ありふれは"いけない"律者達は世界最強 ~最強の錬金術師と最強の戦乙女~   作:siera

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連続投稿2本目~です!


黒曜大蠍(コクヨウオオザソリ)

 

少女は相対する――

眼前の敵は少女の身体を優に超す化け物。一対の蠍と尾を持つ化け蠍だった。その口元は牙と呼べる鋭く、ダラダラと体液があふれ床に垂れていく。この魔獣、ブローニャの事を獲物としか見ていないのだろう。

 

「私はエサですか……ですが、只の餌とは思わない事ですよ!」

 

啖呵を切り走り出すブローニャ。すぐさまそれに反応し鋏を振り下ろし叩きつけようとする。だが、その鋏の巨大な槌の如き一撃が地面にぶつかる前に、蠍の頭上に大きな衝撃が走る。

3~4回起こる衝撃と爆発。なにかと上を見上げれば、空に浮かぶ機会の砲座だ。その砲座から撃ち込まれた砲撃による爆撃。だが、頭の外殻は固く、大型崩壊獣ですらねじ伏せる砲弾の一撃でも軽い()()が入る程度。この化け物の硬さはそこらの崩壊獣を超えている様だ。

 

「食われるハズの餌に食われないように……!」

 

スライディングでいつの間にか腹の下に潜り込んだブローニャ。そのままの勢いで腰から引き抜いた銃を全弾掃射する。どうやら腹部の装甲は他より脆いのか、銃弾が装甲を貫き、中の肉にまで到達し血を流させる。

だが、それでもこの程度の傷で倒れるような化け物ではない。この程度の傷、致命傷になどならず、少し声を荒げるだけでむしろ食われるだけの餌が、反撃してきたことに対する怒りで満たされていた。

スライディングで背後を取りつつリロードを行うブローニャ。その行動を読んだのか、すでに1本の尾がブローニャの方に向いており、無数の針をはやしていく。そして、爆竹が爆ぜるような音と共に無数の針をこちらに飛ばしてくる。

 

「っ!重装ウサギ、撃ち落とせ!」『Roger!(了解)』

 

重装ウサギがブローニャの創り出した銃座を操作し、弾幕の雨を撃ちばらまく。無数の銃弾と針の雨は、互いに衝突し砕け散る。蠍の針はすぐに再生し衰えることなく連続で掃射してくるが、どうやら銃弾の硬度でこちらが勝っている様で、少しずつではあるが押し返し始めている。

 

「片方の尾がお留守ですよ」

 

掃射による攻防をよそに、ブローニャは反対側のもう一本の尾の前を飛んでいる。がら空きな尾を切り落とす勢いで構えた槍を振るう…が、ガキンという金属音が響き、装甲は切れることなく小さいヒビを入れるだけでそれ以上動かない。

 

「硬い、ですねッ!」

 

それならと、ひびが入った箇所を的確に、ずれることなく連続で攻撃する。周囲のビットンによるレーザーの集中射撃とブローニャの槍による連続突き。それを狂うことなく正確に、同時に打ち込む。

ヒビが入った装甲は一点集中の攻撃に耐えられず、バキリと不快な音と共に砕け中を貫く。槍が勢いを殺すことなく尾の肉を突き進み、限界まで槍が突き刺さったのを感覚で感じると、一気に振りぬこうとする。だが、思う様に動かない。

掃討な重さ、かなり筋肉が集中している個所な故、槍が思う様に筋繊維を断ち切れない。

 

「私一人では動かないですか! なら、このジェットと勢いをプラスすればっ…!」

 

ブローニャの背後のブースターが最大出力で駆動し始める。戦闘機のジェットを超える速度を噴き出すブースターをフルに稼働させ、強引に槍を振りぬいた!

