失禁ゼニスの黄金譚:変態能力における青春と倒錯的情動   作:マグルマン

10 / 10
11話か12話の次くらいに投稿予定だった閑話。
本編書けなさ過ぎて息抜きのおまけの方が筆が乗るなんてままあることです。


おまけ:レティシアの帰省

◆◇◆

 

 

 レティシア・ルイン・エレガントは自身でも形容し難い複雑な感情を胸に浴室の戸を開けた。

 

「……こんなこと学園の寮では出来ぬからな」

 

 誰に聞かせるでもなくポツリと呟く。その声が浴室に反響し耳に帰ってくると、これから自分が行おうとしていることを再認識させられ顔が熱くなった。

 

 

 

 集団おねしょ事件の発端と顛末は学内で収めるにはあまりにも話が大きくなり過ぎてしまい、父に報告と相談を兼ねアイナと共に帰省していた。

 最後に実家に帰ったのは今年度の入学式前、つまりたったの2週間程前だと言うのに屋敷の灯りが見えた途端崩れ落ちるように力が抜け、アイナに心配された。

 それほどにこの2週間は濃密で気苦労な日々だったのだ。

 

 

 

 そんな心労のみが積み重なる学園を離れ、心休まるレティシア家の本邸に帰ってきたというのに……。 

 

 

 

 私はこれからおしっこを漏らす。

 

 

 

 自分でもつくづく馬鹿な事だと思う。

 気でも狂ったかと問われれば、そうに違いないと答えるだろう。何か悩みでもあるのかと問われれば、夜も寝付けぬのだと答えるだろう。

 ここ最近の、怒涛のように押し寄せる出来事に精神がぐちゃぐちゃになってしまって正常な思考力を失ってしまったのだ。

 

 入学試験の出来事に始まり、ゼニス・アーデとの戦いと初めての失禁。集団お漏らし事件に、アイナのカミングアウト。

 私を悩ませるこれらの出来事は全てゼニス・アーデが発端なのだが、原因たらしめているのはゼニス・アーデ自身の責なのかと、そう疑問を抱いたのだ。

 私の目に曇りがなかったと言い切れるかだろうか。

 あの男は嬉々として力を使い、小水に沈みゆく恥辱の姿を恍惚の表情で眺める。そのような人間に見えただろうか。

 

 ゼニス・アーデという男の人物像を見誤っていた気がしてならず、更には最愛の妹アイナの本心に気づくこともできず、いよいよ以って私はこれまで何を見ていたのだろうかと、自分で自分のことが分からなくなってしまった。

 

 自らお漏らしをすることでゼニス・アーデに対する偏見を取り払えるのではないか、アイナの気持ち(フェチ)を理解できるのではないか。

 そんな考えがふと浮かび、居ても立っても居られなくなったのだ。

 

 正常でない精神が導いたこの回答が如何に倒錯した物であるかを理解しつつも、やはり正常でないのだから今まさに実行に移そうとしている。

 とは言っても浴室で用を足すだけだ。お漏らしとは到底呼べないし、周囲に人の目もない。そういった点で考えれば幾分か正気を保っているとも言えた。

 

 

 

 衣服を全て脱ぎ去り一糸纏わぬ姿となる。素肌が外気に晒され小さく身を震わせる。それと同時にキュッと下腹部が締まった。

 このためだけに今日は水分を多めに取って用を足すのを控えていたのでそれなりの量が溜まっているはずだ。

 日中、焦れるような尿意を我慢しつつ努めて普段通りを装ったが、お父様やエレノアお姉様、それにアイナから不審がられなかっただろうか。

 水を飲んではため息をつき、時折お腹を撫でて顰めっ面をする様子はさぞや滑稽だったろう。

 

 再び身体を震わせる。

 いつまでも裸のまま突っ立っているわけにもいかない。とりあえず湯を浴びようと桶に温水を汲み肩から流した。

 水滴が胸からお腹へ伝い、太ももを撫でながら足元へ滑り落ちていった。その水気の感触──ゼニス・アーデにお漏らしをさせられた時によく似た──により、物理的にも精神的にも膀胱が刺激され、今日一番の尿意を覚える。

 そうやって意識すればする程、焦燥感は強くなっていく。膀胱はジクジクと疼き、中の重みを伝えていた。

 

 

 

 私は普段長風呂をしないので、あまり悠長にしているとアイナが様子を見に来るかもしれない。

 さっさと致してしまおう。そして冷静な私に戻るのだ。

 

 

 

 

 

 

「んっ………………………」

 

 

 

 

 

 

 出ないな。

 

 緊張でもしているのかレティシアよ、らしくないぞ。

 

 

 

 

 

 

「………………………ふぅ」

 

 

 

 

 

 

 やはり出ない。

 

 水がぴったりと張られた水盆をイメージし、集中を高める。

 師匠直伝の精神統一方法をこんな下らないことのために使うなど、ほとほと呆れ果てる。

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 

 

 

 そもそも私は普段どうやって放尿していただろうか。

 

 多分力を緩めれば自然と出ると思うのだが、それが出来ない。

 ゆっくりと緩めていくも、一定の所まで達すると一気に跳ね上がるようにキュッと締まってしまう。それの繰り返しであった。

 おしっこをするのはトイレ、という十数年分の経験と理性がトイレの場所を間違えた主人の行為を制している。

 あと一歩で出せる!となった際も、やはり直前で押し留めてしまい放尿するには至らなかった。むしろ、その揺り返しかのように波が引いてしまう。

 

 未だジクジクと疼いてはいるが、出る気配は感じられなかった。

 やはり自発的に溜めた量では、理性やら何やらで我慢できてしまう程度にしかならないのだろうか。

 

