ありふれは"いけない"律者達は世界最強 ~最強の錬金術師と最強の戦乙女~ 作:siera
この先は不定期に更新していきますので、よろしくお願いします。
ここから"あの人達"と出会いますが、何やら出会い方は災難で……?
ピリリリリ……!ピリリリリ……!
ホール内に重装ウサギのアラーム音が鳴り響く。ありがたくもちょっと嫌な音を止める為に起き上がるブローニャ。重装ウサギに取り付けたボタンを押して目覚ましを止め、腕を伸ばす。
この世界にきてここまでゆったり寝たのは初めて。他の階層は死と隣り合わせな状況下の中での休息だったので、休んだ感じはそれほどなかった。やはりしっかり部屋の様な空間で横になるのが、人にとって一番なのだと改めて思った。
しっかり目覚める為、この前汲んでおいた水で顔を洗い、軽い朝食を頂く。時間を確認すると、11:34と表示する重装ウサギ。寝た時間が時間だったためとはいえ、こんな時間に起きるなんて久しぶりである。
「ん~……さて、探索の続きと行きましょうか」
「今日はこの穴を降りて、一気に最下層に向かいましょうか。何事もなければ数十分で最下層ですが…」
周辺地理を解析して分かったが、どうやらこの穴、いくつかの階層の通路の上をぶち抜いてできたようで、いくつか横穴が繋がっている状態。もしかしたら、他階層から魔獣が穴に入ってきて襲ってくる可能性がある。
空飛ぶ魔獣も居るはずだが、このフロアにまで来なかった理由は何か恐ろしいモノでもいると感づいているのだろうか、もしかしたらあの大蠍…「黒曜大蠍」と勝手に名付けた魔獣が居る事を知っているから故、行こうとしなかったのだろう。
「まあ考えた所で、魔物の行動原理などわかる筈もないですね」
武装を確認し、故障個所が無いか点検する。すべての武装を点検し、負担がかかっていたパーツがあればすぐに創り直し、弾薬などの準備も怠らないようにする。
すべての確認を終え問題ない事を確かめると、ブローニャは迷う事無く大穴の中へ飛び込んでいった。
重力に身を任せ暗闇の底へと落ちていく。その落下スピードはすさまじく1分も経たない内に3階層分は落下していく。すると、穴の底からキィキィと黒板を擦るような嫌な音が聞こえてくる。
ブローニャはすぐさま穴の底を解析し、音の正体を確かめる。すると前方に無数の小さい飛翔体が群れているのが見えてきた。この形状…コウモリだ。
「キィ!キィ!」
不快な声を反響させながらこちらに向かい飛びかかろうとするコウモリの群れ。ブローニャもすぐさまビットンを展開し迎撃する。
「重装ウサギ!迎撃支援開始!」
ビットンが放つレーザーが次々とコウモリたちを撃ち落としていく。それでも数が多いコウモリたちは、レーザーの網を搔い潜りブローニャへと迫っていく。彼女自身も銃を引き抜き対応していく。
「多いですね!(ダンッ‼」「ギ……!」「キィ…!キィーー!」
「拳銃では捌き切れないですね、これでは……少し怖いですが、致し方ありません」
ブローニャは手元に一つの爆弾を創り出す。そして、それをおもむろに上へと投げ耳をヘッドホンでふさぐ。投げられた爆弾は一瞬の閃光と共に、強烈な炸裂音を響きだした。
「ギィ……!」「ギィーーーーー‼‼‼」
「っ……!」
先ほど投げたのは閃光手榴弾。炸裂すると、強烈な光と共に聴覚を麻痺させるほどの爆裂音を響かせる。効力としては4~5秒ほど相手をひるませられる程度のモノだが、それは人間に対しての話。コウモリの魔獣の様な耳が発達している生物にとっては致命的なダメージとなる。実際、炸裂した音によってコウモリたちが苦しみもだえ、泡の様なモノを吹かしながら暗闇の底へと落ちて消えていく。
「流石にこんな閉鎖的な場所では、耳を塞いでいても辛いですね……」