突き刺した槍は勢いよく肉を抉り、切り裂き、完全な両断とまではいかなかったが、7割ほど尾の断面を切り裂いた。

斬られた尾は、その不安定な針の自重に耐えられず、残った3割の筋肉でぶら下っているような形で垂れ下がった。流石にこれほど大きな傷を与えられたからか、ホール内に絶叫が木霊する。

 

「―――――――――――‼‼‼‼‼」

 

蠍は急ぎ体を反転させブローニャを視界に入れる。その視界にブローニャが映った瞬間、ハサミを思い切り地面に叩きつける。それはブローニャに対してではない、誰も居ない地面への一撃だった。

 

「一体何を?…っ!」

 

地面が揺れ、地形が動き出す。この蠍、周囲の地形を操ることが出来るようで、先ほどまで綺麗な平な地面が生き物を殺すために創られたかのような、鋭く鋭利は棘を際限なく創りだしブローニャ目掛け伸ばしてきた。

質量を無視したかのように地面から伸びてくる幾つもの棘。これを壊すのは銃弾では間に合わない。すぐ身をひるがえし回避するが、伸ばした棘からさらに棘を錬成し伸ばしてくる。

 

「追従してきますか!」

 

ブローニャは急ぎレールガンを虚空から創り出し、逃げながら構え放つ。チャージをしていないので一発事の爆破範囲は微妙だが、その威力は折り紙付き。向かってくる岩の棘達を砕き分解、その先に佇んている蠍に向かっていく。

蠍も飛んでくるレールガンが恐ろしいモノと気づき、岩の壁を何重にも重ねていく。壊れては重ね、壊れては重ね……これを収まるまで続ける気だろう。

ここまで頭が回るとは、魔獣というのは動物とは違うというのを改めて実感した。この対処の速さ、まるで人間を相手にしているかのようだ。

 

「耐えるつもりです……ガッ!?!?」

 

再度充填し撃ち込もうとした瞬間、突如右から衝撃が走る。何かが横から飛んできた、それはあの蠍の針が着いた部分。先ほど、切り裂き垂れ下がっていた尾の先端だった。

 

「ゴォ……ガハッ‼‼」

 

あの蠍、防御しながら自身の尾を振り回し、()()ぶら下がっていた先端部分を遠心力で引きちぎって投げ飛ばしたのだ。糸を使った投石の如く、勢いをつけた尾は幸いにも針が刺さる事は無かったが、その鈍重な肉の塊が横から殴りつけてくる衝撃……ビキビキと肉体が悲鳴を上げ、そのまま壁まで飛ばされた。

 

「ガァ、グッ ブフッ……⁉」

 

巨大な肉塊と壁とのサンドイッチが肉体に悲鳴を与えていく。ヴァルキリーとなり律者ともなった彼女でも、これほどの攻撃は体にこたえる。普通の人間なら骨が粉々に砕け、意識を失っていたか、最悪潰れて死んでいた。

ブローニャが他の人間とは違うヴァルキリーであり律者だからこそ、響く鈍痛と打撲による軽度の内出血程度で済んでいる。明らかに先ほどまでの獲物として見ていた時とはちがう。明確な殺すという"殺意"が籠っていた……。

 

あの蠍は、ブローニャを敵として認めている――

 

「はぁ…はぁ…!迂闊……でした。プッ」

 

口から血が流れ吐き出すブローニャ。大きな怪我こそ少ないが、細かい傷がこれ以上続くのはいただけない。早く決着をつけるのが最善だ。

 

「(骨は…何とか大丈夫。ただ腕がやられましたか、痛みで上手く動かせない…。しばらく右腕は使えそうにないですね)」

「仕方ありません……使いましょうか」

 

ブローニャは無傷の左腕に持つ大型レールガンを持ち上げる。片腕の代わりは創生した重装ウサギの腕に持たせ、照準を合わせる。彼女が意識すると、それに応えるように銃身が変形を始め、銃口が長くなり、その姿をレーザーキャノンへと昇華させ、エネルギーを充填させる。

この一撃は星を砕く破星の一撃。真理を解明し、新たな心理を築き上げる律者となったからこそ生み出した、現状最強の兵器――

 

「―――――――!?―――――――‼‼‼」

 

その銃身に只ならない恐怖を覚えた大蠍。本能が告げているのだ。

 

あれはダメだ――

 

――あれを受ければ、確実に死を迎えると。

 

すぐに残った尾をブローニャに向け、大地を貫く針を一斉掃射。のこった大きな針からも、魔法陣が展開され玉虫色の粘液、おそらく酸性の毒だろう巨大な弾を発射する。

それをまともに受けるブローニャではない。すぐに重装ウサギに指示を出し、全兵装のセーフティーを解除する。

 

「重装ウサギ、支援砲撃…開始!」『Roger!(了解)』

 

