イナズマイレブン 雷鳴への挑戦   作:For AP

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13話:一度の離別

 

 

 

 ベータの襲来から早くも1年の時が過ぎ去った。中学校に進学し、果たしてサッカー事情はどうなったのかというと……特に問題なくドイツ最強の座を手に入れることができた。まぁヒンメルクラウンのメンバーが多く同じ中学校に進学したし、当然だよね。

 

 

 俺も更に練習の時間と負荷を増やし、成長を遂げることができた。基礎能力から技術、必殺技の種類、必殺技の練度に至るまで、ある程度満足のいく水準に至ったし、そろそろ計画の決行に移ろうじゃないか。2年生になるまで後数ヶ月というところだし、時期も丁度いい。

 

 

 時は満ちた。

 

 ドイツから飛び出し、日の出る国へと羽ばたこうじゃないか。

 

 俺がいなくともドイツは更に強くなるだろうし、俺がいれば日本代表はもっと強くなる。心配はいらない。

 

 日本に行って円堂君の旅路を見守ろう。そして、彼らがもっと強くなれるように手伝うのだ。

 

 

 

 後は……ずっと避けていた両親への相談だな……アトリに忠告されてはいたものの、結局先延ばしになってしまっていた。中身は成人男性とはいえ、体はただの中学生。金銭的にも精神的にも自立していない時分だ。両親の意向を無視することはできないだろう……早く伝えておけばよかったと、今更のように後悔する。

 

 父さんは俺のことを妙に信頼してくれているし、大丈夫だろうけど……母さんは……まぁどうにか説得しよう。

 

 

 

 思い立ったが吉日ということで、俺は重い脚を引きずりながら、シアタールームにいる両親の元を訪れた。うちの両親は仕事が忙しく、家を空けていることが多いからこの機会は逃せないからね。

 

 

 

 両親は……俺の試合を見てるなぁ。ヒンメルクラウンでのデビュー戦の録画か……いつのまにか撮影していたのだろう。

 

 

[父さん。母さんちょっといいかな? ]

 

 

 俺は意を決して、両親に話しかけた。切り出しにくい話題だけど強引に持っていくしかない。

 

 

「なんだ?」 「何かしら?」

 

 

 映像を一時停止して、こちらに振り返った両親は未だに若々しい。もう30代を迎えているはずだけど、20代前半にしか見えない容貌だ。

 

 

[父さん、母さん話があるんだ]

 

「話? 珍しいな。グラウンドを壊したとかだったら、誰かに言いつけておけば、直ぐにでも人を呼ぶが?」

 

「全く、アインったら直ぐに物を壊すんだもの。サッカーってそんなにお金がかかるものなのかしら?」

 

 

 俺をなんだと思ってるんだこの親……壊そうと思ってこわしてるわけじゃないってのに……いや、壊してる時点で言われても仕方ないか? それと母さん、本来はここまでお金かかりません。認識を歪めてしまってすみません。

 

 

[違います。今後の俺の進路についてです]

 

「なんだ? なんでも言ってみなさい」

 

 

 俺は父さんと母さんの近くの椅子に座ったのち、父さんの返事に呼応するように、予め考えておいた言葉を紡いだ。

 

 

[俺。日本に1年間留学したいと思っているんだ]

 

「え? どう言うことなの? 日本?」

 

 

 母さんが戸惑ったように、言葉を漏らす。父さんは黙って此方を見つめている。

 

 まぁ意味わからなくて当然だ。俺がサッカーや守君にかける想いなど誰にもわからないだろうから。だからこそ俺は、本当のことは言えずとも、できるだけ誠実にこの2人に向き合わなければいけない。

 

 

[俺、昔日本に行ったことあったよね。その時に出逢った友達とサッカーしようって約束したんだ。だからその約束を果たすために1年間もらいたいんだ]

 

[今までもすごく我儘な息子だったと思う。迷惑もかけてきたと思う。でも俺がサッカーを頑張ってきた理由が日本にあるんだ。だから応援してほしい]

 

 

 今の俺に許されるであろう限界まで、理由を告げた。

 

 父さんは考え込むように、腕を組んで目を閉じる。直ぐに断られないだけ有情といったところだろうか。あまりに唐突な相談だ。それに中学生の時期の1年なんて凄く重要だろうし。

 

 数十秒沈黙した父さんを俺と母さんは見つめる。

 

 そして結論が出たのか、父さんは口を開いた。

 

 

「…………良いだろう。行ってきなさい」

 

「ちょっとアナタ!! アインにとって今は重要な時期なのよ!! アインはそろそろ私たち家業を継いでもらう準備に取り掛からなければいけない時期なのに……」

 

 

