雷門中サッカー部は尾刈斗中に無事勝利し、廃部を免れた。
それに尾刈斗中に勝利したということは、次はフットボールフロンティア地区予選に挑むことができる。初戦の相手は勿論……
「野生中ですよ」
……に決まってるよな。部室に入ってきた顧問の冬海が眠たそうな声で断言する。こういう時にしか顔を出さないのに偉そうだなこの人。
あと来訪者は、先生だけじゃなくて……
「ちぃーす!! 俺土門飛鳥。一応DF希望ね」
新入部員が新たに加わったわけだ。彼は土門飛鳥。現在は帝国のスパイだけど、将来的には雷門中の頼れるDFとして長く活躍し、世界編ではアメリカ代表に選ばれるぐらいの成長性を秘めている選手だ。
スパイであったとしても不足しがちな守備層を補えるから、総合的に見てプラスだろう。どうせ心を入れ替えてくれるしね。
「瞬発力・機動力共大会屈指だ。特に高さ勝負には滅法強いのが特徴だ」
土門君は皆に自己紹介しながら、次戦の野生中について忠告をくれる。野生中の高さに要注意……か。『イナズマ落とし』が必要になるわけだな。そのために、秘伝書を手に入れて練習すると……
でも別に野生中の高さという長所に対し、同じ分野で真正面から闘わなくてもいいと思うんだけどなぁ……例えば、絶対に奪われない位置からシュートを打つとか……相手の長所を避けて戦うってのも一種の戦法だ。
まぁ、まだ雷門中の頭脳は帝国にいるわけだから致し方ないところはあるけどさ。ここは俺が内緒で手を出しても良いかもしれない。
俺はそうして野生中の攻略法を考えながら黙って壁に寄りかかっていたのだが……新入部員である土門君がこちらに顔を向けながら近づいてきた。
「ちょっと君! これここまで来る途中にあった人に、サッカー部のアインスって人に渡してくれって頼まれたんだけど、君で合ってるよね?」
[──? 合ってるよ]
「おお! そうか。じゃあコレ。頼まれたやつね」
土門君は制服の内ポケットにしまわれていた黒い手紙を取り出し、こちらに差し出してくる。
俺はその手紙の贈り主を考えながら受け取り、早速封を切った。──心当たりはある。
中身は……だよね。土門君から手渡されたわけだし予想は簡単だった。……全く露骨な真似をするなぁ。俺のことバカだと思ってないかな?
まぁ良いや、早速練習に取り掛かるようだ。俺も練習の様子を見にいくとしよう。後……彼に声をかけなきゃな。
[ちょっと良いかな? ]
「ん? なんだい。僕に用でもあるの?」
[そうそう。マックスに提案したいことがあってさ……]
そうして雷門中は野生中の空中戦に対応するべく、新たな必殺技を模索し始めるのだった。
──河川敷──
「「新必殺技! ジャンピングサンダー!!」」
「シャドウヘア!!」
「壁山スピン!!」
サッカー部の一年生が早速必殺技の習得を目指し、それぞれの想像力を振り絞りながら模索を繰り返しているようだが……
「野生中との試合までに新必殺技なんてできるのかしら?」
隣に立ちながら練習を見つめる木野さんが、不安げに声を漏らした。
[…………あれは無理だね。まだ少林と栗松と宍戸は必殺技を覚える段階にない。もっと基礎的な技術を磨く必要があるかなぁ〜]
「そうよねぇ……」
誰しもがオリジナルの必殺技を覚えたいと考えるものだが……自分で必殺技を生み出すのってすごく難しいんだ。誰かの指導があったり、秘伝書を見ながら修行すると、かなり習得は楽になるんだがなぁ……俺は意地を張ってオリジナル必殺技を最初に覚えようとしたから時間がかかったけどさ。
「そういえば、アイン先輩って必殺技を使えるんですか? 結構お詳しいみたいですけど?」
音無がこちらの顔を覗き込みながら、質問してきた。嘘を言う必要はないかな……?
