後藤、もうひとり。   作:最条真

4 / 13
書きたくなったら書くゥ!
筆が動いたから、書いた!
30分で書けたぞ。自分が末恐ろしいわ。


ギターと孤独と蒼い惑星。

後藤ひとり。私の名前。私はこの名前が嫌いでも好きでもない。

どうでもいい。現実に関して関心は無い。

本当に、どうでもいい。

 

私には、妹が居る。

双子だから、顔はそっくり。

違うのは、中身だった。

 

何もかもが、私と違う。

何かをしようとしても何もできない私と、何かをしようとして何もかもを手に入れる妹。

隔絶した才能の差。

 

勉強も、運動も、コミュ力も、ありとあらゆる全てで妹は優れていた。

私は自覚していた。わたしは、もうひとりのための引き立て役だ。

何も能がない、居てもいなくても変わらないけど、彼女の引き立て役と言う点でのみ、私は必要とされる。

 

後藤ひとりと、もうひとり。

主役は誰の目から見ても明らかで、もうひとりの方だった。

 

私にとって、最悪の比較対象が身近に居続ける。

それは、地獄に等しかった。

地獄なんて呼んだら、もうひとりに可哀そうか。

でも、思う。

 

私、もうひとりの型落ちだよなぁ、って。

 

劣化品。

 

優劣は明らかに決まっていた。

昔と今でも、それは決して何も変わっていない。

 

何もできない、能無し。

 

『ひとりちゃんは――』

 

忘れたい。

 

『もとりちゃんがいないと――』

 

黙って。

 

『何もできないんだね』

 

「……知ってるよ」

 

意味もなく、弱弱しく。自室の壁を殴る。

コン、と軽い音がした。

多分、私はこの世に生まれるべきではなかった。

 

産まれたく、なかった。

 

辛い。劣等感に苛まれる。辛い。周囲の期待に応えられない。辛い。ひとりじゃなにもできない。辛い。もうひとりに頼ることしかできない。辛い。勉強ができない。辛い。運動もできない。辛い。人と目を見て話せない。辛い。猫背は治らない。辛い。何の取り柄もない。辛い。

 

辛い、辛い、辛い。

 

それでいて、もうひとりを妬ましく思ってしまう。

そんな自分が居ることに、絶望して、嫌い、嫌い、嫌いになっていく。

 

自分のことを、だんだんと、どうしようもなく嫌いになっていく。

 

私の嫌いなところを表すには、あまりにも頭の余白が足りない。

きっと私の嫌いなところなんて書き連ねたら、ノート数十冊埋まってしまう。

 

良いところを探そうにも、たくさんの嫌いに埋もれて、どうにもそれが見えない。

私は、そんな自分のことが嫌いだ。

とことん嫌いな、私のことが、大嫌いだ。

 

何の取り柄もない、ひ弱な生き物。

これでギターがなければどうするつもりだったのか。

ギターに頼りきりの自分に訊いてみたい。

 

――あなたはそれ以外で何ができるの? って。

 

何もできない。

知ってるよ。

自分の性分だ。

一番自分で分かってる。

 

どうしようもない焦燥感と衝動が、私を突き動かして。

私は結局今日も、ギターを弾く。

 

部屋のカーテンは閉めっぱなし。太陽にはもう何か月も当たってない。

換気なんてもってのほか。だから、埃っぽい。どうでもいい。それは関係ない。

 

私が『ギターヒーロー』であることに、何も関係がない。

 

ギターをかき鳴らす。

この行為に意味はない。だって、動画すら取ってない。

何の意味もない、ただの私の現実逃避。

 

ギターを触る瞬間、私は本当にひとりになる。

自分の雑音に悩まされることもなく、ただ、ひとりの世界に没入する。

過集中、というらしい。どうでもいい。

 

ギターを弾く。

その瞬間だけは、全てを忘れることが出来る。

 

自分自身に掛けられた、呪いだって。

 

「……呪いじゃ、ない」

 

