巨大ロボットSF世界に量産型クローンとして転生したけど幸せに生きたい!   作:夢泉

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2話:一世一代の大勝負

 

「……ひ、ひぃっ!?」

「騒ぐな。騒いだり抵抗したりしようとすれば躊躇なく殺す。……さっさと研究の責任者の所に連れて行け」

「は、はいぃ!」

 

 自力でガラス管を破壊。音を不審に思って近づいてきた研究者へ背後から組み付き、首元に鋭く尖ったガラス管の破片を突き付ける。

 そうして脅せば、研究員は怯えながら素直に従った。

 言語が理解できるのは何故だろう。正直助かるけど、脳を弄繰り回された結果かもしれないので気味悪さの方が大きい。

 

「こ、こちらです!」

 

 随分と若い。この世界の年齢と見た目の基準が不明だけど、20代前半くらいに見える。

 黒髪黒目でアクセサリーの類はつけていない。随分とまあ特徴の無いモブである。唯一、七三分けの髪が僅かに印象に残るくらいだ。

 白衣が皴一つないピカピカ新品であるのを踏まえると、新人なのかもしれなかった。働き始め早々にこんなことになって哀れだが、最初から殺すつもりも無い。この研究所を脱出さえしてしまえば、二度とこんなモブ研究員Aと関わる事も無いだろう。今この一時だけ、どうか利用させて欲しい。

 

「そ、その……」

「余計な事は喋るな」

 

 何だ? モブ研究員の様子がおかしい。

 何事かを言うべきか迷っている……そんな感じがする。

 ……強制命令コードでもあるのだろうか? 特定のワードを聞くと脳内チップが何やかんやして死ぬとか命令に絶対服従するとか薄い本御用達のゲス機能が搭載されているのかもしれない。

 

「い、いえ……その……」

 

 否。それならもっと早い段階で使っていたはず。ならば、そもそもそんな機能は搭載されていないか、あっても下っ端モブには知らされていないか。どちらかだろう。

 

「……それで? 何を言いたい?」

 

 ならば。コイツの話を聞いてみる価値はあるかもしれない。今の状況下では少しでも情報が欲しい。

 歩みは止めずに、周囲への警戒も怠らない。

 張りつめた緊張感の中で発言を促せば、モブ研究員は意を決した様子で口を開き……

 

「えっと。ふ、服をですね。き、着た方が、よろしいのでは、ないかと……」

 

 …………は?

 

「その……女の子、ですし。い、今から向かう場所には大勢の研究員が居ますし……だから……」

 

 何言ってんのコイツ。

 紳士か? 紳士なのか?

 いや。そんな訳があるまい。

 コイツは全裸美少女クローンが大量に保管された部屋に入ってきた奴だ。検査と称して身体中を隅々まで視姦してグヘグヘするつもりだった鬼畜変態サイエンティストでファイナルアンサー。

 そんな奴が服の心配などするわけがない。

 十中八九、服を着替える隙に反転攻勢に出て取り押さえにかかるつもりだろう。

 そうはさせるか。

 

「黙れ。口を動かす暇があるなら足を動せ」

「は、はぃいいい!」

 

 

◇◇◇

 

 

「これは一体全体どういうことだね?」

 

 モブ研究員の案内に従って進んで行けば、かなり広い部屋に着いた。

 教室2つ分くらいはある。ただ、機材やら資料やら色々とっちらかった汚部屋であり、足の踏み場もない。

 その部屋の中央あたりにいた男が全裸美少女+ガラス片+怯える研究員という絵面を見て驚愕を露わにした。

 

「しょ、所長。も、申し訳ありません……」

「謝罪など求めていない。今は何が起こったのかを問いただしている」

「ひ、ひぃ、すみません……!」

 

 ふむふむ。

 “所長”と呼ばれた40代後半くらいに見える男。ヨレヨレ白衣+病的な隈+黒縁眼鏡+ボサボサ髪+無精髭+猫背という怪しさのオンパレード。

 昼間歩いてても職質間違いなしのザ・マッドサイエンティストスタイル。

 コイツが親玉で間違いあるまい。

 

「へぇ、流石にこんな事をしでかした個体は私一人だったんだ」

「……その発言。貴様、自らの置かれた状況をある程度理解しているな? ……ふむ、C-013か」

 

 C-013? 製造番号だろうか? 一体何を見て判断したんだ?

 呟く男の目線を辿り、少しだけ目線を下げてみる。

 すると、何という事だ。この超絶美少女の太腿、陶器のように美しく白い柔肌に数字が書き込まれているではないか。

 何という! 何という事を……!

 うら若き(0歳児)乙女の柔肌に随分と気色悪いモノを刻み込みやがったな! この変態マッドサイエンティスト共が!

 この邪悪な存在を今すぐ抹消してやりたいが、今は我慢だ! 耐えろ……!

