長らくお待たせしまして申し訳ありません。
俺の思いは伝え終わった。短い時間ではあったが守君との約束を再確認することができたし、有意義な時間になったと信じたい。守君の顔は前半と比べても、清々しいものとなっていたしね。
2人でベンチに戻ると試合開始はもう目前。守くんはピシャリと顔を叩くと、自分のポジションに向けて駆け出すのだった。
10分のハーフタイムを終えた両チームは、後半戦を迎える。雷門中の一点ビハインドで東京地区の最強を決める試合が今、始まった。
「後半キックオフ! 開始早々帝国が攻め上がるぅ!!」
帝国の怒涛の攻めは後半でも劣ることはない。帝国のシュートの嵐を全て完璧に凌ぎ切った守君ではあるが、それでも帝国の勢いは止まらない。
『デスゾーン』
帝国の伝統の一撃が雷門のゴールを狙う……がしかし、調子を取り戻した今の守君にとって、デスゾーンはすでに攻略した必殺技であった。
『ゴッドハンド』
幾多の苦難と練習を乗り越えた神の手は、以前のそれより格段に成長していた。帝国の連携必殺シュートをがっしりとキャッチした守君は、声を張り上げながらボールを前線へと送る。
『デスサイズロー』
ボールを受け取った土門君は、足を振り払うことで衝撃波を発生させ、ぶつけることでボールを奪おうと迫ってきていた帝国の選手を突破する。必殺技を伝授した身としては、上手く活用してくれて嬉しい限りだ。
『ドラゴン────―』
ボールを全線で受け取った染岡君は、渾身の力で彼自慢の必殺技を発動させた。
『パワーシールド』
だが、それだけで得点を許す源田ではない。疲労感を滲ませながらも、彼の代名詞である必殺技によって染岡君のシュートを迎え打とうとする……が。
『────トルネード』
源田によって生み出された障壁が、必殺シュートとせめぎ合っている最中、駆け上がってきた豪炎寺君が追加のシュートを叩き込んだ。まだ雷門中の皆は知らないテクニックではあるが、所謂シュートチェインに近いものだろう。
豪炎寺君によって押し込まれたサッカーボールがゴールを揺らす。こういった機転ってどんな手段を使っても得点をもぎ取らなきゃいけないストライカーに重要な資質だよな。必殺技の応用とかで土壇場で必殺技を生み出したりもするわけだしさ。
「ゴール! 雷門同点に追いついたぁ!!」
同点に追いついた雷門と帝国の戦いは苛烈さを増し、一進一退の攻防を繰り広げた。息も継げぬ白熱した試合は、各々の必殺技を総動員する総力戦となっていく。
『サイクロン』
『クイックドロウ』
『疾風ダッシュ』
『キラースライド』
すごい必殺技の応酬だ。やっぱり超次元サッカーってこれが見どころだよなぁ。あとマックスはいつの間に新必殺技を覚えたのだろうか? やっぱりセンス◯だな。
『イリュージョンボール』
雷門と帝国の均衡を破ったのはやはり試合のキーマンである鬼道君だった。巧みな足捌きで雷門中の面々を翻弄しながらボールを1人で運んでいく。そして、寺門・佐久間を呼び寄せあの必殺技のシュート体制に入るのだった。
『皇帝ペンギン2号』
指笛によって再度呼び出されたペンギン達が、試合を決定づけようとゴールを狙う。足を痛めているであろう鬼道君の決死の一撃が守君を襲った。
『ゴッドハンド』
守君は自らの持つ最強の必殺技でペンギン達を迎え撃つ。前半とは明らかに動きの違う守君ではあるが、それでも尚、皇帝ペンギン2号の力が勝っているように見える。ジリジリと、守君の足が交代しゴールラインへ迫る。
『ゴッドハンドW』
しかし、そのような苦境でも諦めないのが雷門中のキャプテン。円堂守であった。守君は土壇場で新たなゴッドハンドを完成させたのだ。流石は俺のライバルだ。
ゴッドハンドWは奇跡的に成功したものではあるけれど、後世においては明確にゴッドハンドと区別される強力な必殺技なわけだし、守君にはいずれ習得してもらいたいものだ。
試合時間はアディショナルを加えて残り5分と言ったところ。筋道通りならば、ここから雷門の逆襲が始まる頃合いだと思うが……
