この話は新しい世界線のお話です。
前回までの話とは繋がっておりませんので、ご了承ください。
またかなりのご都合設定を盛り込んでおりますので、そこをご理解の程よろしくお願いします。
「んっ……」
時間は朝六時ちょうど。
携帯にセットした目覚まし時計から、じりじりという音が部屋全体に鳴り響いた。
まだ完全に起きてない体を何とか起こし、軽く操作してアラームを止める。
そしてカーテンを一気に開けると、外の光が部屋に入り込んできた。
天気は晴天。気温も春先のポカポカとした温度で、絶好のトレーニング日和だろう。
「さて……と」
今日は土曜日。
一応学校は休みとなっているが、オレがこうして早く起きる理由なんて一つしかない。
パジャマのまま自分の部屋から出ると、リビングがある一階へと降りる。
リビングへと入るためのドアを開けると、毎日見慣れたウマ娘がいた。
オレがドアを開けた音が聞こえたのか、ぴくりと耳を揺らしてくるりと振り向くとにこりと微笑んでくる。
「おはよう、スグル。今日も早いな」
白毛の綺麗な髪をピンク色のリボンでポニーテールとして纏め、エプロンを着用している彼女こそが自分の実の母親である──
「おはよう、スター母さん」
スターゲイザー母さん。オレの大切な家族の一人だ。
ふんわりとした空気に包まれたスター母さんに朝の挨拶をして、オレは洗面所へ移動する。
顔を洗い寝癖を整えて寝ぼけた頭を叩き起こすと、次はキッチンの方へ向かった。
そしてパジャマの上からエプロンをつけると、朝ごはんを作っているスター母さんの隣へと立つ。昔と違ってオレの方が身長は高くなっており、隣を見ると見下ろす形になっている。
こうして朝ごはんの手伝いは平日も行っており、オレの朝のルーティンの一部だ。
「休みだからもう少し寝ててもいいんだぞ?」
「オレが手伝いたいだけだから大丈夫。スター母さんは気にしないで」
「そう? いつもありがとうね」
そう言ってにこにこ笑顔で返事してくれるスター母さんは、いつ見ても美人だ。
ウマ娘は年を取っても外見が若いままと聞くが、自分の母親たちを見てて本当にそう思う。
「今日は何時に家出るんだっけ」
「今日? まぁ午前中のトレーニングもあるけど、八時くらいに出れば全然間に合うよ」
オレはスター母さんと二人で一緒にいる時間が好きだ。
いつもスター母さんの周りには他の人が一緒にいることが多いので、二人きりの時間を取るのが難しい。
高校一年生になって大分大人になったにも関わらず、こういうのは直りそうにないのだから自分でも子供だと思う。
ただスター母さんを独り占めにしたいからという理由だけで早起きしているなんて、口が裂けても言えない。
そんな至福の時間を過ごしていると、がちゃりとドアが開く音が聞こえてきた。
「おはよ~スター。スグルも朝早いね~」
「あっ、おはよう。テイオー」
眠そうな目を擦りながら挨拶をしてきたのは、鹿毛の長い髪を少しぼさぼさにしたウマ娘。
ふぁと大きなあくびをしながらだるそうにしている女性こそが、オレのもう一人の母親であるトウカイテイオー母さんだ。
時計を見ると、いつの間にか朝の七時。
オレとスター母さんの時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、これからはみんなとの時間のようだ。
こんなことは言っているが、別にオレはテイオー母さんのことは嫌いではない。むしろ尊敬しているし、大好きだ。
ただ、スター母さんがもっと好きなだけである。
……自分で言っていて、マザコンをこじらせている感じが凄い。
「あっ、スグル。そろそろポーラのこと起こしに行ってくれないか? 時間的にそろそろ起きないとマズそうだし」
「分かった。こういう時、オレが起こしに行くよりも、スター母さんが起こしに行った方が効果ありそうな気もするけどね」
「それでもいいんだけど……。俺の場合、甘やかしちゃうかもだから」
苦笑しながら、スター母さんが出来上がった朝ごはんをお皿に盛り付ける。
スター母さんは凄い優しい人で、基本的に怒らない。ちょっとしたことでも直ぐに見つけて、褒めてくれる。
これで外では王子系エリートトレーナーと言われているのだから、人の中身というのは案外わからないものだ。
ただスター母さんも怒ることはあるし、その時は本当に怖い。ただ正しい理由で怒ってくれるから、なんとも言えないですけど。
