失禁ゼニスの黄金譚:変態能力における青春と倒錯的情動 作:マグルマン
◆◇◆
「ゼニス・アーデ、先の戦い見事であった」
「はっ!ありがたきお言葉」
リリアーノ・ベアトリーチェは考える。なぜ私の兄はこの男を呼びつけたのか。理由は決まっている。自派閥に取り込むためだ。
五大貴族が一つ、ベアトリーチェ家の次期当主たる我が兄は、合理主義が服を着ていると親にすら言われている。
たとえ相手が『失禁』と忌み嫌われる一代魔法士であったとしても、レティシア・ルイン・エレガントを一騎打ちで負かしたことは事実であり、その一点のみで語るなら確かに派閥勧誘も納得である。
「私は周りくどい言い回しは好きではない。単刀直入に聞こう。我々の派閥に加わる気はないか?」
「ベアトリーチェ様の派閥に……ですか?」
「君も知っておろうが、魔力は血に滲む。貴族出の人間は家名から逃れられん。生まれながら派閥に属している。だからこそ、君のような魔法士を引き込むのは派閥の長として必須なのだ」
ゼニスは何を言うでもなく押し黙ったままだ。
兄の言う派閥とは何も学園内に収まる話ではない。今後の人生を決定付けるものになるだろう。
「………お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
絞り出すように紡がれたその返事は、決断の重さを考えれば当然の内容なのだが━━
「ふむ、すぐには答えられないか…。確かに我らの派閥は最大派閥ではないがレティシア家に次ぐ大手だ。先の騒動で君はレティシア家への不興を決定的なものにした以上、我が派閥に加わることを躊躇う必要はないと思われるが…」
兄の道理は一部の隙もない事実であったが、そうと割り切れないのが人間である。
ゼニスの顔は「そう言われましても…」とでも言いたげな困り顔である。
彼はベアトリーチェ派閥に加わることを躊躇っているのでなく、決断すること自体を躊躇っているのだろう。
だが、その理由にロジカルでない要素が混じっている以上、合理主義の権化たる兄が理解することは難しい。
だからこそ私が居る。
「兄様、返事を急ぐ必要はないでしょう?そういった将来のあれこれを見極めるための学園でもあるのですから」
兄は分からずやではない。自分が理解できないだけで、他の人にはそういった心の動きがあることを知っている。自身が感情の機微に疎いことも自覚している。
私がそっと助け舟を出せば理解はできずとも納得は示してくれる。
「ふむ、それも道理だ。ゼニスよ、事を急いですまなかったな。返事はいつでもいい。ゆっくり考えるとよい。まぁ早いに越したことはないが」
そういってほんの少し。長年横で兄を見てきた私にしか分からない程微かに、兄は笑みを浮かべる。
他の誰も、家族の誰も知らない、私だけの兄様の姿。私だけが理解している兄様の心の姿。この笑みを見るたびに私が側に居なくては、と思わされる。
それは決して嫌な感情ではなく、むしろ暖かく心地よいものであった。
「ご配慮痛み入りますベアトリーチェ様」
「良い返事を期待している。……あぁ、それとだがもう一つ確認したいことがあった」
話がまとまり、これで終わりかと、ほっとした表情をしたゼニスの顔に緊張が走る。
「いや何、派閥に関することではない。私個人の好奇心だと思ってくれ」
「はぁ……」
要領を得ず生返事するゼニス。それを気にせず兄は言葉を続ける。
「君の力についてだが、『相手を失禁させる』とは本当かね?精神干渉系の魔法だとして、レティシア君の魔力操作はかなりの腕だ。言っては何だが、君の魔力量は一般的な一代魔法士のそれ。レティシア君の干渉防御を突破できたとは少し信じられない。そこでだ、その力、今ここで見せてくれないかね?」
「っ!!兄様!!」
思わず叫んでしまう。
「そう大きな声を出すなリリ。気になるものは気になるのだ」
