後藤、もうひとり。   作:最条真

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私は筆が載ってるときに書きたいものを書くんだよォ!!
という訳で投稿です。


暗殺者、虹夏先輩。

『下北沢高校』の空き教室。

なんら用途もないそこに、三つの人影があった。

 

私、後藤もうひとり。――静観。

クズ、山田リョウ。――瀕死の重体。

尊敬すべき先輩、伊地知虹夏。――クズの絞殺を試行中。

 

どうしてこうなったのか、というと私にも分からん。

入った時からすでに山田先輩は虹夏先輩に命を握られていた。

 

『はんにんはにじか』

「は?」

 

放課後。

山田先輩といつのまにやら交換していたロインからはダイイングメッセージのような文面が綴られていて。

 

『はやくきて、しぬ』

 

救援要請を受けて、私がたどり着いた空き教室には。

こちらに気づいて、天使のような笑みで手を振る虹夏先輩と、裸絞めにされ、瀕死の重体の山田先輩がいた。

いや、天使のような笑みと状況がもう場違いが過ぎるだろう。

 

「あ、ごめんねー。もう少しでこのクズベーシストからの事情聴取終わるから」

「も、もとり。助けて」

「……なんですかね、これ」

 

とりあえず、山田先輩が思いっきり首を絞められているのは分かる。

 

「に、虹夏、死、ぬ――」

「んー?」

 

更に強く首を絞められる山田先輩。

口の端からは泡が出ている。全力で虹夏先輩の腕をタップしているが、どうやら羽交い絞めは続行のようである。

 

「最近私とご飯食べてくれないなーって思ってたら、後輩の女の子と、それも()()()()()()()()お昼食べてるなんて、いやー私は知らなかったなー」

「ち、ちがっ、それはっ。それは――」

 

言葉を探すように首を振って思考を回す山田先輩に、私が仕方ないなぁ、と言わんばかりに嘆息して見せれば、まるで山田先輩は救世主を見るような目でこっちを見てきた。

 

「虹夏先輩」

「うん。何?」

「この人は――」

 

頼むぞ、と言わんばかりに祈る山田先輩の念がここまで伝わってくる。

ならば、私もそれに応えなければ不義理と言うものだろう。

 

 

「――一度おにぎりを作ってきたらつけ上がってお弁当をつくってくることまで要求してきた極悪人です」

「も、もとりっ!?」

「へー?」

 

虹夏先輩の黒い笑みが深まった。

 

「に、にじか?」

「んー。どうしたの、クズ?」

「今のはもとりの完全なる嘘」

「私今日弁当箱二つあるんですけど」

「――あ」

「そっかそっか」

 

虹夏先輩の黒い笑みが、またもや深まった。

 

残念なことに、全て事実であることに変わりない。

このクズは、私がおにぎりを作ってくることをいいことに、ついにお弁当を要求し始めた、正真正銘のクズである。

 

まぁ正直、お母さんの負担を少しでも減らすためにお弁当は自分で作りたいと思っていたし、卵焼きの作り方も学びたかったし、ちょっと量を多く作るだけだから、ぶっちゃけそこまで苦ではないのだけど。

 

いやまぁ、助けすぎは良くない。それが当然になるのは、もっと良くない。

過去の姉から、私はしっかり教訓を得ている。

 

だから、ここらへんで一発、デカいのをぶちかましてやってもいいかな、と思うのである。

ダメな奴を更生するためには、結局のところぶちかますしかないのだ。

 

「リョウ~?」

「虹夏様どうぞ命だけはなにとぞ――」

 

虹夏先輩は、パッと手を離し、羽交い絞めから山田先輩を解放した――、と思いきや、山田先輩に自分の方を向き直らせて――。

 

「この、クズッ!!」

「ふごぉ!!?」

 

虹夏先輩渾身のボディブローを喰らわされ、山田先輩は一発でノックアウトした。

 

まぁ、良い奴じゃなかったけど、墓ぐらいは作ってやるか。

 

 

 

 

 

 

それは見事な土下座だった。

地に頭を伏せる山田先輩と、机に肩肘を付けて足を組み、それを見下す虹夏先輩。

対照的な二人の関係は下僕と支配者と言ったところか。

ちなみに私は一連の良く分からない流れを座るでもなく立って静観している。

 

「リョウ」

「はい」

「……私は別にそういうの、当人同士が納得してればいいと思うの」

「はい」

「……でも話を聞いてる感じだと、違うよね? リョウが駄々こねて作ってもらってるんでしょ。その上、何の対価もなしに。それはあんまりにも酷いよね?」

「……はい」

「もとりちゃんにごめんなさい、できるよね?」

「はい。もとり様」

「あっはい」

「この度は誠に申し訳ありませんでしたァッ!!!」

「あっ、はい。大丈夫です」

 

マジで私は何も気にしてない。

まぁでも、普段からクラスにまで付きまとってくるアホに天からの裁きが下ったかと思うと、悪くない気分である。

というか、こういう方法もあるのか。

うちのギターヒーローを名乗る不審者(姉)にもやってみようか。

部屋には鍵が掛かってる。

 

決行のタイミングは風呂かトイレに行く瞬間だな。

私はこの計画を頭の片隅に置いておくことにした。

 

「ほんとにごめんねうちのリョウが。ほんとに、ほんっとにごめん!」

「あ、大丈夫です。クズなのはわかり切ってたことですし」

「代わりと言っては何だけど、ご飯食べに行かない? リョウの奢りで」

「あっ、マジですか?」

「うんうん、ほんと!」

 

花のような笑みを咲かせる虹夏先輩。

これは私にとってまたとないチャンスであった。

一人は確かに好きだけど、私も密かにしっかりと、青春っぽいことを楽しみたいのだ。姉と違って。

先輩二人とご飯を食べに行く。

 

うん、なんか高校生の青春っぽい!

 

私は即座に了承をした。

 

「に、虹夏……そんな勝手に――」

「ん? 月の初めだもん。お金、あるよね?」

「……はいぃ」

 

絵面が完全にカツアゲするチンピラとモヤシなのは置いておいて。とにかく、山田先輩の奢りは決定したようである。

 

「ふふ」

 

気分よさげに鼻を鳴らす。

騒がしいはずの喧騒が、何故だか心地よくて。

 

あとでうちのギターヒーローに、ご飯食べてるときの写真でも送ってやろうかな。

現実も悪くないってことを、教えてやりたい。

 

 

――私たちは、ご飯を食べに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『後藤もうひとり』
自分が原因で引きこもってしまった姉に青春の楽しさを教えてやりたい。
たまには外に出なよ。散歩くらいなら付き合ってあげる。

『後藤ひとり』
私が人並みの青春が送れるわけない。
それどころじゃない。私はギターヒーローになるんだ。



うーん。
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