「えぇっ!? ドクターストップぅ!?!?」
御影専農戦の翌日、次の対戦相手やこれからの練習について話し合おうと部室に集まった俺たちは衝撃の事態を目の当たりにしていた。
足をギプスで固め、松葉杖をついた豪炎寺君が部員に対し謝り倒している。
「すまん。次の準決勝には出場できない……」
そういえば……豪炎寺君は怪我をして離脱してしまうんだったか。俺はサッカーができなくなるような怪我とは無縁だったから忘れてたわ。
切り傷や擦り傷なんかはいつものことだったけど。
部員達は動揺した様子を見せているが……今後を知っている俺からしたら怪我したのが今で良かったというところだ。帝国戦前に治るわけだし、全く問題ないだろう。
……だって相手……オタク集団だし。
でも予想外の出来事はそれだけに止まらなかった。
「尾刈斗中が負けた!?!?」
円堂君の驚きの声と共に部室内が響めく。かつて練習試合で戦った彼らが、メイド喫茶に入り浸っている連中に負けたという事実は信じ難いようだ。
ま、彼らも地方レベルならそこそこの強さだったからね。種を見破ったり、圧倒的な実力差がないならば完封できる必殺タクティクスもあることだし、下馬評は割と高かったはずだ。驚くのも無理はない。
そうして原作通り次戦の相手が秋葉名戸に決まったわけだが……相手の情報は元新聞部の音無をしても皆無だった。全くマークされていない無名校だったのだから致し方ない。
どうするべきだろうかと困惑した空気が流れる。
それを払拭したのはいつも俺と共にベンチの守り人となっている彼だった。
「これは行ってみるしかないようですね。メイド喫茶に」
メガネくんが眼鏡を定位置に戻しながら語り出す。
「秋葉名戸学園のことを僕たちは何も知りません。コレは試合を有利に進めるための情報収集なのですよ!!」
どう考えてもメイド喫茶に行きたいだけだよね? サッカー部の面々はメガネの熱意に驚き、女性陣はそれぞれ苦笑いやジト目でメガネを見つめている。オタク君さぁ……
メガネくんはそんな反応も意に介さず、部長という責任者である守くんを説得し……
「調査に行くぞー!!」
……説得される守君もどうかと思うけど。
まぁ時間がかかって練習の邪魔になるわけでもないし放っておこう。この世界の彼らはゲームのように薬を仕込んだり、ハッキングをしてくるのだろうか? アニメの方向性だったら、そんなことはしてこないと思うんだけど……
ま、なんとかなるっしょ!!
皆がメイド喫茶に向かうということで俺は存在感を消し、漂う空気と同化する。
行きたくないんだよね。メイド喫茶。
所謂キャラ違い、解釈違いというやつだ。俺はクールなキャラを目指しているんだ。前世ならまだしも、今世では生まれた国も違う上にオタク文化に触れる時間はなかったんだ。行ったとしても何もわからない。
──てか、リアルメイドなんていくらでも見てきたから見飽きたんだよなぁ。前世なら喜んだかもしれないけど……今は食傷気味だ。
男としての成長なのか退化なのか……心に小さな穴が空いたような感覚を覚えながら、こっそりと部室を抜け出した。
──雷門中校庭──
目的のメイド喫茶までは少し距離がある。暫くは帰ってこないだろうということで、俺は木陰で昼寝をしていた。
木々の間を吹き抜ける風が心地よい。遠くで部活に励む若者の声が聞こえるのも青春を感じられて良かった。
しかしそんな穏やかな空間には決まって邪魔者が訪れるものだ。
「お──ーい!!!! そこのキミィ!!!!!!」
声でっか!? ビックリしたわ!!
大声によって叩き起こされた俺は慌てて上体を起こし、大声の主を探した。──かなり遠くないか? こんなに声って遠くまで聞こえるものなのか?
「俺は雷鳴仁!」
聞き覚えがあるような……無いような……見覚えがあるような……無いような。そんな先輩だった。前髪が一房黄色く染まり、バナナみたいだなぁ。
「キミの名前を教えてくれ!!」
[アインスですけど……急にどうしたんですか? ]
何かしてしまっただろうか? 話しかけられる理由なんてないと思うのだが。
「いやな! なんかビビッときたんだよ!! お前に話しかけた方がいいってな!!」
[──いや意味がわからないよ……]
──図書室──
全く……今日はなんなんだ? 個性の強い人たちによく話しかけられる。友人が増えるのは嬉しいが、あの先輩が言いたいことは結局よくわからなかった。
ほとんどの答えがビビッときた!! だもんな。とりあえず連絡先だけ交換させられたけど……使うことはあるのだろうか?
