ありふれは"いけない"律者達は世界最強 ~最強の錬金術師と最強の戦乙女~ 作:siera
ハジメが目が覚め、2人の時間を作ってから数時間。話したいことや、状況の整理が何となく終わったのか、二人が一階のダイニングルームにやってきた。少年の表情は、初めて会った時に比べ比較的落ち着きを見せていた。私の顔を見ても、敵意を抱く様子はなく、軽く頭を下げ、無言の挨拶をしてくれる。
あの切羽詰まっていた状況でもなく、肉体的にも精神的にも限界だった当時と対応が違うのは当たり前と言えば当たり前なのだが、これなら比較的状況を話しやすい。
「目が覚めたようですね」
「…あんたがここまで運ぶのを手伝ってくれたんだってな、感謝するよ」
「ん・・・。それと怪我の処置も、ありがとう」
「お礼を言われることではないですよ。普通の事をしただけです」
「あんたは敵じゃない、それだけは分かった……。が、あんたの事を俺たちは知らなすぎる。だから、教えてくれ、銀狼……お前は何なのか」
確かに良いころ合いだろう。今なら二人共冷静に話を聞けるだろう、とはいえ突拍子もない話にはなるのだが。……さて、どれをどうやって話すべきなのだろうか。
彼らがこの世界の住人に「私は別の世界の人間です」と話すのはどうなのだろうか?しかも、よくある異世界召喚系の作品の状況とは違う。
私達は偶然足を踏み外し、落ちた先が偶然この世界だったというだけ……「偶然足を踏み外して別世界に行く」という言葉、改めて自分が考えるとパワーワードにも程がある。
とりあえず、私が何なのかを伝える前に、彼らについて聞くのがいいだろうか。それによってどれだけ話すか・ぼかして伝えるか・どれぐらいぼかすか、といった線引きが引きやすい。
「…以前も約束しましたからね、話しましょう。ですが、その前に私の事の前に、貴方達の事を教えてください」
「私達の事から……ハジメ、いいよね?」
「ああ、俺たちが何でここにいるか。話すとするか」
そして、彼らは語りだす。壮絶な体験談を――
この世界で勇者として強引に召喚された彼、ハジメ達学生の事。自身が「錬成師」という転職で、勇者パーティーの生徒達から蔑まれた事。このオルクス大迷宮の攻略中、トラップが起動し、ベヒモスがいる階層に飛ばされ……そこで、一人の生徒に裏切られこの地の底に落とされた事。
その後の壮絶な迷宮人生、腕を切り落とされ、死に物狂いで生き延び、自身の弱さに絶望し、絶対生きると誓った。そして、魔物の肉を喰らい、肉体が裂かれ、砕かれて行きながら、神水で治癒を繰り返し、今の肉体となった。
その後は、練成師の力と、現代知識を駆使し銃を作り、迷宮を攻略していった。その後、50階層…例の何もなかったフロアにて、封印されていたユエと出会い…その先からは2人で攻略を進めた。
そして100層に到達し、体の限界を超え…100層のボスを攻略した直後に私が上からやってきた……というのが、これまでの顛末というらしい。
何というか……壮絶という言葉では足りない程を歩んで来たのだと、共感や同情とは別にハジメへの賛美の感情があふれてくる。私達もそれなりの日々を過ごしてきたと、自慢ではないが思っていたが……只の一般人である彼の方が、その苦しさと辛さは強烈だっただろう。
そんな中で、気になるワードが出てきた。「この世界の神に召喚された」――
これは、彼らも別の世界からやってきたと言っているのだ。まさかそんな事が…と思ったが、そんな現象が起こるとなると、私達も呼ばれた可能性があるのか?と一瞬考えたが、私達は途中のアクシデントによるモノ。関係はないだろう。
「(それより、召喚されたという事は…この世界の神には、違う世界から強制的に呼び出せる能力があるという事ですか。これは…この世界に変える条件、「この神をどうにかする事」で確定的ですかね)」
「(でも学生1クラスだけ呼んだ事を考えると、
「同じ世界線」…つまり、幾つもの世界が集まったモノ。以前話した「世界=様々な本」と例えていたが、世界線は「世界線=本棚」ととらえていいだろう。
何が言いたいのかというと、ブローニャの世界がある本棚≠この異世界の本棚といった感じ。「ブローニャの過ごしてきた世界」が入っている本棚の隣に、おそらく「エヒトの住む世界」と「ハジメが住む世界」が入った本棚があったのだろう。
ここで、エヒトがやらかした事をハジメの話から考察し纏めてみよう。
・「自分の作った本(世界)が納められている本棚(世界線)から一つ本(世界)を選択する。その中で選ばれたのがハジメの住んでいた本(世界)だった」
これが、ハジメ達が選ばれてしまった理由。
・「エヒトが魔法で、ハジメたちクラスメイトをこちらに呼びだす」これを例えるなら「最初から書かれている登場人物を無断で消して、勝手に自分の本(世界)に無断で勝手に自分のモノの様に書き写した」
これが、呼び出した術式の内容といった所か――
…と。こんな所だろう。なんというか、これがもし本当なら…ご愁傷様としか言いようがない。なにせ、適当に選ばれたのがハジメ達なのだから。
