サンビーム先生   作:稗田之蛙

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サンビーム先生

 シンコウウインディ。G1フェブラリーステークスを勝利したウマ娘。

 噛み癖という悪癖を持つ彼女に対して、以前は腫物を触るように接していた者も一定いたが、それでも彼女は持ち前の明るさと負けん気で実力をついに証明してみせ、「目にモノをみよ!」とばかりに堂々と振る舞うようになった。

 そのせいか彼女を慕う者が多くなり、次第に彼女のことを悪く言う者は少なくなった。

「あーっはっは! 今日もウインディちゃんの功績を褒めたたえるのだ!」

 ウインディは『ウマッター』なるもので自身の事についてエゴサーチするのが日課になっていた。

 ウインディとてウマ娘の一人だ。そのファンも多くいれば、フェブラリーステークスやライブの姿に感動した者も当然いるわけである。

 ウインディは誰かが自分を構ってくれるのが存外好きだ。だからこうして自分が話題になっているかどうか確認する。

 さてはて、今日の#シンコウウインディの話題トップタグは……

 

どぼめじろう:

『シンコウウインディさんがトレーナーさんに噛みついている様子のイラストを描きました。#シンコウウインディ』

 

「……なんだか若干恋愛っ気がある描写でウインディちゃんがトレーナーに噛みついているように見せられてるのだ……ウインディちゃんはそういう対象としてアイツを見てないのだ……」

 

 だがどういう事なのか、『いいね』がたくさんついている。コメントの中には曰く、「舞台外でも仲良くしている光景が瞼の裏に見える」との事。そんな拍手喝采の最中に文句をつけにいく勇気はウインディちゃんになかった。

 

 気分を切り替えて、今度はどぼめじろうがリツイートしたメディアを確認する。

アリスデジタル:

『  』

 無言で絵を投下しているアリスデジタルというアカウント。「つーん」と顔を背けているウインディの絵が描かれている。

 第三者からのコメントには『これがツンデレというヤツですか』とあった。

 

「デレてないのだ……このウインディちゃん、たぶん単に無視してるだけなのだ……こいつらには一体何が見えてるというのだ……」

 

 ……なんだか自分のファンが増えていくにつれて、自分の思い描いている姿とファンの認識している姿に齟齬が生じている気がする。

「……まぁいいのだ。ウインディちゃんは心が広いから許してやるのだ」

 そんな事を自分に言い聞かせていると、どぼめじろうが『スペース』を開いているのを見かけた。いわゆるウマッターのボイスチャットだ。

『次のウインディさんの創作について』

 ウインディはそれを見た瞬間、なんとなく気になって自分も参加する事にした。

『ウインディさんは、雰囲気に反してスリーサイズの下の値が大きいから、それを活かしたシチュエーションがいいわね、尻――』

 ボイスチェンジャーをかけた声のどぼめじろうが、そういった相談を周囲に投げかけているのが聞こえた。

 ――そして途端、「シンッ」と場が静まり返る。十数秒経って、どぼめじろうが震えるような声で言った。

『ウ、ウインディさん????』

 リスナーにシンコウウインディの本人認定マークがついてるアカウントがいる事に気が付いて、テキストチャットの方もざわめきだす。

 どぼめじろうは本人が目の前という事もあって急に慌てて取り繕い始めた。

『ご、ごほん。今日は皆さん撤収。撤収でお願いします。ごめんなさい、今日のお話は無しで……』

 そして次々に退出していくリスナー達。どぼめじろうもやがて去っていった。

「……なんなのだ。一体」

 なんだかよく分からないが、ウインディは自分が腫物のように扱われている気分になって、切なくなった。

 

 ――どーしてもって言うなら、参加を許してやってもいいのだ! なにしろ今回の魔王城計画は、そりゃーもう壮大な……

 ――あはは、そっかそっか。

 

「…………」

 スマートフォンの画面を閉じてそのままベッドに寝た。

 

 

 

 

 

 

『ウインディさんは、あぁ見えて案外寂しがり屋だからね。結構、トレーナーさんとか、周囲の人とかに甘えてると思うの』

 ウインディは後日、"サブアカウント"なるモノを作るに思い至った。なんだか知らないが、自分のアカウントは創作アカウントの人達から距離を置かれているらしい。サブアカウントを作ってようやく気付いた。

「ウインディちゃんのファンなのに、ウインディちゃんの事ブロックしてるとか意味がわからないのだ……」

 ともかく……どぼめじろうのボイスチャットにひとまず集中する事にする。

『ヒシアマ寮長さんとか、ビコーさんとかと仲良しみたいだし……』

「なんかこのどぼめじろうとかいうやつやけにトレセン学園の内情というかウインディちゃんの事に詳しくないか? ストーカーだったら怖いのだ……」

 とはいえそんな事をテキストチャットで述べる気力もない。

 なにせ、こいつらウインディの創作話題について「尻がデカい」だとか「実は寂しがり屋」だとか、そういう話を好き勝手している。

「なんでウインディちゃんのお尻の話にばっかり食いつくのだ。ヒップ88センチなんて、ウマ娘には他にもたくさんいるのだ……ボーノとかゴルシとか……」

 なんだか、自分の事をオモチャか何かかと勘違いされている気分で気に食わない……。

 そんなこんなしているうちに、どぼめじろうがこう言ってきた。

『えぇっと次は"サンビーム"さんの番だっけ。何かネタとかはー……』

「……何か話題振られたのだ」

 ウインディちゃんのサブアカウント。ハンドルネームは『サンビーム』。

 どうやらこのスペースは創作のネタ出しに使っているようだ。フォロワーから提案を順番に出して、次の創作のネタを募っているらしい。

 腹いせに無言で抜け出してもいいが、それでは負け逃げするようで嫌だったのでテキストチャットで何かコメントをすることにした。

『えっと、ウインディちゃんはお尻がおっきい事や寂しがり屋だとか話題以外にも、もっと色々あると思う』

 語尾に「のだ」まで付けようかと思って、本人バレが怖くてやめた。

『たとえば?』

 興味津々の様子で聞いてくるどぼめじろう。

「こいつなんで寮長やビコーのやり取り知っててウインディちゃんの事が尻デケェとか寂しんぼとか発想しかないのだ……普段のウインディちゃんのファンアートもトレーナーとの色恋匂わせ描写多いのだ……」