「じゃあ、起こしてくる。ポーラ、いつになったら一人で起きれるんだよ……」
「相変わらず寝起きは悪いからなぁ。誰に似たんだか」
そう言ってオレはエプロン姿のまま、一旦キッチンから離れる。
二階へと階段を登って移動し、オレの隣の部屋の扉を三回ノックする。
ごんごんごんと、かなり大きな音で扉を叩くが部屋の中から返事が来る様子はない。
はぁと溜息をつくと、オレは扉に手をかけて思いっきり扉を開けた。
「おい、朝だぞ! 起きろ!」
なるべく大きな声で言うと、ベッドの布団からぴこんと白い耳が生えてくる。
そしてその物体はもぞもぞと動き出したかと思うと、またぴたりと止まった。
……この期に及んでまだ粘る気か。
が、それならこちらにも対処法がある。
「はいおはようございまーす」
「んええええええ! アタシの布団がぁぁぁぁ!」
あまりオレを怒らせない方がいい。
がばりと布団を思いっきり引っぺがすと、それを床へと叩きつける。
するとベッドの上に、綺麗な白毛に一本の鹿毛の流星が通った小さなウマ娘が姿を現した。
ショートカットに切りそろえた髪に、透き通った青い瞳。どちらかというとトウカイテイオー母さんの方のくりっとした顔のパーツをしている彼女こそ、オレの血の繋がった妹である「ポーラスター」だ。
「あと五分くらい、いいでしょー。可愛い妹のお願いが聞けないの?」
「そう言って毎日ギリギリまで寝てるだろ。朝ごはん食べれなくなるから来なさい」
「ふぁーい」
目をぐりぐりと擦りながらめんどくさそうに起き上がる妹に対して、オレはぽつりととある事を呟いた。
「今日の朝ごはん、ホットケーキだぞ」
「はいアタシ今起きました! 時間を無駄には出来ないわ!」
爆速。
さっきまでのくだりはなんだったのかというほど、ポーラは速攻で自分の部屋から出ていってしまった。
まるで台風のように去っていってしまった彼女を後目に、オレは地面に落ちた布団をベッドの上に畳んで置きなおす。
「毎回あれくらい寝起きいいと助かるんだけどなぁ」
オレは彼女らしい少し散らかった部屋を眺めると、今日二度目の溜息をつくのであった。
~~~~~~~~
星宮スグル。十五歳。トレーナー養成学校の学生。
オレの今の現状を書きだすとこんな感じだ。
ただ他の人と少し違うとしたら、ウマ娘とウマ娘の間に産まれた子供ってことだろう。
普通ならこの間に子供なんて出来ようがないのだが、最近の技術というものは凄いもので。
更に法改正や色々条例が改正されたみたいで、オレが産まれる前にはそれらが割と一般化されていた。
これらの動きには、母さん二人の知り合いたちも尽力したらしい。
そのためこの世界では母親が両方ウマ娘というのは、ちょっと珍しいくらいに収まってる。
「ホットケーキ♪ ホットケーキ♪」
「ポーラは朝から元気だねぇ。ボクは土曜日出勤に悪を感じているよ……」
「あはは……。頑張って?」
「スターは最初からこれより忙しかったんだよねぇ……。ボクが優秀なばかりに」
「どっかの誰かさんが無敗の三冠取ったからな。あの時が一番手が回って無かったかも」
こうやって軽口をたたき合っているが、言っている内容はとてつもない成績。
テイオー母さんは歴史に名を残す無敗の三冠ウマ娘、スター母さんはそのトレーナー。
そんな過去最強と言われたウマ娘が、こうしてのほほんと一緒に朝ごはんを食べている。
この光景が見れるのも、家族になったオレたちだけだろう。
そんなめちゃくちゃ貴重な光景に目もくれず、ホットケーキに大量の蜂蜜をかけてむしゃついている妹。
……なんか、ここまで来ると安心してしまう。
「あー、兄さんがまた『こんな母さんたちはオレにしか見れないんだぜ☆』みたいな顔してる」
「んぐっ! 何言ってるんですかね……」
「マザコン……」
「オレはマザコンじゃない。母さんのファンなだけだ。それ言ったらポーラだってそうだろ」
「アタシはママたちのことが大好きだからね!」
「こいつ無敵かよ……」
ポーラスター。十二歳。トレセン学園に入学したてほやほやの学生。
オレの妹で、アホっぽいところがあるウマ娘だ。
まだ入学してから一か月も経っていないのに、既に変わったウマ娘として噂されている。
まぁこれも全部自業自得っぽいのだが。
──アタシの名前はポーラスター! 好きなウマ娘はテイオーママ! 夢は無敗の最強三冠ウマ娘よ!
