失禁ゼニスの黄金譚:変態能力における青春と倒錯的情動   作:マグルマン

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第7話:査問と冤罪と証言

◆◇◆

 

 

 目の前には5つの席が備えられた半円状の机。レティシア様が中央、アルバート様が右隣に座り、リリアーノ様は兄の側に控えている。

 更に後方には柵があり、幾つもの目がこちらをみつめていた。

 

 

 

「とうとうやってくれたな、ゼニス・アーデ!!」

 

 レティシア様が何だか嬉しそうに言った。

 

「ゼニス君。私にはさっぱり分からない。なぜあんなことをしたのかね?」

 

 アルバート様が心底不思議そうに言った。

 

 

「……………」

 

 リリアーノ様が軽蔑の眼差しを向けた。

 

 

「くたばれ変態!!」「絶対に許しませんわ!!」「………そんなにおしっこが好きか!?」

 

 柵越しに野次が飛んだ。

 

 

「そもそもこれは何の集まりなのでしょうか?」

 

 俺は素直に疑問を述べた。

 まずは説明をしてくれ、と。

 なぜ俺は気持ちよく寝ていたところを叩き起こされ、問答無用で連行されたのか。

 現在進行形で、後ろ手に拘束され罪人の如き扱いを受けている理由はなぜだ?

 

 

 

「学内で問題があった場合、各派閥の代表が集まり査問会を開く決まりだ。君はある事件の容疑者として、これから査問にかけられる」

 

 アルバート様が概ね想像通りの返答をする。

 

「では私は何の罪でここに立たされているのでしょうか?」 

 

「ほう、自分は何もやっていない、そう言いたいのか?」

 

「……なにせ私には思い当たる節がありませんので」

 

 昨日のアイナ様との逢瀬に関して、俺は何一つ悪くない。むしろ被害者だ。

 仮にあのお漏らしが俺の力によるものだとしても、模擬戦の範疇ならば許されて然るべきだし、これで罪に問われるならば既に前科二犯が付いてる。

 

 つまり、俺は全くもって綺麗な身なのだが━━

 

「あくまでシラを切ると?まぁいい、そのための査問会なのだからな」

 

 レティシア様は相変わらず嬉しそうに言った。

 

 

 

 

 

「昨夜、何者かが女子寮に侵入しました。その者は寝ている女子生徒に対し『何らかの力』でおねしょをさせて回ったと推測されます。被害遭った生徒は全員、寝具も寝巻きもおねしょ跡がはっきり残るほどでした。その数、31人。女子寮の一階が自室の全員が被害に遭っていました」

 

 なるほど、傍聴席が女子生徒ばかりなのも合点がいく。

 推定無罪の精神で伏せられているが、『何者』が俺を指しているのは彼女たちの怒りの視線からも明らかであった。

 

「どうだ?自分の罪を思い出したか?」

 

「身に覚えのない濡れ衣です」

 

 30を超える女子生徒の集団おねしょ事件。

 勝手に一人で漏らし始めたアイナ様と違って、今回は関わっている数が桁違いだ。偶然では片付けられない、明らかに作為的なおねしょ。

 俺に容疑がかかるのも納得の事件ではあるが、もちろん俺はやってない。

 それに事件の概要を聞く限り、状況証拠しかない。

 

「悪夢を見せておねしょをさせるとか。そんな魔法を使える者は居ないのですか?」

 

 とりあえずパッと思いついた考えを述べる。

 

「居ないことはないと思う。過去の文献を探れば似たような魔法はきっと見つかるだろう」

 

「だったら───

 

「いいや、今回は貴様で決まりだ」

 

 食い気味に否定された。

 レティシア様は審議を吹っ飛ばして決めつけにかかっている。というか、この場に居る──アルバート様を除く──全ての人間がそれを支持している雰囲気があった。

 

「事件の概要はこれだけではない、続きがある」

 

 彼女は勝ち誇るように手を一度叩くと、リリアーノ様が後を引き取る。

 

「侵入者はひとしきりおねしょをさせて回った後、巡回当番として見回りをしていた女子生徒に遭遇。『何らかの力』で失禁させ口封じを試みるも、同じく巡回していた寮監の接近に気付き逃走しました。寮監は失禁最中の女子生徒を発見し、寮内の異常を感じたとのことです。その後、各部屋を点検した際、おねしょをしている生徒が複数居ることに気付き、事件が発覚。という流れになります」

 

 どうやら被害者はもう一人居たようだ。

 

「では、ここで当時巡回当番をしていた少女の証言を聞きます。グリア・レイヒ、こちらへ」

 

 傍聴エリアから1人の少女が前に出る。

 見覚えがあるような気がして少し頭を捻ると、アイナ様の横にいた取巻きの1人である事を思い出した。

 

「名前は?」

 

「レイヒ家の長女、グリア・レイヒです」

 

「グリア。君は昨夜、巡回当番をしていた。間違いないね?」

 

「はい、そうです」

 

