イナズマイレブン 雷鳴への挑戦   作:For AP

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16話:帝国と影山

 

 

 ──帝国戦当日──

 

 

 

「みんな、紹介するよ。今日の試合。助っ人に入ってくれる。松野空介だ!」

 

「僕のことはマックスって呼んでいいよ」

 

 

 部員は新たに3人集まったようだ。守君が勧誘したサッカー部員をそれぞれ紹介してくれた。

 

 なんでも器用にこなす松野空介に、存在感が異様に薄い影野仁。陸上部から助っ人として入ってくれた風丸君。雷門中は更に個性的なメンバー揃いとなった。

 

 後1人はギリギリでメガネが入るだろうし、コレならば原作通りに帝国学園を迎え撃てるだろう。

 

 そうして練習試合の時間が近づいてきたので、俺たちは特別に貸し出された雷門中のメイングラウンドに立っていた。

 

 

 

 

 

 ゴォーーーーーー!!! 

 

 

 おお……すっごい土煙を立てながら帝国がやってきたみたいだ。本当に真っ黒なあれはバスなのか? 戦車じゃね? 

 

 俺は呆然としながら、校門付近に停められた帝国の装甲バスを眺めていた。帝国学園は敗北した学校を破壊するっていうぶっ飛んだ話があるから怖いよなぁ……意味がわからない。

 

 イナズマイレブンの権力関係はぶっ壊れている。何が起こってもおかしくはないからな。

 

 

 ま、壊そうってなったら俺が逆に壊してやるけどね。

 

 

 

 バスの屋上の屋上のハッチが開き、サングラスの男が飛び出してきた。……たしか、豪炎寺君の分析のために影山も来てるんだよな。

 

 どうしようかな……近くで見ていてもいいけど、豪炎寺君に俺がメガネの代わりになると思われてしまったら大変だし……なにより影山にバレたら面倒だし……離れておこうかなぁ……多分影山は俺のことを把握していると思うんだよな……

 

 

 

 ということで、俺は違う所から試合を観戦しようと、守君に話しかけるたのだった。

 

 

[守君。急にごめん急用を思い出したわ。少し出て来るね! 応援してるから頑張って!! ]

 

「お、おう! 心配するな! サッカー部は俺たちが守るからさ!!」

 

 

 サッカー部の面々が、帝国の練習風景を見て動揺している。薄情だとは思うが、この隙に抜け出してしまおう。

 

 

[守君たちならきっと勝てるさ!! ]

 

 

 俺はそう言い残し、その場を離れた。どこで観戦しようかな……っとムクロが近くの木に寄りかかりながらこちらを見ている。昨日話しておいた、帝国戦のことを覚えていたんだな。

 

 

[一緒に屋上から見ようぜ! ]

 

 

 俺はムクロに近づいて、共に観戦することを提案する。そうして俺とムクロは雷門中の屋上から試合を眺めるのであった。

 

 俺とムクロはフェンスに寄りかかりながら校庭を見つめる。俺たちならこの程度の高さから落ちてもなんともないから高所は怖くない。てか、怖かったら必殺シュートなんて使えない。

 

 

 

 

「あら? アインは参加しないのかしら?」

 

[……色々あってね]

 

「まぁ、あんなレベルの低い連中とサッカーやるなら、寝ている方がマシだものね。……本当に何が目的でこんなところに来たのかしら……あそこの……日本最強の帝国学園……? も全然大したことなさそうじゃない」

 

[……今はそうかもしれないけど! 将来どうなるかはわからないよ? 俺だって負けてしまうかもしれないじゃん? ]

 

「ハッ! 冗談言わないで。万が一にでも、億が一にでもそんなことは起こらないわ。私1人だって、あの程度の11人完封できるもの」

 

 

 信頼が厚いのも考えものだね。最早プレッシャーだよ。

 

 

[…………まぁまぁ見てなって。なんとなく俺の言いたいことがわかるはずだ]

 

 

 うーん……将来の彼らを知らないと、そう思っても無理はないのかもしれない。地道に練習を積んできた守君と違って、現在のサッカー部は数日サッカーを練習したばかりの人たちが多いからな……マックスとかメガネとか。全く練習してないのに、パスやシュートができるだけでもすごいってレベルだ。

 

 それに相対している帝国だって、ムクロからしたらまだまだに見えるのだろう。彼らの力は世宇子にもエイリアにも及ばないぐらいだから、世界レベルと言って間違いないムクロも辛口になる……か? 