 どぼめじろうの調査が偏りすぎだと思いつつも、何かウインディちゃんに関して話題になりそうな事を自分で思い返す。

『……秋の聖蹄祭の出し物で、魔王の姿が、恰好よかった、とか』

 どぼめじろうが共感と興味を含めた形で『ふむ』と声を出したのが聞こえた。

『そうね。あの時のウインディさんは、凄く堂々としてて、格好良かったわ』

 なんだか嬉しくなって尻尾がゆらりと揺れる。

「いや、待て。聖蹄祭実際見てたような言い方してるのだ。やっぱこいつストーカーなのだ……」

 お化けなんかよりも恐ろしい事実に気が付いて、尻尾が垂れた。

『でも、あの件については私の方からは調査不足なのよね。準備を手伝った子に聞いても、あまり詳しくは話してもらえなかったし……』

 どぼめじろうは、どこか口惜しげに呟いた。

「………………」

 ウインディは正直なところ、自分の格好いい姿ならば描いてもらう事は前向きに受け入れている。

 尻がデカいだとか、トレーナーに愛情表現でがぶがぶしているだとか、よく分からないネタで弄られるよりも、ずっとずっと嬉しかったからだ。

 ……だから、どぼめじろうが自分を題材にするのであれば、多少なりとも協力してやってもいいとは思っている……。

『聖蹄祭のウインディちゃんの様子なら、私が知ってる』

 サンビームとしてそう言うと、どぼめじろうが驚いたように反応した。

『それ本当?』

「嘘をつく必要がないのだ。というか他のヤツに語らせて変に捏造されると困るのだ」

 どぼめじろうの今までの解釈を思い返し、ぶつくさと呟く。

 ……だが、致し方あるまい。あの素晴らしさは、当事者でなければ、よく分からぬ。

 

『……準備の時は、シモベ達……アグネスデジタルがたくさん用意した布や、針を、メイショウドトウがたくさん、たっくさん台無しにして――』

 

 ウインディちゃんは聖蹄祭の準備の事を思い出しながら、その時の出来事を順番に語っていく。

 どぼめじろうは最初こそ『ウインディ以外の他人が見聞きしていた事』と話半分に聞いていたが……

 

『……最初こそは、ウインディちゃんの"魔王城計画"を聞いて呆れていたクラスメイト達も、パーマーやヘリオスが話してくれたおかげで、真剣に受け止めてくれて……』

 

 どぼめじろうはまるでそれが実際に起きていたかのような語り口に段々とサンビームの話に、引き込まれていく。

 

 ――これ、もしかして、本人……。

 

 どぼめじろうは……メジロドーベルは、前日にウインディ本人がスペースに現れた事を思い出して、そんな考えに至った。

 同時に、そんな相手が、自分の創作の題材である事を改めて自覚して、心臓が跳ね上がる。

 そして、そんな時、サンビームの話が一区切りついた。

 

 どぼめじろうが、ごくりと息を飲む音が聞こえた。

 ウインディも、少しだけ緊張して、次の言葉を待った。

『…………うん、いいと、思う』

 言葉を選ぶような言い方だったが、どぼめじろうの言葉を受けて、ウインディは思わず尻尾がぴんと伸びる。

『……後で、DM送っていいかしら? もっと詳細に聞きたいの』

 その一言でウインディは本人だと悟られた事も知らず、気を良くしてしまった。

『いいよ! なんでも教えてあげる!』

 調子に乗って、そう返してしまった。

 

 

 

 ――正直な話、後悔している。

 どぼめじろうから送られてきた文章は、本当に詳細だった。

 何しろウインディちゃんの日常行動から、トレーナーとの関係性まで、全部把握しているみたいに書かれていて、もういっそ怖いくらいだ。

 しかも、その内容をもっと詳しく知りたいと来たものだから。

『ここの、トレーナーさんとシンコウウインディさんの心情を想像するのが難しくて……』

 送られたメッセージを見て、ウインディは溜息を吐いた。

 ……過去に添付されている画像のラフを見る。

 数か月後にG1を制する魔王様と、それに付き従うシモベ達の仮装姿。

「……まぁ、そっちはちゃんと描いてくれるみたいだし、ちょっとくらいそっちの取材や編集に付き合ってあげてもいいのだ」

 仕方ないなと、ウインディちゃんはまた尻尾がゆらりと揺れた。

 ――こういう形で、自分のファンのお話に付き合ってみるのも、たまにはいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

アリスデジタル:

『   』

 

 今日もウマッターのウインディちゃんタグトップにアリスデジタルとやらのイラストの無言投下が出てくる。

「……こいつのイラスト、どぼめじろうみたいに投稿者の描写が問題なんじゃなくてコメント側が勝手に『ツンデレ』だとか決めつけてるのだ…………」

 ……ファンのお話に付き合うどうこう以前の問題も、この界隈にはあったりする。

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