 どうやら父さんと、母さんの意見はすれ違ってしまったようだ。父さんはやはり味方をしてくれているようだけど、母の考え方は、別の意味で俺のことを大切にしてくれている。方向性と方法の違いというやつだな。

 

 

「1年間ならば問題ないだろう。アインは幸いにして、とても優秀だ。あまり時間をかけずとも、私たちの仕事は覚えてくれるはずだ」

 

「でも…………」

 

 

 父さんと母さんの話し合いに熱が入り始めた。立ち尽くす俺をよそに、ディベートを始めたのだ。メリットとデメリットを擦り合わせ、どちらの選択が俺のためになるのかを考えている。────流石高学歴……そんなところまで賢いのか……

 

 

「まぁいいじゃないか。アインは私たちの期待に応え続けてくれている。なのに私たちが息子の夢に応えられないってはなんとも道理が通らない。そうは思わないか?」

 

「だけど……」

 

 

 かなりの時間をかけて父さんは母さんを説得してくれたものの、母さんは頑なに首を縦に振らなかった。そして最終的に父さんが導き出した説得方法は……

 

 

「わかった。じゃあアイン。私とサッカーで勝負しよう」

 

[えっ? ] 「えっ?」

 

 

 母さんと俺の声が思わず重なる。父さんと俺がサッカーをするとなんで母さんを説得することに繋がるのだろう。正直意図はわからなかった。

 

 疑問に思いながらも、俺は父さんに従った。母さんは……父さんに背中を押されながらグラウンドまで歩いてきた。

 

 

「一対一で勝負だ。勝敗はどっちかが諦めるまでということで良いだろう。要するに疲れたら終わりだ」

 

 

 父さんにサッカーを教えてもらったのももう10年前になるのか……だったら、父さんに俺の成長を伝える丁度いい機会かもしれない。それに母さんにも俺のサッカーへの想いを知ってもらおう。

 

 

 

 そうして俺と父さんはサッカーボールを追いながら駆け回った。

 

 

 

 勝敗など語るまでもないだろう。流石に俺は現役でサッカーをやっているんだ。負けるわけにはいかないよ。

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ……本当に強くなったなぁ……」

 

 

 疲労でグラウンドに倒れ込んだ父さんは、空を眺めながら万感の思いを込めたかのように、そう言った。

 

 

[……父さんの協力のおかげでね。俺もここまでサッカーに集中できたよ]

 

 

 俺も父さんの隣に座り込んで話しかける。俺と父さんの対決を眺めていた母さんも近づいてきた。……懐かしいなぁ……サッカーを始めたばっかりの頃は、母さんもたまにこうやって練習を眺めていたっけか……

 

 

「アイン……凄いのね。ここまでとは思っていなかったわ……」

 

「……母さんわかったかな? 俺たちの息子はもうここまで成長したんだよ」

 

 

 父さんは母さんと話しながら頭の下で腕を組み、目を閉じた。

 

 

「アイン…………フットボールフロンティア・インターナショナルって知ってるか?」

 

 

 ──フットボールフロンティア・インターナショナル──通称FFI──イナズマイレブン世界において、世界最強の中学生を決める大会だ。シリーズ第3作目の舞台でもあり、最後の決戦。俺の夢の場所だ。

 

 でも、世界大会が始まるまで、まだ1年以上あるはずだけど、父さんは知っていたんだな。すでに発表はされているのだろう。

 

 

[うん。知ってるよ]

 

「そうか。アインなら知っていてもおかしくない。──―だったらそこに留学の条件をつけようじゃないか」

 

 

 寝転んでいる父さんは人差し指を空に向かって突き立てた。

 

 

「FFIで世界一になる。それが父さんと母さんとの約束、留学の条件。…………それでどうだい母さん。世界一という称号を持っておくことができるのならば。アインの将来を心配する必要もないんじゃないかな? 家業を継いでもらうにしても箔がつくしね」

 

 

 父さんの説得により母さんは考え込んだ。少しずつ風向きが変わってきたことを感じる。

 

 

「それに母さんはあまりアインのサッカーを見たことがなかっただろう? さっきの録画だって初めてだ。何か感じたんじゃないかな?」

 

「それは……」

 

 

 母さんは昔からサッカーに興味がないようだった。それは今でも変わっていない。だけど、俺たちの戦いは心を動かすことができたみたいだ。母さんはゆっくりと口を開いた。

 

 

「………………わかりました。アイン。日本に留学して良いわよ。だけど1年きっかりね」

 

[やったぁ!! ありがとう!! ]

 

「それと世界一になること。これも約束してちょうだい」

 

[わかりました。俺は必ず最強の称号を持って帰ります]

 