「(さて、神への考察はここまでにしておきましょう。難しい事考えても、すぐに答えは出てきません)」
「(彼らにどこまで話すかですが……ある程度ぼかしましょうか。それに気づき、問い詰めてきた場合は、素直に話しましょう。私も異世界から来たという事に関しては……今更ぼかしても疑われますね、この世界には銃は無いようですし、素直に話しましょうか)」
この世界に関しての考察はこれ以上はしないことにした。なにせ情報がそこまでない為、全部考察の域を出ていないから。これに関しては、もっとこの世界で情報を集め終えてからにしよう。
「…これが、俺たちのこれまでの話さ。信じるも信じないも自由だが、嘘偽りも無い事は先に言っておく」
「それは…何となくわかります」
「ハジメ……大変だった…グスッ……」
「貴方は何故泣いているんですか……?(汗)」
「あーユエはなぁ、この話を聞くと毎回泣いちまうんだよ……」
「そ、そうですか。……では、次は私達の事ですね」
そうしてブローニャはここに来た経緯をすべて話す。だがいくつかの事はあえてぼかし、話さなかった。律者の件や、量子の海の事、自分たちも神の眷属に近い者達だという事実については…あえて話さなかった。それを話して、敵対されたくなかったからだ。
それでも私達の世界についてはあまり話さなかった。話を聞いた感じ、私達の世界に似ているようで違う地球の話だった。ハジメ達の世界には崩壊獣も、律者も……崩壊すらも無い。そのような世界が別の世界にあるなんて想像もできない。「戦争や争いはある」と言っていたが、それでも私達の世界より何十倍も幸せだろう、崩壊の無い世界……どのような場所なのか、見てみたいと思うブローニャだった。
「俺たちとはまた別の世界から……ははっ、そんな事があるのかよ」
「それに……地面が崩れて落ちた下が光に包まれて、その先がこの世界……可哀そう」
「それで?あんたが機械を操っているのは分かった、だが謎なのは…あんたが何もない所からモノを創り出した件がどーも引っ掛かる」
「ありゃ一体何なんだ?この世界で手に入れた力なのか?俺の天職"錬成師"みたいなヤツなのか?」
「……天職」
「ハジメハジメ……、彼女、目覚めたらこの迷宮だったから、天職とか何も知らないと思う」
「あそうか。そっから話すべきだったか?」
「いえ……この世界の簡単な知識については、この屋敷に来てから覚えましたので何とか」
その一言でハジメとユエがぽかんとしている。何か変な事を言ったつもりは無かったブローニャも、なんで呆然とし黙ってしまったのかわからず少し困惑している。
「…覚えたって…3日で?」
「?はい、この屋敷の前住人が集めていた本を読み……」
「いやいやいや…あんた、この世界の文字読めるのか?俺は、言語理解という技能があるから読めているんだが」
「いえ、最初は読めませんでしたよ?」
「じゃあ一体どうやって…言葉を覚えるなんて…普通無理なハズ?」
「???言語パターンは同じですし、それならそこからある程度計算できます。それに、同じパターンの文脈と、図柄から文の構成を理解すれば…1日もあれば覚えられますよ。英語ぐらいの文字パターン数でしたのでまだ楽でしたね。これが日本語レベルの複雑さだった場合は、もっと手間取っていたと思いますが」
「「……。」」
二人とも口が空いたまま呆然とした表情から変わらなくなった。ブローニャはすっかり慣れてしまい、もう違和感も感じていないが、幼少期、孤児院にて行われた実験にて体に備わった超高速の解析能力と演算能力によって、ブローニャは文化も文字も覚えられているが、普通の人間ではまずその次元まで行けるのは不可能。
周辺の人物も、律者や人並外れた理解力を持っていた科学者だったせいもあって、この力をもっている自分が普通だとすっかり定着してしまっている。
……おそらくこのすれ違いは、本人が気が付くまで無くなることは無いだろう。
「あぁ~…その、なんだ?あんたも大概人外じみてんのな。ユエみたいに」
「ハジメ…それ私の前で言う?…失礼」
「人外ですか、あながち間違っては無いのですかね。こんな体ですから」
「あーたしか、さっきの話だと、あんたの世界の敵と戦うために改造させられた「人間兵器」みたな感じ…だったっけか」
「その認識で正しいかと、ですが「人間兵器」という言葉は好ましくありません。"戦乙女"…、「戦乙女(ヴァルキリー)」と分類してください」
「あ、ああ。すまなかった……」
「ハジメ…女の子に兵器…ほんとデリカシー無い」
「ぐっ、俺そこまで酷いか!?」
「……はぁ~。それで、あんたはこれからどうするんだ?」
「ここを出て、知り合いを探しに行きます。同じ光の中に落ちたので、必ずこの世界にいると思いますので」
「それなら……一緒に来る?」「ユエ?」
ユエからの意外な提案。一緒に来るかと誘われるとは思っても居なかった。二人の関係的に、恋愛に発展していい交友関係を築いていると思っていたから、他者を誘い入れるとはいい意味で想定外。
「…良いのですか?」
「うん……。此処で出会ったのも何かの縁、一緒に旅するのも、アリだと思う」
