私生活の忙しさによって更新頻度が低下してしまい申し訳ありません。
──ドイツ──
「快晴の空の元、イタリアとドイツの交流試合が今始まろうとしています!! 実況は私、マクスター・ランドがお送りします。解説はレビン・マードックさんです。本日はよろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いします」
ドイツの首都ベルリンにて、イタリア代表とドイツ代表の試合が行われようとしていた。
「久しぶりの国際交流試合ということもありまして、このグレイブランドスタジアムも超満員となっております。ドイツの皆さんにとっても、イタリアの皆さんにとっても、すごく注目度の高い試合となっているのではないでしょうか!! 」
実況者の言葉通り、スタジアムの収容可能人数ギリギリの人々が押しかけ、未だかつて無い賑わいを見せている。席がないにも関わらず押しかけた人々は、スタジアム外周に設置された巨大モニターでパブリックビューイングを楽しんでいる。
「マードックさん。本日の試合はどのような点に注目して観戦するべきでしょうか?」
「そうですねぇ。やはりイタリアの絶対的エース兼キャプテンであるヒデ・ナカタ選手と、公式試合で未だゴールを許したことがない守護神であるアインス・リヒター選手の直接対決に注目するべき……と言いたかったんですが、急遽出場を取りやめということになってしまいましたので……イタリアとドイツがお互いどれだけ攻め切ることができるか、という点に注目するべきだと考えます」
実況者は試合の前に、解説者に試合の見所を聞いた。そして、サッカー選手として世界的に有名であったマードックは自らの見解を述べる。
「ありがとうございますマードックさん。確かにドイツは当初予定されていた登録メンバーから変更されており、ドイツ側はGKのアインス選手、FWのムクロ・アスマ選手を欠いた陣営となっております。そして、キャプテンがアインス選手からヨナス・ポラック選手に変更されています」
実況者は早口に言葉を連ねた。試合の開始が刻一刻と近づいているにも関わらず、人々のざわめきがスタジアム中に反響する。誰しもが、ドイツ代表のベストメンバーの登場を望んでいたのだ。
「急遽出場辞退となりましたお二人はドイツ国内だけでなく、ヨーロッパの中でも有名な選手となっていますので残念ですが、それでもお互いのチーム共に将来を有望視されるスター選手揃いとなっております。まさに世界最高峰の試合が期待できるでしょう!!!」
しかし、実況は予期せぬ事態に動揺する会場を落ち着かせ、ボルテージを高めるべく力強く場を盛り立てる。流石は有名実況者である。人々の心を掴むその声は、人々の心をこの試合に繋ぎ止めることに成功した。
「フィールドの中央ではイタリアのキャプテン、ヒデ・ナカタとドイツのキャプテン、ヨナス・ポラックが固く握手を交わしています!!」
そして試合開始直前となり、選手達がフィールドに整列し始める。実況や観客が注目したのはグラウンドの中心に立つキャプテン2人だった。イタリア、ドイツ両キャプテンは今後のサッカー界を担うであろう俊英達である。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ……でもそちらはベストメンバーじゃないみたいだね。こちらはどうにか揃えたのだけど……」
ヒデとヨナスは握手をすると同時に、挨拶を交わす。しかし、何処かヒデは不服そうに意味ありげな言葉を並べた。
「──アインとムクロのことですかね。彼らは今ドイツにはいませんから当然出場できません」
ヒデの言わんとしていたことを理解したヨナスは眉間に皺を寄せながら、強く手を握った。
「全力の君たちと戦いたかったが、仕方ないか……」
「──確かに彼らがいなくなった穴は大きいです。だからと言って貴方たちが強くなったわけではないでしょう? 私たちを舐めないでいただきたい」
ヨナスのあからさまな挑発にあえて乗ったヒデはさらに強くヨナスの手を握り返す。
2人ともにこやかに会話を交わしてはいるものの、溢れる闘志を御しきれていない。彼らの瞳には燃え尽きることのない炎が燃え盛っていた。
「おーっと!! 早くも2人のキャプテンはバチバチと火花を散らしております!! そんな緊迫感がこちらでも感じられ、私もどこか緊張してしまいます!!」
「良いことだと思いますよ。彼らにとっては初の国際試合でしょうし、ガチガチに緊張してしまうよりも覇気に溢れている方が力を発揮しやすいはずです」
数多の経験を持つマードックは、優しげな瞳で試合に臨む子供達を見守っていた。
「確かにそうですね! 私はただ、この試合が白熱した試合となることを祈るばかりです。両キャプテンは早速コイントスをして、コートとキックオフを決定しました。……キックオフはイタリア代表のようですね────まもなく試合開始です」
ピ────ッッッ!!!