 

 勝たなければならない理由がまた一つ増えたなぁ。両親へ恩返しのためにも、俺は世界を手に入れる必要がある。ドイツ代表として、勝利の栄光をこの地に齎す。

 

 

「ははっ! 男なら世界一という称号に憧れるものだ。父さんは無理だったけど、息子が達成してくれるのなら、最高だなぁ!!」

 

「ふふふっ! 懐かしいわね。貴方が夢を追っていた頃が」

 

 

 大らかに笑った父さんは、かつての夢を噛み締めるかのように、目を瞑っている。母さんはそんな父さんを見ながら、微笑んだ。

 

 

 穏やかな時間が流れていく。そんな中で、父さんは表情を引き締め俺に忠告をくれた。

 

 

「シエルとアトリにも話しておくように。あと……誰を連れて行くのかも考えておきなさい。父さんと母さんはここから離れられないからね。留学する以上、自立しなければならないよ?」

 

[はい父さん]

 

「まぁアインはしっかりしているから心配していないけどね」

 

 

 

 アトリには話は済ませてあるし……話さなければならないのはシエルと友達……か。シエルは今家にいないから帰ってきたら部屋でも話をしよう。

 

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 ──その日の夜──

 

 

 俺はシエルに留学を告げようと、彼女の部屋を訪れていた。小さい頃は一緒にいることも多かったが、俺たちはもう中学生。殆ど話すことも、顔を合わせることも少なくなっていた。正直ちょっと気まずい。

 

 部屋の前に辿り着くと、控えていたシエルの専属メイドに頭を下げられる。たしかアトリの姉妹だっただろうか? 彼女より真面目で性格は正反対だけど容姿はよく似ている。

 

 

「アインス様。いかがしましたか?」

 

[少しシエルに用があってね。入っていいかな? ]

 

 

 畏まって話しかけてきたメイドに目的を告げる。最近アトリは敬語すら怪しくなってきたから、似た彼女に敬語を使われるとなんともむず痒い。

 

 

「……かしこまりました。お待ちください」

 

 

 なぜか驚いたかのような表情をした彼女は部屋の扉をノックし、シエルに俺の来訪を告げた。

 

 

「──シエル様。アインス様がお越しです」

 

「…………どうぞ。入ってください」

 

 

 久々にシエルの部屋に入ったかもしれない。いつのまにか女性らしく、可愛らしい部屋になっていた。

 

 

[シエル。ちょっといいかな? ]

 

「急にどうしたんですか兄さん」

 

 

 シエルは椅子に座りながら、勉強をしていたようだ。かなりの進学校に通っているようだから、地元の中学校になし崩しに進学した俺とは課題の量も違うのだろう。サッカークラブのみんなはアレクに合わせて進学したからなぁ……

 

 

[……勉強は順調か? ]

 

 

 意を決して話にきたものの、ここ最近話してなかったから本題を切り出すのが難しい。シエルに近づき、適当な話題を口にした。

 

 

「……兄さんには負けますけど、これでも主席なんです。勉強に困ったことはありません」

 

[そうか。頑張っているな]

 

「……皮肉ですか? いつも私に興味なんてない癖に……」

 

 

 そんなつもりはないけど……俺はシエルを妹として大切に思っているし、そう扱ってきた筈だ。

 

 

「兄さん以上に努力している人なんていないと思います。これでいいですよね。────それでなんの御用ですか? そんな世間話をするためにきたわけじゃないですよね?」

 

 

 あたりが強くて辛い。涙が出そうだ。なにが理由で嫌われてしまったのか、全く俺はわからない。コミュ障は治ってきたと思っていたのだが……

 

 

[1年間、日本に留学することを決めたんだ。父さんと母さんにも話を通してある。その報告にきた]

 

「…………そうですか。前に私は聞きましたし、反対する理由もありません。別に良いんじゃないですか」

 

 

 とてもそうは見えない。不機嫌そうに綺麗な顔を歪めている。興味がないと、無表情に返されると予想していたのだが、少し想像とは違った。

 

 

[そ、そうか。じゃあ来月から1年間いなくなるからさ。よろしく頼むよ]

 

 

 そう言い残し、居心地の悪い俺は部屋から出て行こうと身を翻した。なにをよろしくしたのか自分のことながらわからない。動揺の余り、適当な言葉が出てしまった。

 

 

 着ていた服の袖口を掴まれ、制止される。驚きが思わず漏れそうになるも、どうにか持ち堪えた。

 

 

「兄さんっていっつもそうですよね! 常に自分の道を貫き通して……周りの人のことは気にしない。……私がどれだけ兄さんのことを追いかけているのかも全然気づかない」

 

 

