☆ 【スタテイの日常】テイオーとそのトレーナーが一緒にゲームしたらしいぞ! ☆
人気。
レースを実況付きで見ると必ず出てくるこの単語は、文字通りそのウマ娘の「人気度」を表わしている。
特にトゥインクルシリーズではウマ娘一人一人がアイドルのような側面を持っており、ウマ娘個人を見据えた色々なことを行っていたりするのだ。
ウイニングライブやぱかプチ、SNSの宣伝やテレビ番組などなど……。
人気度が高いウマ娘には、このような有名税ってやつがついて回る。
それは、うちのテイオーも例外ではない。
無敗で三冠を取りURA賞まで受賞した彼女は、もう一つのブームを生み出していると言っても過言ではないだろう。
だから、テイオーだけがピックアップされるなら話は分かる……。分かるのだが。
「みんなー、見えてるー!? 画面越しから、トウカイテイオーだよ!」
「こんにちは。トウカイテイオーのトレーナーを担当させて頂いています。スターゲイザーです」
・うおおおおおおおお!
・待ってました!
・神企画すぎる
撮影部屋としてしっかりと整理されている部屋の中で、俺とテイオーは一緒に画面に向かって挨拶をしていた。
俺の目の前にはゲームが映し出されているモニターが一つと、横書きのコメントが高速で大量に流れているモニターが一つ。
そして一つの撮影用のカメラが、隣り合って座っている俺たちをばっちりと捉えていた。
因みに部屋の奥では、真っ黒な影がぐっと親指を立てている。どうやら音声はしっかりと入っているらしい。
「じゃあ今日はね~。トレーナーと一緒に、ゲームしていくよ!」
そう。今俺とテイオーは、ウマチューブと呼ばれる動画投稿サイトでライブ配信を行っている。
配信を行っているチャンネルは、トレセン学園が公式に運営しているぱかチューブ。
学園に所属しているウマ娘がたびたび登場するこのチャンネルは、ファンサと題して一人のウマ娘をピックアップした動画を作ったりする。
今回はその対象に、今話題のテイオーが抜擢されたという訳だ。
動画の内容は様々で、出演しているウマ娘が好きに決めれたりするのだが……テイオーはゲームがしたいということで実況ライブをすることになったらしい。
で、本当ならそれだけで終わるはずだったのだが。
「……本当に俺がいてもいいのか?」
「何言ってるのさ! だって、みんながトレーナーを見たいって言ってたんだよ! じゃあ、ボクと一緒に出るしか無くない?」
何故俺が、ここに呼ばれたのか理由がいまいちわからない。
テイオーが有名なのは、誰だってわかる。
だが、俺は彼女のトレーナーに過ぎない。
トゥインクルシリーズを走っていない以上、人気度なんて無いものだと思っていたのだが。
・え、もしかして人気をご存知でない!?
・今あなたの話題で持ちきりなんですよ!?
・写真だけでウマッターのトレンドを破壊したことを自覚してほしい
「そ、そうなんですか……? ありがとうございます……」
コメント欄では俺のことを知っている人が多いみたいで、それを実感したらなんだか変にくすぐったく感じてしまう。俺、一回しか顔出して無い気がするんだけどな。
不特定多数に見られるということ自体が恥ずかしいのは確かにあるが……隣にテイオーもいることだし今日は頑張ってみようか。
少し気合を入れつつモニターの方へと視線を向けると、そこにはとあるゲームがポップなBGMとともに映し出されていた。
「今日やるゲームはこれっ! みんな大好き、ハチャウマ~!」
テイオーが取り出したのは、今何かと話題のパーティーゲームであるハチャウマ。
誰でも気軽に楽しめるミニゲームを詰め合わせたもので、初心者でわいわいと楽しむタイプのものだ。
「じゃあ早速でやっていこー!」
そんな少しゆるりとした雰囲気の中で、俺にとって初めての実況ライブが始まるのであった。
~~~~~~~~
「よっ、ほっ、とりゃ! うぇ!? 抜かされた!?」
「操作が簡単なぶん、テクニックが必要になってくるな。……あっ」
「へへーん! 一着! アイテム運ならボクの方が上だもんね!」
・あれ、このゲーム初見って言ってなかった?
・初心者の動きしてなくて芝
・ランカーの勝負かな?