「辛いことを思い起こさせるようで悪いが昨夜の出来事をもう一度教えてくれないか?」

 

「…分かりました」

 

 グリア・レイヒと呼ばれた少女は短くと深呼吸をして、言葉を紡ぎ始めた。

 

「……巡回当番として私は1年生の遼棟を担当していました。何か起こるだなんて微塵も思っておらず、規定通りのルートを辿って2階の見回りが一通り終わり、1階へ降りていった時のことです。……微かにですが、扉の開く音と荒い息遣いが聞こえたような気がしたのです。私は音が聞こえたと思った方へ慎重に足を運びました。見ると、階段からほど近い一室の扉が僅かに開いていました。夜中に目が覚めただけだろう。そう思い中を覗くとそこには………」

 

「そこには?」

 

「あの日はよく晴れていて雲も少なく、月が明るかったのではっきりと覚えています。そこには、あの男ゼニス・アーデがベッドの側でハァハァと荒い息を上げてるところでした!!」

 

 遂に告発がなされた。

 卑劣なる侵入者の正体が今、生きた証人によって白日の元に晒されたのである。

 

 

 

 あれコレ詰んでね?

 

 そもそも俺の弁護を担当する人とか居ないの?

 捜査パートもなしに裁判パートに突入して、「自己弁護でよろしく」は流石に無理が過ぎる。

 

 今更になって焦りが生まれ始めた。

 額に汗が浮かぶ。

 それを拭うことも拘束された手では許されず、焦燥と不快感から心臓が加速する。

 

 

 

「寝ている女子生徒は辛そうに呼吸をしていました。あの男は慎重に布団を捲ると、ジワジワと広がっていくおねしょの後を満足げに眺めていました。その際、小さな声でしたが『君は80点』と言っていました」

 

 しかも、お漏らしに採点をする変態ソムリエ的なキャラ付けをされている!!

 

「違う。違います!私ではない!」

 

「答えられた時しか発言は許可されていない。すまないグリア、続けてくれ」

 

「はい、私は思わず悲鳴を漏らしてしまい、それで気付いたようです。恐ろしい速さで距離を詰め、手で私の口を塞ぐと奴は言ったのです」

 

 グリア・レイヒが声を潜めた。

 この場にいる全ての人間が固唾を飲んで、次の言葉を待つ。

 彼女はたっぷりを間を取り、周囲が確かに耳を傾けている事を確認してから、重々しく口を開いた。

 

 

 

「今日のパンティーはお気に入りかい?もしそうなら先に脱いでおくことをお勧めするよ」

 

 

 

 キャーーーーー!!

 

 

 

 今日一番の悲鳴が上がる。

 キャーじゃないよ、何だこいつら!?

 

 

 

「私は訳もわからず動けないでいると、突如尿意に襲われ………、そこからの記憶はありません。気づいた時には隣に寮監が居ました。………私からは以上です」

 

「ありがとう、グリア。とても勇敢な姿だった」

 

 彼女は傍聴席へ戻って行った。

 熱い抱擁や励ましの言葉が彼女を迎える。

 

「して、ゼニス・アーデ。何か言いたいことはあるか?」

 

「一切身に覚えはありません!!ほんの1ミリも私は関わっていない!!」

 

 嫌だ!嫌だ!こんなしょうもない事件で破滅するなんて嫌にも程がある!

 そもそも、30を超える人間をおねしょさせた罪は如何程だろうか。過去に判例があるならば今すぐ知りたいところである。

 

「では何か?君の他に『相手を失禁させる』力の持ち主がいると言うのか?君そっくりの親族が遊びに来ていたと?それとも侵入者などおらず、たまたま皆が一斉におねしょをして、巡回当番の者が勝手に失禁したと?」

 

「それは分からない。ただ私は関与していない!」

 

 自分が無罪である、それしか知らない人間は他に何を言えるだろうか?

 何の根拠もなく、ただ無罪を主張する他ないのだ。手持ちのカードがそれしかないのだ。

 

 

 

「レティシア君、決めつけは良くない。彼の意見も聞くべきだ」

 

 この場で唯一、俺の有罪を決めあぐねているアルバート様から助け舟が渡された。

 

「そうだな。ゼニス・アーデ、貴様から質問をする事を許す」

 

 なんとかここで情報を集めなくてはならない。

 

「で、ではまず事件のあった時刻を教えていただきたい!」

 

「いつ侵入されたかは不明です。そのルートも。ただ、グリア・レイヒを発見した時刻を寮監が確認していました。深夜の3時を少し過ぎた時間だそうです。そこから遡り、犯行は深夜の1時から3時にかけて、と推測しています」

 

「だそうだ。して、その時間は何をしていたのかね?」

 

 確かその時間は━━━

 

「自室で寝ておりました」

 

「査問会に召喚されるまでずっとか?それを証明できる人物は居るか?」

 

「………いえ、個室ですので」

 

「アリバイはなし…っと」

 

