた。

 彼が黙り込んでしまったことで、気まずい雰囲気になってしまった。

 そうだ、何か別の話題に変えよう。

「なあ、せっかくだから、今夜どこかで飲まないか?」

 すると彼は、

「ああ、別に構わないが…」

 と渋々承諾してくれた。




初対面にもかかわらず馴れ馴れしい三人クッソワロタ。
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