ライブを開始してから三十分ほど経って、同接の数も増え始めてきた頃。
俺とテイオーは、ミニゲームの一つである大障害物レースを二人で対戦していた。
これはウマ娘が街中を舞台にレースをするという内容であり、シンプルな操作ながらなかなかに奥深い。
妨害アイテムや加速アイテムを使って駆け引きをするタイミングもあり、運と実力が均等に絡む初心者でも楽しめるミニゲームに仕上がっていた。
「いやー、一通り楽しめたね!」
そのためなのか、俺とテイオーの勝率はお互い半々程度。
勝ち越しもせず、負け越しもせず。
二人の実力が均衡していたため、丁度いい結果に収めることが出来た。
結果的にコメント欄もどっちが勝つかで盛り上がっていたみたいだし、良かったのだろう。
「さ~て……時間的にも、そろそろお別れの時間かなぁ」
・早すぎる
・体感三分だった件
・枠が短いぞ公式ぃ!
「ボクももうちょっとしたいんだけどねぇ~ 配信時間は決まっちゃってるからさ」
「……一応残り時間はまだあるみたいだぞ?」
「そうなの? 丁度、ゲームはキリよく終わっちゃったしなぁ。なにしよっか」
一応この配信は、学園側で枠が決められている。
時計をチラ見してみると、配信時間の終了時刻まであと十分程度と言った所だろうか。
それまでに出来ることといったら……
「……そうだ」
「トレーナー、なんかあったりする?」
「一応な。テイオー、操作握ってもいいか?」
「いいよー! じゃあボクは隣で眺めてるね!」
そんな残り時間も少ない中。
俺は丁度この時間に収まりそうかつ、この実況配信にピッタリな事を思いついた。
昔暇だった時に、試しにと手慰みにやっていたこと。
久しぶりにこれをやるが、頭では覚えているから出来る……はず。
「あった。ちょっとダウンロードするから、待ってな」
「何やるの? えっと……これ、ゲームの体験版?」
俺がインターネットに繋げてダウンロードしてきたのは、とあるアクションゲームの体験版。
これはこのゲームを宣伝する為に用意されていた「五分」だけプレイできるゲームだ。
「じゃあ……やるか。完全クリア」
「え? これ、五分しかプレイ出来ないんじゃ」
「五分以内にクリアすればいいだけだろ? 丁度残り時間にぴったりだな」
・何を言っているんですか?
・それ体験版なんですけど
・完全クリアは不可能では……?
この体験版は古いゲームを最新のハードでも遊べるようにしたものだが、そのせいか少し欠陥がある。
一つ目は、遊べる時間は五分だがデータ自体はクリアまで用意されているということ。
二つ目は、バグが当時のまま残っているという事。
三つめは……それを駆使すれば五分以内にクリア出来てしまうということだ。
「よし……始めるか」
最初にセーブデータを選択してスタートすると、このゲームの主人公が神殿の中に現れた。
懐かしいポリゴンの画素数で構築された建物の中で、主人公が動き始める。
これは、3Dアクションアドベンチャーと呼ばれるタイプのゲーム。
今でも最新作が発売されているかなり有名なゲームなので、名前を知らない人はほぼいないだろう。
「あっ、これボクやったことあるよ! 体験版だと途中からのスタートも選べるんだね」
「セーブデータが用意されていて、主人公が子供か大人か選べるようになっているな。ゼロからだと間に合わないから、今回は主人公が大人になった時を選択するぞ」
・うわ……画面が懐かしい……
・これ何年前のゲームだ……?
・俺たちが子供のころのゲームだよな
テイオーがまだ小学生低学年くらいのころにリリースされたゲームだが、どうやら彼女も触れたことがあったようだ。
それならば、テイオーのリアクションにも期待できるかな。意味分かんない動きするし。
「まず、城下町を出て魚を取りに行く。そのためにはまずコウマの森へと向かうぞ」
「コウマの森? マップだと大分遠そうだけど……」
「普通に歩いていたら、五分には間に合わないくらいにはあるな。移動手段がある前提のマップだからなんだけど、ないからこうする」
俺はアイテム欄から爆弾を取り出して、それを前方に投げると素早くローリングをした。
そして爆風が当たる前に別方向にスティックを倒し、特定のボタンを押し続けると。
「はい!? 主人公がスライド移動し始めたんだけど!?」
「まぁバグだな。主人公が背中を見せながら移動し始める」
・芝
・何このシュールな光景……
・なんだこれはたまげたなぁ
この移動方法は、普通に走るより圧倒的に速い。
あまりにもシュールすぎる移動方法から、見た目的には面白かったりする。
「さて森に付いたから、特定の場所で魚を入手する。取ったら、次のエリアに移動だ」
さてここからが地味な難関。
特定の動きをするために、結構な操作が要求される。
果たして一発本番だが、いけるか。
「まず入口の岩を三つ壊す。そしたら上に移動して、部屋と部屋の間に移動。奥に爆弾を一個、直ぐに手前に二つ置く。最後に爆発する前に剣を振りかぶるだけ振りかぶる」
「うぇ……? 何してるの?」
「終わったら地面に、さっき取った魚を捨てる」
「捨てるの? 魚を? なんかの儀式?」
・儀式で草
・魔法陣が浮かび上がりそう
・ワタシノマホウニヒレフシナサイ!
