イナズマイレブン 雷鳴への挑戦   作:For AP

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9話:人の力

 

 

 

 ──リヒター家地下──

 

 

[父さん……これどんだけ金かかったの? ]

 

「そうだなぁ……めちゃくちゃ凄いビルが建つぐらいかなぁ」

 

[……あんまり言いたくないけどバカだね父さん]

 

 

 思わず父親を罵倒してしまうほどに、俺の眼前には意味のわからない物が並んでいた。急勾配ランニングマシンに始まり、サッカーボールガトリング、低圧低酸素ルームにサッカーシュミレーションシステムなどなど……人類の叡智を無駄に使ったサッカートレーニングマシンが広い空間にコレでもかと詰め込まれている。

 

 小学生5年生、11歳の誕生日記念としてプレゼントしてもらった施設はあまりに大規模だった。父さんは俺が入り浸っているサッカーグラウンドの直下に地下施設を作り上げ、俺にサプライズプレゼントとして渡してきたのだ。いつの間に? 

 

 なんでもリヒター家地下特訓場とのこと。自慢げに胸を張っていた。

 

 ……有り難くなくはない。そんな表現をする程度にしか感謝できなかった。もう少し、金の使い方あると思うんだよなぁ。

 

 

「そうかぁ? 父さんが昔から夢見てたマシンを詰め込んだんだけどなぁ」

 

[確かにロマンは感じるけど実用性がなぁ……]

 

「父さんはともかく、アインなら使いこなせると思うんだがなぁ」

 

[まぁ試してみるよ。ありがとう]

 

 

 俺は若干の好奇心と大いなる不安に苛まれながら密室へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 ──数時間後──

 

 

 結論から言うと設備は結構悪くなかった。ランニングマシンや低圧低酸素ルームなんかは特に。普段の練習やトレーニングを簡単に増やすことができるっていうのは中々便利だ。

 

 ここ最近はデュプリ式重力訓練も10倍まで耐えられるようになってきたことで、かなり肉体も強化されてきた。地下特訓場は結果的に、負荷に慣れてきたマンネリを打破できるからなんだかんだ効果的だな。

 

 まぁサッカーボールガトリングはどうかと思うけど。だってGK以外は避けるぐらいのことしかできないんだから。俺はデュプリもいるし、自分1人でGKの練習もできる。尚更微妙だ。

 

 そんな風にトレーニング機器を批評しながら、トレーニングによりパンプアップしている体にプロテインを流し込む。あんま美味しくないけど、なんか慣れちったなぁ。

 

 もう修行を始めて7年ぐらいになるのか。色々あったなぁ……父さんにサッカーの基礎を教わり、必殺技を覚え、化身を身につける……それからは本当に激動の人生だった。

 

 守君との再会はあと2、3年。中学2年生になった時だ。できること今のうちにしておかないと。将来のドイツ代表のメンバー集め……は()()()()()()()

 

 

[そういえば、アトリ。君も日本についてくるのかい? ]

 

 

 トレーニングもひと段落ついたので、柔軟をしながら俺に付き合って特訓場に居るアトリに話しかける。トレーニングをしている姿を見ながらぼーっとあくびをしている。

 

 

「ええ、もちろん。私はアインス様の専属なので」

 

[まぁ日本で暮らすのも一年ぐらいだからね。気楽にでいいよ]

 

「ええっ!! 私アインス様と日本に骨を埋めるつもりでいたのに!!!」

 

[……たまに思うんだけどアトリってなんか重いよね]

 

 

 日頃から俺と一緒にいる姉同然の女性の言葉に、思わず驚いてしまった。弟のように大事にされている実感こそあったものの、そこまで愛されているとは……

 

 

「デブって言いました!?!? アインス様とはいえ許しませんよ???」

 

 

 そんな俺の動揺もアトリは気にしていないようで、呑気に天然ボケを発揮した。もう成人しているというのに相変わらずだ。

 

 俺はイラっとしたのでアトリのお腹を摘む。セクハラと思われるかもしれないけど、姉みたいなものだから問題はない。

 

 ……結構ぷにっとしていたので、今度修行に付き合わせよう。

 

 

「ちょっと〜アインス様のえっちぃ〜!」

 

 

 アトリが演技をしながら、俺の手から逃れようと身を捩る。その瞬間、地下特訓場の扉が開き、薄暗い部屋に光が差し込んだ。

 