 

 

 

 

 ムクロと雑談していると、そろそろ試合が始まるみたいだ。逃げていた壁山も無事に見つかったみたいだな。

 

 それぞれがポジションについたのち、審判がホイッスルを咥えた。

 

 

 ピ────ーッッ!! 

 

 

 試合が始まった。はてさて、どうなるのかな? やっぱりボコボコにされてしまうのだろうか? それともアルファの襲撃があって、最初からゴッドハンドを使えたり……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ──ーッ!!! 

 

 

「ここでホイッスルー!! 雷門中学! 何もできないまま10対0で前半が終了!!!」

 

 

 

 ────雷門が善戦する? そんなことは全くない。試合展開は常に一方的で圧倒的だった。

 

 

「……見てらんないわね。あんな汚いサッカー…………助けなくていいの?」

 

[────ここは見逃すしかないな]

 

 

 俺だって見ていて気持ちいいものではないと思うが、まだまだその時じゃない。今ばっかりは、自然な時の流れに身を任せるべきだ。

 

 

「あっそ。なんかムカつくから私がぶっ飛ばしてきてもいい? あの程度の奴ら私1人でもどうとでもなるわ」

 

[まぁまぁ、気持ちはわかるけど雷門はこの程度じゃあ終わらない。落ち着いてくれ]

 

「なんでそんなに期待してるんだか……」

 

 

 ムクロは悲しげにそっぽを向いて携帯を弄り出した。これはね。拗ねました。後でご機嫌取りをしておかないとまずいです。

 

 

 

「さぁ後半戦のスタートです。圧倒的な帝国リードの前に、どう立ち向かうのか雷門イレブン!!」

 

 

 後半が始まってもその流れは変わらなかった。圧倒的なボール支配率に加えて、帝国は必殺技の使用を始めたのだ。当然雷門では相手にならない。

 

 

『サイクロン』

 

『百烈ショット』

 

 

 眼前では守君が帝国学園の面々に痛めつけられていた。必殺技も使われているし、必殺技に慣れていない雷門の面々にとってはかなりキツイものがあるだろう。

 

 全く、影山の教育のせいとはいえ、痛めつけるのが露骨だよなぁ……俺も……たまに怪我させちゃうことはあるからあまり人のことは言いたくないけどさ。

 

 何も起こらずに、一方的な展開のまま暴力的なサッカーが行われ続ける。早く、早くきてくれぇ!! 見てらんないぞ!! 

 

 放送部の角馬圭太が、悲しげに声を張り上げる。

 

「帝国はこれで、19点目!! そして雷門のキックオフですが、メガネ以外は立ち上がれないぞぉ!」

 

 

 あ、誰か1人逃げてった。────メガネだな。

 

 ってことは──やっとか。彼が来るぞ。

 

 

「誰だあいつ!!」

 

「あんなやつうちのサッカー部にいたか?」

 

 

 雷門中の生徒であろう観客の声が聞こえる。……明らかに空気が変わったな。守君が目を見開いて、彼の方を見つめている。

 

 

「彼はもしや! 昨年のフットボールフロンティアで一年生ながらその強烈なシュートで一躍ヒーローとなった! 【豪炎寺修也】!!」

 

 

 彼が、豪炎寺君が来るわけだ。全く、彼はいつも遅いんだから。

 

 

「アイツは?」

 

 

 ムクロがもう一度試合に興味を持ったようで、携帯から目を離し、グラウンドを見下ろしている。ならば、教えてあげよう。彼がどんな存在なのか。

 

 

[雷門中のエースになる男だよ。そして、俺たちのライバルになるであろう男さ]

 

 

 そうして豪炎寺君が加入し、再び試合が始まったのだ。そこからの展開は劇的なものだった。

 

 

「いけ。『デスゾーン』」

 

 