さてさてここまでで三分程度。
残り二分で完全クリアしないと、企画倒れになるから頑張らなくては。
「多分成功したから、次だな。爆弾を落としながら移動して、この部屋で読み込まれる寸前の草に対してスライディングだ」
「すると、どうなるの?」
「主人公が無を取得する」
「無を!?」
テイオーが驚いたような表情とリアクションをした声が、部屋に響き渡る。
まぁそりゃ主人公が急に無を持ったら、困惑もするか。
だがここからが、意味不明だぞ。
「じゃあこの無を地面に置いて……これをいい感じの角度で掴む」
「もう何が起こっても驚かないよ。ボクは」
「すると……はい、エンディングを召喚出来る。お疲れ様でした」
「……はい?」
・は???
・んんん????
・なんて???
よし、時間的に五分前経ってないな。
この体験版を五分経つと強制的に落とされるから、タイマーとして便利なんだよな。
運営はこれを想定してたのだろうか。
「待って! そんなわけないことが、そんなわけあるようにしてるんだけど!?」
「……どこ解説して欲しい?」
「全部! 全部なんだけどさ! なんでエンディングが出たの!?」
・無を取得してエンディングを出す狂人
・ラスボスなんて要らなかったんや
・意味分からん
「難しいから、簡単に言うとだな」
「簡単に言うと……?」
「儀式で捨てた魚でメモリを調整して、再生中のムービーをエンディングムービーに置き換えた」
「ワケワカンナイヨー!!!」
・俺たちは幻覚でも見てたのか?
・そもそも操作をすらすらとミス無しにしたけど専門の方?
・中央のトレーナーってタイムアタック出来ないと入れないってマジ?
こうして。
初めてのテイオーとの実況は、この時間最大の視聴者数を達成して終わったのであった。
~~~~~~~~
その後の話というか、余談なのだが。
実況が終わった後にこのプレイ動画の切り抜きがウマッターで伸びてしまい、その影響で俺は謎にまたウマチューブで実況動画を撮る事になってしまった。
しかもテイオーと一緒にではなく、一人で。隣にテイオーはいたが、リアクション役になっていた。
そんな中、俺は同じゲームをやるのもあれかと思って別のゲームをしたのだが。
「……はい、クリア。お疲れ様でした」
「ねぇ、トレーナーの手って二つしかないよね。どうなってんの?」
・早すぎて残像見えた
・人間卒業試験……いや、ウマ娘だったわ
・ウマ娘ってみんなこうなんですか?
・んなわけねぇだろ!
