夕暮れの稲妻町はレトロな雰囲気が感じられ、どこか寂しくも懐かしい感情を抱かせる。帝国学園からの帰り道は朱く照らされていた。
[ただいま〜]
俺は必殺技によって喧騒に包まれた帝国学園から逃げ出し、雷門中から徒歩5分程度のところに建築された一軒家へと帰宅した。ムクロのご機嫌を取るために、勿論ケーキを忘れずに買ってきた。
[お帰り]
新築の暖かな光とアトリのお気に入りのアロマの香りに包まれる。帰ってきたんだなって落ち着くから好きな匂いだ。それに……今回は珍しくムクロが出迎えてくれたようだ。いつもはソファーに寝転がりながら携帯をいじっているのに。
「どうも。お邪魔しているわ」
靴を脱ぎ、俯いていた顔を上げると、家にいるはずのない顔が視界に映る。……夏未さんが家にいる……だと? なぜ……
「変な顔してるわね。友達なんだから家に呼ぶぐらいのことはするでしょうに」
「え? 別に表情なんて一つも変わってないけれど……」
ムクロの言葉を聞いた夏未さんは不思議そうに首を傾げる。そりゃポーカーフェイスは常に維持してますから。これを貫通してくるアトリとムクロが特殊なんですよ。
来客は夏未さんだけではなく、もう1人いるようだ。いつも2人と一緒にいる女の子が見える。
[君は? ]
どこか彼女にずっと見覚えがあった俺は、すぐさま疑問を口にする。
「アインス先輩。初めまして……神門杏奈と言います」
彼女は薄橙色の艶やかな髪を揺らしながら自己紹介された。涼しげな声がなんとも心地よい。
……あ!! 思い出した!! そうそう! 神門さんだよ!! アレスに出てきた雷門の女帝……だっけ? マネージャーになる夏未さんポジションの人!!
ま、まぁそりゃ雷門中にいてもおかしくないよな。別にアレス時空じゃないとは言っても、存在してはいけないなんてことはない。もしかしたら伊那国島とかもあるのかな……? オリオンの敵キャラもいたり?
でもその辺のストーリーはアニメも流し見だったし、ゲームも当然やってないから記憶が朧げだなぁ。
そんなことを考えながらも、3人を連れて玄関からリビングへと移動し、ケーキを冷蔵庫にしまった。
「この子には将来的に私の後を継いでもらって、生徒会長を任せたいと考えているの」
夏未さんは神門さんの肩を優しく叩く。見どころのある後輩として彼女を認めているように暖かい瞳で見つめている。
成程、この2人の関係は先輩後輩だしそうなるのか。夏未さんは生徒会長と理事長代理を兼任しているって話だったし、後任への引き継ぎも兼ねているのだろう。
[でもどうしてわざわざ俺に報告を? ]
「報告……というよりも、貴方とは常々お話ししたいと考えていたのよ。だからこの機会にということで、ムクロに頼んで着いてきたの。お話できて光栄だわ。雷門中の貴公子さん?」
「ぷっ!」
煽るような夏未さんの一言にムクロが耐えかねたかのように笑いを溢す。その呼び名はなんだ? 俺知らないんだけど。
[おい! それ誰が言ってるんだ!! ]
俺の胸中は一気に騒めいた。想定外の渾名に視界がぐらりと揺れる。ただでさえ、ドイツでつけられた二つ名も恥ずかしかったのに……怪物だの天帝だの、貴公子だの……すぐに渾名をつけようとするんじゃねぇ!!
「雷門中の女子生徒の中ではよく噂されていますよ? ファンクラブなんてものもあるそうです」
神門さんからダメ押しされる。えぇ……俺の知らないところでそんなことが……? 嬉しいような……嬉しくないような……むず痒い感覚を覚えた。
「それに私自身。ムクロお姉様の彼氏さんに興味がありましたのでお邪魔したんです」
ムクロお姉様……? それに彼氏って何を言ってるんだ? 俺のことだとしたらただの幼なじみだから見当違いきわまりない。
「ちょ!! 何言ってんのよ!!!」
俺はその勘違いにポカンとしていると、ムクロが焦った様子で神門さんの口を塞ぎながら部屋から出て行った。神門さんは手をあたふたとさせながら引きずられていく……クールな雰囲気だけど意外とお茶目なのかな?
