サッカーの修行を開始して数ヶ月。俺は予想外の速度での成長を遂げていた。
シュート、パスの精度はゲームの様に繊細で、針の穴を通すようにコントロールできる。ドリブルで速度は落ちず、スピードだけならば超次元の域に足を踏み込んでいると思う。他には父さんや執事の様な大人からもボールを奪うブロック能力も手に入れることができたな。
ジムで鍛えまくったことにより、身体能力だって必殺技を使うのに十分なぐらい高まったと思う。10メートル以上ジャンプしたり、自分で蹴ったボールを自分で受けてワンツーすることが可能なぐらいの敏捷性を手に入れた。シュートのパワーはただのノーマルシュートでもゴールを揺らす程度に鍛え上げた。
超次元とはいえ、5歳でここまで力がつくものなのだろうか? ……まぁ超次元だし、こんなもんか。
父さんたちにはすごく褒められているけど、サッカーを初めて数時間で、必殺技を使える様なやつがいる世界だもんな。綱海とか綱海とか綱海とか……俺はまだまだだろう。才能があるなんてとても思ってはいられないよ。
そんなわけで、俺は驕ったりはしない。時間というアドバンテージを生かして、極限まで自分を高めていくとしよう。
で、本題なんだけど。そろそろ必殺技の習得に着手していきたいと思っているのだ。閃きによって、どんな技を覚えることができるのか構想も立ったし、今こそ挑戦するべき時だ。
俺はFWを目指しているわけだし、やっぱり最初に覚えるならシュート技だよなぁ! なんなら、自分ならではのオリジナル技を覚えたいと思っている。最初に覚えるのが秘伝書ってのもちょっと悲しいしね。
具体的にどうやって必殺技を使うのかは全くわかってないけど、どうやら父さんもFWの経験者だった様で、シュート技を2つ披露してくれた。この経験が活かせると思う。
『クロスドライブ』
2度の蹴りによって足から放たれた光波が十字架を模してゴールに突き進んでいく。
『アサルトシュート』
突如父さんの背後に現れたポッドからボールが射出され、ゴールに着弾すると同時に爆発する。
テレビの映像ではなく、肉眼で見た必殺技の衝撃はすごく大きかった。空気が揺れ、爆音が響く。超次元の凄まじさをこの身で感じたのを覚えている。その日の夜は興奮で眠れなかった。
父さんにどうやって必殺技を覚えたのか聞いてみたところ、強いイメージを持てば発動できるそうだ。なんでも、得点を決めないと大会で敗退してしまうっていう土壇場で初めて使うことができたそうで……だから、イナズマイレブン本編では、感情の爆発が起こった時に新技を覚えられるんだろうな……あとは……ひたすら努力するべしだってさ。意外と父さん熱血タイプなんだよね。
難しいことを要求されている様だけど、俺はかなりの数、必殺技の完成系を知っているし、不思議と必殺技を再現できる自信があった。構想もあるわけだし、後は試してみるだけだろう。
──数日後──
まだまだ新しいサッカーグラウンドに1人の少年が佇んでいる。まだまだ小さく、幼い年齢だと言うのに、大人の様に落ち着いている。
ペナルティエリアの前に立ち、瞳を閉じて何かを考え込む様に腕を組んでいる。足元にはポツンとボールが落ちていた。
何分間佇んでいたのだろうか。誰もいないグラウンドには、どこか神妙な気配が漂い始めた。緊迫感に息が詰まりそうだ。何かが近づいてきている。そう感じてならない。
すると、少年が硬く結んでいた口を開いた。
『アイン=ソフ=オウル』
Ain Soph Aur ──無限光の意味を持つ言葉が紡がれる。0 0 0 ……ビッグバンが今、此処に顕現する。
少年の背後に3つの光輪が現れた。それぞれが重なりあい、無限の色彩を生み出している。緋が、蒼が、翠が、黄金が、黒が、白が••••••収縮と膨張を繰り返し、1秒ごとに光は苛烈さを増していく。
少年が足元に転がったボールを蹴り出した瞬間、世界に始まりと終わりの名を冠する光が満ちた。
グラウンドが抉れ、ゴールポストが吹き飛ぶ。ゴールネットは引きちぎれ、ボールは壁を吹き飛ばし、破裂する。
凄絶な破壊の跡が、グラウンドに残された。
静寂が今一度訪れる。
やったぞ! 初めて必殺技が成功した!!!