[──勿論さ。使えないんだったらこんなに偉そうなことは言わないよ]
「だったら私! 見てみたいです!!」
「私も気になるわ。アイン君の怪我ってどのぐらいになったら治るのかしら……?」
音無の興味津々な視線に木野さんも追随する。あまりに純粋なその視線に、嘘をついている俺は心を痛めた。何度も嘘をついて生きてきているわけだが、未だに慣れないなぁ……この感覚。
[股関節にちょっと問題があってね……そうだなぁ。フットボールフロンティアを優勝する頃にはサッカーやってもいいって言われるぐらいかなぁ……? ]
「それは残念ですね……」
脅威の侵略者編ぐらいの時になれば、俺も参加できるだろう。あの時期ってかなり欠員が出てしまうはずだからなぁ。そこを補いながら、実力を底上げしていきたい。
[まぁいつか楽しみにしててよ。面白いとは思うからさ]
「楽しみにしてますね! カッコいいの期待してます!」
「完全に治してからよ? アイン君はしっかりしていそうだけど、どこか無茶しそうだもの」
木野さんは人に対する理解力が頭抜けているよね。本当に中学2年生なのだろうか。俺は守君と木野さんがお似合いだと思う……野暮な思考に陥ってしまったな。伝えたいこともあったし、この機に話しておくことで挙動不審を誤魔化そう。
[気をつけるよ。──そうだ。暫く部活を休んでいいかな? ]
「あら、どうかしたの?」
[ちょっと用事があってね。野生中の試合を見るのは難しいかもしれない]
「ええっ! アイン先輩の解説を楽しみにしていたのに〜」
音無は試合中に気になることがあると、どんどん質問してくる。だから色々と知識を教えているんだ。吸収が早いから頼りになるマネージャーだ。
「じゃあ私! 試合を録画しておきますね!」
[おお! 助かるよ]
こんな風に気がきく後輩だしね。……よし。2人の許しも得たことだし、呼び出しに応じるとしようか。
俺がいなくとも、原作通り無事に秘伝書を見つけてイナズマ落としを習得できると良いなぁ。
それに……マックス君も必殺技を無事に習得してくれると良いんだけど。彼、センスあるからちょっと教えただけでもキッカケを掴んでいたし、期待できるだろ?
別に空中戦に付き合う必要なんてない。野生中程度じゃシュートブロック技を持っていないんだから、自陣からシュートを打ってしまえば良いんだ。
──帝国──
暗い部屋で影山はただ1人、ボンヤリと光るディスプレイに照らされながら送信されてきたデータを確認していた。
マルチディスプレイに表示されていたのは、1人の選手のデータ。影山が取り急ぎ協力者の力を借りて、入手した情報だった。慣れた手つきでキーボードを叩きながら、彼は自ら分析を進めていた。
カタカタ、カタカタカタカタ……
滞りなく進んでいた作業が何故か中断された。そして影山は、不意をついたかのように口を開いた。1人しかいない空間であるにも関わらず。
「君はどこから入ってきたのかね?」
────影山が座る椅子の背後から、人影が突如現れた。その人物は黒く染まった衣服を身に纏い、意図的に顔を隠していた。
「こんなところに正面から入ってくるバカなんていないだろう。抜け道を使っただけだ」
影山は侵入者に背後から言葉をかけられ、高機能な椅子を回転させることで向き合った。そして侵入者は続け様に言葉を紡ぐ。
「それで? 俺のことを呼び出したわけだが、何か用事でも?」
侵入者は傲岸不遜な態度で影山に迫る。しかし、影山も唐突な侵入者に動揺した態度は見せなかった。
「……オマエは何故、雷門中に潜伏している? 何故、日本に来た?」
「質問を質問で返すなとはよく言ったものだ。かなり不快だな。……だが今回だけ特別に応えてやろう」
影山の質問に対し、侵入者はあくまでも高圧的な態度を崩さない。高身長な影山と比べると些か小柄で、中学生ぐらいの時分であると言っても過言ではないはずなのに。
侵入者は一呼吸おいて、口を開いた。
「雷門が俺のライバルになり得ると思ったから。それだけだ」
数瞬の静寂が永遠のように感じられる。それほどまでに空気が張り詰めていたのだ。
「……アインス・リヒター。ドイツ国内ではフィールドの天帝と呼ばれ、小学1年から常にフィールドに立ち続けている。生涯無失点の究極のGK。必殺技使わずに全てのシュートを止め、試合をコントロールしてきた男……と」
影山はディスプレイに表示されている数値に目を通しながら呟いた。
「紛れもなく天才的だな……オマエはヨーロッパでもトッププレイヤーとして扱われている。そんな経歴を持つ男が、何故こんな辺境に興味を持った? しかも何故、雷門中がお眼鏡にかなった? 不可思議でならない。いくら考えても不合理だ」
「…………」
影山は普段よりも饒舌に語り続けた。しかし、一方のアインは微動だにせず、ただ影山の言葉を聞くばかりだ。
「あのお方にも、有望視されているその才覚。あのような弱小校にいては無駄にしているとは思わんかね?」
話し終えた影山はアインを見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。まるで、アインの全てを理解したかのように。
「……早く本題に入れ」
アインは静観をやめ、機嫌を損ねたかのように声音で影山を急かした。
