君という花を。
今回はリクエストということで、応えられてない気がしますが投稿します。
それでは本編、どうぞ。
花見をする人。又は花のように美しい人を指す。
これは現代社会で、互いにバレないように誤魔化し合い、咲かせ合う、とある奇怪な花人達の御話。
花見のお供に、あるいは美人との話の種に、
どなた様もどうぞ御観覧あれ。
学生の頃のあだ名は「花男」。
苗字が「丹羽」(庭)で、名前が「"咲"太郎」。おまけに家が花屋だからという安直な理由で付けられたあだ名である。
花屋の息子ではあるが、俺自身、そこまで花が好きという訳ではない。むしろ花粉症なので花はきら……え? 花粉症はどっちかって言うと木?
……とにかく、そんな俺だが、特にこれといった問題を起こす事も無く、そこそこの大学を出て、無事就職もでき、仕事にも慣れてきた。
職場には嫌な上司もいるけど、尊敬できる憧れの先輩もいるし、順風満帆! 無問題!
この病気が無ければ、だが。
「ふぁ……眠っ」
顔を洗い、朝食を食べた後でも尚寝ぼけた眼を擦りながら、今日も出勤のためにアパートの部屋を出る。
「おはようございますー」
「あ、おはようございます」
隣に住んでいるアクロクロニウムの奥さんと軽く挨拶を交し、今日もいつもと変わらない光景に軽く絶望する。
「相変わらずスゲェ景色だな……」
アパートを出て、真っ先に目に飛び込んでくるのは花である。
人口何千万と言われている、一般的に都市部と呼ばれるこの街で、広がっているのは一面の花、花、花。
高層ビルや何やらハイテクな物がバンバン建っている。花どころか植物があるかすら疑わしいと誰もが言うだろう。
それが普通。俺が異常なだけだ。
原因不明。治療法不明。詳細不明。と不明の三拍子揃った病気で、何やら一億人に一人とか、その位の確率で発症する奇病らしい。
その症状は──人の顔が花に見えるというもの。
笑ってしまうような症状だが、それが奇病の奇病たる証拠だろう。
医者に言わせれば、一種の視覚障害らしく、命に別状はないとの事。けどまぁ、慣れるまでにかなりの時間を要した。
そりゃ、ある日突然視界から人間が皆居なくなったら怖いだろ、普通。
自分の顔は鏡とかで普通に見えるけども、友人達はパンジーやらコスモスやらになっちまったし、学校一美人と言われている女子は紫陽花の花だった。
一番笑ったのは、ドラマに出てた話題のイケメン俳優とやらが猫じゃらしの顔で決めゼリフ決めてた事かな。思いっきり吹き出したらウメの花の顔した妹に蹴られた。
とまぁ、日常生活に支障をきたす程では無いが、この症状にはそれなりに迷惑している。
学生時代に発症したそれは、社会人になった今でも俺を苦しめている。
「うわぁ……」
駅に着けば花の量は更に増える。いわゆる通勤ラッシュと言うやつだ。
駅のホームは今日も色とりどりの花々で埋め尽くされている。
一見すればメルヘンな光景だが、ここにいるのは全員植物ではなく普通の人間だ。満員電車なんて、さながら花屋へ出荷されるトラックの荷台……いや、実際にそんなとこ見た事は無いけども。
そんな
「(まぁ、人間だもんな)」
当たり前の感想を持ちつつ電車に揺られる事数十分、会社の最寄り駅で降りた俺は花の流れに沿って会社へと出勤する。
電車が荷台なら、さしずめ会社は花屋かお花畑だ。
色とりどりの花々が規則正しく椅子に座っている。
「おはようございます」
俺はすれ違うチューリップやらアヤメやらに適当に挨拶をしながら、自分の席に向かう。
この
職場関係も比較的良好である。同期の女性社員から『丹羽くん、私のどこが変わったでしょうか?』と聞かれるくらいには仲がいい。
けど、俺にはそいつの顔が観葉植物にしか見えないので、正直に『分からない』と返しておいた。その葉っぱだらけの顔面に花でも咲けばこっちから言ってやるよ。
「丹羽くん、課長が呼んでるよー」
噂をすれば何とやら、今日も花の一輪すら咲いていない同期が俺を呼びに来た。
「はぁ……またか……」
「おめでとう。すっかり課長のお気に入りだね」
課長は機嫌が悪いと小さなミスですぐ俺に噛み付いてくる。困った老が……もとい特定外来生物だ。
「なんでストレス発散の相手が俺なんだか……たまには変わってくれよ」
「私みたいに"華がある"女子にはちょっかいかけないのよ、あの人」
面白い冗談だな。その葉っぱ全部引きちぎってやろうか。
「んじゃ、さっさと行ってくるかな」
「いってらー」
同僚の緩い激励を受け、俺の憂鬱な時間が始まった。
「はぁ……疲れた……」
特定外来生物、
ほとんどを右から左へ受け流していた俺だったが、やはりストレスは溜まるもので──
「あんのトゲドゲ野郎……いつかぜってぇ駆除してやる……」
──このように朝から上司の殺害予告を口走る程には疲弊していた。
「何を物騒な事言ってるのかな〜?」
「何でもな…………あ!!」
思わず大声を上げて立ち上がったのは、突然肩を叩かれたからだけではない。
突っ伏していた俺の肩を叩いた、その人に驚いたのだ。
「
「おはよう、丹羽くん」
「おはようございます!」
優花先輩! 俺の憧れの人!