イタリアとドイツの試合はつつがなく始まった。果たしてどのような試合になるのか、彼らの戦いは世界中の人々の心を高鳴らせた。
その試合を遠く離れた日本から観戦する人々がいる。
──日本──
「そろそろ試合始まるけどアンタ見ないの?」
テレビのリモコンを手に持ったムクロは、ヨーロッパの有名ブランドのソファーに身を委ねながら、リビングを出て行こうとするアインに声をかけた。
「あぁ。観戦する必要性を感じないからな」
「……あっそ、チームメイトに随分と薄情ね」
しかしアインから返ってきたのはつれない返事だった。アトリは呆れたようにアインに向けていた視線をテレビの液晶へと移す。
「それよりも俺にはすべきことがある」
「どうせいつもの練習でしょうに」
ムクロの問いかけにも、アインは決して振り返らない。ただ前を向いて歩き続ける。
「残された時間は少ない。俺は負けるわけにはいかないんだ」
アインはそう言い残し、リビングから離れて行った。行き先は書斎にある本棚の前。そして本棚の前に立ったアインは詰め込まれた分厚い書籍の内、一冊を押し込む。
──ガタガタと音を立てながら部屋が揺れ、本棚が動くことで本棚の裏に隠された階段が現れる。
アインはその暗がりに繋がる階段を1人、降って行った。
「……ったく。何を怖がってるんだか。今のままだって世界一なんて簡単でしょうに」
ムクロは物憂げな表情で携帯電話を開く。その待ち受け画面はヒンメルクラウンのメンバーたちとの思い出だった。
ドイツの国内大会で優勝した時に撮った写真が、既に懐かしく思える。まだ、あれから2年も経っていない。ドイツを離れて半年も経っていないのにも関わらず……
「あれ? アインス様はどこに行ってしまったんですか?」
感傷に浸るムクロを他所目に、入浴を済ませたアトリがリビングに戻る。裸にバスタオルを巻いただけの彼女は、思春期の少年と同居しているとは思えない程に無防備だった。
「アンタその格好で出てくるのやめなさいよ……」
ムクロは呆れたように半眼を向ける。ごく一般的な感性を持つ彼女にとって、同居人のアトリはだらしなく見えてしまった。まるで、名家の使用人であるとは思えないほどに。
「アイツはこれから練習だってさ。全く……これからイタリア戦があるっていうのに……」
「そうでしたね! 私も妹から見ろってメールが入っていました。危ない危ない」
扇情的な格好のままキッチンに歩く彼女は、熱った体を冷ますために、冷蔵庫で冷やされた水をグラスに注いだ。
「観戦しないのもアインス様らしいじゃないですか。興味のないものにはとことん興味がないですから」
「そんなの長い付き合いになるから私だってわかってるわ。……それでも頑張ってるアイツらに冷たすぎるって話」
「──そうですねぇ。サッカー仲間の皆さんが必死だったのは私も知ってます。アレもアインス様に追いつくためなんですかねぇ?」
グラスの中の氷がカラリと涼しげな音を立てる。
アトリはグラスを持ちながらムクロの隣のソファーに腰かけた。眼前には70インチの大型テレビ。そして、試合中継に映るのはフィールドを全力で駆け回るドイツ代表の姿。
試合はすでに始まっていた。
ドイツ代表とイタリア代表の実力は拮抗しているようだ。一進一退の白熱した試合は人々の心を震わせる。
──とは言っても彼女達は試合だけでなく、会話にも意識を向けているようだが。
「……ま、細かい理由は人それぞれでしょうけど……そういう奴が多いんじゃない?」
アトリの含みを持たせた問いに対し、ムクロは試合を注視しながらボソリと呟いた。
ドイツ代表、彼らの心境を誰よりもよく知るムクロは、フィールドに立つ選手たちの顔を見ながら思いを馳せる。
(アイツに憧れたやつ)
(アイツに誇りを委ねた奴)
(アイツに夢を託した奴)
(……アイツを好きになっちゃったバカ)
「全員バカだけどさ……それでも諦められないのよ」
自分自身が当事者であるかのように、自分に決意を思い出させるかのように噛み締めながらムクロは言った。
──そうですか。無駄だと思いますけどねぇ。
アトリは問いへの答えを聞き流すかのようにあっさりと受け流し、いつのまにか取り出したスナック菓子を口に運ぶ。
「……アンタってアインが居ないとキャラ変わるわよね……冷めてるって言うか……」
ムクロは自分の想いに対し、随分と軽い対応を見せたアトリに苦言を呈する。
「性格悪いって正直に言ってくれて構いませんよ。人って所詮そんなものです。私、アインス様以外に興味ないので」
「……あっそ」
「ムクロさんはまだ好感度高めですし、恋路は邪魔しませんよ……どうぞご勝手に。……ほら試合見なくていいんですか? 点取られそうですよぉ〜」