 

「何やってるんです兄さん。母様に言い付けますよ」

 

 

 魔が悪く部屋に入ってきたのはシエルだった。こちらを蔑むような目で見つめてくる。思春期の男の醜態を母親にチクるなんて誰に教わったんだ。とんでもなく重い一撃だぞ。

 

 昔はあれだけお兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の後ろをついてきていたのに、ここ最近は反抗期真っ只中だ。それはそれで可愛らしいが、ここ最近はもっぱら昔のシエルが懐かしい。

 

 

 ゴホン

 

 俺は咳払いをして気を取り直す。話を逸らしてしまおう。

 

 

[どうしてここにきたんだ? 何か用事があるなら電話をかけてくれればよかったのに]

 

 

 数秒の沈黙が地下特訓場に流れた後、シエルは神妙な面持ちで口を開いた。

 

 

「…………兄さん。日本に行くって本当ですか?」

 

 

 ……しまった聞かれていたのか。言い出し辛かったから家族には未だに伝えることができていなかったんだ。こうなったら嘘なんてつくことはできない。

 

 

 本当だよ。2、3年後に1年間日本に行こうと思ってる。

 

「…………そうですか」

 

 

 それだけ言い残して、シエルは部屋から去っていった。てっきり引き止められるのかと思っていたが……嫌われてしまったのだろうか? 

 

 

「シエル様にお話ししてなかったんですか!?」

 

[まぁ……ちょっと言い出しづらかったよね]

 

「はぁーこれだからアインス様は……私が着いてなきゃダメなんですから」

 

 

 アトリは困ったように肩をすくめ、俺の背中に覆い被さってくる。シエルも反抗期ということで、こうやって親しみを持って接してくるのはアトリだけだ。友達もどこか俺に一線を引いているし、アトリを蔑ろにすることはできない。

 

 

「アインス様。ちゃんとご両親にお話ししなきゃダメですよ? 1年間とはいえど、子供と離れ離れになるのって凄く悲しいことですからね?」

 

[……わかったよ]

 

 

 

 こうやってたまにマジメなことを言うからアトリには逆らえないんだ。

 だけど頬をつつくのはやめてくれないかな? もうそろそろ6年生になるんだ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 ハァハァ……フゥ。

 

 1人の少女が、汗を垂らしながら暗闇の中に立っている。膝に手をつけながら、息を整えていた。

 

「シエル。もっかい付けて」

 

「もう少し休んだほうがいいんじゃ……」

 

「嫌。休んでる暇なんてない。私はアイツに置いてかれるつもりなんてない」

 

 紫髪の少女は、顔を上げ操作盤の前にいる友人に声をかけた。足は震え、視界は定まっていない。もはや満身創痍といった様相だ。

 

「だけど、それ以上やったら倒れてしまいます……」

 

 そんな少女の有り様を受け、銀色の髪をした友人は、決断を戸惑っている。タッチパネル式のコンソールに指を置きながら、首を振った。

 

「付けてやれ。そうなったらそいつはテコでも動かない」

 

 暗闇から1人の少年が現れた。大人びた雰囲気を持っているにも関わらず、厨二病と揶揄されそうな眼帯をつけていた。最も、当人は未だ小学5年生であるため、ノーダメージではあるのだが。

 

「ヨナスさん……わかりました。じゃあ低圧低酸素ルームを起動します。ムクロさん、危ないと思ったらすぐに言ってくださいね」

 

「ありがと、シエル」

 

 シエルはタッチパネルを操作し、ガラスで隔てられた先にいるムクロに負荷を与える。轟轟と機械の駆動音を立てながら、低圧低酸素ルームはその役割を全うした。

 

「……やっぱキッツイわ。誰が考えたのよコレ」

 

 空気は薄く、気圧は低い。そんな環境が実現された部屋は、まるで標高数千メートルの高地で運動を行っているかのような負荷を与える。

 

 

「アインスとシエルさんの親父さんだろう。お前も会ったことがあるよな?」

 

「ちょっとだけね。昔、息子のことをよろしく頼むって言われたわ」

 

 

 ムクロは顎を触りながら昔のことを思い出す。あの日のことは忘れられない。

 

 

「随分と気に入られたようじゃないか。意味はわかってるんだろう?」

 

「まぁね。婚約を認める……とかだったらもっと嬉しかったのに」

 

