最早少年専用となりつつあるグラウンドは、完璧に整備されている。以前の破壊の後は全く残っていない。業者の手によって完璧に修繕された様だ。
グラウンドは室内照明によって照らされているものの、窓から見える空はすでに黒く染まっていた。
「うぉおおぉおおおお!!!」
いつもの如く、少年は夜遅くまでサッカーの練習を続けている様だ。広々とした室内空間に、少年の叫びが轟いている。しかし尋常ならざる状況に置かれている様だ。
命を燃やしているかのように、鬼気迫る声だった。
誰かが聞いたら救急車を呼ぶに違いない。それほど追い込まれた声が少年から発せられていた。玉の様な汗が吹き出し、苦しそうに喘いでいるため、決して間違った判断ではないだろう。
……少年の影が蠢いた。何かが這い出でようとしているかの様に……ナニカが産まれたがっているかの様に。本来動くはずのないものが、確かに脈動したのだ。
少年の存在感が増幅し、強調される。空気が少年の気配一色に塗りつぶされる。世界の目にはもう少年しか映らない。
パキ……パキ……
殻が割れる様な音が聞こえる。ナニカがこの世に生まれ落ちようとしているのだ。
少年の影からナニカが羽化していく。枷を引きちぎり、影が少しづつ意味を持ち、形が明瞭になってきた。
ナニカの主である少年が手を虚空に向け、振り払った。
……星が瞬いた。一つの銀河が誕生する。6対計12枚の白磁の翼が羽ばたいた。空間が
『星海の覇神 ルシフェル』
少年の化身が世界に初めて降臨した。天使の様な肢体を持っているにも関わらず、怪しげな仮面で表情を隠す。
この世のものではない様な奇妙な気配を放っている。異星の生物。いや……異界の生物であるかの様に。
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時間は流れもうすぐ6歳になるという時節まで時は進んでいる。小学校に入学する前に化身を発動することができて良かったなぁ……
今ならなんでもできそうだ。地球を蹴ったら地球が動くんじゃないか……? それぐらい今の俺は強いぞ!!
────何言ってるんだ? なんだか自分の様子がおかしくなっていることに気づいた。
『疾風ダッシュ』
『風神の舞』
『タキオン・アクセラレイト』
早速、化身を召喚しながらグラウンドの中を駆け回っている。俺は今までに習得したドリブル技を続け様に発動させようと試みるが……
……技が上手く発動しない。やっぱり化身にリソースを割かれている様で、イメージが安定しないのだ。ゲームもこういう仕様で常々不便だと思っていたのだけれど……慣れで改善できるのかな?
もうゴール前か……化身を呼び出したことで、身体能力は暴力的に向上しているから凄まじい敏捷性と脚力だ。コレなら化身使い達が必殺技に頼らないのもわかる。
じゃあ試してみますか。化身シュートって奴を。
『パラダイスロスト』
結果など言うまでもないだろう。スタジアムには過去最大の大穴が空いた。それだけだ。
化身を解いた俺は、あまりの疲労感にグラウンドに向かって倒れ込んだ。毎日、修行の最後にはこうなっているから慣れっこだけど……流石に今日のは効いたな……
想像以上に化身を召喚している時の体力の消費が激しい。長時間全速力で走ったかの様に肺が痛むし、疲労で身体中の筋肉が攣りそうだ。
精神的にも結構キツイ……化身みたいな特殊能力って追い詰められた時に発現するものだから、前世のトラウマを強引にできる限りフラッシュバックさせて自分の精神を痛めつけたのだ。死んだ瞬間の孤独感を思い出すだけで凍えそうになる……
結果が出たから良かったものの……成功しなかったらただの自傷行為になるとこだった。
それに言動もおかしくなっていた様な……地球を蹴るってなんだよ。ザナーク様でもそんなこと言わなかったぞ……
化身ってこんなにやばいのかぁ。発動中の全能感というか脳内麻薬? みたいなのもとんでもないし、反動もエグい。コレもまた要訓練だな……
まぁ化身は相手に使われた時にしか使うつもりはないんだけどな。将来的には仕方ないかもしれないけど、今の目的は円堂君と戦うことなのだから。
そうして体を休め、目を瞑って思考に耽っていると、突然聞き慣れた声に話しかけられた。
「アインス様! 大丈夫ですか!?」
赤い髪の女性が視界に映る。彼女はアトリ。俺の専属メイドってやつだ。俺より10歳年上で、今はメイドの見習い中だという。俺が生まれた時からの付き合いだからほとんど、姉みたいなものだけどな。
でも話しかけられるまで気づかなかったなぁ。普段なら近づかれている時に気づくのに。想像以上に消耗しているのだろう。
大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだ。どうしてここに?
「お飲み物をお持ちしようとこちらに向かっていたら、すごい音が聞こえたので走ってきたんです!!」
……聞こえちゃったかぁ。流石にトンデモ威力過ぎだ……化身技……
[じゃあ、飲み物もらってもいいかい? ]
「はい! こちらです!」
そう言って起き上がった俺にアトリは水筒を手渡してくれる。……はぁ〜!! 生き返るぅぅぅ!!!