入学当初の自己紹介の際にそんな宣言をされたら、そりゃそうもなる。
後で他の子からも聞いた話によると、どれだけテイオー母さんが素晴らしいウマ娘か隙あらば語っていたらしい。
それを聞いた時には、思わず空を見上げたものだ。
「ボクもポーラのこと大好きだぞ~!」
「テイオーママー……! アタシも大好きっ!」
そう言いながら隣同士に座っていた、テイオー母さんとポーラがひしっと抱き合っている。
抱き合う……というより、大きなテイオー母さんにポーラが包まれている感じだが。
テイオー母さんはオレと身長が同じくらいの165㎝。昔は150㎝と小柄だったが、そこからかなり身長が伸びたらしい。
対するポーラは145㎝とかなり小柄なウマ娘。
彼女は「今が成長期よ!」と言っているが、はたしてどうなることやら。
「ご飯中にあんまり暴れるなよー。それに、そろそろ出かける時間だろ?」
スター母さんが声をかけたことで、二人は朝ご飯を食べるのを再開していた。
相変わらずテイオー母さんとポーラはスキンシップが激しい。なんかことあるごとにべたべたしてる気がする。少し羨ましい。
「ごちそうさまでした」
そんな家族での朝ごはんを済ませると、着替えをするために一旦自室に戻った。
オレはロッカーを開けると、そこからスーツを一着取り出す。
これはオレが高校生になった際に、母親から買って貰った大事なものだ。
通常の高校には行かず、トレーナー育成学校に進学したオレには制服というものが存在しなかった。
その代わりに学生の身ながらスーツを買って貰った、というわけだ。
昔から見ていたスター母さんのスーツ姿に憧れていたというのもあるが。
パジャマからスーツに着替えた後、しっかりとネクタイを締めて見た目を整える。
「さて……今日も頑張るか」
鏡の前でそう言い聞かせると、オレは出かけるために玄関へと向かったのであった。
~~~~~~~~
「はい、ラブはあとラスト一本。最後本気で走って」
「限界なのです……。鬼畜なのです……」
「なんかまだ余裕そうだし、もう一本足す?」
「それだけは勘弁なのです! 行ってくるのです!」
「ロアは少しペースを抑えながら流して休憩ね。お疲れ様」
「はーい! ペース抑えめ了解で!」
時間は正午。
オレはトレセン学園のターフで走っている二人のウマ娘を、トラックの外から眺めていた。
隣ではスーツ姿のスター母さんが声を上げて、練習の指示をしている。
何故トレセン学園の学生でもなく、まだトレーナーになってもいないオレがここに居られるかというと──
「スグル、二人分のドリンクを……」
「もう出来てます。タオルとかも準備万端です」
「ありがと。もう流石に慣れてきたな」
こうしてスター母さんのアシスタントをしているからである。
役職としては、サブトレーナーになるのだろうか。
平日は学生として学校へと通っているが、こうして休みの日だけトレーナーの仕事を手伝っている。
本来であればこんなこと出来ないのだが、スター母さんの人脈をフル活用し、学生ながらトレーナーの仕事を間近で見ているのだ。正直ずるいと思う。
「疲れたのです……。午前中だけでこれって私、倒れちゃうなのです……」
「まだ行けるでしょ! 午後も頑張ろうね!」
「お疲れ様です、ラブさん、ロアさん。ドリンクどうぞ」
「ありがとー! スグル君いつも助かるよ!」
ターフから戻ってきた二人のウマ娘に、オレはドリンクを手渡す。
彼女たちはスター母さんの担当ウマ娘で、現役でトゥインクルシリーズを走る競争バの一人だ。
まだ元気いっぱいそうな鹿毛の彼女は「マーカタナロア」さん。
さっきから疲れいっぱいで、へろへろしている黒鹿毛の彼女が「ラブリーイヤー」さんだ。
「ロアは午後から短距離中心のメニュー。ラブは……デビュー戦に向けた調整だな」
「りょーかいで!」
「ロアは午後ちょっと付きっきりで見る予定。その間──」
「……」