────そろそろ俺も動き出さないと……か。最後までこの勝負を見届けたいところなんだが、俺には今しかできないことがある。アイツを助ける義理もないけれど、この機会を逃したら影山を探すところから始めなきゃならないわけだしな。
[悪い。ちょっと電話かかってきたから少し離れるわ]
「えっ!? ……うん。わかったわ」
木野さんにそう告げた俺は、ベンチを離れ帝国の冷たい通路を歩いていく。目指すのは影山の場所。色々と仕込んでおかないといけない。
アインがフィールドを去った後も、試合終了の笛の音が鳴り響くまで試合は終わらない。雷門のGKが魅せたのならば、それに応えるのは当然雷門のエースストライカーだった。
『スクリュードライバー』
アインから伝授された必殺技を発動させた豪炎寺は、炎を足に纏わせ、地面へと打ちつけることでボールを奪取する。アインによってファイアートルネードに似てる技だからいけるだろうと、適当に選ばれた必殺技であったが、意外にも豪炎寺には向いた必殺技であった。
ボールを前線で奪った豪炎寺はその勢いのままフィールドを駆け抜けていく。
──前線にいるのは豪炎寺だけではない。壁山と円堂もまたフィールドを疾る。
『イナズマ1号落とし』
イナズマ落としとイナズマ1号を土壇場で組み合わせた必殺技が、高高度から撃ち落とされる。蒼と金の光を纏った強力な必殺シュートが試合を決定づけるためにゴールを狙う。
『フルパワーシールド』
文字通り、源田の全力がゴールを覆い保護する。源田は相当な疲労を見せていたことに加え、角度のついたイナズマ1号落としはシールド系の技と相性が悪い。万全な状態ならば結果は違った……かもしれないが、それでも今軍配が上がったのは……
「決まったぁぁ!!! 雷門のゴォ──ル!!」
雷門の方だった。
「なんと! キーパー円堂までシュートに絡む全員サッカーで勝利をもぎ取ったぁぁ!!!」
ピッピッピ────
「ここで試合終了! 雷門中勝利!! 40年間無敗の帝国学園やぶれるぅぅ!!」
観客席から大きな歓声が上がる。戦地は帝国学園。アウェイであったものの、この激闘を征した雷門への賛美は間違いなく心からのものだった。
──────────────
「フッ……負けた…………か」
拘束された影山は数人の警察官に囲まれながらそう呟いた。場所は影山を拘束した総帥室。無機質な部屋の中で、複数の視線が雷門と帝国の激闘を映し出す大型モニターに注がれていた。
「お前の思惑は外れたみたいだな影山。雷門の勝ちだ」
鬼瓦は隣に立つ影山に目を向けながら、積年の恨みが籠った嫌味を口にする。数十年前の怒りは影山を逮捕するに至っても尚冷めることなどなかった。
「私の指揮下を離れた以上、こうなる結果は見えていた。思うところなど何もない」
「……そうかよ。オラ! キリキリ歩け!!」
私怨がありつつも立場は刑事。念願叶って雷門の勝利を見届けた鬼瓦は職務を全うするべく、影山を連れ出した。
「試合を観戦し続けたのはお前だろうに……」
影山の呆れた声が珍しくも漏れる。鬼瓦は影山を追う刑事であるとともに、雷門中のファンでもあったのだ。
数人の足音が帝国学園の廊下にコツコツと響く。廊下はどこまでも静かで、薄暗かった。総帥室から続く道に人の気配はない。このまま影山は無事連行されるのだろう。……本来ならば。
──突如、閃光と共に耳を劈く音と爆風が暗い小道を吹き抜ける。
「なんだ!! 何が起こった!!」
予期しない出来事に鬼瓦は語気を荒げる。それもそのはず、影山という自らの宿敵を捉えた彼の心はひりついていた。
「壁際に寄って頭を庇え! 鉄骨が振ってくるかもわからんぞ!」
先程の出来事も相待ってそう注意した彼は、胸元からトランシーバーを取り出し、帝国学園外に待機している部下に指示を出す。
「停電の復旧急げ、影山を絶対に逃すなよ!」
「はい! ……戻りましたっ…………!?」