「落ち着け。私がオマエの試合を見たことがある。正直に言って驚いた。世界とはここまでなのか、とな」
「しかし、また気づいたのだ。オマエが私の手をとったならば世界一のプレイヤー、世界一のGKになれるとな」
影山は両手を開き、大仰な態度で嘯いた。
「私はサッカー界の頂に立つ。私と共に天へと至ろうではないか。手を取れ天帝よ──────────ッッ!!」
影山が手を伸ばしたと同時に、アインからかつてないほどの怒気が溢れ落ち、空気が凍りついた。影山でさえも表情を強張らせている。帝国の理事長室に殺気が満ちた。
「……わかった。正してやろう。オマエの思い上がりを」
──グラウンドまで着いてこい。そう言い残しアインは部屋から出て行った。その後を影山は無言で追っていく。
帝国に数多く存在しているグラウンドの一つ。人気が全くないフィールドの中心でアインと影山が相対していた。まだ昼時であるにも関わらず、薄暗いフィールドは照明によって照らされていた。
アインと影山がそれぞれライトに照らされ、影が交差する。
「オマエのサッカーへの想いは絶望で塗り固められているのだろう。……俺はそれが悪いとは言わない。強い想いは例えネガティヴなものだったとしても、強い力となる」
──だが
そう但書をつけたアインは道中で拾ってきたサッカーボールを足元に落とした。
「だが最良ではない。最強には至らない」
影山に向かって断言したアインは指を弾いた。そのルーティーンに従って、アインの影が人の形をとる。
2人デュプリを出したアインは、大地を力強く踏み締め、回転しながら仮想宇宙へと跳躍する。あまり踏み込みに土埃が舞った。
アインとデュプリが完全にシンクロした動きを取りながら、外宇宙のエネルギーに満ちたボールを踏みつける。
サッカーボールはデスゾーンを象徴する正三角形が、幾重にも積み重なり形成された螺旋を潜り抜け、その力を増幅させていく。
そして最後のデスゾーンは完成したのだ。
『ラストデスゾーン』
「希望は絶望を凌駕する。だから……オマエのサッカーはいずれ敗北する運命にあるわけだ」
影山の頬を掠めながら打ち込まれたその一撃はゴールを吹き飛ばし、帝国学園の外壁を破壊する。
強烈な破裂音や破砕音と共に帝国学園が揺れ、衝撃を感知した警報設備がけたたましい音をあげた。
「その技……は……」
影山が目を見開きながら、今し方目撃した必殺技の軌跡をなぞる。
「帝国の必殺技、デスゾーン。この技はその極致。俺が生み出した必殺技ではないが、サッカーの未来を守るための力の一つ」
振り返ったアインはフードが脱げ、素顔を晒していた。蒼い瞳が影山を貫く。
「この技をどう見る? 影山。俺はお前に従うことは決してない」
再度指を弾くことでデュプリを消したアインは、警報を聞きながらフードを被り直した。
「だからと言って取引に応じないというわけではない。また来る。その時までにはもう少し建設的な話ができるように準備しておけ。例えば、プロジェクトZについて……な」
「オマエ……何処でそれを……」
その言葉を聞いた瞬間、影山は放心していた心を取り戻し、アインが居たはずの方向に目を向けるが…………そこにはもう誰もいなかった。薄暗いサッカーグラウンドに残された影山は1人、額に手を当てる。
「──総帥。一体今の揺れは……ッ!! この跡は一体!?!?」
「フフフ……フハハハハ!!」
「総帥……?」
「面白い。アレがデスゾーンの末路か!! ……鬼道! 私は未来を見たぞ!!!」
「……………………」
────電話が鳴った。…………ムクロからだ。
もしもし、どうかした?
──怒ってないよ? ちょっとイラつくことはあったけど、ストレスはすぐに発散したからさ。
…………うん。別に何も壊してないって。そんなことよりどうかしたの?
あれ? 今日も試合見にいったの? 野生中まで行ったのかぁ。
夏未さんがついて来いっていったから? アトリも暇つぶしに連れていった? あと後輩ちゃんも? いいね!! 仲良くてさ。
──別に母親ズラしてるわけじゃないって。
雷門中はどうだった? ────勝ったか。当然だね! ──2対0で勝利……必殺技を使って得点したのかな?
……そうだよね。得点源は豪炎寺君と壁山の『イナズマ落とし』とマックスの『すいせいシュート』か。
──あぁ、彼に必殺技を教えたよ。ロングシュート技は便利だからね。彼器用だし成功させてくれたのか。
──で何か感じたかな? 雷門中の試合を見るのも3度目だと思うけど。
────気づいたか。雷門中は試合中に常に進化し続けるんだ。絶対に勝てないであろう奴らにも諦めないから手が届いてしまう。後は根性でやり遂げる。そんな奴らなんだ。まだまだ足りないけどね。
あ、そうそう。興味があるならマネージャーやる?
────そう? 夏未さんが興味ありそうだし、ムクロは面倒くさがりだもんね。
────夏未さんが守君を気にしているって? 流石、乙女心はよくわかるじゃないか。
──えっ! そんなに罵倒されること言ったかな? これでも乙女心は理解しているつもりなんだけど。
??? 電話切られちゃった。怒らせたかな? ……心当たりはないけど、何かお土産でも買って帰ろうかな。