・俺も……何が何だか分からんのだ……
なんだかまたコメントをざわつかせてしまっていた。
自分的には上手い人のプレイを「真似」しているだけなのだが、こうして評判がいいのはなんだか少し楽しい。
「じゃあ、次はまた別のゲームやろうか。なんか用意しておくよ」
この時の俺は、まだ知らない。
軽い気持ちで見せたゲーム実況が、ゲームのクリアの早さを競うイベントに目を付けられることを。
そして、そのレースの走者として呼ばれることを。
俺は「早さ」を競う世界に、一歩足を踏み入れてしまったのかもしれない。
「ところでトレーナーって、何してる人だっけ。プロゲーマー?」
「急に何を言っているんだ、テイオー」
☆ 【デネボラの日常】ボクのトレーナーに言わせたいセリフ選手権 ☆
「というわけでね」
「……何がというわけなんでしょうか」
とある日。
チームデネボラのメンツである、トウカイテイオーとマンハッタンカフェが栗東寮にあるトレーナー室に集まっていた。
ここの主である彼女たちのトレーナー──スターゲイザーは、現在会議中。
今から数えても、あと数時間は戻らないだろう。
そんな中で、テイオーは自分のトレーナーの前では言えないであろう話を繰り広げていた。
「じゃあ、ボクから! えっと……まずは『これ、開けて?』かな!」
「……詳しく、聞きましょうか」
さっきまで横目で見ていたカフェも、テイオーの発言を聞いた途端すっと体を向けて向かい合う態勢をとる。
明らかに興味を示してくれたカフェの様子を見たテイオーは、にやりと笑いながらいきいきと解説をしていく。
「トレーナーにさ、固い瓶のフタが開けられない時とかに頼って欲しくない?」
「確かに、姉さんが他人に頼るのはなかなか無いので……ありですね」
「それにトレーナーって、もしこういう場面になっても『すまん、開けて欲しいんだけど頼んでもいいか?』って言うでしょ」
やたら上手な声真似を披露しつつ、自分の中で考えていた状況を説明するテイオー。
それを聞きながらカフェは相槌を打つと、その意見に付け加えるように口を開く。
「そこを『開けて?』と軽く頼んで欲しいということですね……?」
「さっすが、分かってるー! 友達みたいに頼って欲しいよね!」
お互いの意見が通じ合ったのか、テイオーとカフェの視線が交差して深く頷く。
同じ意見を持った仲間しか交わせない絆のようなものを感じたような気がした二人は、更に話題を広げていった。
「では、次は私の番ですね……。私なら『あと五分、だけ』でしょうか……」
「ふぅん?」
続けて? と言わんばかりにテイオーが腕を組んで、話を聞く態勢に入る。
それを確認したカフェは部屋の中にある自分の姉が寝ているであろうベッドをポンポンと叩くと、その光景が見えているかのように話し始めた。
「朝……姉さんを起こしに来たときに、言って欲しいものです……」
「……っつ! それは、反則じゃない?」
「……なんででしょう? 言って欲しいセリフ……ですよ?」
トウカイテイオーは幻視した。
自分のトレーナーであるスターゲイザーが、ベッドで寝ている様子を。
そして……それを起こしに来た、自分の姿をも。
「姉さんには頼っても欲しいですが、甘えても欲しいです……。このセリフには──」
「──上の信頼関係が有るからこそ魅せる隙って訳だね……。やられたね……」
テイオーがチョイスしたセリフは、別にある程度の交流が有れば言ってくれるかもしれない。
だがカフェがチョイスしたセリフは、スターゲイザーを起こしに行ける環境がある信頼関係に加え、彼女が隙を見せるほどの緩さを見つけなければ聞けないであろうセリフ。
更に、スターゲイザーは朝には強いという前提すらもひっくり返している。
あまりにも「深い」この意見に、テイオーはこくりと息を飲んでしまう。
──ここに、ボクに並ぶくらいトレーナーについて考えているウマ娘がいるなんてね……
──何を考えているのか分かりませんが……姉さんを一番知っているのは、私ですよ……
お互いに自分のトレーナーについて熱く議論を交わすチームデネボラ。
もしここにスターゲイザーがいたとしたら、顔を真っ赤にしてこの場面を止めに入っただろう。
だが残念なことにここにいるのは、スターゲイザーのことが好きすぎるウマ娘が二人。
話し合いは留まることを知らず、ただ流れて行くのみ。
「ここは攻めた時に『ちょっと、待って……よ』って」
「……なら、服を着せたら『こんなのもっと可愛いヒトが着るべきだろ』って」
単語として強いのはテイオー。シチュエーションも混みだと、カフェが強いだろうか。
色々と言わせたいセリフを出しつくし、いつしかいつも以上に本気で口を動かす。
ここにいないスターゲイザーは、恐らく会議室でくしゃみをしていることだろう。