無意識に出た言葉に、思わず指先が止まる。

 

可愛い妹だ。もうひとりは。

手のかからない、むしろ世話される方だけど。

 

私がつまずいて転んで、あの子が手を差し伸べてくれた時の感動を、今でも忘れていない。

幼稚園くらいの、頃だっけ。

 

『お姉ちゃん』

 

鈍くさいから、怒られると思ったのに。

 

『一緒に歩こ?』

 

彼女はそう言って、私と手を繋いで。

私の隣に寄り添って、一緒に歩いてくれて。

それはずっと続いて。

 

突然――。

 

 

『お姉ちゃんは自分で、何もできないの?』

 

 

幼い頃の自分はその言葉が相当ショックだったらしく、引きこもり続け、延々と永遠と、それは今に至るまで続いている。

 

ふと、頭に過る。

このままでいいわけがないよなぁ、って。

 

現状に満足をしているわけではない。

 

私は自分ともうひとりに、証明するためにギターを弾き続ける。

 

 

――何もできないわけじゃないよ、って。

 

 

あの時の返答をもって、私は初めてもうひとりと向き合えるのだ。

 

世界の賞賛。

両親からの賞賛。

あと欲しいのは、もうひとりからの賞賛。

 

金なら稼げる。

私は何もできないわけじゃないよって、言ってみたことがある。

中学生の頃。

 

『つまらなそうな音色』

『え』

 

返答は予期していたものと違って、突き放すものだった。

 

『もうちょっと楽しそうに弾こうよ、お姉ちゃん』

 

もうひとりは、いつもと同じように扉の前にご飯を置いて去っていった。

 

「楽しそうに、か」

 

わかんないなぁ、そういうの。

 

「分かんなくなっちゃったよ、お姉ちゃん。そういうの」

 

ギターが楽しかったことなんて一度もない。それはただ、手段であり続けた。

武道館ライブとか、テレビ出演とか、どうでもいいメディアからの誘いとか、どうでもいい。

 

ただ、私は、もうひとりに認められたくて。

 

もうひとりが認めてくれた時、改めて自分のことを認められる気がするのだ。

 

私は、『ギターヒーロー』になる。

誰もかれもが私を認めてくれる、そんな理想像を作り上げる。

 

突然。

ピロンと、通知音が鳴った。

携帯だ。たいていの場合、お母さんかもうひとりか、今回は後者だ。

ロインを開く。

 

『先輩とマックなう』

 

愉快そうに笑うもうひとりと、その両隣には見慣れない人が二人。

どうやらこれが先輩らしい。

 

「……羨ましい」

 

なんて、ほんとのほんとに思ってない。

現実はどうでもいい。だって、私は劣っているから。

 

認めるのはいいけど、誰も私を見ないでくれ。

誰かの視線を感じるたびに、私はどうしようもなく自分が惨めに思えるから。

 

今日も動画を取る。

その瞬間でも、私はひとり。

 

私はもう、一人。

それでいいんだから、私の心なんか揺らさないでほしい。

 

ギターと孤独を抱えて、蒼い惑星でひとりぼっちの引きこもり。

 

それが、私。後藤ひとり。

 

 

――もうひとりに認められるために、私は今日もギターを弾く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『後藤もうひとり』
先輩の金で食う飯はうまい。
えっ、虹夏先輩あーんしてくれるんですか!?

『後藤ひとり』
色々こじらせたうえに出来上がった化け物。
承認欲求モンスターは今日も元気に暴れている。
一日十八時間ギターを弾いているらしい。バカジャネーノ。
ギターの腕はもうとっくに世界に通用する。
でもそれはどうでもいい。
一番認められたいもうひとりに、認められないのだから。
一人だとつまらなそうな音色(もうひとり談)。

楽しく弾くってどうすんの? 
マジでどうすんだよこれ。
む。そこに居るのは酒カスベーシストで有名な廣井さん。
何が起きるんです?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。