でも初めての技にしては威力エグくね? 最初の技なんて『グレネードショット』とか『スピニングシュート』みたいな簡素な技なのかと思ってたけど……めちゃ派手だし……
まぁいいか! 強そうだし。
グラウンド内は吹き荒れた暴風や、シュートの余波によって大きく乱れている。修繕のために幾らかかるのか……ハイテンションを気取っている俺はそんな現実から目を逸らしていたのだった。
『アイン=ソフ=オウル』
神の啓示の様に思いついたその技は、想像以上の結果を残してくれた。習得するのに時間をかけてしまったけれど、その甲斐はあると思う。コレでようやく超次元サッカーの住人を名乗ることができるのかな?
でもまだまだコレぐらいじゃ円堂君に勝つことなんてできないだろう。全てを1人でこなせる窮極の一でないと、不可能を可能にする彼に勝つことなんて無理がある。
まだまだ気は抜けないな……
若干の気だるさを感じながら、スタジアムの端に積み重ねでおいた紙束に視線を向ける。膨大な数の本や冊子が積み重ねられて山が形成されている。
実はコレ……全部秘伝書なんだよなぁ……父さんが張り切った世界各国から取り寄せたらしいけど……流石な頑張りすぎだよぉ……
まぁこの秘伝書を消化しながら、次は化身を習得したいと考えている。円堂君の世代に化身を持ち込むなんて無粋だっていう考えも少しわかるので、積極的には使わないつもりだけど、一つ化身が使えるようになったらやりたいなと考えている練習法があるんだ。
グラウンドの惨事から目を逸らす様に思考を巡らせていると、こちらに近づいてくる気配を感じ取った。トレーニングを積むにつれて、第六感までも成長してきたみたいだ。
「兄さん……コレどうしたんですか?」
破壊の跡を指差しながら、こちらに語りかけてきているのは妹のシエルだ。俺とかなり似ているけど、鋭利な印象を抱かせる俺の容姿と違って、どこか優しいイメージを与える。
それに俺と同じ4歳とは思えないほど利発で、できた子だ。俺は前世っていうアドバンテージがあるから当然だけど、この子は本当の天才というやつなのかもしれない。
ちょっとサッカーの練習をしていたら張り切りすぎちゃってね。父さんに謝らないとなぁ。
「……必殺技ってやつを覚えたんですか?」
流石我が妹……察しが良すぎる。
[実は……な……。内緒にしといてくれないか? ]
「いいけど、多分気づかれますよ?」
ウッ!! 言われたくないことを的確についてくるなぁシエルは……多分怒られるだろうけどそれを気にするのは後でいいんだ。
でもわざわざグラウンドに来るなんて何か用事でもあるのだろうか? 此処は少し家から離れているんだけどな。
[どうしたんだ? 何か用事でもあるのか? ]
「兄さんに聞きたいことがあって……なんでそんなにサッカーを頑張ってるんですか? 突拍子のない行動に思えました」
[なんでってそりゃ。夢があるから……? それに最近は練習や修行するのが楽しくなってきてるし……一緒に遊びたいのかな? ここ最近妹と遊ぶ時間が減っているかもしれない。あとで遊んであげよう]
「夢……ですか?」
[そう。夢。俺は将来的に絶対達成したいと思ってる目標、到達点があるんだ]
「そうですか……私にも見つかりますかね?」
シエルはどこか寂しそうに笑った。俺は彼女の夢に関する答えなんて持たないけど、後悔をしたものとして、言っておかなければいけないことがある。
見つかるとか無責任なことは言えないけど、自分の気持ちに蓋をして我慢するってことは絶対やめたほうがいい。後悔するなら理想を目指して努力するんだ。それがそのうち夢になっているかもしれないよ?
「──!! ありがとうございます兄さん!! なんだかよくわからないけどしっくりきました! 私! 我慢しません!!」
答えになってない様な気がしたけどコレで良かったのかな?
この時の俺は妹に送った言葉が、まさかあの様な形で自分に降りかかってくるとは思いもしていなかった。
アインの発言には特殊な[]がついています。アインが[]内のセリフをそのまま喋っているというわけではなく、自分のクールなイメージを保つために取り繕っているという描写を目的としているためです。
また、[]は全て主人公の発言となっておりますので、判別にもお使いください。