警告を聞いたムクロはハッとしたように、テレビから離れていた視線を正した。中継されている試合では、イタリア代表が絶好の得点機会を得ていたのだ。FWのヒデナカタがドイツのDF陣を軽やかに交わし、ゴール前に立つ。
『ブレイブショット』
ヒデナカタは足元のサッカーボールに足先を擦り付けることで、ボールをリフトアップする。そして、軽やかな身のこなしをもってボールにバイシクルを叩き込んだのだ。
──蒼い燐光を放つシュートがゴールを貫いた。シンプルながらも窮極まで突き詰められたその一撃は、生半可な力では遮ることすら不可能だろう。
「先制点はヒデナカタの必殺シュートだぁ!! ドイツのゴールキーパーは反応できなぁーい!?!? ──ゴール!! 先制点はイタリア代表!! 硬直した試合を動かしましたぁ!!」
「──ッチ! うっざ……」
ムクロとアトリ。仲の良いはずの2人の間には、意外にも険悪な雰囲気が漂っていた。
「──でもチームの雰囲気変わりましたねぇ。以前はピリピリとしていたっていうか、規律正しかったというか。軍隊みたいなチームでしたけど今はすごく楽しそうにプレーしてます」
「……まぁ確かにそう感じるかもね。別に楽しくなかったというわけじゃないけど、それだけアインの存在感は大きかったのよ。背後にアイツが立ってるのって結構プレッシャーなの。──うまくやったわね」
話を中断したムクロが見つめるのは、アインに変わってドイツのキャプテンとなったヨナスの姿。先ほどの失点を取り返すために反撃を見せる。
『ガンショット』
ヨナスは上空へと蹴り上げたボールを両足で挟み込み、捻りを加えることで、自身の体を擬似的な銃へと変え、射出する。ボールはライフリングの施された銃身を通り抜ける弾丸のように、猛烈な回転を帯びながらゴールを撃ち抜いた。
「負けじとドイツ代表も反撃ダァ!! キャプテンのヨナスが取り返し、1対1と同点に戻します!!」
スタジアムは熱狂の渦に包まれていた。少年少女が互いを高め合いながらサッカーという競技に向き合う光景はひたすらに心を打つ。観客は各々の国家の威信を賭けて戦う子供達に精一杯の声援を送る。
「アトリも知ってるでしょうけど、サッカーをしている時のアイツって人が変わるの。普段は無口なインキャだけど、その時だけは人なのか怪しいぐらい存在感が違う。だから油断なんてしてる暇は無かった」
「アインス様をインキャって言える人の方が少ないと思いますけど……でも皆さんいじっぱりですねぇ。どれだけ頑張っても意味なんてないのに」
「──真実だとはいえ、ほんっと性格悪い……」
試合を観戦しながらも、会話は止まらない。彼が、アインがいない時こそ語るべきことなのだから。
一方その頃、ドイツ代表はまたも危機に陥っていた。
「おおっと!! 前半終了直前にイタリアのFWフィディオ・アルデナがドイツの固いディフェンスを突破したぁ!? シュート体制にはいったぞぉ!?!?」
『オーディンソード』
フィディオの周りに光が収束し、足元に魔法陣が描き出される。そしてフィディオは引き絞った脚をボールへ叩きつけた。
シュートは黄金の剣と化し、ゴールを貫く。
「ゴール!! イタリア代表がここで点差を広げます!! ────そしてここで前半終了だぁ!! 1対2でイタリア代表のリードとなりましたが、劣勢のドイツ代表は後半どう動くのかぁ!!」
「……思ったよりもやるわね。私があそこにいればこんなことはなかったのに……いや、仕方ないか」
ムクロはただ見ているだけの自分に歯痒そうに、ただテレビを見つめる。だが、自分の決断を後悔することは許されない。仲間を置いてまで、あの男についてきたのだから。
「なんかまずそうな雰囲気ですねぇ……イタリアってそんなに強いんですか?」
「そりゃね。キャプテンのヒデは世界でも有数のストライカーとして扱われてる。それにさっきゴールを決めたフィディオだって、ヨーロッパ屈指のストライカーって話だから……私と、アインがいないんじゃ少し厳しいのも仕方ないわ」
彼女は最初からチームの勝利に不安を持っていた。だからこそ、応援をしようとしない彼の行いが悲しかったのだ。
「……負けはダメですよねぇ? アインス様に顔向けできませんからぁ……」
しかし、アトリにそのような道理は通じない。
彼女の瞳は仄暗く濁って見える。ムクロはその薄らな笑いが恐ろしい。
だが、彼女は自らの仲間達がこの程度では終わらないことを知っている。あの男に追い縋るのは彼女だけではないのだから。
「──見てなさいよ。サッカーはこれで試合が終わるほど懐が狭いスポーツじゃないわ。アイツらもね」
──だといいですねぇ。
アトリはそう囁きながら、新たに菓子の袋を開くのだった。
ドイツ代表(全国優勝チーム)なので、将来のドイツ代表は揃っていません。