ありふれは"いけない"律者達は世界最強 ~最強の錬金術師と最強の戦乙女~ 作:siera
この最下層に滞在してから1ヶ月――
ハジメ達は順調に、出立の準備を進めている。彼の銃の知識は少し古いモノだったが、それも"生成魔法"によって、威力や性能を補っている。狙撃銃と拳銃の改良に、追加武装も次々制作している。
十字型の大型ロケットランチャー「オルカン」、改良した拳銃を二丁にして強化した拳銃「ドンナー」…ドイツ語で統一された名前はブローニャにとって聞きなじみがある、ちなみにドンナーとは有名な神「雷神トール」のドイツ名である。
ちなみに拳銃は二丁にする予定だ。ハジメの片腕は欠損しているのに何故もう一丁の銃が必要としているのかというと、彼の左腕がいつまでも無いのも不便なため、ハジメの錬成と生成魔法、ブローニャの構築と解析を用いて義手を制作しているのだ。
義手とは言っているが、鎧と一体化した頑丈で重厚な一品をあしらう。普通の腕でもいいかもしれないが、これからの旅は闘いが続く。そんな中ですぐ壊れるような細く脆い腕にしてしまうよりかは、多少重量がかかっていても、鎧の機能を持たせた戦闘用義手にするのが一番ベストだと結論を出した。
その為、この迷宮内で一番硬質や鉱石や、特殊な魔石を幾つも加工して創っている最中。オスカーが生前作っていた義手を原型とし、様々な技巧を用いてギミックや術式を組み込んでいる。ハジメの要望で「黒を基調とし、重めの鎧の様にしたい」と言っていたのでそのように制作しているが……オスカーの残した黒いコートの上に義手を付ける予定の様で、なんとも漫画キャラの様な姿に変わりそうなモノである。
「ここはこうして……ハジメ、腕の可動域の方はこれで良いですか?」
「ああ、昔あった腕の感じとそん色ない感じだ。これぐらいで良いな」
「義手なのですから、もっと肘の関節を機械の様に可動域を大きくするのでも良いと思いますが」
「魔力を直接操作して操っているから、あまり可動域が広すぎると違和感が凄いからな。従来の腕の様に扱えれば、それでいい」
「成程、機械的な義手ではあるが体感的には実際の腕と変わらない……それゆえ動きすぎるのは余計なのですね。それでしたら、例のギミックはどうしましょうか」
「ワイヤーと小型アーティファクトの内包に関しては問題ない。だが……それ以外の機能を付ける余裕はなさそうか……」
「でしたら、腕の一部を交換できるようにするのはどうでしょうか?追加で欲しい装備がある場合は外部に取り付けられるようにしましょう」
「外側…鎧の上から武装を取り付けるアタッチメントってことか…!それならいいな、「宝物庫の指輪」のおかげで、アイテムはいつでも簡単に取り出せる、その案でいこう!」
「それとは別に、"探索型"戦闘型""日常用"……といった具合に、腕の外装を切り替えられるモノを作りましょうか。戦闘型にはコレとコレ、あとこの装備も良いですね」
「確かにそれはいいな!じゃあ日常用の義手にはコイツとコイツを加えてやろう、あとは――」
「ハジメも、銀狼も楽しそう……」
二人してワイワイと話しながら武器を創る二人の後ろで、部屋のドアをうっすらと開け、白んだ目でじっとのぞき込むユエの姿があった。
二人はそれに気づかない…彼女が拗ねているということも知らずに、二人は制作を続けるのであった。
出立日まであと5日――
ユエとブローニャが、屋敷の外で模擬戦を行っていた。この場所ではやる事が少なく部屋にこもりがちになりやすいので、こうやって体を動かして戦いの勘を忘れないようにしているのだ。
「"天灼"!」
「重装ウサギ、〈 避雷槍(ひらいそう) 〉射出」
ユエは複数の雷の弾を敵の上空に出現させ、範囲内の敵に雷を浴びせようとするが、重装ウサギのミサイルポッドからミサイルの代わりに発射された幾つもの避雷針が飛んでいく。
飛んだ避雷針は、杭の末端から魔法が発動し、ユエの雷を杭にすべて集約し無効化していく。
杭の頭部分に雷を集め無効化させる魔石を錬成魔法で生成し、杭に構築しているのだ。これによって雷が自動的にブローニャを自動的に守ったのだ。