「ま、待ってください!!男子寮にも巡回当番や寮監が居たはず!!彼らの証言は何もないのですか!?」

 

「……当然聴取は済ませている。彼らは昨夜、何の異常もなかった。そう言っている。外から中に入った女子寮と違って、中から外なのだから、まぁ当然だな。自室の窓から外に出てしまえば済む話だ」

 

「では!!女子寮の周りに足跡などはなかったのですか!?」

 

「グリア・レイヒの証言にもあったが、昨夜はよく晴れた日だ。地面も乾いている。足跡などはなかった」

 

「その証言はどの程度信用できるのでしょうか!?尿意と私を無意識で紐づけていたせいで、私が居たと勘違いしたのでは!?」

 

「仮に見間違いだったとして、31人のおねしょはどう考えればいい?悪夢を見せる魔法についても当然検討したが必ず失禁するかは疑問だ。途中目覚める者も居るだろう。今回の犯人は極めて失禁に特化した力の持ち主。つまり貴様と考えて然るべきだろう?」

 

「……そうだ!何か魔法的な…、そう!!嘘を見抜く魔法とか記憶を覗く魔法とかで調べたりはできないのですか!?」

 

「手段としては可能だが、仮に嘘を見抜く魔法士が『こいつは嘘を付いている』と証言したとして、その証言の真偽を誰が担保する?どちらにせよ納得できまい。だから査問会では魔法を用いた聴取は行わない」

 

 思いついた案は悉く潰されていく。

 いや、元より散々検討し尽くした上で俺以外に容疑者が居なかったからこそレティシア様は自身気なのだろう。

 

 それでも━━━

 

「……も、もし俺が犯人ならば、自分がやりましたと声高に主張するような、そんな犯行しますか!?」

 

「1番怪しいから逆に見逃してくれと、そう言うことか?それこそ何の根拠もない言い訳ではないか?それに君の力を使いながら、私じゃありませんと言えるような犯行、逆に難しいだろう」

 

「そんなことはありません!お手洗いのタイミングに合わせるなどやりようはいくらでもあります!!」

 

 レティシア様の言葉に反抗したい一心で思わず言ってしまった。

 それを悔いる暇すらなく追撃が加えられた。

 

「そら見ろ、ゼニス・アーデの小水に対する熱意を。これが犯人でなくてなんとする?」

 

「…………………」

 

 

 

 レティシア様は何も言えず黙りこくった俺を眺め、満足気に頷いた。

 

「これはもう決まったも同然ではないか?決議に移って良いのでは?」

 

「待てレティシア君。過半数、つまり3人以上での決議がルールだろう。君と私の2人だけでは人数が足りない出来ない」

 

 ポンポンと俺の有罪が決まりかけたタイミングで、アルバート様が制した。

 そういえば、査問会は各派閥の代表がどうとか言っていた。

 

「今年はどの派閥も本家の人間が在学している珍しい年でな。お前を裁くために五大貴族が一堂に会するはずだったんだが……」

 

 半円卓には3つもの空席。

 

「なぜエレガント家とベアトリーチェ家の者しか居ないんだ?」

 

「それぞれ、『つまらんことに呼ぶな』、『関わり合いたくない』、『部屋から出たくない』とのことで」

 

 リリアーノ様が呆れた口調で補足した。

 俺の有罪一直線だった空気が一気に弛緩する。

 

 これはよもや時間が生まれるのでは!?

 ここから捜査を行い、無罪の証拠を見つけられれば!!

 

 そんな淡い期待が沸き始めたのだが━━━

 

「………リリアーノを入れて3人じゃないか?彼女も五大貴族の1人だ。アルバートが卒業すれば派閥の代表となる。資格は十分にある」

 

 レティシア様が至極どうでも良さそうに言った。

 

「しかし、リリと私は同じ派閥の人間じゃないか。同じ派閥から2人も選出しては公平性に欠ける」

 

 いいぞ!アルバート様!

 

 派閥どうこう以前の問題として、3人中2人がお漏らし経験者では公平なジャッジなど期待できない。

 まだ関わり合いのない三家の方に登場してもらった方が遥かにマシというものだ。

 

 

 

 この勝負、まだ終わっちゃいない!!

 

 

 

「君の妹は、派閥や兄の意見によって公平な審議が出来なくなるような、その程度の人間なのかい?」

 

「はっ!!断じて否だ!!」

 

「では良いではないか?」

 

「うむ、良いな。決議に移ろう」

 

 アルバート様はあっさり籠絡された。

 この人は結構バカなのかもしれない。

 

 

 

 終わった。

 

  

 

 

 

 

 

 

「それでは、決議に━

 

 

 

「ちょっと待った!!」

 

 

 

「━━━ッ!?」

 

 誰もが俺の有罪を確信した。俺すらも覚悟した。その時である。

 

 勢いよく扉を開け放ったのは小柄な影。

 

「………スカラ!?」

 

「やぁ、随分探したぜ、後輩君」

 

 

 

 

 

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