「ユエがそういうのなら、そうなのかもな。確かにあんたの力はスゲェ頼りになる…どうだ?」
「……貴方は、そんな感じでしたか?人との関わりを嫌っているのかと」
「別に嫌ってるわけでは無いんだがな。ただ俺達は帰りたいだけ、それに関係なさそうな人間関係を築くのは余計だから、あまりしたくないってだけだ」
「その考えですと…私は合格ですか?」
「合格って……まぁ、そうだな」
ハジメという人間は、こうも人と話せる人間だったとは知らなかった。会話をしたのは初めて会った時以来ではあるのだが、それでもあのような殺気を放ち、こわもての風貌に白い髪、筋肉質の身体の青年……人間関係など築けるのかと、半ば一方的に思い込んでいた。
「なら、ご一緒させていただきます。一人闇雲に探すより、仲間と探す方がよさそうです」
「ん…よろしく♪えっと……」
「銀狼で良いですよ」
「なんだ、名前教えてくれるんじゃないのか?」
「折角です、しばらくは銀狼で貫きます。名前以外を呼ばれるのも、結構良いモノだと気づきましたので」
「そ、そうか?(こいつ、俺と同じように厨二病なのか…?)」
そんなわけで、異世界で新たな仲間と出会う事となった。
過去に裏切られた300年生きる吸血鬼一族の生き残り――
この奇妙な3人は、互いの目的の為に共に旅することとなる。彼らは知らない、今この瞬間…この世界にとってのイレギュラーとなった事を。そして、彼らを中心として、世界が大きく変わっていく、特異点となった事実を――
「それで、これからはどういたします?」
「まずはしばらくこの屋敷で療養、それと準備だな」
「そういえば、まだ空かない扉もある」
「私にも閉ざされた扉の先は知らないですね(私の解析も弾く部屋、おそらく魔力の影響でしょうね)」
「ユエの話だとまだ一番上の部屋も言ってないらしいし、今日は探索だな」
話がまとまり、とりあえず一番上の部屋を目指す。途中のあかない部屋をハジメが調べてみたが、やはり魔法で封印されていた。ユエが言うには「強引に開けようと思えばできるけど、その結果爆発するかも?」とサラリと言ったので、ハジメと二人して必死な表情で止めた。
彼女、ユエは吸血鬼族の中でも一人しかしない、不死に近い再生能力を生まれ持った元王女、なのでちょっと死生観に関して他の人物より緩かったりするせいで、自分が爆発で吹き飛んでも大丈夫だから理論で話を進めてくる。「ユエの言動には気を付けろ?サラリと自爆覚悟の罠踏んだりするぞ」と言われ、それを聞いたユエが頬をプクーと膨らませてハジメの胸板をポカポカ叩いていた。
そんな軽いほのぼの場面を見た後、私達は最上階にたどり着いた。最上階とはいっても、大部屋一つだけしかない。恐る恐る、大きな扉をハジメとブローニャが左右の扉をソッと開くと。円形のフロアが目の前に広がっていた。特に本棚や家具も無い。ただ円形の床に巨大な魔法陣が刻まれていた。それも気になるが、目の前にさらに注目すべきモノが見えた。最奥の玉座――そこに堂々と座り、来訪者を見定めているかのような、白骨化した一つの骸がそこにいた。
「あれが……反逆者か?」
「恐らく、調べた感じ死後数百年は経っているでしょう。骨の劣化が殆どないのは、この屋敷特有の保存能力のおかげだったのでしょう」
「(いつ調べたの?)どうする?」
「まぁ…他の部屋に地上に繋がりそうなモノは無かったし。おそらくこの部屋がカギなんだろう、俺の錬成も受け付けないもう一つの書庫と工房の封印……調べるしかないだろうな。ユエは待っててくれ、何かあったら頼む。」
「ん、分かった。…気を付けて」
「銀狼、お前はどうする?」
もちろん調べる為に行こうと思っていたが、それ以外にも何かここを調べなければという、直感の様なモノが、此処を見てから強く感じるようになった。それがこの魔法陣になのか、最奥の亡骸なのかはわからないが…ここは、必ず自分も調べなければ――
「私も同行しましょう」
「よし……行くぞ」「ええ」
ハジメとブローニャは、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、二人が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、純白の光が爆ぜるように輝き、部屋を真っ白に染め上げる。
眩しさに目を閉じるハジメとブローニャ。直後、何かが頭の中に侵入してくる感覚に襲われる。大きな杭の様な何かに、頭の中を搔きまわされているかのような感覚に、ハジメは膝をついてしまう。だがブローニャは違った。この感覚を体験したことでもあるのだろうか、冷静に瞳を閉じ、侵入してくる感覚に身を任せている様だ。
「(銀狼…この辛い感覚に立っていられるのかよ⁉とことん俺達とは違うな……!)」
やがて光が収まり、目を開けたハジメとブローニャの目の前には、黒衣の青年が立っていた。足元の赤い魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たしている。中央に立つ眼前に立つ青年は、よく見ると後方の骸と同じローブを着ていた。彼が"反逆者"と呼ばれている人物だろう。