「(雷が杭に向かって…!)む…!対策されてる……!」
「そりゃあ対策はしますよ。何百回も戦っているんですからね…!」
「それもそうだった……!なら…"破断"!」
「(っ…高水圧のカッターですか!?)なら……!」
「相変わらずスゲェ戦いしてるなぁ……。こりゃ付いていけ無いわ」
二人が戦っている姿を見て、その強さの壁を実感しているハジメの姿があった。ユエとハジメが1対1で戦ったとするなら、魔力の量と魔法の強さ、そして吸血鬼の治癒能力によって圧倒的にユエに分があるだろう。接近戦が苦手なユエではあるが…それでも簡単に距離を詰められる存在ではない。距離が縮まり、魔力が尽きた状況ならハジメに勝機がある。7対3ぐらいでハジメが"3"といった所。
ブローニャとなると……ハジメとの闘いとなると、圧倒的な力の差でハジメがねじ伏せられる。負ける要因は多々あるが、一番は手数の多さがそもそも違う。
ハジメが技能や武器を用いたとしても、腕2本で銃を扱い、脳と足で固有魔法を扱うハジメは戦闘時に同時に扱える手数は4~6。一方ブローニャの場合、幾つものビットンを同時に処理し、重装ウサギも同時に操作・自立し戦える。同時展開して射撃できる砲座の数は、「理の律者」の時点で100~150程扱えたが、「真理の律者」へと昇華した今のブローニャなら…狙って放つ
現在の成長具合なら……おそらく500~600程同時展開可能だろう。それに加えてブローニャが装備しているミサイルポッドにレールガンと機関銃が一緒になった大型砲銃の攻撃もプラスされるので…一人対2~3師団という構図が出来上がる。到底勝てるような差ではないのだ。
よってハジメの勝率は2割あるか無いかといった感じ。ハジメの勝率が2割あるのは、彼の成長の幅が広いのと、ブローニャがまだこの世界の力に慣れていない点を加味してである。
これがブローニャ対ユエになると、実はかなり拮抗する。
ユエの強みは詠唱の必要のない魔法、その一つ一つの出力が大きく強力な点と、先祖返りの吸血鬼の再生能力と大規模魔法を連発できる膨大な魔力だ。
ブローニャの強みは多種多様の武装による攻撃方法とその場で創造し展開できる手数、そしてほぼ無尽蔵に湧き出る魔力より強力な崩壊エネルギーだ。
それぞれの強みがぶつかり合って起こるのは体力と力を削りあう消耗戦。そうなると、ユエが魔力が尽きた時、近接も扱えるブローニャが強い。彼女達が本気で戦う事は無いだろうが、それでも本気で戦いあえば6対4でブローニャが勝つ。それも現状のブローニャの力、この異世界に慣れてきてしまえばどんどんユエとの差は開くだろう。
とはいえ現状のブローニャが魔法に慣れていないので、この迷宮内で行った模擬戦は常に接戦。この1ヶ月半の戦績は『142戦中76勝61敗5引き分け』でブローニャが勝っているらしい。ユエが言うには「知らない攻撃が多すぎて避け方が分かりずらい。でも…こっちの攻撃も通ってるし、バリエーションなら負けてない」と、鼻息荒く語っていた。
一方ブローニャは「魔法の種類が多く、名前ではどのような攻撃かすぐに判断できずに苦戦しますね。ただ、回数を重ねれば勝つのはこちらです」と、いつも冷静なブローニャも内心興奮気味で闘志丸出しだったのが印象深かった。
「なんか迷宮のボスなんかよりも、ボスしている気がするよなあの二人。あっ終わったか」
「ん……負けた」
「今回は私の勝利ですね、今回で77勝です」
「ん~……悔しい、最後の最後で砲座で殴られた……。頭こぶ、できた」
「砲座だからと言って撃つだけとは限らないのですよ♪」「む~……」
「なんかすっかり仲良くなってるな、銀狼、ユエ」
一緒に旅をすると言っていたユエだが、それでも多少二人との距離に隙間の様なモノが残ってはいた。それはハジメとユエが共に過ごした期間と経験の深さ故だったのだろうが、そんな溝も屋敷内での共同生活と模擬戦を何度も行った結果、気軽に話合い笑う程の友好関係が築きあがっていた。
「ハジメ!見てたの?」
「ああ見てたぞ。ユエが油断してたら上から砲座が落っこってきて地面に落下してきた所も」
「っ!む~///」
「ハジメ、腕の方はどうですか?」