コウモリと戯れているうちに大分底に迫ってきていた。あと20階層ほど落ちれば一番だろう。すると、また下から何かの反応が迫ってくる。それも大きく、長い。壁をなぞりながら登ってくるそれは、大きなムカデ。無数の足をガサガサと動かしながらこちらに迫って来ようとしている。
「やはり階層の道を壊して撃ち抜いたせいで魔物もこっち来てますね。それに魔獣の血と先ほどの爆音の事もあってか大型も魔獣まで来てますね……」
「これ以上は面倒です。100層開通させる必要もありますし…まとめて吹き飛ばします!」
ブローニャは構えていた銃をしまい、レールガンを取り出し穴の底へ向け構え、問答無用に打ち込む。青い閃光が穴の底へ駆け抜け、下にいた魔獣達を無慈悲にまとめて吹き飛ばした。青いレーザーは大穴の終点に到達する。100層に続く道を作るため、閃光がぶつかり爆ぜた。
光の道を追いかけるブローニャ。レーザーの光が落ち着いてきた先に見えた景色は、明るい部屋の景色。
100階層に繋がった、それがわかりさらに落下スピードを上げる。背後のブースターもフルスロットル、ステルス爆撃機が最高スピードで突撃してくるようなモノだ。10数秒もあれば、100階層に到達する。
そして、10数分ほどひもなしバンジーは終わりを迎え、新たな新境地へと突撃した。
この大迷宮の攻略には先駆者が居た。
彼の名は南雲ハジメ。
理不尽な転生に巻き込まれ、この異世界で戦いを強いられた只の学生だ。彼はこの世界で「錬成師」という勇者と呼ばれた者達の中で最弱というレッテルを張られ、この世界でも蔑まれてきた。
さらに、この「オルクス大迷宮」を攻略しに来た際、共に攻略しに来たクラスメイトの一人に裏切られ、奈落の底に落とされた。
その底は地獄そのものだった。化け物に腕を落とされ喰われ、死に物狂いで生き延びた。
そして生きる為に、自分の世界に戻る為にあらゆる敵は殺す…そう決意した。魔物の肉を喰らい、肉体が変質して魔物の様になり、苦痛を得て力を得た。殺して喰らい、殺して喰らう……そうして彼は、迷宮の深部を攻略していった。ただ、元の世界へ帰りたいという思い、それだけで。
その後ハジメは吸血鬼の女王として君臨していた少女「ユエ」と出会い、同じように裏切られ、孤独となった少女とこの迷宮を共にすることになる。
2人は次々と階層を攻略し、そしてついに100層へと到達した。100層のボスは七つの首を持ったヒュドラ。あらゆる属性の攻撃を放つその強敵に、ハジメ達は苦戦を強いられ、片目が潰される。それでも、二人の固い繋がりの前にヒュドラは負け…いま最後の一撃が放たれた。
「か…勝った」
「ハジメ……!」
「流石に…もう限界だ――」
そういい、瓦礫の傍に倒れこもうとしたその瞬間――
天井から青い光が降り注ぎ、部屋に極光を広げる。その衝撃はシュラーケンの比ではない。あのヒュドラのブレスすら超える衝撃と光であった。
「な、何!?」
「まだ何か来やがるってのか……!」
既に満身創痍のハジメ。脇腹や肩が焼け爛れ、右目を失いすでに気力は限界を超えている。だが、それでもやらなければいけない。敵であるなら、殺す。殺さなければ、生きられない。ハジメはドンナーを強く握り、新たな"障害"へと目を向ける。
衝撃と共に巻き上げられた土煙が辺りに充満する。ユエはハジメの近くにいる為、お互い場所が分かっているのは幸いか。
すぐに探知系技能を使い、何が起こったのか確認する。あのヒュドラではない、探知技能に反応が出ない。だが、そのヒュドラの上に小さい、でも強大な反応が一つ出てきた。
人間……の様であるが、どこか違う。ハジメが感じる感覚は、人の気配というより、魔獣……いや、それよりもっと悍ましい。
「ケホッ……流石に無茶しすぎましたかね」
土煙の中から影が起き上がる。それは二足で立ち、片手に長い槍のようなモノを握っている。徐々に煙が晴れていき、その影の全貌があらわになってきた。