そして部屋に残されたのは、俺と夏未さんと……眠たげな目を擦りながらソファから起き上がったアトリだけだった。何だか絶妙に気まずい……
「まぁ……今のは忘れなさいな。人の口に戸は建てられないというものよ。所詮噂だもの」
腕を組んだ夏未さんが口を開くが……何の慰めなんだ? てか他にも噂があるのかよ……聞きたくないな……思わぬ事態に俺は目を閉ざした。
「ハッ! 寝ちゃってました!! アインス様おかえりです〜ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……」
するとふらふらと立ち上がったアトリが、その場の雰囲気を払拭するかのように喋り出した。ナイスタイミングだけど……目が酷く赤い。まさか野生中から帰ってずっと寝ていたのか? じゃあ夕飯の準備は全くできていない……俺はお腹がぺこぺこだ。
[……手伝うから夕飯の準備をしようか。──夏未さんも食べていきなよ。こう見えてアトリの料理は美味しいんだ]
早く栄養素を体に取り込まないと萎びてしまう。それに客人である2人にもてなしも必要だろうし……そう考えた俺は夏未さんにウチで夕食を摂ることを提案する。話がしたかったということだし丁度いいだろう。
悩んだように俯いた夏未さんは、自分のバックから手帳を取り出し、ペラペラと捲りながら予定を調べ始めた。
「……じゃあお言葉に甘えることにするわ。杏奈ももっと話がしたいでしょうし……私も手伝いましょうかアトリさん?」
夏未さんからはこちらを慮った言葉を聞き俺は焦りを覚えた。
まっずい!?!? どうにかそれだけは妨げないと!
[大丈夫だよ!! 俺がアトリを手伝うからさ!! お客様はゆっくりしててよ!!ちょうど2人も帰ってきたみたいだし]
俺は夏未さんの前に滑り込むようにインターセプトする。 彼女に料理はさせてはいけない。食材を無駄にするような行為だ。
「あら、そうかしら。貴方が料理できるなんて意外ね」
──夏未さんがとんでもなく料理が下手な方が意外だよ……と言いたくなるのを飲み下す。
[神門さんもムクロも待っていてね夕飯を準備するからさ]
はぁ……危ない……夏未さんに料理なんてさせたら倒れてしまうよ。肉体強度は高くとも胃袋を鍛えるなんてことはしてないからさ。
[早くしなさいよ]
帰ってきたムクロは偉そうにソファーに座り込んだ。手伝う気は無し……ですか。別にムクロも料理できないわけではないんだが、俺とアトリの料理を食べてからめっきり手伝ってくれなくなってしまった。
それと……傍に先ほど連れ去られた神門さんの姿があった。整えられた髪が乱れている。……一体何があったんだ。
──数十分後──
「美味しそうですね!」
雑談をしながら料理を手伝うこと1時間程度。ようやく料理の配膳まで完了し、有名なデザイナーがデザインしたというテーブルに座ることができた。品数が多くていつもより時間がかかってしまったなぁ。
「でしょでしょ!! お客様がいるから張り切っちゃいました!! このソーセージだって手作りなんですよ」
「……すごいわね。家庭料理なのにとても本格的だわ。雷門家よりもすごいかもしれない」
「えっへん! 私は何でもできるスーパーメイドなので!! 本当ならビールがあったら最高なんですけどねぇ……私だけ飲むのもアレなので我慢します!!」
アトリは私偉い! なんて言いながら、自分のグラスにワインを注いだ。いや……飲んでるやん。
神門さんと夏未さんがアトリの料理を褒め称えていたわけだが、確かに今日はいつもより手が込んでいる。品数も多いし、一品一品が丁寧に色鮮やかに調理されている。俺も手伝ったからわかるけど、かなり張り切っていたからなぁ。
──でも俺もビール飲みたいなぁ。前世は成人していたけれど、体の事情的に酒なんて飲んだことなかったからさ。
俺たちはドイツの郷土料理を食べ進めながら今一度、会話を始めた。
「それで本題に戻るのだけど、色々質問してもいいかしら?」
[いいよ〜]
「貴方はサッカー部がどこまで勝てると考えているのかしら? 私には知識はないけど、ドイツでもサッカーをやってきたんでしょう?」
夏未さんはムクロから色々話を聞いているのかな? アトリの存在や家庭事情について何も聞かれなかったし、上手いこと説明してくれたのだろう。詳しいことは話さないように口止めしておいたから、概要しか話していないだろうけど……
[そうだなぁ。優勝できると思うよ? ]