『試練を乗り越え良くたどり着いたね。私の名は「オスカー・オルクス」。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば…分かるかな?』
「オスカー・オルクス」と名乗った青年の幻影、彼の様な若い青年がこの迷宮を創ったとは…彼はとんでもない人間だったのかも知れない。
「貴方が――」
『ああ、質問は許してほしい。これは記録映像の様なモノでね、生憎君の質問には答えられない』
「(成程、この世界にも映像という概念があったりするのですね)」
『だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いてほしい……我々が、"反逆者"であって"反逆者"では無いという事を』
「どういうことだ……」
「この感じ、嫌な予感がします」
そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教協会で教わった歴史や、ユエから聞かされた反逆者の歴史とは全く違う、大きく異なった驚愕すべきものだった。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語――
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。
領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていた。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れる。それが当時〝解放者〟と呼ばれた集団だ。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということ。
そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだという、知りたくも無かった真実を。
〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり、志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は〝神域〟と呼ばれる神々が住まうと言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまった。何と…神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵、"反逆者"であると認識させ、人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルは消えることなく、〝解放者〟達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の七人だけ。世界を敵に回し、彼等は「もはや自分達では神を討つことはできない」そう判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って――
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。そのほほ笑みは、彼らの意志を継ぐものが目の前に現れていると信じているが故のほほ笑みだろうか。
『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない、ただ知っておいて欲しかった……我々が何のために立ち上がったのか』
『……君に私の力を授ける、どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらんことを』
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、二人の脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと頭が痛むハジメだが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。
その魔法は、しっかりとこの世界にとっても異物とも呼べる、ブローニャにもしっかり刻まれた。この能力は……神代魔法?やがて痛みも収まり、魔法陣の光も収まる。ハジメは全て終わった事を気づくと、ゆっくり息を吐いた。
「二人共……大丈夫?」
「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」
「ええ、嫌なモノを聞きました。(あなた達も、神と呼べる存在に抵抗したのですね、安らかに…オスカー・オルクス)」
「……ん……どうするの?」
「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな、この世界がどうなろうと知ったことじゃないし」