「……それは、ご愁傷様としかいえないが……」

 

 

 ヨナスは困ったように頬を掻きながらムクロの言葉に反応する。

 

 

「わかってます。息子の成長の糧になれってことでしょ? アインスのお父さんの目は完全に息子に心酔してる目だし。でも私だってアイツの澄ました顔をぶっ飛ばしてやりたいと思ってる。だから頑張らなきゃいけないワケ」

 

 

 ムクロは疲労困憊な体に鞭を打ち、ボールを蹴り上げる。そして驚異的な跳躍力でもって、上空に蹴り上げたボールに追いついたムクロは、ボールの前で祈るように手を組み合わせた。

 

 態々苦境に自分を追い込み、魂を削ったのはこの時のためだ。今なら絶対に『あの技』を扱える。ムクロはそう確信していた。

 

 

 祈る。ただ信じる。今までの努力と、自分の才覚を思い出し、想って。

 

 

 

 見事悪神は、ムクロの願いを聞き遂げた。

 

 突如夜空など見えない筈の地中世界に夜が訪れる。

 

 ダークマターが辺りを暗く染めあげ、数百年、数万年前の星々の光が幻想的に瞬いた。

 

 余りに魅力的な光景に、シエルとヨナスの2人は息を呑む。

 

 星が……落ちてくる。真っ赤で忌々しい病んだ月が。不幸を呼ぶ赤い月が。こちらに向かって堕ちてくる。

 

 ムクロは赤い月を全力で蹴り込んだ。

 

 

『忌み月』

 

 

 

 

 

 

 

「……完成したか。お前だけの技が」

 

「……コレが……サッカー……」

 

 

 ムクロはあるはずのない夜空を幻視し、見つめていた。

 

 ──ー追いつけるはずのない流星に手を伸ばすために。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 どうしたんだ? シエルちゃん。兄貴なら走りに行っちまったぞ? 

 

 

 え? お話を聞いてもいいですかだって? 別に構わないけど俺に聞きたいことなんてあるか? 

 

 

 ……兄さんをどう思ってるか聞きたい? うーんあんまり考えたことがなかったけど……そうだな……

 

 

 最初の印象は、顔がいい癖に性格の悪そうな奴だなって感じだったな。目つきは鋭いし、無愛想。気にいる要素なんて特になかったよ。

 

 

 でもな。アイツのプレーを始めて見た時に気づいたんだよ。コイツについていけば最強になれるんだなって。いや、コイツについていければ、の方が正しいか。

 

 

 アイツ言葉は強いけど、なんだかんだ面倒見もいいし、付き合いもいい。ちぃせぇ頃に何度も付き纏ったらサッカーを教えてくれたよ。それからは世界が変わったなぁ。

 

 あんだけ強いと思ってた先輩たちも大したことないように思えたし、俺だって憧れだったスタメンに入れた。

 

 

 今となっては、アイツもすんげぇ大事な友達だよ。……もちろんシエルちゃんもな? 

 

 だけど心のどこかで思っちまうんだよ。

 

 ────―アイツはこっちを見ていない。何か……ひたすら……遠くのものを見ているような気がするってさ。

 

 

 それにアイツはとんでもなく強いのに……アイツの実力はこんなものじゃないんじゃないか? そういっつも思っちまうんだ。俺たちに何か隠し事をしてるってさ。

 

 

 

 でもどうしてもシエルがそんなことを聞いて回ってるんだ? お前の兄だろ? 

 

 

 

 

 ──────え……? サッカーを教えてくれ……? 

 

 おぉマジかシエルちゃんはてっきりサッカーが嫌いなのかと思ってたよ!! 任せろ!! 俺だけじゃなく、チームメンバー全員力になるぞ!!! ムクロとヨナスのやつなんか特にな!! 

 

 それにさ、俺はなんとなくわかるんだ。アイツに近づけるのはお前とムクロしかいないって。いつかあいつに見せてやれよ! 人の力って奴をよ!! 

 

 

 

 

 

 






【ご連絡】
活動報告にて、今まで行ってきた作中登場キャラの募集に加えて、ドイツ代表として選ばれて欲しいキャラの募集を行います。総勢10名程度と大勢のキャラが選ばれることになりますので、それぞれのキャラの深掘りは難しいかと思いますが、お力を貸してください。
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