お待たせしました。
秋葉名戸に勝利したことで帝国との決勝戦が決まり、皆のモチベーションがリベンジに向け最高潮に至った頃。雷門中の結束に水を差すような出来事が起こるのだった。
「この雷門中に入り込んだスパイが、私だけだとは思わないことだ」
──ねぇ土門君。
帝国学園までの移動に使うバスへの細工を見抜かれた冬海は呪詛を残した。初めて夏未さんが権力を持っていて良かったと思えた瞬間だった。彼女がいなかったから、教師陣に握り潰されて……みたいな一悶着もあったかもしれない。
まぁ冬海に道連れにされようとしている彼にとってはたまったものではないだろうけどさ。
案の定、帝国からのスパイであった土門君は冬海の言葉を聞き、驚いたかのように硬直している。目を見開き、表情を強張らせる彼は動揺を隠しきれていなかった。
こう考えると、俺のカチカチの表情筋はスパイ行為に向いているのかもしれない。これから更にポーカーフェイスの重要性は増すだろうし、意識しておこう。
そして、不穏な空気を感じ取ったのか部員たちからは疑いの声が上がり始める。冬海の行いにより、帝国はそのような手段も辞さない卑劣な学校であるとイメージが定着してしまったのだろう。仕方のないことだ。
しかし、彼は違った。
「バカなこと言うな! 今まで一緒にサッカーをやってきたじゃないか!! その仲間を信じられないのか!? 俺は土門を信じる! な、土門?」
守君はそのような雰囲気にも呑まれずに、土門君を擁護する。なんとも彼らしい無条件の信頼だ。しかし、それが全ての場合において最適解であるとは限らない。
容疑をかけられた本人は良心の呵責に苛まれていたのだろう。苦しげに言葉を漏らす。
「円堂……冬海の言う通りだよ……わりぃ!!」
そして彼は振り返りもせずに、一目散に逃げ出していくのだった。
土門君も……なんで影山に従ってしまったんだ? アメリカから日本へ引っ越し、帝国学園サッカー部へと入部した彼の身には何があったのだろう。いつか聞いてみたいものだ。
土門君の言葉からスパイ行為が真実であると判明し、皆が黙りこくる中、夏未さんは1枚の手紙を守君へと手渡した。
──土門君による冬海の告発文だ。
中身を確認した守君と木野さんは逃げ出した彼の後を追いかけていく。
俺にできることはない。ゆっくりと待つとしよう。なぁに、こういうのは守君の得意分野だから心配はいらない。
なんか青春してて羨ましいなぁ……
──それからのことは語るまでもない。守君の説得により、土門君は真に雷門イレブンの一員となったのだ。
雷門中のメンバーは帝国戦に向け、再度団結した。しかし雷門の不運は止まる所を知らない。冬海の存在は思わぬ問題をも引き起こしていた。
「一ついいですか? このフットボールフロンティア規約書によると、監督不在のチームは出場を認めないとあります」
そりゃそうだよね。部活の大会とか引率する先生が必要なのは明らかだろう。……今まで冬海は試合会場まで付いてこなかったから今更感があるけど。
でもメガネ君がいて良かったなぁ。試合当日まで知らずに過ごしていたら不戦敗になるところだった。試合もできずに負けるってのは想像もしたくないほど恐ろしい。
そうして俺たち雷門は監督のアテとして商店街にある雷雷軒を訪れることになるのだった。イナズマイレブンの監督と言ったらやっぱり響木さんだよなぁ。
だって他の監督言葉が足らなすぎるんだもの。作戦の意図を告げずに選手に考えさせる。それ自体はとても大切なことだけど、放任主義がすぎると思うんだよね。
てなわけで俺のリスペクトする監督は響木さんなのだ。……次に小学校時代の監督。あの人元気にしてるかなぁ? かなりお世話になったんだよね。いっつも胃薬飲んでたのが懐かしい。ヒンメルクラウンのメンバーは問題児ばっかりで大変そうだった。
……そんなことはいいんだ。俺も部室からゾロゾロと出て雷雷軒を目指す部員たちに付いていく。響木さんは俺のことを覚えてるかなぁ?
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雷門から徒歩数分。帰宅途中の聖地として中学生の憩いの場となっている雷門商店街に到着した。何処か懐かしみを感じる街並みが心安らぐ。……あと10年、20年もしたらシャッター街になってしまうのだろうか? それは悲しいなぁ。
そして、商店街の一角にある雷雷軒に雷門メンバー全員で押しかけたわけだが……
君たち何やってんのさ……
注文もせずに響木さんを問い詰めた守君達は追い出されてしまった。誰も財布を持ってないのか? 俺は持ってるけど……店の外で様子を覗き見ているだけだから、お金は出せない。
だってみんなが追い出されて原作通り、居なくなった方が都合が良かったから仕方ないよね。少し響さんとお話ししたかったからさ……?
