ユウカ「催眠……?」   作:えんどう豆TW

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第3話

「ど、どどどどどうしよう!?」

 

 ユウカは頭を抱えて座り込んだ。まさか本当に先生が催眠にかかってしまうなんて。ノリに付き合ってくれた先生が領収書を取り出して終わり、そう思っていたのにまさかこんな事になってしまうとは。

 

「せ、先生……催眠にかかっているんですか?」

「……うん」

 

 トロンとした目で、まるで口から言葉が漏れ出すかのような返答をする先生にユウカは確信した。これは演技などではない、本当に催眠にかかっているのだ。

 

「先生、隠した領収書を出してください」

「……うん」

 

 ユウカの命令を聞くと、先生はフラフラと危なっかしい動作で少し離れたところにあるカバンへと向かい、そこから2枚の紙を取り出した。

 

「これは……」

 

 スマホゲームへの課金が16000、何某かのおもちゃが7000、そしてネックレスが20000。合計で43000の追加の出費が確認された。

 

「ネックレス……?」

 

 ユウカから見て先生はお洒落に凝っている人物ではない。そんな話を聞いたこともないし、いつも見る服はシャーレから配られたもの。私服はユウカも目にしたことはないが、目撃した生徒(羨ましい)曰く落ち着いた大人のファッションという雰囲気だったそうだ。

 玩具に10万の出費をするような趣味人間の先生がそこそこ高価なネックレスを購入するという式が成り立たずユウカは首を捻った。しかし頭の回転が早いユウカはすぐ答えに辿り着く。

 

「まさか、プレゼント……?」

 

 ユウカがセミナーの仕事に目を回しながら対応している間に、先生からプレゼントを贈られるような仲に発展している生徒がいるという事実。それはユウカの恋心を大きく揺さぶった。

 すぐに先生に尋ねようとして、そこでユウカは止まった。今の状態の先生はどんな質問にも答えてしまう。ユウカが今からしようとしている質問にも間違いなく答えるだろう。しかしこれは1種の個人情報、それもユウカにとっては特大の地雷になりかねないものだ。倫理観と恐怖、そしてそれに拮抗するほどの好奇心と乙女心が戦っていた。

 

 そしてユウカは決断した。

 

「……先生。このネックレスはなんのために購入したのか教えてください」

 

 ユウカは己の好奇心に抗えなかった。先生はしばらく黙っていたがやがて口を開いた。

 

「……これはユウカの誕生日プレゼントに買ったものなんだ。仕事が終わったら渡そうと思っていたんだけど……」

「私に!?」

 

 ユウカの誕生日はとっくに過ぎている。確かに先生に会うことはなかったが、とそこまで考えてユウカは思い出した。個人用の端末を取り出しモモトークを開くとそこには誕生日当日の先生とのやり取りが残っていた。

 

『ユウカ、誕生日おめでとう!』

『ありがとうございます、先生』

『ユウカは誕生日も仕事かい?』

『はい、1週間ほどは色々とやらなければいけない仕事が……』

『まあ時期が時期だもんね。お仕事頑張ってね』

『先生の方こそ、いつもお疲れ様です。そちらも頑張ってください』

 

 なるほど、とユウカは納得した。つまるところ先生は気を遣ってユウカの当番を忙しくない時期まで伸ばしたのだ。先生が呼んでくださればいつでも喜んで行くのに、とユウカは心の中で呟いた。

 そして先生に問い詰めたことを後悔した。彼の中では1種のサプライズとなっていたことだろうに、ユウカはその楽しみを自分で潰してしまったのだ。自己嫌悪で胸が締め付けられる感覚にユウカは項垂れた。

 

「……先生、今の会話は忘れてください」

 

 先生は何も言わない。命令に失敗したかと思ったが、ユウカは首を横に振った。こんな状態で会話を覚えていられるとはとても思えない。催眠状態での記憶は残らないだろうと判断したのだ。

 

「で、では次の質問です。……先生は私のことをどう思っていますか?」

 

 ここまできたらユウカは止まれない。たまに思わせぶりな態度をとったりユウカに気を許しているような仕草を取る先生の真意を聞き出すまでは終われない。

 

「……ユウカは大切な生徒の1人だよ。しっかり者で、ちゃんと叱ってくれて、それでいて面倒見がいい……きっといいお母さんになるんじゃないかな」

「お、お母さん……」

 

 それは誰の母親で、誰の伴侶なのか。ユウカの目の前の人物は相変わらずボーッとした表情で前を向いている。

 

「ただ真面目な性格だからたまに心配になるかな。ちゃんと休んでほしいし、悩みがあるなら誰でもいいから頼って欲しい。……まあ私じゃなくても、ノアとか周りにはいい友人がいっぱいいると思うけどね」

 

 その時初めて先生の表情が無から優しいものへと変わる。催眠が解けたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「私は……」

 

 ユウカの求めていた答えは違った。否、既にもう間接的に答えを聞いているようなものだが、はっきりと言われない限り諦められない。

 

「私は、先生の恋人にはなれませんか!?」

 

 大きな声で、詰め寄るように先生へと身を乗り出して問いかける。いつもならビックリして身を引く先生も催眠状態の今は何も反応を示さない。

 

「……私は生徒とは恋愛はしないよ」

 

 先生からソレが告げられる。知っていた、そして聞きたくなかった言葉。ユウカは目を閉じ数秒黙った。

 そうか、やっぱりそうなるのか、それならば、とユウカは再び目を開く。

 

「………………先生、私と────────」

 

 

 

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