巨大ロボットSF世界に量産型クローンとして転生したけど幸せに生きたい!   作:夢泉

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1章:その複製、唯我独尊(CLONE BUT ORIGINAL)
1話:目覚め


 

 ――水?

 緑色の水だ。なんだろう。この水は。冷たくない。

 

 ――記録的な大雨。

 ――増水した何処かの河。

 ――流された誰かの車。

 ――取り残された見知らぬ少年。

 

 次々と浮かぶ知らない景色。

 いつなのか。どこなのか。誰なのか。全く知らない景色。

 だけど。

 

 ――手を伸ばす。

 その光景の中の誰かと重ねるように、手を前に。

 

 ――力なく伸ばされる小さな手。

 ――縋るような視線。

 ――川岸から聞こえる誰かの声。

 ――迫る濁流と流木。

 

 こつん。

 伸ばした手が透明な壁にぶつかる。ガラス……だろうか?

 同時に、いつかどこかの景色は霧散した。

 身体を包むのは、茶黒い濁流ではなく透明な緑色の液体。

 

 …………そっか。そういうことか。

 ま、死んだのは別に構うまい。

 あの時の手は届いたのか。それとも、届かなかったのか。

 覚えていない。だが、それも()()()()()()()

 

 あの時、川岸から聞こえた声は複数。ほとんどは大人の男の声だった。加えて、あれは腹から響かせる声。普段から出し慣れていなければ、あの類の声はそうそう出せるものでは無い。

 つまり、あれはレスキュー隊やそれに準ずる者達の可能性がある。故に、子供の命が救われた可能性はゼロではない。

 

 それだけ分かれば十分だ。

 あの手が届いたか否か。それは問題では無い。

 命を助けられたか否か。これも問題では無い。

 確かに、1つの命が失われるか救われるかは非常に重い。しかし、それは抱えて生きるには重すぎる。

 ただ、その時に()()()()()()()()()()。これが、これだけが重要なのだ。

 その結果として救われるか否かは神のみぞ知る領域。

 

 だって、そうでしょう?

 その場に居たのが自分1人で、己に出来る限界を振り絞って救えなかったのなら、その命は世界中80億の誰にも救えない命だったという事だ。

 鍛えて鍛えて鍛えぬいて水泳とかの金メダリストにでもなっていれば。あるいは話は変わったかもしれない。それは事実だろう。

 だが、現実はそうでは無かった。それが全てだ。

 あの場に金メダリストが居合わせることは無かった。それが動かざる事実。

 それこそが()()

 酷な言い方になるけれど、あの幼い少年が死んだのであれば運が悪かった、生き残ったのなら運が良かった――それだけの事なのだ。

 助けるべく川に飛び込んだ「誰か」は運が悪かったから死んだ。それだけ。

 仮に少年が生き残っていたとして、救おうとして死んだ「誰か」に対して責任など一切感じる必要は無いのだ。

 

 思うに。1人の人間に出来るのは、後悔しない選択をすることだけ。

 たとえば、あの瞬間。流されていく車の中に子供の姿を見つけた時。仮に走り出さなかったとしよう。僅かでも躊躇したとしよう。

 それで後日、あの少年の遺体が発見されたとニュースで知ったとしたら。そうしたら、自分はどうしようもない後悔の念に圧し潰されそうになりながら、その後の人生を生きただろう。

 間に合ったかもしれない。助けられたかもしれない。

 そういう考えは不毛だ。時間を巻き戻すことは出来ないし、死者を蘇生する事も出来ない。何度IFを想像しても現実は変わらない。

 

 ……だというのに。それでも、人は後悔に圧し潰されそうになるのだ。

 

 考えずにいられる人間もいるのかもしれない。だが、少なくとも自分には無理だった。

 だから。

 例え次の瞬間に死ぬのだとしても、後悔を抱えて何年も何十年も生き続けるよりよっぽど良い。

 だから。

 後悔しながら生きる100年よりも、後悔なく死ぬ20年の方がずっと良い。

 だから。

 あの日、荒れ狂う河に飛び込んだ「誰か」は、その選択と結果に微塵の後悔も抱いていない。

 それが全て。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 ……ところで。

 自分は今、透明なガラスの筒の中に浮いている。

 筒の大きさは高さ2メートル程。横は……底は直径1メートル程の円か。

 中は透き通った緑色の液体で満たされ、自分はその中に浮いている。

 ガラスに映った自分の顔を見つめる。肌は白く、髪はピンク。紅玉のような瞳は現実感が希薄で、どこか造り物めいている。

 口元には黒いマスクが付けられており、そこから一本の管が底まで伸びている。どうやら酸素マスクのような何かなのだろう。

 あと、ついでに全裸だ。

 周囲には無数のガラス管。中には同様に緑色の液体が満ち、その1つ1つに少女が入れられている。

 そう。この部屋には、自らと全く同じ顔の少女が何十と眠っていた。

 

 クローン、ホムンクルス、アンドロイド。……そんな言葉が頭に浮かぶ。まぁ、そのどれであってもロクな目的とは思えない。

 

 …………嘘!? あれは!?

 

 ――見上げる程の巨躯。

 ――光沢ある金属のボディ。

 

 ……はいはい。なるほどなるほど、よーく分かりました。

 

 間違いなく、自分は使い捨ての生体クローン兵器ですね。本当にありがとうございました。

 アレでしょ? 恋とかしちゃったりした挙句に主人公のトラウマになる感じで散るんでしょ。

 ざけんな、コラ。

 せっかく量産型とはいえ美少女に産まれたんだ。巨大隕石を押し返すくらいのスパダリパイロットと結婚して子供つくって、白い家で犬飼って過ごして、孫を溺愛しながら老後を過ごして老衰で死ぬんだ。

 なんて。冗談は置いておこう。そう生きられたのなら最高だけど、一番大切なのは“後悔しないこと”。これだけなのだから。

 

 ……足音。誰かが近づいてくる。

 

 さて。普通に考えれば研究者。「私」の制作者だろう。

 研究の主任というべきか主犯というべきか……そういう偉い奴の可能性もあるし、下っ端のモブ研究員かもしれない。

 まぁ、どちらにせよ。人間の命を人工的に作り出す。まさに命を弄ぶ行為であり、そんな奴らがマトモとは思えない。

 

 さてさて、どうしたものか……。

 

 

 

 

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