そしてヒートアップが終わり、最終的に出した彼女たちの結論としては。
「「やっぱり上目遣いになって、無言で袖を引っ張ってくれる……で」」
何を言って欲しいのかという議論の行き着く先は、言葉は不要であった。
ボクのトレーナーは黙っていても可愛い。
私の姉さんは無言でも可愛い。
この議論で出た結論を抱きつつ、がっしりと手を交わして握手する二人。
そんな中、ドアから議論の中心であったウマ娘が入ってきた。
「ただいま。お待たせ、二人とも」
「お帰りー! 会議、お疲れ様!」
「会議お疲れ様でした……。コーヒー、入れますか……?」
「いや、直ぐにトレーニングにするから大丈夫だ。先に説明してから練習に行くから、少し待って──」
駆け足で戻ってきた彼女たちのトレーナーであるスターゲイザーは、急いでホワイトボードを取り出して今日のトレーニングを説明しようとする。
そうして手を動かしていると、ふとトレーナーとしてとあることに気づいた。
「──なんか、テイオーとカフェ……近いけど、どうした?」
「うぇ? 普段通りじゃない?」
「……いつも通りだと思いますよ」
「いや物理的な距離じゃなくてだな……まぁ、また言葉に出来たら話そうか」
ぼんやりと言いづらそうに、スターゲイザーが頭を捻らせる。
この二人が自らのことで話を膨らませていたことを知るのは、また別の機会になりそうだった。
☆ 【スタカフェの日常】姉妹っぽいこと、もっとしてみたいです…… ☆
「姉妹らしいこと……?」
「はい……。ダメ、でしょうか……?」
そんな不思議な提案をされたのは、なんてことはない休日の昼下がり。
珍しくテイオーが不在のトレーナー室の中で話しかけてきたのは、もう一人の担当ウマ娘であるマンハッタンカフェ。
俺の白毛とは対照的である綺麗な黒い髪を携えているが、これでもしっかりと俺と血が繋がっている妹だったりする。
そんな彼女が言ってきた発言に、俺は軽く首をかしげてしまった。
「急にどうしたんだ? 何かあったのか?」
「いえ……ふと思っただけなのですが……。姉さんって私のこと、担当ウマ娘として見ていますよね……?」
「……まぁ、それは。そうだな……」
カフェは確かに「妹」でもあるのだが、俺の「担当ウマ娘」でもある。
最近は自分が「トレーナー」として働き過ぎて「姉」として接することが出来ていなかったように見える。
ただ……自分を「姉」とした時、俺は「妹」に何をしてあげられるだろうか。
姉妹らしいこと……ってなんだろうか。
「……んっ」
「……え?」
「すまん。俺は姉としては未熟だから、これしか思いつかなくてな……」
俺が考え抜いた末に行ったのは、カフェに対して大きく腕を広げること。
いわゆる、ハグを待つためのポーズ。
まだ彼女が小さかったころよく俺に対して抱き着いてきたということを、今でも覚えている。
そんな昔のことを思い出しつつ、甘えていいよと彼女に伝えようとしてみたのだが……。
「……」
よく考えたらカフェも既に高校生。この年齢でハグとかするのは、確かに少し恥ずかしいかもしれない。
そう思って彼女に違うことをしようかと提案しようとした次の瞬間、俺にぽふりと暖かい重さが寄りかかってきた。
「ずるいです……。私が、断らないの知ってますよね……?」
「カフェ、これ好きだったろ?」
「……今でも大好きです」
目の前に見えるのは、俺の腰まで手を回してぎゅっと抱き着いてくる妹の姿。
隙間がないようにぴったりと抱き着いてくる彼女を抱き返してあげると、なんだか昔のことを思い出してしまう。
あのころとは違ってお互いに色々と変わったところはあるが、この距離感はこれからも大切にしたいものだ。
……まぁ、昔よりカフェの圧が強まってる気がしないでもないけど。
「ところで姉妹らしいことって、これでいいのか?」
「……あ、それ以外にしたいことがあるんでした」
カフェが抱き着いてきてから数分後。
最初の議題であったことを彼女に訊ねると、思い出したかのような声を漏らす。
そして数秒考えこむような仕草を取った後、ぽそりと小さな声で呟いた。
「姉妹らしいこと……やはり、ここはキスで……」
「まぁ、ほっぺにならいいぞ」
「……すーっ。それ他の人には言わないでくださいね……?」
「カフェとしかしないだろ、こんな会話も」
俺と再会した時、ほっぺにキスしてきたのはカフェの方だろうに。
何を今更と思っていたら彼女はそう考えてはいないらしく、軽く注意されてしまった。
因みに、しっかり頬にキスをした後にだが。
「あとは……そうですね、姉妹喧嘩とかどうでしょうか」
「喧嘩?」
「喧嘩するほど仲がいいなんて言いません……?」
彼女の口からそんな言葉が出てきて、俺は思わず驚いて耳をぴくりと揺らしてしまう。
実はというと、俺とカフェは今まで喧嘩をしたことがない。