「……それは本当ですか? 私にはとてもそうは思えませんが……今日だって薄氷を踏むが如し勝利です。結果的には2得点でしたけど、とても帝国中に勝てるようには……」
神門さんがそう論評する。雷門中は常に格上と戦い続けるからそう見えるのも仕方ないかもしれない。
[──妥当な評価かもね。後2回勝利すれば帝国中と戦うことになる。それまでにある猶予は一月程度……か。確かに時間はないし、現実味にかけるだろう]
「そうです。圧倒的に時間が足りない」
[だからこそ雷門中は勝つんだ。追い込まれた時にこそ力を発揮するのが彼らだからね]
一度負けたって、何度負けたって勝たなきゃいけない場面では絶対に勝つ。それが彼ら、雷門中なのだから。だからこそ、
[サッカーは嫌いかな? 嫌いじゃないんだったら、これからの試合も自分の目で確かめるといい。興味が湧いたらムクロにでも俺にでも言ってくれ。マネージャーとしても選手としても歓迎だよ]
「いえ……今の所は考えてません」
結構上手く説得したかなと思っていたのだけれど、神門さんにすげなく断られちった。……まぁ仕方ないか。あんまりマネージャーが多くても仕事ないもんな。俺もいるわけだし。
「アンタ……本当に節操のない勧誘するのね」
ムクロは呆れたかのように机に肘をついてこちらを見つめる。──マナー違反ですよ。
「……でも思ったよりもアインス君は熱い男なのね。サッカー部には暇つぶしで入っているのかと思っていたわ。怪我をしているという話でしたから」
ムッ! 心外だなぁ。これ程サッカー部に尽くしているのに。アドバイスだったりマネージャー手伝いだってちゃんとやってるんだぞ! 修行の時間を割いてさ。
[──彼らのサッカーは面白いからね。君だって薄々気づいているだろう?理事長代理さん? ]
「……そうね。確かに彼らはよくやっています。だけど、杏奈の言った通り、勝ち続けられるとは思いません。──だからこそ、彼らの行く末を見届けます」
サッカー部大好きじゃないですか。これだからツンデレは……さっさとマネージャーになりなさいよ。
「夏未ったらずっとこんな感じでサッカー部を見てウズウズしてるのよ。毎度毎度付き合わされるこっちの身にもなれっての。早くマネージャーにでもなりなさい」
俺の代弁をムクロが代わりにしてくれたようだ。図星を突かれた夏未さんは赤面する。神門さんとアトリはニヤニヤと彼女を見つめていた。
「でもなんでアインス君とムクロが同じ家に住んでいるのかしら? 疑問だったのよね」
「確かに私も気になりますね。親族なのですか? 」
面白がって笑っている俺たちに対し、夏未さんから的確な反撃がきた。まぁ俺はムクロがここに着いてきた理由知らないから黙っておこう。彼女がなんとか対応してくれるだろう。……と思っていたのだが……
「アインス様。サッカーの練習でもしてきてください」
[え! 今食べ終わったばかりなのだけど……]
アトリから主人に対する態度として考えられないような言葉が飛び出した。なんでムクロといいこの家の女性陣は俺を食後に運動させようとするのだ。
「ここからは女子会です! お邪魔虫はシッシッ!!」
ひたすらに料理を食べ進めていたアトリは手を払うかのようにして、俺を部屋から追い出した。俺一応主人……
追い出された俺は地下に降りて、いつも通りサッカーの練習を始めた。練習は最早生活の一部のようなもので、アトリに言われるまでもなかったわけだ。……追い出されたのがちょっと悲しかったけどね。
数時間練習を続けた俺は一区切りついたのでリビングに戻ると、夏未さんと神門さんの姿は既になくなっていた。おそらく夜も更けてきたということで、夏未さんの執事が迎えにきたのかな?アトリも車に乗れるけど考えなしに酒を飲んでいたからなぁ。割と完璧なメイドだけど、何処か抜けているのが彼女の魅力だ……と思う。
その後ケーキを買ってきたことを伝えるついでに俺も一つ食べようかなと冷蔵庫を覗いたのだが……
ケーキら冷蔵庫にはもうなかった。あったのは空っぽになったケーキの箱だけ。ケーキは全て消失していた……俺も食べようと思って多めに買ってきたのに……トホホ……女子会恐るべし……
アレスとオリオンのキャラのみ必要な場合は登場する可能性がありますのでご了承ください。殆ど登場させる気もありませんので流れは原作沿いのままという構想です。
ドイツ代表や登場キャラ募集も引き続きおこなっていますので、活動報告にて是非ともご協力お願いします。