「ラブにはスグルつけるから、サボれないぞ」
「知っていたのです……。いえ、サボる気なんてないのですよ?」
「どうだか」
くすくすとスター母さんが微笑んで、ラブさんに向かって返事をする。
今スター母さんがトレーナーとして運営している「デネボラ」は少数精鋭のチームだ。
ウマ娘もロアさんとラブさんの二人しかおらず、チームと呼ぶにはかなり少ない。
これはスター母さんが見れるウマ娘は、二人までと制約を掲げているからだ。
ただし、所属したウマ娘は漏れなくG1を取っている。
そのせいかトレセン学園では「デネボラ」に所属することが、一つのステータスになっているらしい。
「さて……今日の昼食の時間だ。急いで食べないように」
「やったー! トレーナーの昼ごはん楽しみにしてた!」
そう言ってスター母さんが箱から取り出したのは、かなり大きな重箱。
育ち盛りのウマ娘が食べるためかなり量があり、これを準備するのは大変だろう。
まぁ、勿論オレもご飯づくりを手伝ったが。
「うーん、やっぱりトレーナーさんのご飯は美味しいのです。これを毎日食べれるスグルさんは羨ましいのです」
「そうでしょう。スター母さんの作るご飯は世界で一番美味しいので」
「ここで謙遜しないあたりあんまり例のウマ娘と変わらないと思うのです……」
そんな他愛のない会話をしながら昼休憩を行っていると、ざわっと周りの空気が変わった音がする。
何事かと思って後ろを振り向くと、そこには二人のウマ娘が並んで歩いていた。
両方とも歴代最強と名高い、無敗の三冠ウマ娘。
「あれ珍しい。外に理事長さんいる」
「理事長さんと、もう一人は──ってこっち来たのです」
少し遠くにいるはずなのにオレたちに気づいたのか、くるりと振り返ってきてこちらに向かってきた。
なんか周りから凄い目立っている気がするが、それもそのはず。
「あれ、テイオーにルドルフじゃん。どうしたんだ?」
「何、偶然ここを通りかかってね。お邪魔してみたが……迷惑だったかい?」
「いや、丁度昼休憩中だったし大丈夫。けど、テイオーがここにいるのは珍しいな」
「URAの広報のお仕事で丁度来てたんだー。カイ……ルドルフさんにも会いたかったしね」
理事長と呼ばれているのは、かつての最強と名高いシンボリルドルフ理事長。このトレセン学園の一番の代表者だ。
なかなか外で見かけることが少なく、かなり多忙な方で見れたらラッキーとここでは言われている。
そしてテイオー母さんはURAの広報担当として働いており、その一環でここに来ていたようだ。
「僕は午前中で仕事終わりだしどうしよっかなぁ」
「ポーラでも見てきたらどうだ? 自主練してるんじゃないか?」
「でもスターは見ないんだよね?」
「私は見ないよ。彼女は見れないから」
「まぁスターがそう決めるならいいけどさっ、っと」
オレの妹のことポーラスターは、このチーム「デネボラ」には所属していない。
いや最初はうっきうきで入ろうと来ていたらしいのだが、スター母さんが断っていた。
理由は聞いていないが、お互い納得しているようなのでオレからは何も言うことはない。
「ポーラちゃんってあれだよね! 今話題の子!」
「話題? 何か噂でも広まっていたりしているんですか?」
「今トレセンで有名な子なのですよ。スカウトをぜーんぶ断ってるとの噂なのです。何でも自分とは波長が合わないからとのことなのです」
「……あいつ」
ポーラはまだトレーナーがついていない。
いやそもそもまだ入学したての選抜レース前で、トレーナーがつくこと自体稀なのだが。
ただポーラはテイオー母さんとスター母さんとの子供ということで、入学当初からかなり注目を集めていた。
しかもそれでいて既にかなり速いらしく、未来の三冠ウマ娘も夢じゃないとされている。
自分の妹ながら、才能が羨ましく思う。