すれ違いこそあったが、基本的に俺たち姉妹仲はとても良好と言えるだろう。
そもそも喧嘩と言うのは、お互いに怒りの感情を持たないと始まりすらしない。
そんなことが、俺たちの間に起こりえるとは思えないからな。
「……まぁ、カフェがしたいならいいけど。なんか喧嘩するタネあるのか?」
「……どうしましょうか」
「何も無いのか……」
自分で発言したはいいものの何も思いつかなかったのか、カフェがこてんと可愛らしく首を傾げる。
まぁそりゃ今まで喧嘩したことすらないのに、急にやれと言っても無理があるだろうに。
「あっ、そういえば姉さんに言いたいことがあるんでした……」
「どうした?」
いつもとは違う頭を使っていたのか。
変に悩んだ様子を見せていたカフェは、ぽんと手を叩くとゆっくりと口を開く。
その言葉は確かに、喧嘩の始まりを告げる言葉だった。
「姉さんって、なんでそんな無防備に誰にでも二つ返事で付いていくんですか?」
「……ん?」
余りにも心当たりのないところを急に言われ、咄嗟に自分の記憶を遡ってみるが全く心当たりがない。
頭を捻らせてしまっていると、カフェが少し目を細めて俺をじっと見つめてくる。
「姉さんって呼ばれたら誰にでも付いていくじゃないですか……?」
「いや……そりゃ呼ばれたんだから、返事しないと失礼だろ?」
「ですが、見境が無いように見えます……。姉さんただでさえウマ娘ホイホイなんですから……」
「ウマ娘ホイホイって何」
なんだか悪口か微妙なラインのセリフを彼女から言われて、俺は思わず渋い表情を浮かべてしまった。
別に俺は悪い事してないはずなのに、そのことのせいで攻められてるのがなんだかモヤっとする。
だが、その前に聞かなければいけないことがあるだろう。
「……ごめん、俺のどこが悪かった?」
「なんでそんな冷静なんですか……」
「だって、誰かに注意されたら少なくとも俺側に非があるだろ……?」
「姉さんが感情的じゃなさすぎる……!」
「まさか、これ喧嘩の始まりだったりする?」
「姉さんが無知過ぎる……」
なんだか喧嘩する空気ではすっかりなくなってしまった結果、お互いに顔を見つめ合って苦笑いをしてしまう。
やっぱり、馴れない事をするもんではないな。
喧嘩しなくても、お互いに仲がいいに越したことはないだろう。
そうだ。俺もカフェに対して、伝えたかったことがあるからこの機会に言ってみるか。
「なら、俺もカフェに言いたいことあるから言ってもいいか?」
「私にですか……? いいですけど……」
そんなほんわかした空気が流れてしまっている中、彼女に対して俺はとあることを口にする。
それは決して文句などではなく、ちょっとした俺からお願いに似たような想い。
「カフェって、俺に対してため口って使ってくれないのか?」
「……え?」
実はほんの少し、気になっていたこと。
カフェは俺に対してもそうだが、基本的に誰に対しても丁寧語で話してくれる。
それが彼女の可愛らしいところでもあるのだが……俺は彼女がため口で話している場面を目撃してしまった。
「オトモダチとはため口だったよな、カフェ」
「っつ! いつそれを……」
そう。彼女はほんの時々、口調が崩れてタメ語で会話している時がある。
ただそれは、俺が見えてない時のオトモダチに対してだけ。
そんな所を偶然目撃してしまった時、俺も思ってしまったのだ。
カフェにため口で話しかけて欲しいな、と。
「俺に対しては、嫌か?」
「んぐっ……。嫌じゃないですけど、その……」
もごもごと口を動かしながら、恥ずかしそうに手を擦り合わせるカフェ。
慣れていないことをしようとしているからなのか、目線が上下左右に移動してせわしない状態になっている。
そんな状態だったのなんも言わずにしばらく待っていると、カフェがすぅと深呼吸をしてじっと俺の目を見つめてくる。
そしてこくりとのどを動かしたかと思うと、意を決したかのようにゆっくりと口を開いた。
「お、お姉ちゃん……だ、大好き……だよ」
「……」
言葉にならないほど、衝撃を受けた。
頭に電流が走るとは、きっとこのこと指すのだろう。
今なら「尊い」という感情が、そのまま綺麗に言語化出来る気がする。
「……ごめん、もう一回だけ言ってもらってもいい?」
「……いやです。姉さん、一回聞いたら全部覚えてるじゃないですか」
「いや確かにそうなんだけど、もう一回経験したいというだけで」
「絶対に……や、です……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったカフェ。
俺が彼女に近づくと擦りぬけていこうとする様子は、まるでネコみたいだった。
こうしてじゃれあっている姿は、間違いなく仲の良い姉妹といっても過言ではないだろう。
願わくば、ずっとこの距離感で。
俺はそう思うと、カフェの頭を撫でるのであった。