「……コレは! また壊したんですか!? アインス様!!」
アトリは瓦礫の山を見ながら、俺を責め立てる。
えへへ……そんなつもりはなかったんだけど……
「もう! お父様が怒らないからって!! ダメですよこんなことしちゃ!! 私はサッカーは分かりませんけど、こんなことには普通ならないですよね!?」
[……ごめんなさい。でもサッカーって修行してると、こんなことも起こるんです。学校とかも平然と破壊するスポーツなんです……]
「それにこんなに汗をかいて……無理しちゃダメですよ? まだまだ子供なんですから」
アトリは甲斐甲斐しく、俺の汗をタオルで拭き取ってくれる。ありがたい心配ではあるけど無理は承知だ。後悔をしたくないからな。
!!! 此処で一つ俺の灰色の脳細胞が活動を始めた。
……目的のためにアトリを仲間に引き込んでおくべきでは? サッカーの知識もないみたいだし、適任な気がする。結構とんでもない訓練をするつもりだから、誤魔化せる相手じゃないといけないしな。
[アトリ、なんで俺がこんなに頑張ってると思う?]
「え……? 強くなりたいからじゃないんですか?」
[間違ってないけど、一番の理由は強くなって父さんを喜ばせるためなんだ。だから俺がコレからどんな修行をしてても内緒にしてくれないかい?]
「アインス様もそんなことを考えてたんですね? クールなフリをして何も考えてないのかと思ってました。……でも確かにその思いに水を差すのは不粋ですよね。……わかりました。内緒にします」
なんだかアトリには色々見透かされてる気がするんだよなぁ……
でもコレで大丈夫だな。アトリの口封じは済んだ。とても真面目な女性だから嘘をついたり、約束を違えたりなんて心配はないだろう。……正直いうと、生まれた時から、俺の専属として世話してくれていたから頭が上がらないのだ。話を聞いてくれて助かった。
ゴホン……とにかく協力者は手に入れた。此処に出入りするのはアトリだけにしてもらえる様に父さんに頼み込んでおこう。そうすれば、俺の異常性はバレないはずだ。
「はい、じゃあ今日の練習は終わりにして帰りますよアインス様。ほらおんぶしてあげますから……いいんですよ。まだ子供なんですから」
拒否しまくる俺の言葉に耳を貸さないアトリ……15歳の女性におんぶされる精神年齢成人済みの心境やいかに……
──帰宅後──
ブクブクブクブク。
まるでプールであるかの様に大きい風呂に浸かりながら次のやるべきことを整理しようと思う。
今日やっとしばらくの間目標としていた化身の獲得に成功した。それだけでも嬉しいのだが、それ以上に新たな可能性が見えてきたことの方が嬉しい。
それは新たなトレーニングのあり方。
【デュプリ式訓練法】だ。
デュプリ……それは化身を人型に変化させ、選手として扱う技法のこと。ゲームでもアニメでも描写が少なかったけど印象に残っている人は多いと思う。俺もその一員だった。
みんなが1番覚えているのはテンマーズなのかな? 意外とファンが多いチームだからな。主に女性キャラに……
あの時、フェイと天馬以外チームメンバーがいないからどうなるのだろうと疑問に思っていたら、急にフェイが残りの9人を呼び出したから驚いた。コレ化身より強いだろ……! そう思った人もいると思う。デュプリはそれぞれ必殺技も使えるし、とんでもない能力だ。
後は……映画版のダンボール戦機コラボの敵、アスタもデュプリを使っていたはずだ。デストラクチャーズ全員がアスタの力を元に生み出されているのに、天馬たちと互角の戦いを繰り広げたのは驚嘆に値する。しかもそのアスタも本当は……ってんだから恐ろしい。
総じてデュプリはとんでもない力だということがわかっていただけただろうか。こんな力を使えたら、修行も更に効率的になると思わない? 俺は思う。
そんなデュプリを具体的にどうやって修行に活用するのか、俺は2種類方法を考えておいた。
一つ目の方法は、どこぞのチート忍法の様に、分身の経験や訓練の成果が本体にフィードバックされるのではないかという仮定の元、デュプリも併用して訓練を行うという手法だ。デュプリを呼び出して11人で修行を行えば、その効果も11倍だ。
二つ目の方法は、デュプリを用いて更なる負荷をかける方法である。俺は数ある必殺技の内に、重力を操る技があることを覚えていた。その名も『グラビテイション』。強力な重力場を発生させることで、敵からボールを奪う必殺技だ。
コレをデュプリにかけてもらって、俺にかかる負荷を高めながら修行するというわけだ。脳筋だけど効果的だと思う。とある野菜星人もこの方法で飛躍的に戦闘力を高めていたし……
でも根本的な問題として、どうやってデュプリを出すのかがわからないんだよなぁ……セカンドステージチルドレンであることが条件とかだったらキッツイなぁ……
お風呂の中で浮きながら考え事をすると、脳が沸騰しそうになる。あっつぅー。
「アインス様ーそんなに長くお風呂に入っているとのぼせちゃいますよー」
浴室の中でアトリの声が反響する。
────いや違うのだ。俺が一緒に風呂に入ってくれって言っているわけじゃない。専属メイドだからって理由でアトリが俺と一緒に風呂に入ろうとするのだ。断ると悲しそうにするから断れない……
ホントだよ?
本来、ドイツの教育制度は日本と全く異なるのですが、色々と面倒なことになりそうなため、日本と全く同じ体として扱います。申し訳ございません。
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またドイツ代表メンバーの募集も別に行っていますので、ご協力お願いします。
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