今私たちは首都高を装甲車に追いかけられながらクラシックカーで爆走している。
「助手〜!これどうにかしてくれよ!」
「無理ですよ!どうやってあんな集団撒くんですか!?」
「そこは…ほら!助手の機転って奴で撒いてくれよ!」
「普通逆でしょう!?なんか考えて下さいよ!」
「うーん…あっ。」
その時、ハンドルが急に右に廻された。
車はガードレールを突き破り、重力に従って下に落ちていく。
「何で急にぃー!?」
遡る事3時間前。
2024年。日本の首都、東京のすみっこにひっそりと探偵事務所があった。
住宅街の外れにあるいかにも廃れてそうなビルに私は足を運んだ。
「まさか私がこんな所に就職する事になるとは…」
私、
別に頭が悪くて良い高校に入れなかったとかじゃ無いのだ。
生まれも特に変わったことは無く、家も普通。問題は無かった。
じゃあ何で今就職浪人しているかって?
それはこの世界が悪いのだ。
この世界には『specホルダー』というものが存在している。
人間の脳は通常3%しか動いていないらしい。
その残りの97%を使って色々な
今存在が確認されているのが、世界で1万人程。その全てが日本に集中しているのである。
時を止めるspecホルダーに、相手の考えている事を『覚る』specホルダー。
さらには死者の世界と繋げるゲートを開くspecホルダーなんてのも存在している。
現在specホルダーの多くは政府に保護されているが、それに従わない者もいる訳で、
つい4年ほど前にspecホルダーによって株価が大暴落し、ふと見た雑誌の端っこにあったこの探偵事務所に求人に応募するほどに、今は就職氷河期なのである。
とにかくこれでもう就職浪人は脱却出来た。後は仕事をこなして人生楽に過ごすだけである。
ビルの入り口から入り、階段を上がって三階の所にその探偵事務所はあった。
よくあるアパートのようなドアに下がっている『松上探偵事務所』の文字。
ここが今日からの私の仕事場だ。
元気よく中入ろうとドアノブを廻してドアを押すと、
バキッ
ドアが外れた。
すると、奥から丸眼鏡をかけた身長160cmぐらいで童顔の男(の子?)が出てきた。
来ている服装が和服なのを除くと少年にしか見えない。
「あー、壊しちゃった?それ、外開きなんだよね。」
「あっ。そうなんですか。」
「君が今日から僕の助手になる鏡君かな?」
「はい。よろしくお願いします。」
「うん。名前はもう知ってると思うけど、一応言っておこう。ここの所長の
ちなみに…ここの業務内容は知ってるかな?」
「あー…知らないですね。雑誌の小さい求人だったので。」
「そうか。じゃあ説明しよう。うちは主に政府からの依頼を受注してるんだ。」
こんなボロいビルの事務所が?と思った。
「君今こんなボロい事務所が政府から依頼される筈がないと思っただろう?」
「思いましたね。」
「凄いズバッと言うね…」
「まあ、政府からの依頼って言ってもほぼほぼ官僚の私事だけどね。」
「つまりはどういう事でしょう?」
「政府お得意の何でも屋って事だよ。」
「何で政府はこんな事務所に依頼するんですか?」
「こんなとは酷いね。政府が依頼するのは僕の『spec』にあるんだ。」
「どのような?」
「僕のspecは『物事を全て“視る”spec』だ。簡単に言うと誰がどのように何をしたって言うのが調査しなくても条件さえ分かれば
わかるって事だよ。」
「面白いspecですね。」
「君はspecホルダーに会うのは初めてかい?」
「いや、2回目ですね。小学生の時に一人会った事があります。」
「そうか。」
「何かありましたか?」
「いんや、何にも。じゃあ、取り敢えず依頼が来るまではずっと待機かな。あ、君の呼び名助手でいい?」
「探偵事務所らしくていいんじゃないですか?」
「ふふ。それは嬉しいよ。」
何だか付けた名前を褒めたら急に機嫌が良くなった。
ていうか政府直属の探偵事務所とは思わなかった…どんな依頼が来るんだ?