確かにこの部屋には兄と私とゼニスの三人しかおらず、人目を憚る必要はない。人目を憚る必要はないのだからここでお漏らしをしても何ら気にすることはない。と兄は考えている。
兄の合理主義もここまで来ていたか……。
これは後々良くない方向へ進んでしまうかもしれない。
私がしっかりしなければ…。
「それで?構わないかね?血統魔法に類する固有の魔法だと推測している。むやみやたらに見せたくなければ断ってくれて構わないが」
「……ほ、本当に…よ、よろしいのですか!?」
「構わん、なぁリリ?」
「えぇ、もう好きになさってください」
「さぁ、ゼニス君。その力を以てリリを失禁させてみよ!!」
「えっ…?」
「んっ…?」
「私が…ですか?」
「そうだが?魔力操作の下手くそな私では干渉防御を突破できるかの実証意義が薄い。その点、リリの干渉防御は一級品だ。レティシア君すら遥かに凌駕する才能を持っていると私は確信している」
兄は合理主義が服を着ていると親にすら言われる人間。
自身の興味を満たすための手段を最も合理的に導き出した答えがこれなのだ。
そこに悪びれた様子は微塵も浮かんでおらず、「何を躊躇う必要があるのだろうか?」といつもの表情をしている。
これを断ることは簡単だ。いつも通り、助け舟を出してやればいい。だが、それでは兄の興味関心を満たすことはできない。
「ふむ、リリは嫌であるか。困ったな……。レティシア君に頼んでもう一度ゼニス君の力を受けてもらうか……?」
私は思い出した。
兄は何にでも理屈を付けないと気が済まないのだ。それは未だ謎多き魔法なる力を行使することを内心嫌っている程には気が済まないようであった。
レティシア・ルイン・エレガントにもう一度お漏らしをしてもらうなどという提案は質の悪い冗談に聞こえるかもしれないが、兄は本気で言っている。
今現在抱えている理屈の付かない彼の力を確かめるためなら、兄は当然の如く実行に移すだろう。その素敵な提案をレティシア様に直接、なんなら他の人間が居る前で平然と口にするに違いない。
ベアトリーチェ家次期当主、エレガント家の次女にお漏らしする姿を見せてほしいと懇願。
そんな風説が出回ることを想像しただけで眩暈がした。
「…………やります」
「おぉリリ。やってくれるか。では早速頼むぞ」
喜色の声を上げるこの兄には、私の心がどのように動きこの決断をしたか理解できまい。今後も理解することはきっとないだろう。
それでも。
それでも、この不器用な兄を側で支えるのが私の使命だと。その想いが変わることはなかった。
話に付いていけないとばかりに呆けているゼニス・アーデに向き合うと、己を鼓舞する意味も込め檄を飛ばす。
「さぁ、ゼニス殿。この私の干渉防御。打ち破れるものなら打ち破ってみなさいっ!!」
◆◇◆
レティシア様との模擬戦を終え、さぁ帰ろうかという頃。突如声を掛けられ訳も分からぬまま学園の一室に連れられた。
扉が開くとそこには二人の男女。
平民出の俺であっても五大貴族の人間くらいは見分けが付く。
合理主義の塊と名高いアルバート・ベアトリーチェ様と、ブラコンと名高いリリアーノ・ベアトリーチェ様であった。
そんな二人が俺に何の用か戦々恐々していると、どうやら自派閥への勧誘らしい。
『魔力は血に滲む』
ある歴史学者の言葉だ。
魔力を持つ者と持たない者の差は圧倒的であり、魔法士一人は万の兵士に匹敵すると言われる。
そして魔の素質が遺伝するとあれば、強固な支配階級が生まれるのも当然であった。
つまり貴族とは総じて魔法士である。
ここで問題となるのは平民出身の魔法士という存在だ。ごく稀に貴族家と何の関わり合いもない家庭から魔法士が生まれることがある。
魔力があるからこそ支配階級に座っていられるのだ。平民が魔法を使い出せばその前提から崩れることとなる。
ではどうするか?