「トレーナーはそんな焦って決めることではない。一蓮托生。自分を預けられる人にこそ、トレーナーとして相応しい。少しでも違和感があったら断るというのは間違いでは無いよ」
理事長さんが自分の体験談かのように、そう重く語った。いや実際体験談なのだろう。七冠バの言葉は、それだけでも説得力がある。
「まぁ、僕のトレーナーは入学前からスターだったけどね」
「私たちのは例外だろ……多分。それより時間大丈夫か?」
「ん、そろそろ行こうかな。僕はポーラでも見てくるよ。じゃあまたあとでね」
そう言い残して二人が離れるかと思った瞬間、ぐっとスター母さんの方にテイオー母さんが近づいてくる。
そして座っているスター母さんの耳にそっと唇を落とすと、にこりと微笑んだ。
「はいはい、また後でな」
「じゃあねー! 未来のスターウマ娘たちー! いつか僕に宣伝させてねー!」
だがスター母さんもスター母さんで、何事も無かったかのように適当に受け流す。
理事長さんがそっと目を逸らしているのが見えると、テイオー母さんが彼女を引っ張ってどこかへ移動してしまった。
「やばっ……。これが大人かぁ」
「ラブラブなのです。私も見てて恥ずかしいのです」
割と母さんたちの通常運転だった気もするが、ここは言わないでおこう。
~~~~~~~~
日も傾いて、オレンジ色の夕焼けが空を染め始めたころ。
時計を見ると午後の五時くらいと、少しずつ肌寒くなる時間帯になっていた。
「今日の練習は終わりだな。お疲れ、ロア、ラブ」
「お疲れ〜。今日はなんかハードだったぁ……」
「お疲れなのです……。スグルさんの目がマジだったの、やばなのです……」
「お疲れ様でした。また来週もよろしくお願いします」
「また今度会おうね! トレーナーも助かってそうだし、このまま毎日来て欲しいくらいだよ!」
今日のトレーニングも無事に終わり、ロアさんとラブさんが手を振ってトレセン学園の寮へと帰っていく。
普通ならトレセン学園生徒は栗東寮、美浦寮とある二つの寮のどちらかに入るのだが、何事にも例外というのは存在するもので。
「スターママー!」
白毛に鹿毛の流星が走った小柄なウマ娘が、オレたちの方へと向かって走ってきていた。
速度を落としてぎゅっとスター母さんに抱きつこうとしたかと思うと、その場で急停止した。
「今はアタシ、汗かいてるし……」
「昔だったら抱き着いてたね。成長、成長」
「テイオーママに抱き着こうかしら」
「ボクも今はスーツだからやめてね!?」
練習を終えたポーラとそれを見ていたテイオー母さんが、学園の門で一旦集合する。
そう。ポーラはトレセン学園の生徒の中でも例外で、寮ではなく実家から通っているウマ娘だ。
歴代で見れば同じようなウマ娘はいないことも無いのだが、やはり珍しい部類ではあるのでまたそれでも目立っている。
だがこうやって家族で家に帰る時間を考えると、こういう選択も悪く無いのかなと思ってしまう。
ただポーラは三日に一回の割合で、オレを目覚まし代わりにするのはやめて欲しい。
「ただいまーっ!」
「ポーラは先お風呂な。体はしっかり洗うように」
「ボクも一緒に入っていい? ちょっと体動かしたからか、ベタベタなんだよね」
「テイオーママとお風呂! 入る入る!」
家に帰って玄関を開けたら、まずは汗をかいていた組がお風呂に入っていった。
トレーナー組はその間に、夜ごはんの準備を進めていく。
オレは仕事なんて無いし普段は学生だが、スター母さんがこうして普段トレーナーの仕事もこなしながら家事をしているのを見ると本当に凄いと感じてしまう。
常に忙しいはずなのに、家族のことを見てくれるスター母さんには頭が上がらない。
「慣れればなんとかなるもんだぞ」
そうよく言ってるけど、普通は無理だと思う。
だからせめてオレが手伝って、スター母さんの負担を減らせるように頑張らなくては。
いつもありがとうなって言ってくれるのが嬉しいのも勿論あるが。
「いただきます」