白いドレスのような鎧に身を包み、頭の上に青く光る天使の輪のような王冠に似たリング。長い髪は一本にまとめられており、その毛先はドリルの様にねじれている。第三者から見ればそれは幼い少女にしか見えない、だがハジメには何となくわかる。あれは……"ただの人間ではない"と。
「……」
少女は背後に立ち敵意を向けているハジメたちに気付き振り返る。やはり少女、人の顔立ちだ。でも…そのうちに秘める力の奔流に、ハジメ、ユエは恐れを抱いていた。
「ヒュドラの次は天使ってか!?」
「ハジメ…どうする…」
「……ユエ、まだいけるか!」「きついけど、やるしかない!」
「?」
少女は首をかしげている、明らかに様子を見ているようだ。それならとハジメはすぐにドンナーで頭を狙い、すぐに射撃する。
「あn――」
ダンッ‼‼ ダンッ‼‼
二発撃ち込んだ。確実に頭に向かい弾丸は彼女の顔にめがけて飛んでいったが、その二発はガキンッ!という音と共に弾が消え去った。彼女は腕を動かしていない、というのに弾丸は打ち落とされたのだ。
「なんだ!?固有の技能か何かか!?」
「ちょ、ちょっと待って――」
「"緋槍"!」
「っ!」
ユエの燃える槍が少女に迫るが、持っている槍で簡単に斬り掃われてしまった。ユエも先ほどの闘いで魔力が限界に近い為、大きな魔法は使えない。それでも魔法の質は他の人間よりは強力なハズ、だが少女はまるで火の粉でも払うかのように魔法をかき消した。
「"緋槍"がまったく効いてない……」
「……聞く気無し、ですか?」
「っ!ハジメ、あの子喋ってる!?」「あ⁉」
「ずっと前から喋ってます、はぁ……」
少女はため息交じりにやれやれと言いたいのか、呆れた表情をみせる。これまでどんな相手でも殺すと決めていたが、この敵とは何かがちがう。悪い意味でかみ合っていないような気がした。
「……お前、何者だ」
「話も聞かず攻撃してきた貴方がそれを聞きますか」
「……まあいいでしょう。「銀狼」、それだけ覚えていれば」
「銀狼…?狼の魔獣か、それとも人狼みたいなやつか?」
「それは違う。獣人族なら特有の耳がある筈…でも彼女にはそれが無い」
「ただの二つ名ですよ。過去の、ですが」
少し声がくぐもっている様に感じる、もしかしたらあまり言いたくないのだろうか。ハジメも昔の厨二病時代の二つ名を思い出すと頭が痛くなる時がある故、そのような感じだろうかと勝手に想像する。
「二つ名なんかを聞きたいんじゃねぇ!名前を言いやがれ!」
「見ず知らずであり、話を聞こうともせず攻撃してきた貴方達に名前を教えようとは思いますか?」
「チッ……!」
「…どうやら、まだ敵意は抜けていないようですね。でしたら――」
銀狼と名乗った少女は、槍先を向け宣言する。その姿、まるで中世の気高き騎士の姿を幻視させる。
「――戦い合いましょうか?それがあなた達の選択なら、拒みません。ですが、死を覚悟してかかってきなさい」
この威圧感、この大迷宮出始めて強敵と相対した時の感覚に似ている。絶対的な強者、その押しつぶされそうなプレッシャーに…。
「…ハジメ」
「……ああ、悪かったよ。今回は完全に俺たちに非がある、これ以上は勝てそうに無いからな」
「そうですか。少しは頭が冷えたようですね、賢明な判断です」
そう言い、銀狼は空いている片手で指を鳴らした。すると、いつの間にか周囲に浮いていた機械が光の粒子となって消えていく。
「…いつのまに」
「(今のは…まさか、機械?なんで異世界に機械が!?)お前、今のは――」
「グルゥアアアアアア‼‼」
突如響き渡る咆哮。それは少女が出てきた大穴の先、天井にできた穴の先からだ。穴から、大型の魔獣が飛び出してくる。蛇の尾を持ち、体と顔は獅子、そして背中に鳥の羽が生えた混ざりものの魔獣…そう、キメラだ。
「あれ…98階層にいた!」
「あのキメラの別個体か!?」
「ほぉ、キメラなんてのも居たのですねこの場所」
