失禁ゼニスの黄金譚:変態能力における青春と倒錯的情動 作:マグルマン
◆◇◆
「スカラ・エクレール。今は査問会の最中だぞ。何の用だ?」
「いや、何。ゼニス君に用事があってね。研究所には居ないから探してみればという訳だ」
「スカラ!!」
縋るように名前を呼ぶと彼女と目が合う。ついでに立ち寄ったと言わんばかりのスカラではあったが、その目は「君を助けに来たぜ!」と伝えているようであった。
気持ちよく俺を断罪しようとしていた瞬間に水を差され、不機嫌そうな視線がスカラに集中するが彼女は意に介していない様子だ。小柄ながらも何とも頼もしい。
「そうか、今丁度決議に入ったところだ。ゼニス・アーデと話すのはその後にしてくれ。貴族牢でも面会くらいは許してやる」
「知りたくはないかい?ゼニス・アーデの力の秘密を」
強引に打ち切ろうとしたレティシア様の言葉をスカラが遮った。その自信満々の態度に皆が眉根を寄せる。
突然の乱入者を良しとする者はおらず、ただそれ以上にスカラの言う『秘密』というのが気になっている様子だ。
それは俺も同じであった。
ただ『相手を失禁させる』という至極シンプルな効能に何があるというのだろうか。
「それはきっとこの事件を解決する手掛かりになるはずだ。状況証拠や証言以上にね」
「ほう…この男が無罪だと、そう言いたいのか?」
「さぁね、ただ私は事実として彼の力についての研究成果を披露したい、それだけだよ。それを君たちがどう判断するかは分かりかねる」
レティシア様は思案するように押し黙った。彼女がどの程度公平な心を以てこの審問に臨んでいるかは定かではない。定かではないが少なくとも。スカラの言葉を封殺し、元の論調に戻ったらば俺の有罪は確実となるだろうが、その気はないらしい。
「少し異例となるが私は話を聞いても良いと思っている。アルバート、リリアーノ、二人はどうだろうか?」
「あぁ、是非とも聞きたい。未だ彼が犯行に及んだかは判断しかねている。新たな証言は歓迎だ。それにゼニス君の力の秘密とやらも興味がある」
「私も兄様と同じです」
お三方の了承を得たスカラはこちらを振り返り鷹揚に頷くと、再び正面に向き直る。
「では、聞いてくれ。私の実験と考察を」
そう言ってまず1週間ほど前の実験について語り出した。
早口で要領を得ず、無駄に難解で間延びしているくせに所々省略された説明は、普段の科学者然とした彼女からは想像できない姿であった。
それまでの自信満々の態度はどこへやら。特に彼女の小水が溢れそうになったエピソードは見事に省略されていた。
だが幸いにも、彼女が実験としてお漏らしをしたこと、その成果物をビーカーに保存していることは皆理解したようであった。
俺とアルバート様はいざ知らず、この場の全ての女性は共にお漏らしをさせられた被害者として、スカラを迎え入れたように見えた。
突然の訪問者にして科学の先兵はその不躾な登場にも関わらず、有力な証言者として確固たる地位を得たのだ。
スカラは皆が実験の概要をしかと理解したと判断し、次の話題に移った。
「では、ここで聞きたい。レティシア、君は彼の力によってお漏らしした際、どれほどの量を放出したか分かるかい?」
「……いや、覚えていない。そもそも力を受けた際は訳もわからず、そんな事気にしている余裕もなかった。私の……おしっこはすぐさま地面へ吸い込まれていったしな」
「およそ600mℓだ」
「600mℓ?量としては理解できるが、いまいちピンと来ないな…」
「膀胱の最大容量は350〜600mℓと言われている。つまり、膀胱の限界量だったという訳だ。ちなみに尿意を感じ始めるのは200mℓらしい」
少しでも長くお漏らし姿を見たいというあのフェチ神の配慮だろうか。思い返してみても、レティシア様とリリアーノ様のお漏らしは結構な時間だった。
本人達も自身がお漏らしした際のことを思い返しているのか少し顔を赤くする。
「そこで注意すべき点だが…。レティシア、君は尿意に耐えながら彼との戦いに臨んだのかね?」
「…もちろん違う。どのような相手だろうと、コンディションは万全に整えている。尿意など微塵も感じていなかった」
「そうだろう、そうだろう。君が実際にどのくらいお漏らししたかは定かではないが側から見ていても中々の名瀑であったぞ」
スカラの挑発的な物言いに、半円卓から身を乗り出さんとするレティシア様。
それを制して言葉を続けた。
「私も実験に際して事前にお手洗いへ行った。すっからかんで挑んだ。その上で600という数字、これをどう考える?」
「どう…とは?」
「彼の力は一口に『相手を失禁させる』と言ってるが、その構造は膀胱を緩めるだとかそんな甘っちょろいものではない」
スカラが懐から厳重に封をされた試験管を取り出す。