無数のビットンに重装ウサギが扱う大型銃器と両肩に展開されたミサイルポッドを展開し一斉掃射。無数のミサイルに銃弾、レーザーの雨が大蠍の攻撃を相殺する。針の弾幕はすべて打ち壊され、酸の弾はミサイルの多段着弾によって吹き飛ぶ。何をしても止めようとする大蠍は、再度酸の弾を生成し飛ばそうとするが、いくつかのミサイルが大蠍目掛けて飛んでいき着弾する。

大蠍の装甲がいくら硬いとはいえ、その衝撃と苦痛は届いている。術式の構築が不安定になったのか、魔法陣がぶれうまく酸が生成されない。それならと地面を操作し妨害しようとするが、それもレーザーや銃弾の流れ弾が削り、反れたミサイルが爆破し壊していく為、これも決定打にならない。

一方ブローニャの方は只時間を稼げれば良い。レーザーキャノンのチャージ、本来ならすぐに打てるが、大蠍への妨害と対処の為に本来のエネルギーを裂いている為、チャージに時間がかかっている。

 

防衛に充てているエネルギーは全てレーザーの弾や弾薬、ミサイルの補填に充てている。よほどの弾幕射撃戦でもなければエネルギーが切れて弾を打ち切るなんてことは無い。それに以前作りためていた銃弾もあるので、このままいけば妨害を押さえ、キャノンへのチャージが完了する。

 

「(あと10%……!フルチャージじゃなくても、出力50%なら、この魔獣を倒せる!)」

 

 

そう、何もしなければ――

このままでは意味が無い、そう理解した大蠍は…それまでの妨害をすべてやめ、捨て身の特攻をしにきたのだ。いくら硬いとはいえ、この弾幕の嵐ではすぐ装甲が砕けていく。顔の装甲はすでに広範囲にひびが入り、隙間から血が滝の如く流れ出ていく。そんな捨て身の特攻をまともに受けるわけにはいかないが、現在ブローニャは壁を背にしているせいで後ろには逃げられない。横に逃げようにも、大蠍が壊した影響で大きな瓦礫が邪魔をし、到底間に合いそうにない!

 

「(捨て身の特攻!?相打ち覚悟ですか……!)」

 

巨体が壁に衝突する――

その衝撃は恐ろしく、壁の大部分を砕き壊し巨大なクレーターを形成する。勢いはもちろん突撃した大蠍にも襲い掛かり、顔の外装は粉々に砕け、大量の澱んだ血が噴き出していく。

その苦痛にもだえる大蠍だが、それでもあの強敵と相打ちに慣れたのなら…と心の底で思っているのだろう。だが興奮で気づいていないのか、土煙が舞い見えていないのだろうか……彼女は、そこに居ないことに気付かない。

 

「良い判断だと思いますが…一手遅かったですね」

 

その声に驚き上を見上げる大蠍。そこにいたのは空に浮かぶ白銀の少女――

 

彼女はあの時確かに逃げ場はなかった。後ろにも前にも、左も右も……ならどうするか、"上に逃げればいい"。

少女は律者として君臨してから自身の意志で空を飛べる。今まではこの世界に来る途中のトラブルで使用を控えていたが、今その制約を解除した。

5~6階ほどの高さにもなるホールの一番上、手を伸ばせば天井に手が届きそうな程の高さにまで上昇したブローニャ。その銃身は、すでに準備を終えていた。

 

「(あなたは強敵でした。崩壊獣とは違い、生きるという強い意志を感じました。覚えておきましょう、あなたという存在の事を――)」

「――さようならです」

 

『recharge 1・2―――』

 

Fire ‼‼

 

銃口から放たれる青い閃光――

鮮やかな空の如き閃光は収縮し、一つの弾丸となって大蠍の身体に着弾し、爆ぜた。

まるで大地を抉る天から一撃の様、圧縮された光弾が爆発し、巨大な光の柱を創り上げながらフロアを吹き飛ばす。瓦礫は分子レベルまで消滅し、ねじれるように抉る光柱がこのダンジョンごと抉り、星を貫かんと突き進む。

数秒後、光が収まり目の前に現れた光景は、大きな鋏のみを残し消滅した大蠍の残骸。そして何階層まで貫いたのかもわからない、先が見えぬ大穴だけだった。

 

「……はぁ~」

 

身体の力が一気に抜け、瓦礫の上にへたり込む。異世界でここまで苦戦する相手と戦うとは思わず安堵の溜息が出てくる。

正直なところ、少し冒険してみたいという甘い心があった為の失態だったと反省している。「崩壊獣より弱い」「今の私なら平気だ」というおごり高ぶった部分が少しでもあった自分を恥じる。