キメラは3人を視界にいれると、勢いよく地面に降り立ち、喉を鳴らしながらうなる。穴からはこれ以上魔獣が来る様子はなく、天井の形成していた瓦礫が穴をふさぎ、完全に元の天井に戻っていた。
敵はこの魔獣、どうやら銀狼と名乗った少女は敵対する様子はないようだ。なので今すべきことはキメラを殺すこと。すぐさまドンナーを向け全弾撃ち込むが、キメラは結界を貼り弾を防ぎきる。
「チィ!やっぱ防ぎやがるか…!」
「なら…私の魔法で…うっ…!」
「ユエ!無茶するな、お前も限界だろう!」
「ハジメ…だって!」
「仕方ありません、私が相手しますよ」
そういい、ハジメたちの前に立ち庇うような姿勢を見せる。
「お前…」
「面倒ですが、貴方にも事情がある様ですね。敵対心が強い理由も含め、後ほど聞かせていただきますよ」
「グルァアアア‼‼‼」
キメラは口を大きく開き、巨大な炎の弾を飛ばす。この炎弾はユエの"緋槍"ですらかき消す威力。普通の魔法は効きが薄い、上位の魔法でなければ上から撃ち込めない。
「おい!あいつに魔法は――」
「重装ウサギ、レールガン解放」『Copy.(了解) Railgun activated.(レールガン、起動)』
虚空から黒い空間が広がり、謎の機械が現れる。そして、その謎機械は自身の下に巨大な銃座を創り出す。何もないところからの生成、無からの創造。ハジメの錬成とは似て非なる、かけ離れた御業。ハジメの心は、機械を操る少女への疑問と疑念があふれる。ただそれ以上に、創り出した機械の素晴らしさと技術に関する好奇心と、感動の方が勝っていた。
「何もない所から……!」
「(今のは取り出したとかじゃない……明らかに創り出している。綺麗な銃だ……知りたい、作り方も、素材も、やり方も…!)」
「……発射」『Railgun, fire!(レールガン、発射)』
銃座から撃ちだされる光弾は、キマイラが展開した結界を容易く貫き、背後のキメラを貫く。光線はキメラの左目を貫き、そのまま体を進み……巨大な空洞を形成した。叫び声をあげることもできず、キメラの身体は力を失い、地に倒れた。
「銀狼……お前は一体、何なん……だ」
「知りたい、銀狼の事を」その思いを胸に抱き、ハジメは倒れてしまう。元々限界を超えて動いていた状態、それが目の前の敵がかばったという事実に緊張の糸がブツリと切れたのだろう。目の前で戦う白銀の少女を薄目に捉えながら、ハジメはその意識を手放した。
まったく展開が急すぎて混乱してくる。何とか100階層まで到達できたと思ったら、何故か先駆者?であろう人が2人、先に100階層を攻略しており、気になって調べてみたら、少女は明らかに人間とは違うエネルギーが飛んでもない能力を秘めていたり、少年の方は人間なのに体が殆ど魔物に近かったり……。
そして調べて終えて声を掛けようと思ったらいきなり銃で撃たれた。急だったので重装ウサギのバリアを展開し何とか防いだが、少年に合わせる形で少女も炎の槍を飛ばして着たり…いきなり敵対心丸出しだった。
少年が魔物の身体に似ていた事もあって、2足歩行の人型魔獣かとも思ったが…何故かボロボロだったのを見るにそれは無さそう。だとすればやはりこの階層を攻略してきた人間だろうし、調べた感じ大分脳に血が上っているようなので、何とか会話に持ち込んで落ち着かせた。
だがそれの後に、まさか私が空けた穴からデカイ魔獣が落ちてくるとは……。しかも見たことの無い魔獣、2人の会話から察すると98階層にいたボスクラスの魔獣、キメラの様だ。
キマイラじゃないのかというツッコミは心の底にしまっておき、とりあえず対処することにした。どうやらバリアの様な能力があり、少年の弾丸は弾かれてしまう。そうなると私の出番だろう、すでに少年は満身創痍、片目は潰れており、体は焼け爛れた痕も多い。この世界の事を聞けるチャンスを潰すわけにはいかないので、私が代わりに対処しておいた。(レールガン一発の所、爪熊と同レベルか、上ぐらい)