俺が落ち込んでいたりする時には、こうやって声をかけてくれる心優しい女性なのだ!
「落ち込んでいたみたいだけど、もう大丈夫そうだね」
「はい! ありがとうございます!」
もちろん、先輩が来る前はこんなに元気ではなかった。朝から上司にキレられ、調子が悪いまであったかもしれない。
けれど、先輩がこうやって俺に挨拶してくれたからには、暗い顔なんてしてられないだろう。
「それじゃあ今日も一日頑張りますか!」
「よろしくお願いします!」
彼女は不思議な人だ。
俺には彼女が花に見えない。確かに華はあるがそれは顔が花に見えるという訳ではない。
俺には彼女が人間に見える。
普通の女性。すらっと伸びる手足、くっきりした二重、その目は心無しかキラキラと輝き、笑顔がとても良く似合う。
ごくごく普通、普通に美人だ。
そして、俺の瞳に映る世界の中で、唯一の自分以外の人間。
それが彼女、
本当に、不思議な人だ。
花人病とは。
一億人に一人の確率で発症すると言われる奇病であり、この病気を発症した者は周囲の人間の顔が花に見える。
尚、原因、治療法ともに未だ不明である。
「はぁ…………」
大きな溜息をつき、座っていた椅子の背もたれに体重をかける。
何故こんな事を調べているかというと、実際にこの病気を発症しているからというだけの事なのだが。
「やっぱり何も分からない……か。気分転換にコーヒーでも飲もうかな」
パソコンのブラウザを閉じて自分の席を立つ。そのままオフィスの中を歩いた。
「治療法不明……別に日常生活に支障はないけどさ……」
顔が見えないと困る事も、あると言えばある。
こんな奇病にかかっている事が周りに知れたら、確かに好奇の目で見られるだろうが、さしあたって言えば、私が今可愛がっている後輩の事だ。
その後輩以外の人間の顔は、普通の人の顔に見える。
ただその子だけが……
「おっ?」
噂をすれば何とやら、その後輩が何やら自分の机に突っ伏している。
「あんのトゲドゲ野郎……いつかぜってぇ駆除してやる……」
「(まーた上司に八つ当たりされちゃったか……)」
ブツブツと呪詛を唱える彼。
彼がきっかけで私はこの病気の発症に気がつくことが出来た。
「何を物騒な事言ってるのかな〜?」
私がいつもみたいに声をかければ、
「何でもな…………あ!!」
彼もいつもみたいに私を見て驚く。
…………いや、私を見て、彼は
私の瞳に映る世界の中で、唯一顔が薔薇に見える男の子。
それが彼、丹羽 咲太郎くんだ。
落ち込んでる時は薔薇が萎み、何故か私を見ると花弁は鮮やかに咲き誇る。
まるで本物の花みたい。
本当に、不思議な子だ。
花人とは──
花見をする人。又は花のように美しい人を指す。
花で溢れかえった世界で、唯一存在する花のように美しい人を見つめる男、咲太郎。
人が溢れた世界で、唯一咲いた花を眺める女、優花。
二人の花人が互いを咲かせるのは、まだ少し先のお話。
リクエストは今の砂糖の実力が不足しているので、当分やりません……