貴族ならば魔法士が成り立つのだ。その逆、魔法士ならば貴族も成り立たせてしまえばいい。
すなわち一代に限り貴族位を与える。
こういった経緯により、平民出身の魔法士は一代魔法士と呼ばれる。
なるほど、生まれながらの貴族とは違い、浮いた存在である一代魔法士を派閥に取り込む意味は理解できた。アルバート様の説明も道理であった。
しかし、こちとら前世ではやりたい事などないが、働きたくもないから大学を受験する。そんな人間である。今世で15年過ごしたとしても気分は前世に引っ張られた学生のままである。将来を決める決断をこの場で下すのは躊躇われた。
結局、派閥加入への返事は待ってもらえることとなったが、それとは別に事態は変な方向へ進んでいった。
何故かリリアーノ様を失禁させることになってしまったのだ。
断ることなど出来なかった。
お漏らしフェチ神より賜ったこの力は、可憐な乙女を辱める機会を決して逃しはしない。
「んっ……」
今、リリアーノ様は、俺と実兄に見守られる中、必死に尿意に耐えていた。
足先から頭頂部にかけてぞくりと身を震わせると、その悪寒から身を守るように自らの腕で身体を抱き寄せる。
「…んっ……くふぅ……」
漏れ出る吐息は徐々に荒くなり、顔には汗が浮かび始める。
必死に抗っているのが見てとれた。そこに、横から食い入るように見つめていたアルバート様が口を挟む。
「リリ!!魔力操作に集中するのだ!木樹の構え!!」
「は、はい!!兄様!!」
リリアーノ様は兄の鼓舞を受け、抱き寄せる腕をほどくと頭の上でクロスさせ、全身を一本の木のようにさせた。
察するにベアトリーチェ家に伝わる魔力操作に集中するための構えなのだろう。
傍から見れば、尿意を耐える姿を見せつけているようにしか見えないが……。
「どうだ!?どんな感じなのだ!?」
「…ふぅ……、も、もう限界です……」
腕を頭の上でクロスさせ、セルフ緊縛状態のリリアーノ様。目に涙を溜め、下唇を噛み、綺麗な銀髪は汗で乱れて顔に張り付いている。けれど決して腕は下ろそうとしなかった。
これが大貴族の矜持というものか。
未だかつてこれほど耐えた者が居ただろうか。長い者でも十五秒程で決壊していたのがこれまでの記録であった。リリアーノ様より遥かに経験深い魔法士ですらそうなのだ。
それを自分と同年代のか細い少女が耐えている!!
その光景に、俺も目を離すことができなかった。
「がんばれ!!きっと耐えられる!!がんばれ!!」
どちらが先に言っただろうか。気づけばアルバート様と一緒になって彼女を応援していた。
「頑張れ!!頑張れ!」
「リリ!!私の自慢の妹!!お前なら耐えられる!!」
「あ゛あぁぁっ……!!はぁっ……はぁっ……!ぐうぅぅぅっ!」
リリアーノ様は自ら腕を上げ、お漏らしに耐える姿を見せつけつつ、それを応援されるというよく分からない状況下にあった。
「まだいける!!頑張れ!!」
「お前は凄い!!行ける!行けるぞ!!」
謎の熱気に当てられ応援の声に力が籠る。が、しかし━━
「に、兄様……ごめ…んなさい……」
身体をビクンと震わせ、上げられた腕に力が籠る。それは瞬間であって、すぐさまリリアーノ様の体から力が抜けるのが分かった。口をだらしなく開けたまま嬌声をあげる。
「あっ……あ゛っ!…あ゛あぁっっ!!」
リリアーノ様のスカートに滲む色が見る見るうちに広がっていく。それは白磁のような脚を伝い静かに濡れ落ちると、カーペットへ消えていった。
「〜〜〜〜〜〜っっ!!」
腰を大きくビクンっと痙攣させ、声にならない声を上げる。その表情は先ほどまでの苦悶から解放され、恍惚の表情を浮かべていた。
顔を上気させ、目は虚。舌をだらしなく晒し、涎を垂らしながら熱い吐息を漏らす。大きく肩で息をしながら、時折全身を震わせていた。
「はぁぁぁ…!!はぁ……!!はぁ……んんっ………」
最後まで腕を上げ、膝をつくこともなく全てを出し切ったリリアーノ様を拍手が迎える。
その手を打つのは俺とアルバート様のみであったが、この場においては万雷の拍手に勝るとも劣らない大喝采であった。
「流石です!!リリアーノ様!!」
「実に見事であった!!それでこそ我が妹だ!!」
「ふぅ…、ふぁ……あ、ありがとう…二人とも……」
リリアーノ様は未だ冷めやらぬ余韻の中、訳もわからず感謝を述べる。
スカートは濡れ、髪は乱れ、大貴族が見せるにはいささか品がないと言われる姿なのかもしれない。
しかし、それは全てを出し切った少女の美しい姿であった。