後藤、もうひとり。   作:最条真

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まあ書くよね、続き。


屋上の、山田先輩。

私はとても頭がいい。

テストをやらせれば大抵100点。両親から天才だと褒められた日の記憶は、未だに新しい。

将来的に姉を介護する役目のある私は、勉強が出来る分、いい大学に行って、良い職に就かなければいけない。

というわけで私は、わざわざ遠路はるばる下北にある進学校に通っているのだ。

校風に惹かれた。ほどほどに遠いところが良かった。理由は以上。

 

そこそこ遠い。

楽しいから良い。

 

ここには、私も、私の姉のことも知らない人しかいないから。

わざわざ遠くの、『下北沢高校』とかいう進学校を選んだ理由。それは、過去にとらわれず前に進むためだったかもしれないし、過去を清算できず後ろに戻っているのかもしれない。

 

友達はいるが、結局本質的な部分で、私は一人が好きだ。

姉の気質が、多少なりとも私にも備わっているのかもしれない。

 

社交辞令として、入学から数日は女子グループとの食事に混ざっていたが、今では、特に軋轢を生まない程度にそこそこの頻度で、屋上で一人、食事をしている。

 

屋上で広げるのは、母お手製のお弁当である。

特に卵焼きが絶品だ。めちゃくちゃ美味い。

 

姉も哀れである。

屋上で一人で食べるお弁当の味を知らないとは。

ネットで生きる姉とは違って、私は現実に息をしている。

 

それを実感する瞬間が、妙に心地が良くて、ここに姉がいてくれればと思うのだけど。

 

「もとり。タコさんウィンナー頂戴」

 

私の食事に割り込む影が、もうひとり。

 

「……山田先輩」

 

青い髪の、いかにも顔だけで生きてますと言わんばかりのクズバンドマンがいる。

名前を、山田リョウ。屋上で孤独に食事を楽しむ私の邪魔をする、変な先輩である。

屋上で一人弁当を食べる私を、恨めし気に見ていたのが山田先輩である。

名も知れぬ雑草を貪りながらずっとこっちを見ていたのだ。

 

『あの、卵焼き、食べます?』

『食べる』

 

私の優しさが仇となった。

あの日、餌付けに成功してしまった結果、変なクズバンドマンに懐かれてしまった。

結果的に、私が屋上でお弁当を食べていると、どこからともなく奴は現れて、私のお弁当のおかずを強奪してくる。

 

最近ではタコさんウィンナーがお気に入りらしい。

知るかアホ。

 

ちなみに今も私の了承なんて得ずに、持参のつまようじで私のタコさんウィンナーを突き刺して、勝手に食べた。

 

「私の了承とか……」

「ありがともとり。感謝」

 

顔の前で手を合わせる山田。もはや先輩すら略してぶん殴ってやろうか。

しかしまぁ、聖母マリアの生まれ変わりである私はそんなことでいちいち腹を立てない。

私が陰キャコミュ障クソギターヒーローの世話を何年続けていると思ってる。

こんなことで腹立てるほど私の器は狭くな――

 

「じゃあ卵焼きも」

「――は?」

「ごめんなさい」

 

卵焼きは話が違う。

お母さんの卵焼きは国宝だぞ。

鋭く山田先輩を睨めば、大人しく引く。

弁えていないようで絶妙に弁えているのが山田先輩である。

 

手持無沙汰になった山田先輩が私のお弁当を見てくる。

もうやらんぞ。そうするとどこからともなく雑草を取り出して食べるので、私はタコさんウィンナーを差し出すことにした。

 

「ん、おいしい」

 

もきゅもきゅと、美味しそうにウィンナーを食べる山田先輩。

大人しく学食に行くなりお弁当を作ってもらうなり買ってくるなりすればいいものを。

 

「ギター買いすぎてお金ない。諦めて」

「……何を諦めろと?」

「私にタコさんウィンナーを食べられること」

「……もう勝手にしてください」

 

半ば諦観。

どうしようもないものは、どうしようもない。

それが世の常人の常。

 

自室に立てこもりひたすら動画投稿を続けるうちのギターヒーロー(笑)のように、山田先輩もどうしようもない人間なのは、たった数週間の付き合いで理解していた。

 

「雑草おいしい」

 

隙あればこの人は雑草を食べ始める。どこから取り出してんだよそれ。

人間舐めてんのか。草じゃなくてもうちょっとマシなもん食えや。

汚い言葉が出るその前に嘆息をして、弁当袋から、ラップに包んだおにぎりを投げた。

 

「ぇ」

「おにぎりです。草よりもそっち食べてください」

「……もとりぃ」

「う、なんですかその、小動物のような、母性をくすぐるその目は。やめてくださいとっとと食べてください」

 

私は山田先輩のいい顔面から目を逸らし、お弁当を食べることにした。

おにぎりは、ただの対策である。母お手製の卵焼きを万が一にでも奪われないための、対策。

 

「……おいしい」

「そりゃそうでしょう。私の手作りですし」

「もとり、料理できるんだ」

 

意外そうな、感心したようなその声色に、私もフフン、と鼻を鳴らして返す。

 

「私にできないことなんてほとんどありませんよ。頭もいいし、運動もできますし、コミュ力だってありますし?」

「凄い自信。……そういえば、一人でご飯を食べるのは何で?」

「んー。一人でいるのが好きだからですね。根本的な部分で」

「私と一緒だ」

 

普段感情の見えない声色が、珍しく少し嬉しそうに聞こえた。

 

「そうなんですか」

「うん」

 

そこで一旦会話が区切れて、微妙な沈黙が生まれる。

山田先輩の会話のテンポは分かりづらい。黙ったと思ったら急に喋り出すし、喋ったと思ったら黙る。

この人は良く分からん。今だって。

 

「もとりは私と一緒に居て、どう?」

「私は一緒に居て嫌な人におにぎりを作ってくるほどお人よしじゃないです」

「……ツンデレだ」

「違いますから。とっととおにぎり食べてください」

「……もとり」

「……なんです?」

「次からは具はウィンナーが良い」

「……分かりましたよ」

 

後日、素直にウィンナー入りおにぎりを作ってやった。

山田先輩は美味しそうに食べていた。

 

この関係は良く分からない。

友達とも言えないけど、知り合いは超えているような。

 

良く分からないおかしな関係。

 

最近、私の隣にはもうひとり。

屋上の山田先輩。

 

「ねぇ、山田先輩」

「ん……何?」

「クラスまでは付いてこないでください」

 

アンタ顔が良いから目立つんだよ。

女子生徒が今だって色めいてるし。

 

「良いじゃん別に」

「……はぁ」

 

良く分からん人に懐かれたもんである。

早く誰か保護者を呼んできてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きは未定。
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