「おいどうした? 影山は!?」
「いません!! 逃げられました!!」
暗転した視界に光が戻った時。影山の姿はすでにそこにはなかった。残されたのは破壊された照明の他はたった一つ。ガラス片が突き刺さったサッカーボールのみだった。
同時刻―帝国学園隠し通路
黒いクロークによって顔を隠したアインと影山は、影山が複数事前に用意していた隠し通路に身を隠し、鬼瓦ら警察官からの逃亡を図っていた。
「随分と見事な手際だ。後ろ暗い過去でもあるのかね?」
通路を早足に歩き続けながら、影山はアインに問いかける。サッカーボールによって的確に照明を破壊した手管は、並大抵の技術では成し得ないものだった。
「ある程度サッカーをやっていればあの程度誰にでもできる……それに戯言は後にしろ。時間はないだろう?」
雷門中対帝国学園の試合が終わり、影山が連行されるところを妨げたアインは影山に問いかける。
「ほう? やはり私を庇うのか。雷門を潰そうとしたこの私を」
「オマエの計画が成功するとは微塵も思っていなかった。思うところはない」
影山の挑発を切って捨てたアインは無駄話を避け、本題に入ろうとする。
「それよりも俺がオマエに手を貸した意図は理解しているだろうな」
アインは終始高圧的に言葉を選ぶ。影山に主導権を握られたくない意思の表れだろう。
「……フッ……そう焦るな」
そう告げた影山は不敵な笑みを浮かべた。闇を讃えた表情は、終わることのない憎しみと同時に、アインへの期待も感じられるものだった。
「お前にはプロジェクトZに関わってもらいたい。その実力をもって神子を神の頂へと到達させよ」
「随分と気取った言い方だが……神、ね。……いいだろう。手を貸してやる。当然対価は貰うがな」
フードによって隠されたアインの表情は影山には見えない。だが、それでも影山はアインの滲み出る喜悦を感じ取るのだった。得体の知れないアインの本心に、影山は悪魔と契約を結んだかのような寒気を感じるのだった。
「……想定済みだ。必要なのは金か? 権力か? それとも闇に潜む品々か?」
「いや、俺にとってそのようなものは一考の価値もない。俺が求めるのはただ一つ。──有る人物との繋ぎをしてもらうことだ」
裕福な生まれで目立った欲のないアインには俗物的なものは価値がない。要求するのは、知識や縁のような属人的なもの。
「ほう? 誰だ?」
「お前のかつての弟子。──―だ」
帝国学園 雷門中控室
【急に用事が入ったから、先に帰っててくれ。他のメンバーにも伝えておいてほしい】
「アイツ何やってんの? 」
ムクロは携帯電話で幼なじみからのメールを確認し、ポツリと愚痴をこぼす。幼い頃から理解が難しい男であったが、ここ最近の彼はどこかドイツにいた頃と様子が違うように思えた。
「どうかしたかしら? ムクロ? 」
「アインの奴からメールが届いたから見てた。アインの奴用事ができたから、ここで解散するらしいわ」
昔から仲間とのコミュニケーションを軽視する傾向にあった彼の性格は、日本に来てからかなり改善されたようにムクロは感じていた。だからこそ、彼が応援する雷門中の地区大会優勝を祝わないということに違和感を覚えたのだ。
「あら? そうなの? 忙しそうねぇ」
「どうしたんだろうな?ちゃんと勝ったぞって報告したかったんだけど……」
ムクロの言葉を聞いた木野と円堂はアインが忙しいのだろうと考える。ここ最近は、アインが忙しそうにしていたこともその判断を後押しする。
「アインにはどうせ部活で会うんだし、そん時でいいだろ。早く帰ろーぜ」
染岡は試合の疲れからか早く帰ることを促す。最も、帰ったところで待っているのはやる気に満ちた円堂による更なる練習地獄なのだが。
「まぁそうだな! 帰ろうぜ!!」
円堂の号令と共に各々の荷物を持った雷門メンバーはバスへと歩き出した。最後に部屋に残ったのは何かを考え込むムクロだった。
──なんか妙なことを企んでそうね……あのバカ。
UA100000感謝します。