正直な話ブローニャも同じ意見であった。ブローニャにとっては、この世界の人物がどのような人生を送ろうが、巡る結末は何となく想像できる。彼女が巡った世界もそうだった。一時世界を変えるような闘いに身を投じても、最終的にめぐる世界の終焉は同じものだ。
だとしても、彼女が戦乙女として活動しているという事もあって、少しこの世界を救いたいという感情もあるのだが…ブローニャは、この大迷宮生活で、精神が「銀狼時代」の思考に寄っている影響もあり、あまり関わる意味も無いと考えている。おそらくこれが、この世界に来た直後の自分であったのなら、迷わず異世界でも人を助けたいと思っただろうが。
「地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」
とはいえ、ユエはこの世界の住人。故に、彼女が放っておけないというのなら、二人も色々考えなければならない。
オスカーの願いと同じく簡単に切って捨てられるほど、ハジメにとってはユエとの繋がりは軽くない。ブローニャは、これから協力しようと言ってきた彼女がこの話を聞いてしまったが為に、助けるべきかという考えが残っていた。
ハジメはそう思ってユエに尋ねた様だが、彼女は僅かな躊躇ためらいも無くふるふると首を振って答える。
「私の居場所はここ……他は知らない」
そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握っている彼女の手が、その言葉が本心であることを如実に語っている。
ユエは過去、自分の国のために己の全てを捧げてきたと言っていた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだろう。それ故、この世界に対しての思い入れは、無いにも等しいのだろう。
その牢獄から救い出したのは彼、ハジメだ。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。見事なまでの依存、それこそが彼女の生きていきたいという思いを強くしているのだ。
「……そうかい」
若干、照れくさそうなハジメ。なんとも甘い空間、これがネットでよく出てくる「砂糖が口から出てくるような状況」というヤツである。そんなハートがふわふわ浮いてそうな空間に耐え兼ね、咳払いを一つして、ブローニャが話始める。
「オホンッ……二人共、初心な恋人のような雰囲気作ってないで下さい。それに、まだ話してない事があるでしょう?」
「な、誰が初心だ!?あ、あ~…あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだな」
「……ホント?」
信じられないといった表情のユエ。それも仕方ないだろう、後ほど知った事だが、神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法だろう。
「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る……みたいな?」
「……大丈夫?」
「その説明ですと、怖いですよ」
「そ、そうだが……実際そんな感じだっただろ?あんたは大丈夫そうだったが」
「ええ、こういった濁流の様な情報処理は慣れているので問題ないです。しかし、この魔法……私やハジメのためにあるような魔法ですね」
「気になる…!いったいどんな魔法?」
「え~と、生成魔法ってやつだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法みたいだ」
この魔法、自身の魔力を使い触れた鉱石に様々な効果を付与し、新たな鉱石を創り出すことが出来る様だ。まるでゲームに出てくるバフの様なモノに似ている……ブローニャが閃いた。
「生成魔法……折角の魔法というモノなのですし、生成魔法関連の技の名称を「
「「
「エンチャント……?」
この世界の魔法の名称は、以外にも「ファイアーボール」とかではなく、「炎弾」といったジャパニーズニンジャの忍術の様な呼び方らしい。
英語を使った魔法の名称は無いとの事なので、私達が英語名で魔術を話しても、それが何なのかバレにくいと言う訳だ。
……ちなみに、この偽装に関しては全くの偶然である……ただその方がブローニャ的に呼びやすかっただけである。シベリア育ちなので。
「それって……アーティファクト作れる?」
「ああ、そういうことだな」
「アーティファクト?」
アーティファクトと言うのは、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことらしい。まだ神やその眷属達が地上に居た神代に創られたと言われているそうだ。
成程、それなら神代のオスカーがそんな力を持っていて打倒だろう。おそらく神代の頃から神代魔法が廃れ、錬成師の力が衰えていき、作れなくなった為に貴重なモノになったのだろう。神代では珍しいモノで無かったのかも?