 

「奇妙だな。Cナンバーは言語学習が終わった程度の初期段階だったはずだが」

 

 ……ふむ。成程。その言語学習とやらのおかげで会話ができるわけね。

 “学習”などと言っているが真っ当な方法ではあるまい。電極ぶち込んで脳に直接覚えさせるとか、そういうマッドなやり方だろう。少なくとも、机を囲んで仲良く勉強とかでないのは確かだ。

 

「私の要求はただ1つ。私を自由にして欲しい。自由にしてくれるのなら、この男は解放する」

 

 こういう男のペースに付き合ってはいけない。相手の話に取り合わず、ひたすら一方的に要求を突きつけるのがベスト。電撃奇襲戦こそがインテリへの必勝法なのだ。

 

「……自由か。その自由というのは、ここから外に出て人並みの生活を送るという認識で合っているかね?」

「あぁ、そうだ」

 

 よし、完全にこちらのペースだ。

 問題は、次の男の返答。その内容によっては覚悟を決めないといけなくなる。

 

「ならば不可能だな。貴様の身体は軍事機密の塊だ。野放しになど出来るはずがあるまい」

 

 ま、でしょうね。この世界の法律及び倫理道徳がどうなってるのか知らないけど、クローン兵器が完全無欠に無問題というのは中々難しいだろう。

 仮に無問題オールオッケー状態なら、末法の世すぎてゴータマさんもビックリだ。

 

『普通に違法だよ。発覚したら大問題になるだろうね』

 

 ……ん? 今なんか変な声が聞こえたぞ。何故か、音が一切鼓膜を震わせていなかった。頭の中に直接響くような感じで心底気持ち悪い。

 

「……仮に、この人質の男を殺すと言ったら?」

「ひ、ひぃ!?」

「その男はそこそこ優秀な人材だったが、特1級機密の漏洩に見合う程の価値はない。代わりなど幾らでもいる。殺すなら殺したまえ」

「しょ、所長っ!?」

 

 ですよねー。このモブが違法クローン製造発覚と釣り合うとは到底思えないもの。

 

「じゃあ、無理やりにでも出て行くと言ったら?」

「出来るものならやってみると良い。まぁ、その身体に当てられた赤い光の意味が分かるのなら、そんな愚かな事はお勧めしないがね」

 

 ふむ。この赤い点の事だな。十数個の赤い光が白い肌に照射されている。

 100%狙撃用の照準ですね。動いた瞬間バァンですね。本当にありがとうございました。

 はい。じっとしましょう。

 ステイステイ。

 

「あ、あの! なんか僕を盾にしてませんかね!? 照準の光が僕に集中してる気がしてるんですけど!? やめて撃たないでぇ!」

 

 とりあえずモブ君を盾にするように動いていると、悪の親玉が「それに」と続け始めた。

 

「許可なく外に出た場合、貴様の脳内に埋め込んだチップが貴様を殺すぞ」

 

 あー、やっぱりね。

 

『あれ? 意外と衝撃受けてない?』

 

 まぁ、なんとなくは予想していたしねー。最悪の想定が当たったというだけだ。

 逃走防止に脳内チップなんてテンプレ中のテンプレだし。

 この危険性があったから、最初から逃走という手段を選ばなかったのだ。

 もしもモブ研究員に案内させて脱出していたら頭爆発して死んでたのだろうね。クソったれ。

 そして脳内ボイス。うるさいから少し黙れ。お前が一言喋るたびに頭がズキズキ痛むんだよ。

 

「状況が理解できたようだな。今度はこちらの質問に答えてもらうぞ」

 

 ま、こうなったら取れる手段は1つだけですね。

 

『取れる手段?』

 

 だから黙れよ、お前。

 

「貴様は一体、何をどこまで知っている。どうやって知った」

 

 ま、そう来るわな。

 悪いけど、ここまで全部想定通りなんですよ。

 そいじゃ、一世一代の大勝負。しかけますかね。

 まずはモブ男をポイっと手放して。

 

「ぐえっ!」

 

 モブ男がカエルの潰れたみたいな声を出した。ごめんね、雑な扱い方ばかりしちゃって。

 次に、腕をまな板みたいな胸の前で堂々と組み、不敵な笑みを浮かべる。

 

「……貴様、何のつもりだ?」

 

 こちらには“前世の記憶”という武器がある。

 この記憶が本物なのか、それとも妄想の類なのか、脳を弄られた結果生じた異常なのかは分からない。

 だが、その真偽などどうでもいい。現実にそれはあるのだ。

 この世界で“前世の記憶”がどのような位置づけか知らないが、俺が知っている限り非科学的極まりない代物だ。だって脳味噌が違うのに記憶を引き継ぐんだからな。

 ならば、この科学者然とした男の想定の埒外にある可能性は高い。

 そも。この頭の回転の速そうな男が、未だに転生者の存在に思い至っていないのなら、決して一般的ではないのだと確信するには充分すぎる。

 この記憶は完全なる盤外の一手。想定されていないジョーカー。

 故に。

 

「ふーん、賢くて偉大な研究者様は生まれたてのクローンに教えを乞うの?」

「…………ほう?」

 

 






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