 試合再開直後に、帝国は雷門からボールを奪った。そして、鬼道君の号令と共に佐久間、寺門、洞面の3人がゴール前まで迫る。

 

 そして、3人はタイミングを合わせ、回転しながら跳躍した。

 

 

『デスゾーン』

 

 

 ボールに暗黒のエネルギーが蓄えられたと同時に3人の蹴りが炸裂する。

 

 ボールは悪意の力に満ち、守君を痛めつけようとゴールへ向かっていく。

 

 

 

 にも関わらず、新たに加入した豪炎寺君はシュートを無視して、敵陣を駆け上がっていた。

 

 

「なんのつもりかしら? あのGKにあのシュートは止められないだろうし、フォローに回るべきなのに」

 

 

 ムクロは疑問符を浮かべながら、豪炎寺君の行いに文句をつける。確かに……普通ならその方がいい。だけど……

 

 

[あれでいいんだよ。守君は止めるから]

 

「え?」

 

 

 ムクロが声を漏らすと同時に、守君が掌を天に掲げた。

 

 

『ゴッドハンド』

 

 

 その手から黄金のオーラが放たれ、巨大な手が形成され、帝国の必殺シュートを真正面から受け止める。

 

 そして、数秒の均衡後、ボールは守君の手の中に収まった。

 

 

「止めたァァ!! ついに帝国のシュートを止めたぁ!!」

 

 

[ね? 言ったでしょ? ]

 

 

 俺は思わずドヤ顔をしてムクロに向き直った。しかし、彼女は冷たく、呆れたかのように手をひらひらと振るのだった。

 

 

「いけっ!! 豪炎寺!!」

 

 

 守君は間髪入れずに、豪炎寺君に向かって、ボールを力一杯投擲する。……繋がった! 守君の想いを豪炎寺君が引き受けたのだ。

 

 

『ファイアトルネード』

 

 

 豪炎寺君は、捻りを加えながら跳躍する。そして、炎を纏いながら猛烈なシュートをボールに叩き込んだ。

 

 おお!! 生ファイアトルネードだ!! やっぱりなんかあの技は一味違うんだよなあ……洗練されてるっていうか。原初にして至高っていうか。

 

 

「ゴール!! ついに、ついにぃ!! 雷門イレブン、帝国学園から一点をもぎ取りましたぁ!!!」

 

「なるほどね。だからアンタはあのキーパーが気になってるってわけ。ムカつくわね」

 

 

 俺はムクロに理不尽に頭をチョップされた。何か気に触ることをしてしまっただろうか。彼女は荷物を持ちながら、頬を引っ張ってきた。

 

 

「面白いものが見れたわ。先帰ってる。コレ、アトリから頼まれた買い物リスト。代わりに行ってきて」

 

 

 おいおい! 学校から飛び降りて帰っていってしまった……身勝手なやつだなぁ。

 

 これで帝国は豪炎寺君の威力偵察という、目的を果たし撤退していくわけだが──────ん? 

 

 

 謎の視線を感じる……場所は…………しまった! 嫌な人に見つかってしまった。結構な年齢のはずなのに、目がいいな。流石監督をやっているだけあって視野が広い。

 

 

「計画は変更? 撤退は無し……ですか? 徹底的に痛めつけろと?」

 

 

 鬼道君の不穏な話が、200メートルぐらい先から聞こえてきた。

 

 本来ならばここで帝国は撤退していくわけだが、影山は試合を続行させようとしている。まっずいなぁ。俺の存在が原作を少し歪めてしまったかもしれない。

 

 だってめっちゃニヤニヤしながらこっちを見つめて来るんだもんあのグラサン。絶対俺のことを知ってるよ……

 

 

 ………………………………。

 

 

 俺はどうしようか悩んだ末、近くにいる人たちからバレないようにこっそりと屋上から飛び降り、鬼道の前に降り立ったのだった。

 

 

 ストップ。試合を中断してくれ。怪我人を甚振るなんて酷いと思わない? 