お風呂から上がってきたポーラとテイオー母さんが髪を乾かし終えると、家族全員でご飯を食べる。
今日あったことを話しながら、みんなで和気あいあいと夕食を食べる。
スター母さんはトレーナー。テイオー母さんはURAで働いているということもあり、実は毎日一緒にご飯が食べれるわけではない。
だからこうして家族で食べる時間は、貴重で嬉しかったりするのだ。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終えたら片づけをみんなでして、あとは自由時間だ。
スター母さんとテイオー母さんはリビングで一緒になってテレビを見ており、ポーラはその隙間に挟まっている。
オレも昔はこの輪に入っていたりしたのだが、もう年齢は高校生で十分大人。
「オレ少し勉強してくる」
「またぁ? 兄さんは真面目すぎない?」
「お前……宿題は?」
「明日やるからセーフよ! 兄さんはどーせ『スターママに甘えたいけど、今は年齢がな』とか考えてるんでしょ!」
「ポーラ後で覚えてろよ……」
今度朝ごはんの時に、ポーラのにだけピーマン混ぜてやる。
オレが復讐を決心していると、それを見ていたスター母さんが軽く苦笑して両手を広げてきた。
「今でも甘えてきていいんだぞ?」
「──っつ!」
どう考えても罠だと分かる甘い誘惑。頭の中で天使と悪魔が浮かんでしまうような葛藤に駆られるが、それを一瞬で断ち切る。
「……大丈夫、だから」
「男の子って大変だなぁ」
「ポーラ、明日の朝ごはんセロリ追加な」
「!?」
文句を言ってきそうなポーラを無視して、オレはさっさと二階の自室へと移動する。
眠れそうにないし、ぎりぎりまで勉強してよ……
~~~~~~~~
その後思った以上に長い時間集中出来てしまい、時間は日付が変わりそうなくらいになってしまっていた。
じんわりとした疲労感が頭を巡る中、眠気が一緒に襲ってくる。
いい時間だし明日に備えて寝る準備をしようと思い、一度部屋から出て一階へと向かう。
リビングに向かう扉を開けると、そこにはすぅすぅと寝息を立ててソファで丸くなっているポーラがいた。
「しーっ」
テイオー母さんが口に人差し指を当てながら、静かにしてねと警告してくる。
またかこれかと思って妹を見ていると、オレの目に珍しい光景が飛び込んできた。
「すぅ……すぅ……」
いつもはピンとしているスター母さんが、テイオー母さんの肩に寄りかかって目を瞑っていた。
恐らく疲れで寝てしまっていたのだろう。いつもはこんなところ見せないのに、今日はラッキー……じゃなくて驚いた。
「スグルも早めに寝なよ。ポーラは任せた」
そうテイオー母さんが言うと、スター母さんを軽々とお姫様だっこしてしまう。
そして寝室へと向かう扉を開けると、ぱちりとオレに対してウインクしてきた。
……なんだか、見せつけられた気がする。
オレが産まれる前から、両親はあんな感じだったのだろうか。トレーナーと担当ウマ娘のころ、一体どんな距離感だったのか。
今度カフェさんにでも聞いてみようか。久し振りにカフェさんのコーヒー飲みたいし。
そんなことを考えながらオレは丸まったポーラをおんぶすると、二階への階段を登る。
妹の部屋に入ってベッドの上にポーラを転がす。
丁寧に扱ってるとはいえ、ここまでして起きないのは無警戒すぎないだろうか。
「……兄さん、いつもありがと」
そんな寝言が聞こえた気がしたが、オレはそっと彼女の部屋の扉を閉めた。
~~~~~~~~
今日はよく星と月が見える。
もし望遠鏡を覗いたら、綺麗な星が鮮明に映るだろう。
また明日も晴れがいいなと月並みなことを思いながら、オレは日記帳に今日の日付を記入する。
☆書ききれなかった設定集☆
【挿絵表示】
・スターゲイザー
160㎝。昔から体型に成長なし。
一人称は外では「私」とかになったが、話し方は基本前までと一緒。テイオーの前や家だと「俺」が出てくる。