俺は不思議な出来事に首を傾げながら、授業中に読む本を手に入れるために図書室を訪れた。大きな声を聞いていたら眠気なんてどっかいっちゃったよ。
本は好きだ。学校での暇な時間を潰せるからな。授業なんてただの時間の無駄だし、時間を潰せる本は必需品だ。
コレと……コレと……コレでいいか。
足りなくなったらすぐに借りることができるから図書室は便利だ。静かで居心地もいいから暇な時はよくここにいる。
数冊の本を重ねて持った俺は本を借りるために図書館のカウンターを訪れる。
──いつもの司書さんではないみたいだ。生徒みたいだし図書委員の人なのかな?
[すみません。この本を借りたいんですけど……]
「わかりました。すぐに手続きしますね」
声をかけると彼女は慣れた手つきで本に貼り付けられたバーコードをリーダーに通し始めた。
「……いい本を選びましたね。……貴方はアインスさんですよね?」
一冊一冊本の表紙を確認しながら彼女はそう言った。まさか全部読んだことがあるとか言い出さないだろうな? そんな口ぶりだけど……
それに俺の名前知ってるんだ。……同じクラスじゃなかったと思うけど。
[そうですけど、何か? ]
「失礼しました。私は図書委員を務めております中目栞といいます。お声掛けした理由なんですが……少しお願いしたいことがありまして……あ、こちらお近づきの印です」
彼女は懐に忍ばせていた何かを差し出してくる。薄く、細長い……
[コレは……栞? ]
「そうです。サクラソウを押し花にした自信作です。もらってください」
桜のようなピンクの花びらを丁寧に乾燥させた一品だった。栞や押し花についての知識はないけれど、綺麗な発色で欠けもないそれは純粋に嬉しい贈り物だ。
[あ、ありがとうございます。……頼みたいことってなんですか? ]
どうして栞をくれたのかはわからないけど、流れで貰っちゃったし頼みを断りずらくなってしまった。……ハッこれが目的か! ──策士め!!
「それはですね……私を鍛えてくれませんか?」
[はい? ]
鍛える? 彼女はサッカープレイヤーなのか?
「私、見ての通り出不精の虚弱体質でして……それを少しでも改善できればな……と。────あ、なぜアインスさんにお願いするのかも気になりますよね?」
彼女は畳み掛けるかのように話す。
あぁ、トレーナー的な意味ね。尚更意味がわからなくなったけど……本当に今日はどうなってるんだ? 普段話しかけられることなんてほとんどないのに。
「それはズバリ、アインスさんの身体能力が人間離れしてるって気づいたからです!」
──部室──
校庭で昼寝し図書室で本を借りた俺は、間も無く帰ってくるであろう部員たちを待つために部室で本を読んでいた。マネージャーのみんなも出払っているみたいで、初めての静かな部室だった。
ガラガラと錆かけのドアが開かれ、光が差し込む。
「すまない。少しいいだろうか?」
背中越しに聞こえた声は、聞き覚えのないものだった。サッカー部の皆はメイド喫茶に行っているし……誰だろうか? 今日は話しかけられることが多いなぁ。
[──君は……]
振り返った俺は彼の顔を目にする。
思わず身元を聞いてしまったが……見覚えのある人物だった。────でもまだ雷門にいないはずでは……?
「俺は闇野カゲト」
彼はシャドウと呼ばれるストライカー。エイリア学園襲来の渦中にサッカー部に憧れて雷門中に転入するのだが、入部できずに忘れられ、ダークエンペラーズに所属することになる可哀想な人物だ。
だからまだ雷門中にいるはずはない。
彼は名乗りと共に目的を告げた。
「アインス・リヒター。俺に本当のサッカーを教えてくれないか?」
端的に語る彼は決意に漲る表情とは裏腹に不可解な目的を持っていた。
エースストライカーとして絶賛活躍中の豪炎寺君ならともかく今の俺は唯のベンチウォーマーだ。栞さんみたいに身体能力を見破った!とか言い出すのだろうか? そんな眼を持ってる人が沢山いたら流石に困る。
[どうして俺に? サッカー部に入れば豪炎寺君に練習を見てもらえると思うけど? ]
「それではダメだ。……帝国との戦いの後、調べてみたんだ。お前の経歴を……隠されていなかったからな」
──別に隠してないからね。それに俺は遠く離れた国の代表GKというだけだ。日本では大して知名度があるわけでもないし、影響力もない。雷門中のメンバーも調べる気がなければ知る由もないだろう。
でもなぁシャドウ君に余計なことを言われると困るんだよねぇ。面倒なことは避けたいからさ。
できるならば世界大会。その時まで彼らには何も知らないでいてほしい。
どうするべきかなぁ?
「──アインス・リヒター。どうしてお前のような存在が日本の、雷門のベンチに居る?」
[……こっちにも色々あるってことだよ。暇な時間だったら練習は見てあげるよ]
聞き飽きた問いだ。答えを告げるまでもない。彼にそこまで踏み込ませるつもりはないのだから。
[ところでさァ……]
──黙っててくれない?
応募していただいたキャラがポロポロと出てきます。後々出番があります。
また、長くなってしまいましたので分割しました。近いうちに更新します。