 

 

「…………キサマ誰だ」

 

 

 鬼道君はその特徴的なゴーグルをこちらに向けながら、険しい顔でこちらを睨む。いきなり現れて試合を妨害するんだからそりゃ怪しいよな。鬼道君には言われたくないけど。

 

 

「アイン!! どこ行ってたんだよ!!」

 

[ごめんごめん少し遅れたよ……野暮用があってね]

 

 

 背後からは俺を心配する守君の声。雷門のキャプテンと帝国のキャプテンに俺は挟まれていた。

 

 

「邪魔だ、退け。どうなっても知らないぞ?」

 

 

 この頃の鬼道君物騒だな。影山の命令を遂行しようと、眼前の俺に脅しをかけてくる。まだ、闇の教えの影響が大きいみたいだ。

 

 

[待てって、あそこで高みの見物してるグラサンに伝えて欲しいことがあるんだ]

 

 

 俺は鬼道君を引き留め、どうにか帰ってもらおうと言葉を紡ぐ。守君に不自然に思われないようにしないとなぁ。

 

 

「……言ってみろ」

 

 

 

 

 

[オマエらは余計なことはしないで、とっとと帰れってね]

 

 

 

「なんだと!?!? ────なんでしょう」

 

 

 鬼道君は俺の言葉に反発するも、その上の影山はちゃんと話を聞いてくれていたようだ。さて、どう出て来るか……だが。原作と少し流れが変わってしまっている。予想がつかないなぁ。

 

 

 

 

「…………はい総帥。わかりました。お前たち撤退だ」

 

 

 よしよし、上手くいった。どうにか原作通りの展開に持ち込めたぞ。

 

 

[じゃあ不戦勝ってことでいいよね?]

 

「……構わん」

 

 

 随分潔いじゃないの。助かる。だけどまだ話は終わりじゃないみたいだ。鬼道君は続け様に言葉を放った。

 

 

「監督がお前に興味があると仰せだ」

 

[そうだなぁ。お前がおれに話を通しに来いって言っておいてよ。あんなとこで偉そうに見てないでさ]

 

 

 先ほどの暴力サッカーを我慢して見ていたせいか、俺も少し攻撃的な口調になってしまっている。まぁ影山に対してだから許して欲しい。

 

 

「────ッッ! キサマ!!」

 

 

 俺の影山を侮辱するような発言に、鬼道君は気を悪くしたのか、こちらを更に睨みつける。

 

 

[冗談冗談。あんなに怪しいやつに来られたら不審者出没って通報されちゃうよ。そのうち帝国に行くから待ってろって伝えといて]

 

「…………精々後悔しないことだな」

 

 

 俺のあからさまな挑発に気づいたのか、鬼道君は会話を切り上げ、マントを翻しバスに乗り込んだ。早く仲良く会話したいものだ。

 

 

「アイン!! 大丈夫だったか? なんか変なこと言われなかったか?」

 

[ちょっと話してただけだよ]

 

 

 こちらを心配そうに見つめていた守君が、鬼道君が去ったことにより近づいてきた。試合の終了を告げよう。

 

 

「でもあいつら撤収していくみたいだけど……?」

 

[あぁ帰るってさ]

 

「えっ!! てことは俺たちの勝ち!?!?」

 

[まぁそうじゃないかな? ]

 

「──────勝ったぞおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 俺の発言を聞いた守君が大声で、雷門中の勝利を告げる学校が歓喜の声で揺れる。

 

 

 ────ふぅ。なんとか納めることができたか……危ねぇ校舎を壊されるとこだったわ……それはちょっと致命的な原作からの乖離だ。侵略者編で破壊されてしまうとはいえさ。

 

 でも、影山にも目をつけられてしまったかぁ。やっぱりあの計画を進めるべき……だな。そうなると、暫く時間がなくなりそうだなぁ……

 

 時間を見つけて帝国に行かなきゃいけない。

 

 

「アイン! こっちこいよ!! みんなで勝利を祝おうぜ!!」

 

 

[まってくれぃ!! ]

 

 

 そんな守君の誘いに乗って、俺も部員の輪に加わり勝利を祝うのだった。

 

 

 




 書く上で調べてみると、帝国の噂は誤解だったということがわかりましたが、アインは知らないということでよろしくお願いします。

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