それで魔獣の対処も終わり、今度こそ話せるかと思ったら…少年が倒れてしまった。少年の容体は決して良くはない。傷事態はある程度処置されている様だが、それでも火傷傷がひどい……このままだと肉が壊死して腐っていってしまう。何とか対処しなければ……。
「ハジメ…!」
「(不味いですね……これ以上傷を放置しておくのは…!解析……っ、この扉の先は屋敷ですかね?それに水に木まで生えている?原理は分かりませんが、ここでならゆっくり休められそうですね)」
「この扉の先に屋敷があります、そこで休ませてあげましょう。私も手伝いますので」
「なんでそんなことが分かるの……?」
「(解析能力があるから、ですが……まだ私情を知らない人に話すのは控えた方がいいですかね)それは、彼が起きてから話すとしますよ。今は…休ませるのが先決では?」
少女は涙目になりながらも、強くうなずく。お互い肩に少年を背負い、少し引きずるような形で扉の先へ進む。重装ウサギに扉を開けさせると……。
そこは朝日が差し込んでいるのかと思う程明るく温かい場所。周辺にはいくつも樹々や草花が生えており、通路の横には水路のようなモノもあり、一定の方向へ流れている。そして、中央には大きな屋敷…少し古く、植物のツタが巻き付いているが、あそこであれば休めそうだ。
「中に入りましょうか……」
「…うん」
扉を開けると、以外にも清潔さが残る建物で。カーペットやカーテンは多少劣化し穴が開いていたりボロボロだったりしているが…それ以外はかなり綺麗な内装。とりあえず二階へと上がり、解析した際に目星を付けておいたベッドが存在する部屋へと連れていく。
「ここがベッドルームです、入りましょう」
「わ、わかった……」
「(なんでここにベッドがあるって分かっている?もしかして……彼女が"反逆者"?いや…私が封印されてから300年も経っているのに、生きているなんてあり得るの?)」
とりあえず服を脱がし、傷口を確認する。左腕はずいぶん前に切り落とされてしまったのか、傷口は新しい皮膚が傷口を塞いでおり問題なさそう。あとは体中に幾つもできている焼け爛れた皮膚、そして全身の裂傷、打撲の痕…そして、潰れた左目――
「医療道具は…包帯ならありますね、持ってきます」
「待って…これを飲ませる」
「これは?」
「「神水(しんすい)」、傷を治し癒す水…」
「(なるほど、流石異世界…そんなモノもあるのですね)分かりました、貴方はそれを飲ませてあげてください。私は包帯を持ってきま――」『……。』
「…重装ウサギが持ってきてくれてますね…。早速処置を始めましょう」
治療を始める2人、金髪の少女が少年へ神水を飲ませる。少年も、反射的なのか意識を失っているのに、その水を飲もうと口を動かしている。少女の言っていた様に、傷が少しづつ治っていくのが見てわかる。
…だが、裂傷や打撲傷は早めに治っていくが、火傷と目の傷は治りが極端に遅い。
どうやらこの階層のボスの攻撃には回復を阻害する能力があったらしく、それの影響が残ってしまっているらしい。だが、その阻害も数日たてばその阻害も落ち着くらしい。それを聞き、急いで治療を施す必要はない。
怪我がひどい箇所を優先し包帯を巻き、右目は水で軽く洗い清潔にした布を当てた上から包帯を巻き処置を終えた。右腕の骨折箇所も気になったので添え木で処置しようと思ったが、すでに神水の効力からか、治りかけていたのでやめておいた。
少女はハジメと呼んでいる少年に付きっきりなようなので、私はそっと部屋を離れこの屋敷を調べてみることにした。一階にはダイニングルームとキッチン、多少ホコリが目立つが食器などは棚にしまってあるからか綺麗なままだ。調理器具もある程度そろっており、蛇口からも綺麗な水が出てくる。コンロは……赤い石でできているが可燃石とは違う様だ。解析の結果は……「魔石」?