ここは異世界でも戦場、立派な死地なのだ。自身の甘えた心を反省し、次からはこのようなことは起こらぬように、どんな相手でも注意を怠らないようにしようと心に誓った。

 

「……お腹すきましたね。少し頂きましょうか」

 

そういい、懐のポーチから魔獣の肉を一つ手に取る。

正直魔物の肉は不味い。こんな死地で生きる生物なのだから、喰われないための進化なのだろう。

そんな肉だが、現代知識をフル活用し頑張って調理すれば何とか食べられる食材ぐらいには昇華できる。

 

まず周囲の岩石から塩分だけを抽出し塩を手に入れ、道中流れていた地下水を汲み上げ、塩水を作りそこに肉を浸す。その後可燃石を使い、火を通して焼けば…臭みの抜けた魔物ステーキの完成である!この知恵は昔「銀狼」時代、山で狩った鹿肉の臭み取りの際に実際に使った料理法だ。

 

完全に臭みが取れることは難しいが、それでもかなりましになる。

というより、ジビエ料理に獣独特の臭みを堪能する部分もあると言えばあるので、そこはまあ妥協できるからだ。

今回の肉もしっかり調理したので不味くなく、それなりに美味しい。狼の肉を使ったのだが、食べた感じは触感油身少なめ、味は馬肉といった感じ。ちょっとしたエネルギー補給には、食べやすくてありがたい。

 

「さて……この後どうしましょうか」

 

下に続く階層に向かう道目指して歩き出すのもいいが、それより楽そうな道が立った今できた。この縦穴である。

周辺地理を解析してみた感じだと、この縦穴…まるまる40階層分ぐらいぶち抜いており、100階手前まで底が続いている感じだ。その100階に繋がる岩肌も、数弾撃ち込めば貫けそうな厚み。そうなればこの縦穴を飛び降りるのが最短だろう。

 

「でも、階層を攻略せずに進むのもゲーマーとして……イヤイヤ」

 

戦闘の影響か思考が纏まっていない。これは今日はここで休み、この後の探索は明日にでも行う事にしよう。どうやらあのトラップが再度起動する兆候は今のところ無し。周囲に魔獣も居ないようで、いたとしてもこの扉の先には行こうとない所をみると、此処は安全地帯として使えそうだ。

 

「嬉しいことに前任者が置いていったであろう燃焼石が幾つかありますし、焚火の後もある…少しお借りしましょうか。しかも岩をドーム状にして簡易的なテントにしてありますね、良くできています」

 

前にこの場所に来た人物の休憩後の場所を借り、一休みすることにした。時間を調べてみると、朝3時半と長時間探索していたようだ。このような閉鎖的で大きな空間で過ごすと時間の間隔が狂う様だ。

 

「時間の管理や、体調面もひときわ注意しておいておかないと、想像以上に探索してしまいました」

「探索を始めたのが朝の9時半丁度…そこから昼休みを含めた休憩20分と5分程度の小休みを1~2回程度……それで今日、7階層探索し終え、50階層が現在地……ハイペースに動きすぎましたね」

 

魔獣の肉を頂きながらお手製のマグカップに入れた水を飲む。パチパチと弾けながら燃える燃焼石の音が、焚火の音の様に心地よい。先ほどまでの戦闘があったとは思えない程落ち着いた空間。

遅い夕食、速すぎる朝食を頂いた後、ブローニャは魔獣の毛皮を敷き横になる。この一か月で濃い日々を過ごしたものだ。向こうの世界も、凄まじい速度で世界が変わっていく様を見てきてはいるが、そんな時の濃い月日だ。疲れが一気に押し寄せ、睡魔へと変わっていく。

 

「……芽衣姉様、キアナ。大丈夫でしょうか」

 

最愛の友の事を思いながら瞳を閉じる。少女は仲間の安否の心配より、会えない事への寂しさが心に揺蕩っている。少女は心に刻む、「ここを出て必ず会いに行く」と。その為なら、彼女はどんな障害をも乗り越えていく、覚悟は何年も前から抱いていた。障害は壊す、それが敵意を持った魔獣でも…人間だとしても――

 

――障害を"殺す"という覚悟

 

彼女の今の精神は、かつての銀狼の時代……

          慈悲なく敵を撃ち殺す、冷徹な狩人の時に戻りつつあった。

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