店内から追い出された雷門メンバーは肩を落としながら去っていく。
そのタイミングを見計らって、外に立っていた俺は店内に入るのだった。
中学生の集団が押し寄せ、賑やかになった店内は彼らが店主に追い出されたことで落ち着きを取り戻していた。書き入れ時であるにも関わらず、静かというのは些か不景気かもしれないが。
「あのキャプテンの坊や、『ゴッドハンド』を使えるぞ?」
たった1人残された客──鬼瓦は新聞を眺めながら、静寂を破る。常連の彼は既にいつものセットを食べ終え、食後の小休憩を楽しんでいた。
雷雷軒の店主である響木は、彼の言葉を聞き先程の少年を想起する。自らの恩師、円堂大介の孫。自らの尊敬する師の血脈を受け継ぐ彼はサッカーを諦めた響木にとって妙に眩しく見えたのだ。
だからこそ、その光を闇が狙うであろうことも分かりきっていた。──師の命を奪った影山の魔の手が迫ることは明白だったから。
響木が若者の未来を憂う中、ガラガラと音を立てながらガラス戸が開かれる。来客だ。
「アイツらはイナズマイレブンにならなければいけない。ゴッドハンドなど使えて当然だろう」
鬼瓦へ返答したのは響木ではなく、新たな客だった。
──10代半ばの少年だ。艶やかな白銀の髪は整えられており、妙に大人びて見える。鍛えられた身体は無駄が極限まで削ぎ落とされ、機能のみを追求した美を体現していた。
「キミは……雷門中の……」
そんな彼を見た鬼瓦は言葉を詰まらせる。彼は現在の雷門サッカー部に目をかけている。当然サッカー部の一員であるアインのことは知っていた。
だが、彼の目にはどうも普段のアインとは別人に見えて仕方なかった。普段の涼しげで静かな雰囲気は、燃えたぎるような闘志によって塗りつぶされていた。
「……アインス・リヒター。ドイツの守護神だろう? 随分と偉そうなことを言うじゃないか」
厨房での作業をやめ、振り返った店主は顔を歪めながらそう述べる。昔出会ったアインのことは忘れてはいなかった。寧ろ、彼のとっては鮮烈な記憶として残されていたのだ。
「久しいな。ラーメン親父。俺は真実を告げたまでだ」
感動の再会とはいかなかったようだ。アインの態度は以前響と出会った時から改善の兆しすら見せていない。
「……響木だ。相変わらずだなお前は……」
トレードマークであるサングラスの位置を直しながら響木は呆れた様子を見せる。在りし日に見た少年と容貌は全く異なっているものの、人間性自体に変化はないように見えたのだ。
「まぁそんなことはいいんだ……お前は何故ここにいる」
「何故と言われてもこの近くに住んでいるからだが?」
「──本気か?」
気を取り直し、疑問を口にした響木の表情は直様帰ってきた回答によって再度歪んだ。まるでアインの言葉を理解できないかのように。
それも当然だろう。響木にとってアインは遠く離れたドイツのキーパーなのだから。日本にいる筈が無かった。
「その坊主の言っていることは本当だぜ? なんせ雷門のマネージャーだからな」
「なんだと?」
アインの言葉が真実であることを鬼瓦は知っている。証人を得たアインの言葉は響木も信じざるを得なかった。
「……正確にはマネージャーではなく、ベンチだがな」
「……確かにそれならばこの前の親善試合にお前が出ていなかったことも理解できる」
どうやら響木は以前行われた試合を観戦していたらしい。それもそのはず響木はアインの試合を観戦するため、態々有料放送を契約していたのだ。
「何が目的だ?」
響木はアインの言葉を受け入れた上で真意を問う。
「イナズマイレブンを探していると言っただろう? 俺は見つけたんだ。真のイナズマイレブンをな」
「お前──まだ──」
響木はアインを思い出す。幼少期、イナズマイレブンを求め稲妻町にやってきた彼は響木の拒絶にも関わらず、未だ諦めてなどいなかったのだ。
響木はアインの狙いに気付き、薄ら寒い思いを覚える。何がこの少年を突き動かすのか、彼は全く理解できない。
だが次の一言ですぐに理解した。
「オマエはイナズマイレブンはもういないと言ったじゃあないか。ならば俺が作ってやるよ」
アインの目的は、過去の自分たち。それを現代に再現することだった。
響木の意識はアインの決意に満ちた言葉ではなく、アインの瞳が狂気に染まった瞳に向けられていた。
適当に喋りすぎたなぁ。響木さんと鬼瓦さんには絶対に影山との繋がりを勘付かれてはいけない。もう少し言葉を選んで話すようにしなければ。それに流れで何も注文せずに出てきてしまった……ラーメン楽しみにしていたのに……我慢するかぁ。
後は響木さんの説得は守君次第だな。伝説のゴッドハンドを見せつけてやれ。イナズマイレブンの血脈は潰えてなどいないと証明するんだ。そしたらラーメンを食べる機会なんて無限になるからね。
……まさか響木さんが俺のことを調べているとはなぁ。監督になるわけだし、俺について話さないようにしてもらわないと。態々何人も口止めしてるんだから無駄にはできない。
……覚えてくれていたことに満足して今はみんなを追いかけるべきか。
そうして俺は雷門に戻ったであろう雷門メンバーを追いかけ、商店街を歩いていく。
そこで思いがけない出会いを果たすのだった。
これが仁先輩の言っていたビビッときたってやつなのだろうか。俺は彼の元に足を進める。そして俺にしては珍しく、声をかけたのだ。
[あの〜サッカー興味ないですかね? ]
俺は八百屋で荷下ろしに励む彼に出会う。相撲部で鍛えたのだろう足腰と、腕力はサッカーにも活かせる筈だ。
何より俺は、GKをやっている彼を見てみたい。鍛えてみたい。
こうして俺は新たなサッカー仲間を迎え入れたのだ。
──そんな壮大な話じゃないけどね?