「魔石…魔力のこもった石の総称。ということは、この世界…魔力というのがあるのですね。もしやあの未知のエネルギーが魔力でしたか」
ということは、魔力というのは崩壊エネルギーが変質したモノという感じだろう。崩壊エネルギーの性質と、他のこの世界の物質が混ざりあい出来たモノがこの世界でいう「魔力」というモノの様だ。
ブローニャが魔石のコンロを動かそうとボタンをひねる。すると、ブローニャの中のエネルギーがごく少量吸い取られ、魔石から火が付きメラメラと燃え始めた。
「なるほど。でも私は魔力を持って無い筈ですが、もしや?鑑定――」
この世界にきてから自身の鑑定を行っては無かった。自身の身体を調べてみると……体を巡る2つのエネルギーが見つかった。一つは崩壊エネルギー、これは律者ゆえ当然。もう一つは、先ほども出てきた魔力だ。今までそういうモノは検査で出てこなかったが、もした魔物を食した結果か?魔物の肉にも魔力は当然残っている、それを摂取し取り込んだ為、ブローニャにも魔力が宿ったと考える。だが……
「巡っている魔力が徐々に崩壊エネルギーに変化していく…なるほどこれのおかげで崩壊エネルギーも回復していたのですね」
「……何してる?」
おっと、どうやら少女の方は少し落ち着いたようで、いなくなっていた私を探しに来ていたようだ。ハジメの容体を聞いてみると、かなり落ち着いてきたようではあるがまだ意識が戻ってこないらしい、傷の治癒に関しては順調で、敵の阻害も抜け殆ど完治しているそうだ。ただ目の傷は塞がっても、目が戻る事はないらしく、失った目はそのまんまの様だ。
「そうですか」
「…聞きたいことがある。貴女は"反逆者"?」
「反逆者?それはどういう……」
「神代に神に挑んだ神の眷属達の総称。……世界を滅ぼそうとしたと伝わっている」
「世界を滅ぼす、ですか…(確かに神の如き存在を止めようとしてはいますし、私達律者はその崩壊の根源に使える代弁者…あながち間違っては無いですが、その事ではないですよね絶対)…返答は、「そうでもあり、違うとも言える」と返答します」
「…それは、どういう事?」
「……なんといいますか、伝え方が難しいのです。私としても話すのは良いのですが、話すことが多いので」
「…わかった、今はいい。だけど、いつか必ず聞かせて」
「貴方が敵か、違うのか……」
現状別に敵でも味方でもないのだが、言葉の強さからなんとなく「敵なのか違うのか」を重要視しているような感じがする。先ほども、敵なのかどうかで、少年の態度もガラリと変わっていた。
「いいですよ。そのことは、彼が起きてから話しましょう」
この屋敷に来て3日目――
初日のあの後は特に何か話したこともなく、それぞれしたい事をして一日を終えていた。ユエと名乗った少女は、ハジメに付きっきりの様で、よほどのことが無い限り離れようとはしない感じだった。
ブローニャは何しているかというと、2階の書斎に足を運び、本を読み漁っていた。この屋敷の持ち主の自室兼書斎であろう部屋には棚にびっしりと並べられた本がずらり。それを手に取って読んでみるが……まさかの未知の言語で読めすらできなかった。
どの言語とも類似しない未知の言語、だがそれでも解析しわが物にするのが「真理の律者」少し時間がかかるが、論理パターンや文脈の構造を読み解き覚えていく。それでも3日で大体覚えられたのは、ブローニャが「真理の律者」故だろう。これがもし芽衣やキアナだったら……1年経てば何とか…いや、キアナは無理か。
「折角です、二人の為の媒体でも作りましょうか。自動翻訳させるためにバイザーに入れ込める方がいいですかね。ARの技術を利用し、視界に翻訳文が表示されるようにしましょうか」
書斎兼自室ということもあってか、白い紙や何故か乾いていないインクと羽ペンもある。ブローニャが本を読み解析している隣で、重装ウサギが翻訳を終えた文を紙に書き記していく。翻訳を終えた文を纏め、そのデータを重装ウサギがすべて記憶し、事前に創っておいたチップに書き入れていく。
一紙にしてからデータを書き込んでいるのは、いざというとき本で取っておくと便利な事があるから。デジタル化が進んでいる私達の世界でも、いまだ紙媒体が健在なのはそういう事である。
出来上がったチップをブローニャが身に着けているバイザーに入れる。チップからダウンロードされた翻訳情報が、目の前で読んでいる本の分を翻訳し、視界に映し出されていく。このバイザーはハイペリオンで支給された同型、芽衣もキアナも同じモノを耳に着けているので、入れれば大丈夫のはずだ。
あとは完成品のチップを解析して、同じモノを2つコピペして作成する。わざわざ解析したのは、もし壊れた場合完成したチップを解析して覚えておけば、後々すぐに代わりを作れるから。
「……これでいいですね。さて、今日は何をしましょうか――」
『ハジメ、ハジメ……!』
『…ユエ』
上が騒がしい、どうやらハジメと呼ばれた少年が目覚めたようだ。3日も目が覚めなかった反動なのか、すごい涙声で名前を何度も何度も呼ぶ少女の声が、上からかすかに聞こえてくる。
「しばらくは二人の時間にしてあげましょうか」
『……いい加減にしやがれこの変態吸血鬼‼(バチィ‼‼』
『アババババ‼』
「……二人にしておいたほうが良さそうですね」
作品の投稿日時、いつぐらいに上がってると嬉しいですか?
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朝方
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正午・昼休み時
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午後
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夜間・深夜帯
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とくに気にしてない!