政府からだからテロの阻止…とか?なんか昔見たドラマみたいでワクワクするな…
そんな事を考えていると電話が掛かってきた。
「はい、こちら松上探偵事務所。ご依頼ですか?」
慣れてるオーラが出まくっている。身なりは小さいが、しっかり探偵なのだろう。
「分かりました。必ず救出しましょう。料金は後払いで結構です。」
救出?一体何を言っているんだ。もしかして人質救出か!?
「助手、早速だけど依頼が来た。作戦を立てよう。」
「どんな依頼ですか?」
「簡単に言うと人質救出だ。」
予想大当たりじゃないか。少しやる気が出てきたぞ。
「依頼者は承和グループの現社長、
国際的なテロリストに拉致されたらしい。」
承和グループと言えば世界を股にかける大企業だ。最近も新型の車を開発したとか言っていた気がする。
それに資産も大量にあった筈だ。
「お金持ちも大変ですね。」
「いや、多分相手はお金を払っても返す気はないだろう。」
「何故ですか?もっとお金を搾り尽くすためでしょうか。」
「彼女はspecホルダーなんだ。それもとびっきり危ないね。」
「どんなspecなんですか?」
「『時を止めるspec』だ。過去にも同じようなspecを持っていたのはいたが、彼女は構造がどうも違くて、なんかやばいらしい。」
「語彙力低下してません?」
「取り敢えず、そんな激ヤバな少女を今から助けに行くんだ。」
「最初から大変ですね。」
「僕はそれをずっとやってたんだがな。」
「けれど、どうやって助けに行くんですか?監禁されてる場所もわからないでしょうし…」
「ふふふ…そこは僕に任せろ。」
松上さんは人差し指をこちらへ向けて言い放った。
「僕は、既にこの事件の全容が分かっていた。」
ガレージには、2台の車が停まっていた。
一台はクラシックカー、もう一台は007のボンドカーの見た目の車だ。
「この車高そうですね〜」
「アストンマーティンだからな。高かったよ。今回これは使わないがね。ボンドカーみたいな銃も出ないし。」
「じゃあこっちのクラシックカーを使うんですか?」
「ああ。日産のセドリック39年型だ。エンジン、車体共に改造して、ガラスも防弾ガラスになってる。」
「へぇ〜見た目じゃ分からないですね。」
「車なんてそんなもんだよ。高いからって凄いスピードが出る訳じゃない。」
「あ、そういえばさっきの決め台詞何だったんですか?」
「その言葉の通りだよ。彼女がどこにいるか、何故、どんな奴らが誘拐したかを“視”たんだ。」
「推理する必要が無いですね。」
「能力が阻害されたら推理するさ。」
そう言って松上さんは助手席に乗り込んだ。
「あれ、運転しないんですか?」
「君、僕がこの体躯で運転出来ると思うかい?」
◇◆◇◆
車の中で考え事をしていた。
松上さんはどれぐらい推理出来るのだろう…やっぱりズバッと真相を言うのだろうか。
ていうか、あれ、忘却探偵のパクリな気がするんだが。
「そういえば、あの台詞忘却探偵のパクリじゃ無いですか?」
「ありゃ、何でバレてたんだ?」
「私一回会った事あるんですよ。その時言ってた気がするんです。『私には、この事件の真相が分かっていました。』って。」
「パクリじゃなくてオマージュだし…大丈夫でしょう。それにあちらは事務所の場所も調べる事件のジャンルも違うからね。」
「そうですか。」
「あっ、そこを右に曲がってくれるかい?」
「はい。」
「ここの倉庫だね…じゃあ、始めようか。」
今、人知れず大企業の御令嬢救出作戦が始まった。
最初のシーンまで、残り1時間半。
次回ようやく最初のシーンに戻ります。