「ん、腕か?最初は慣れなかったが、ユエのマッサージやリハビリのおかげか今やすっかり前の腕同様レベルに扱えるな」
ハジメの義手は完成し、すでに体に慣らすために試行錯誤していた。ユエのマッサージを行い、左腕を優先的に動かして普段行ってきた事を左でもできるようにした。今のハジメは両利き、どちらの腕も器用に動かして物事を進めることが出来るようになった。おかげで錬成スピードが3倍も上がり、うまく加工できなかった部品も楽々である、左腕万歳。
「腕も元通りになったし、武器ももうそろそろで完成だ。あと数日でここともおさらばだろうな」
「ん……ようやく」
「この100層に来てもうすぐ2ヶ月になりますね」
「…色々あったなぁ」「本当、色々あった……」
「貴方達が言うと重みが違うので、その空気やめてください」
あと数日もすればこの迷宮から脱出できると分かり、二人して顔を見合い頷いている。正直ブローニャ的にはそこまで辛い記憶もないから彼らの感覚が実感できていないのだが。唯一苦戦したとすれば、50階層の大サソリ戦だけだろうか。あ、いや……序盤の熊も居た。
この屋敷に入って2ヶ月、ようやくここから出る準備が出来た。
二人の衣服は以前とすっかり変わっていた。白いシャツとコートを羽織り、ヒラヒラと黒いスカートが目立つユエ。白シャツに灰色のブレザー、赤のデザインが施された黒いコートに黒いパンツに眼帯と全体的に黒いハジメ。
金髪白服のユエと、白髪黒服のハジメ…白と黒の対比になっていてかなり目立つ。ユエはその美しい顔立ち、ハジメは左の義手もあってなんともアンバランスである。そこにブローニャの青と白を基調とした律者のスーツが余計に混沌を極めていた。
三階の魔法陣を起動させながら、ハジメはユエとブローニャに静かな声で告げる。
「二人共……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「ん……」
「そうですね」
屋敷の書斎でハジメから学んだが、神代の能力や大量のアーティファクトを持っている人物は基本的に異端。教会は神代魔法を禁忌としているようで、地上にでたら私達は一種の指名手配犯の様な状況になるとの事だ。
だが、いまさらその程度の事で怖気づくブローニャではない。指名手配なんかがまだ優しいと感じるような状況を、向こうで味わってきたのだから。
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」
「ん……」
「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」
「そうですね……」
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「今更……」
「ええ、今更ですね」
二人の言葉に思わず苦笑いするハジメ。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、ハジメは一呼吸を置く。それを横目に白んだ目で傍観するブローニャ、ここにきて二か月、慣れたもんである。ハジメは、キラキラと輝くユエの紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。
「俺がユエと銀狼を、銀狼がユエと俺を、ユエが俺と銀狼を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒し、世界を越えよう」
ハジメの言葉を、ユエはまるで抱きしめるように両手を胸の前でギュッと握り締めた。ブローニャも、その言葉を胸に刻むように手を当てる。そして、ユエが無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。
「さぁ、行こう!」
「んっ!」
「ええ!」
「(まってて下さい二人共、必ず会いに行きます。そして…一緒に元の世界に帰りましょう!)」
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