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そして、土門君と話したいと思っていた俺だがその機会は思ったよりも直ぐに訪れた。日が暮れサッカー部での練習が終わる頃、部員の輪から抜け出た彼が俺の元に駆け寄ってきたのだ。
「なぁ、アイン。色々と悪かった。すまねぇ……」
[みんなが許したんだから俺から言うことはないよ]
彼も十分に反省したことだろうし、まだまだ中学生という子供の時分だ。許されるべきだろう。それに俺は彼の行為を知っていたにも関わらず、黙認していたのだからほぼ同罪だ。責めるべき立場ではない。
……というか俺、これから殆ど裏切りみたいなことをするわけだしなんも言えるわけないんだよね。
「マジか! ありがとな!! これからもよろしく頼むぜ!!! ……ってことで、改めて俺の練習もみてくれね?」
流石はアメリカ育ちのコミュニケーション能力だ。俺の乏しいそれとは比べ物にならない。それにしても、土門君が改めてサッカーに向き合ってくれたのは嬉しいなぁ。
[もちろん構わないよ? それが俺の役目だからね。……今までの練習には身が入っていなかったけれど、守君の影響でやる気に満ちているみたいだね]
「ギクッ!! お前気づいてたのかよ」
土門君は半身を引き、目を丸くする。大仰な振る舞いがどうにも面白くみえた。
[フフッ……俺だって何も考えずに練習を見てるわけじゃないからね]
「……悪かったな。これからもっと頑張るから勘弁してくれぇ〜」
少し安心したのか、土門君は普段のように戯けた様子を見せた。良い傾向だろう。これから彼はもっと強くなる。
そりゃあスパイなんてしてたら練習に身が入るわけないよなぁ。心のどこかでずっと自分の行いに対する不信感が疼くのだから。
俺も近いうちに似たようなことをするわけだが、良心の呵責とか感じるのだろうか…………嫌、あり得ないな。俺はその程度で後悔するような生半可な覚悟じゃあない。
[じゃあ手始めに一つ必殺技を教えよう。帝国戦までに仕上げようじゃないか。時間はないけどね]
「応!!」
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「あの子が……昔話していた面白い子供か?」
「そうです。よく覚えていましたね、鬼瓦さん」
「人をジジイ扱いするな。まだまだ現役だ……それで? 彼は何者なんだ? イナズマイレブンに強い思い入れがあることはわかったが……」
「ドイツ……いや世界最高のGKですよ。彼奴は」
「昔──もう8年ぐらい前になるのか……ドイツ人の彼奴が観光に稲妻町に来てましてね。その時ウチにメシを食いに来たんですよ。少し話したんですが……その時興味を持ちましてね。以来、ドイツのサッカー事情を定期的に調べていたんです」
「すると聞こえてきたんですよ、小学一年生からユースチームの正GKとして活躍し、生涯無失点だったという信じ難い逸話が。それから私は彼奴の試合の中継を追うようになったんです。最も、小学生の試合ですから観れる試合は少なかったですけどね」
「ほう? 彼がそんな経歴を持つ選手だとはおもってもみなかったよ」
「私も昔はGKを齧っていたので興味もありましたからね。だからこそなぜ日本よりも間違いなくレベルの高いヨーロッパ、ドイツから日本に来たのかが理解できなかった」
「でもアイツの言葉を聞いて理解しました。アイツは……」
「自らのライバルを求めているんでしょう」
アニメ一、二話分をまとめると長くなってしまう……本来三千、四千平均にしたいのに……