トレセン学園のトレーナーを続けており、学園最強チームを築いている。ただ、お家だとお母さん。
・トウカイテイオー
165㎝。スターちゃんより身長高くなり、イケメン系の顔つきになった。
一人称は「僕」になったが、やっぱり生意感が抜けていないところはある。ただしっかりするところではしっかりしているので、かなり二面性が高い。
家族の前では「ボク」になったりする。マウント取ること無く、いい大人になった。
お仕事はURA職員の広報担当、顔がいいので無双してる。
・ポーラスター
12歳の中学一年生。145㎝と身長低め。右耳に羅針盤モチーフの耳飾りがついている。
一人称は「アタシ」。白毛に鹿毛(茶色)の流星を携えたウマ娘。青い瞳の釣り目。テイオーの顔面でスターちゃんの髪色にし、小さくしたイメージ。
スターママ、テイオーママ呼び。他の同級生は呼び捨てのタイプ。
活発な元気っ子でテイオーより動いて跳ねる。好きな人はママ。尊敬してる人もママ。スーパーマザコン。そのせいか、ちょっと年上トレーナーとかに生意気。
ちょっとアホの子で、何故あの家系から元気なアホっ子が生まれたのか不明だが、レースの勘だけは最強なのでレースの戦略については自分で解説とかも出来てしまう。
脚質は差しの末脚勝負。ちょっと私生活はずぼらというか、眠いから寝る!といった本能的なところがある。欲望や本能に忠実ともいう。
「アタシが最強ウマ娘のスターポーラよ! 無敗三冠バ以外興味ないからね!」
「スターママ~! 兄さんがイジメる~~~!」
「アタシが一バ身に入った時点でアンタは仕掛けるべきだったわね。まぁ、もう遅いけど」
・星宮スグル
15歳、高校一年生。165㎝で大人テイオーと身長は一緒。まだまだ身長伸びる余地はあり。
一人称「オレ」 外では「私」
真面目を固めた子。 茶髪よりの髪に白毛のアホ毛があり、ぺたんと倒れている。また、ちょっとだけ伸ばした髪を一つ結びにしている。
スター母さん。テイオー母さん呼び。 男子のためこの年齢にもなって母親に甘えるのが少し恥ずかしい時期だが、普通にマザコン。
大人しい性格で外では丁寧語で話す事が多く、誰にでも優しいと有名。
高校からトレーナー育成専門学校に通っており、スターちゃんと同じようにトレーナーを目指している。
その一環で、スターちゃんのチームのサブトレーナーとしてバイトみたいなことをしている。
記憶能力が高いが、スターちゃんが優秀すぎたせいかちょっと負い目に感じてる。比べる相手がおかしいともいう。
成績優秀だが、かなり理論で説明しちゃうことが多く、相手の感情の情緒に気づけないことがある。異性のウマ娘相手なので仕方ないミスも多々。
サブトレーナーとしてトレセンとして有名で、結構モテモテ。ポーラちゃんは気に喰わない模様。
基本的に「さん」付けで接するが、ポーラちゃんには「ポーラ」って呼ぶ。ちょっと妹がウマ娘なことに嫉妬しているが、兄妹仲はいい。
「よろしくお願いしますね。○○さん」
「オレもスター母さんみたいな立派なトレーナーになってみせます」
「ポーラ、テイオー母さんが困ってるからやめなさい」
・マンハッタンカフェ→こじんまりしたカフェを経営中。未婚。ポーラちゃんとスグル君からかなり「カフェさん」として懐かれている。
・シンボリルドルフ→トレセン理事長。カイチョーからリジチョーになった。
・ラブリーイヤー→チームデネボラ所属の黒鹿毛のウマ娘。今年デビュー戦らしい。
・マーカタナロア→チームデネボラ所属の鹿毛のウマ娘。カワイイカレンチャン!と時々呟くらしい。
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今回のお話は「スタテイ家族の日常」というSkeb依頼で書き下ろした、短編となっております。
https://skeb.jp/@Frappuccino0125