 

 

 奴の力はこんなものではなかった……

 

 

 

 一切の抵抗を許さないあの絶対的な尿意の奔流はこんな生優しいものではなかった。

 止めどなく溢れる尿と一緒に全身の力が抜けていき、脚はガクガク震える。込み上げる屈辱と羞恥の感情が溜まり切ったものを吐き出す安堵と快感に塗り潰されていき、しかしそれが余計に屈辱的で私の心は私でなくなってしまう。

 

 だから、全然違うのだ、あれは。

 

 そうやってあの感覚を思い出していると、大きな波がやってきた。

 あの男に(いざな)われるようで少し癪ではあったが、このチャンスを逃さないように慎重に出口を緩めつつ、重力に従うよう意識を集中する。

 フゥッフゥッと短い息を吐きつつ数度の弛緩を繰り返し、そして━━━

 

 

 

 チョロロ……

 

 

 

 出た!!

 

 膀胱からむず痒い快感が全身に広がり思わず歯噛みする。

 様子見をするような、おっかなビックリ顔を出したような、そんな僅かな量ではあったが、確かに理性の城門をこじ開けることに成功したのだ。

 

 こうなったら後は流れである。

 

 さほど意識を集中させなくとも堰を切ったように、溜まっていた物が我先にと出口を目指した。

 

 

 

 ショアァァァ━━━━━━━━!!

 

 

 

 圧縮されたおしっこが勢いよく放出されていく音、それがタイルに当たり砕けていく音が浴室内で反響する。

 四方八方から自らの倒錯的な行いを責め立てられ、私は目を瞑り耳を塞ぐが、視覚と聴覚を閉じたせいで余計に下腹部へ意識が集中してしまった。

 

 皮で出来た水袋に針で穴を開け、たぷたぷに膨らんだ袋を思いっきり握る。中に蓄えられた重さが目減りしていくのを握った手のひら越しに伝えられる、そんな感覚。

 残量が減るごとにその感覚は静かになっていき、入れ替わりで参加した感覚が存在を主張し始めた。

 

 

 

「〜〜〜〜っっ!!」

 

 

 

 この感覚には覚えがある。ゼニス・アーデの時と同じ。

 

 これは0を迎える感覚。

 

 残尿曲線が0を掠めて低空飛行を続けるのだ。こいつは出すまでを焦らしたくせに、出し切る際までも焦らすと言うのだ。

 

 しかし、私の身体はどうしようもなくその瞬間を期待してしまっていた。

 

 

 

 

 そして━━

 

 

 

 遂にその瞬間を━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい経っただろうか。恐る恐る目と耳を自由にしていく。

 あの反響音はもう聞こえず、代わりに薄黄色の水たまりがコポコポと排水溝へ吸い込まれていくだけであった。

 

 私はその様子をジッと見つめる。

 

 結局、後に残ったのは、妙にスッキリとした頭と全て出し切って身軽となった身体。

 

 たったそれだけだった。それ以外には何も残っていなかった。

 

 

 

「…………フフッ」

 

 

 

 思わず笑ってしまう。

 

 私を悩ませていたアレやコレはつい今し方、(あぶく)となって消えていったのだ。

 出してしまえば本当になんてことのない、呆気ないものであった。

 

 

 

 

 試みは成功した。

 

 私は以前の正常な私に戻った。

 

 ……いや、戻ったのではない。

 大きな壁を乗り越えたことによる強い自信と精神力の成長を感じる。

 

 

 

 私はより強くなれた。

 

 

 

 いますぐ庭に出て、剣を振りたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん?お風呂長いよ〜。のぼせたの?」

 

 アイナの声がして我に返るが、それを静止する間もなく浴室の扉が開け放たれる。

 湯船に浸かるでもなく突っ立っている私を不思議がるように見つめる。スンスンと鼻を鳴らし、何かに気づいた様子で声を顰めて言った。

 

「………レティシアお姉様……いくら流せるからと言ってもお風呂場で致すのは淑女(レディー)としてどうかと……」

 

「…………………あぁ、すまない」

 

 どの口が、という言葉をなんとか喉の寸前で押し留める。

 おしっこ癖のアイナであっても、お風呂場で(いたずら)に致すのは違うらしい。

 つまり、その手の人間からでさえも、今の私は品位に欠ける行いをしたと見做されているのだ。

 

 アイナはそれ以上言いはしなかったが、桶で湯水をすくい、排水溝へ誘導するように流し始めた。

 

 私はそんな最愛の妹を尻目に浴室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 私は何をやっていたのだろう……。

 

 アイナに粗相を嗜められたことで冷静になってみると、酷く惨めな感情に襲われる。

 私が理性と羞恥を捨て去ってまで掴みかけた何かは、側から見れば「湯浴み中におしっこしたくなっちゃった!えいっ!」と同じであった。少なくともアイナの瞳にはそう映ったのだ。

 

 そんな客観視を得た後となっては、お風呂場でおしっこしたことで得た自信などバカげているにも程がある。

 

 

 

 

 

 

 あぁ……それに……。

 

 

 

 明日にはここを離れなくてはならない。あのような事件の後で学内におけるレティシア派閥の長が何日も席を空けるわけにはいかない。

 

 

 

 しかしなぁ……、

 

 

 

 学校行きたくないなぁ……。

 

 

 

 そんな感情を覚えたのは一体いつ以来だろうか。

 もはや先程までの自信は影に隠れ、私に勇気を与えてはくれなかった。

 アルバートが校舎の造りが合理的でないと癇癪を起こして学園ごと吹き飛ばしたりしないかなぁ……。

 そんなバカげた妄想を思い描きながら、私は悩める夜に身を任せた。

 

 

 

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