ということは…生成魔法、神代においてアーティファクトを作るための魔法だったという事は、"錬成師〟の為にあるような魔法、つまりハジメの為と言っても可笑しくない魔法である。
「ユエも覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」
「でも……錬成使わない……」
「まぁ、そうだろうけど……」
「せっかくの神代の魔法です?覚えておいて損は無いんじゃないですか?」
「それに、神代の魔法…魔法を扱うユエさんなら、興味あるんじゃないですか?」
「……ん……ハジメ達が言うなら」
ハジメの勧めに魔法陣の中央に入るユエ。魔法陣が輝きユエの記憶を探る。そして、試練をクリアしたものと判断されたのか魔法陣の輝きが消え、魔法陣が消えた。
「どうだ? 修得したか?」
「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」
「う~ん、やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかもな」
「やはり適正というのがあるのですね。私は……どうなんでしょう」
「さあ?実際に確認してみないと分からないな」
「さて……取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」
ハジメに慈悲はなかった。
「ん……畑の肥料……」
ユエにも慈悲はなかった。
「その方が彼も報われますね」
ブローニャの慈悲も無くなっていた……。
風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。オスカーの骸を畑の端に埋め、一応簡易的な墓石も立てた。流石に肥料扱いは可哀想すぎると思ったので普通に埋葬した。
まだ人間性をすべて捨てていなくてホッとしたブローニャだった。ユエは本気で畑の肥料にしようとしていたとは知らず――
埋葬が終わると、3人は封印されていた場所へ向かった。次いでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪もハジメが頂いておいた。
……墓荒らしとか言ってはいけない。
その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったので、かざしてみる。
指輪をかざすと、扉に魔法陣が現れる。そして、指輪の紋様が魔法陣中心に浮かび上がり、ガチャリと鍵が開く音がした。
まず最初に開放したのは書室。理由は一番の目的である地上への道を探らなければならない為だ。
3人は書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。
通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。
オスカーは建設にも精通していたのか、かなりしっかりした設計図で分かりやすいのは助かる。
「ビンゴ!あったぞ銀狼、ユエ!」
「本当ですか!」
「んっ!」
ハジメ達から歓喜の声が上がる。設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。
しかも、オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。ハジメが盗ん……貰っておいてよかったと思う。
更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。
工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。それを知りハジメが悪そうな笑顔を浮かべていたのは不安だった。
これは盗ん……譲ってもらうべきだろう。道具は使ってなんぼだ。本来はいけないが……魔法も託されたので、実質合法みたいなものである(?)
「ハジメ、これを見てください」
「うん?」
ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたブローニャが一冊の本を持ってくる。どうやらオスカーの手記のよう。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。
その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。
「……つまり、あれか?他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」
「恐らく、そういう事だと思います」
手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……
「……帰る方法見つかるかも」
ユエの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。
「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」
「私はその途中で、仲間の捜索ですね」
「んっ!」
明確な指針ができて頬が緩むハジメ。思わずユエの頭を撫でるとユエも嬉しそうに目を細めた。ご馳走様と思わず口から出そうだ、いつか本当に砂糖が口から出てきそうである。
それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。
現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかない様だ。しばらくして書斎あさりに満足した3人は、工房へと移動した。
工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。
中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。ブローニャ的には、かなりレトロな道具に少しびっくりしたが…こういうモノも悪くないと内心ワクワクである。
ハジメは、道具や理論書を見ながら腕を組み少し思案する。そんなハジメの様子を見て、ユエとブローニャが首を傾げながら尋ねた。
「……どうしたの?」「どうしました?」
ハジメはしばらく考え込んだ後、2人に提案した。
「う~ん……あのな、二人共。しばらくここに留まらないか?」
「ここに?」
「ああ、さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ」
「それに、他の迷宮攻略のことを考えても、現状の武器じゃ正直火力・硬度含め色々不安だ。だから、ここで可能な限り準備し、万全な状態で出発したいんだが……どうだ?」
「私は別に構いませんが……ユエさんは?」
「ああ、ユエはどうだ?その~……良いか?」
ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思っていたのだが、ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。不思議に思った2人だが……
「……ハジメと一緒ならどこでもいい」
……そういうことらしい。ユエのこの不意打ちはどうにかならんものかと照れくささを誤魔化すハジメ。
いい加減このやり取りにも慣れてくるかとおもったが、以外に慣れないものである。気のせいか、つばが甘く感じるのは……うん、幻覚だろう。
「私も、少し調整しておきましょうか」
結局、3人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。
おまけ
ブ「私の装備もいくつか新調しましょうか。火力に不安がありますし」
ハ・ユ「「そんな装備もっててまだ不安なの!?」」
ブ「?この世界に持ってこれなかった兵装もありますので、不安ではありますよ」
ハ「これ以上の火力……何を相手にするつもりだよ」
ユ「銀狼がフロアのガーディアンじゃなくて……本当に良かった」
ブ「……???」
作品の投稿日時、いつぐらいに上がってると嬉しいですか?
-
朝方
-
正午・昼休み時
-
午後
-
夜間・深夜帯
-
とくに気にしてない!