 シエルは訥々と疑問を口にする。冷たい口調には裏腹に、どこか苛立ちを感じさせる声音だった。

 

 

「多くの人が兄さんを追いかけていても振り返らないし、周りの人からどう思われていたって歪まない。…………どうしてそう生きられるんですか?」

 

 

 シエルは何か思い悩んでいるんだろうか? だとしたら俺は家族として、双子の兄として力になりたい。例え情けない兄だとしても、間違いなく血は繋がっているのだから。

 

 

[そんなの決まっているさ]

 

[後悔しない人生を歩むためだ。俺が日本に行くのだって夢を追うためだしね……不器用な生き方だとは自覚してるけど、結局他人からの評価なんて、人生からしたら瑣末なものだよ。]

 

「……面白いですね。本当に兄さんは変わりました……これもサッカーの影響なんですかね……」

 

 

 薄っぺらい言葉かもしれないけど、どうにかこの想いを伝えようと、俺は必死に言葉を紡いだ。口下手な性格をこれほど悩ましいと思ったことはなかった。

 

 

[変わったかなぁ? ただただシエルは頭がいいから、たまにはバカになって我儘に生きてみなよって伝えたかっただけなんだけど……]

 

「変わりましたよ。──今までは全く兄さんのことが理解できませんでしたけど、何となくわかったような気がします。それに──忘れてしまっていましたけど……昔、兄さんから我慢するなって言われたことを思い出しました。本当に小さな頃の話ですけどね」

 

 

 俺……理解されてなかったの? あんだけ仲良かった双子の妹に……? でも、何だかシエルの表情が和らいだような気がする。昔の話……は覚えてないけれど、少しは力になれたのかな? 

 

 

「それでは留学頑張ってきてください。あと……帰ってきた時を楽しみにしておいてください」

 

[えっ? どういうこと? ]

 

「ナイショです。ほらそろそろ私は寝るので、帰ってください……それとも昔みたいに一緒に寝ますか?」

 

 

 シエルは憑き物が落ちたかのように清々しい笑顔で俺の背を押した。シエルも大人になったんだなぁ……俺なんかよりよっぽど大人になったよ。だって……俺はシエルになぜ避けていたのかすらわからないんだから。

 

 

[それはまずいなぁ。そんな年齢じゃないよ]

 

 

 シエルが元気になって良かった。そう思いながら俺は部屋を出ていく。

 

 一抹の不安を抱えながらも。久しく冷え込んでいた兄妹仲が少し熱を帯びたように感じた。俺は暫くドイツを留守にするわけだが、シエルにも電話をかけようと誓った。

 

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 もう中学1年も終わりかよ。時間が流れんのはぇぇよなぁ──。サッカーばっかやってると、あっちゅーまに時間が過ぎるんだわ。

 

 にしても中学生プレーヤーも歯ごたえなかったよなぁ。スタメンも奪って、中学生大会も優勝した。こりゃもうドイツはもう征服したって言っていいよなぁ? 

 

 ん? 話がある? 早く言えよ。前置きなんて別にいらねーだろ。

 

 

 ────ハァ!? 日本に行くだと!?!? 

 

 何言ってんだ!! ────しかも来週から1年間!?!? もう家も用意してあるって? 

 

 おいおい!! うちのチームは来月イタリアと親善試合やるんだぞ!? 噂じゃああっちは国の代表選手を含んだベストメンバーで来るって話だ。勿論、噂のヒデ・ナカタだってな。

 

 だとしたらこっちのエースも不在ってのはおかしいだろぉ──!? 

 

 キーパーだからエースじゃないって? いや精神的な話をして……いやいや重要なのはそこじゃねぇよ!! いきなりすぎるだろ!! キャプテンのお前が1年も抜けるってなったら後任どうすんだ! 先輩たち不甲斐ねぇしなぁ……

 

 

 エッ!?!? 後任のキャプテンはヨナスに頼んであるって……? それに監督にも話を通してある……? 

 

 

 …………なんだよお前!! そこまで話を進めてたのかよ!!! 水くせぇなぁ……

 

 で理由は? ──夢を追うため? 日本で約束がある? 

 

 

 ────そりゃ卑怯だろ……俺が否定することなんて出来ねぇじゃんか。それに他の奴らにはもう話を通してあるんだもんな……

 

 

 ────わかったよ。ここはこの俺様! アレクサンダー・ハウゼンに任せろ。

 

 お前が帰ってくる場所はバッチリ守っておいてやるよ。任せとけ!! それにもっと強くなっといて、お前のことを驚かしてやるかんな!! 

 

 元気に過ごせよ──!! 達者でなぁ!!! 

 

 





次回、日本へ
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