中は黄金色の液体で満たされていた。
「この容疑は……実験で採取した私の尿だ。これに純正の魔石を近づけると━━━」
魔石が仄かに光を帯びる。
淡い光は試験管に近付ければ近付ける程強い光に変わっていった。
「魔力を吸収し仄かに光っていることが分かる。つまりこの尿は魔力を帯びた聖水なのだ!!」
スカラが声高に宣言すると場の雰囲気が変わった。皆が驚愕に目を見開いている。俺だって驚いている。
聖水(意味深)ではなく文字通りの聖水だったなど、フェチ神には呆れて物も言えない。
「ここからは私の考察だが、彼の力は『膀胱の限界ギリギリの尿を魔法的に生成させる』ものだと考える。これほどの水分を体内で一気に尿へ生成すれば少なからず体調に影響を及ぼすことから、大気中の水分を取り込んで尿にしているのかもしれんが……。まぁともかくそういうことだ」
「さらに考察だが、尿の生成プロセスは力の対象者の魔力を使用していると考えられる。尿を生成する魔法を自分の魔力を使い自分に発動するのだ。そのため、力を受けると、それまでの魔法的行動を阻害させられ、更なる魔法も発動出来なくなる。同時に、物質の生成という高度魔法を発動することで魔力を急速に失う。少なくとも戦闘継続は難しいだろうな」
スカラが一呼吸を置く。
一通りの考察を述べ、最終的な結論に入ろうとしていた。
「ベラベラと喋ったが、今回の事件を紐解く上で重要なことは、ゼニス・アーデによるお漏らしは聖水を生むということだ。ここまで言えば分かるだろ?」
「……ッ!!おねしょ跡か!!」
「そうだ。布地に染み込んでいるだろうし、日数も経過していない。魔力の反応があるか調べれば彼が白か黒かハッキリするだろう」
「その言葉が事実だという証拠はあるのか?その試験管の中身は本当にゼニス・アーデの力によって生み出されたものだと証明する物は?」
「私は実験には真摯でいる。その結果に対してもだ。だから真実だ、というのではレティシアは満足しないのだろうな…」
レティシア様自身、難癖であることを理解しているのか両者それ以上押すも引くもできず硬直してしまった。
そんな沈黙などいざ知らずとでも言うようにひょっこりと手が上がる。
「というか、今ここで試せばいいのでは?」
アルバート様であった。
「それは名案ですね!!」とは誰一人言わなかった。リリアーノ様は残念なものを見る目で兄を見つめる。
「な、なんだ皆、そんな目で私を見て……。スカラ君の論理に納得出来ないのであればここで試せばいい。それだけじゃないか」
「……アルバート。気軽に試したいと思えるようなことでもないのだぞ。そんな天気がいいから散歩でもしようかみたいな風に言われても……」
「だが他にどうしようもあるまい」
「……………」
アルバート様の言う事は尤もな理屈であった。それを拒んでいるのは心理的な壁でしかない。
「………………………………………良いだろう、試してやるとも」
「レティシア、君自らが試すのかい?」
リリアーノ様を見て、次に傍聴席に座る女子生徒たちに視線を向け、諦めたように呟く。
「………異を唱えたのは私だ。他の者にやってもらうわけにもいくまい」
◆◇◆
「見たり音を聞いたりすることは許さん……。私が良いと言うまで後ろを向いて目を瞑り、耳を手で塞いでいろ」
流石に何か言う者は一人もおらず、皆素直に従う。
アルバート様は何か言いかけたが妹に強引に首を捻られ、渋々背を向けた。
査問会は急遽、公開お漏らしプレイをするための場となってしまったのだ。レティシア様はこれより、皆に見守られる中お漏らしをしてスカラの説の裏取りを行う。
別の部屋に行ってやればいいではないかと俺も思うのだが──
「そもそもスカラ女史の持ってきた物が本物かどうかが焦点だろう。皆が見てる前でないと裏付けにはならないのでは?」
というアルバート様の言によりこのような催しが行われることとなったのだ。
痛いほどの沈黙の中をレティシア様のおもらし準備の音が
スカートをたくしあげる音、下着を下ろす音、腰を下ろす音。
その一挙手一投足が微かに、しかしはっきりとした輪郭を持って耳に届く。
「準備はできた。………やれ」
身じろぎの音しか聞こえなくって数秒、覚悟を決めたレティシア様により合図が出される。
目視が発動条件というのはスカラより伝えられており、その瞬間だけ目を開けることを許可されていた。
そっと目を開ける。
彼女は半円卓に身を隠すように屈んでいた。当然ながらこちらに背を向けている。
この学園のスカートは丈が結構短い。膝にはかからないだろう。
スカラが袖から取り出した1ℓ大のビーカーを使用するため溢れる心配はないだろうが、やはり自身で狙いが付けられないと困るに違いない。
つまり、正面はおっ広げなのだ。
皆レティシア様を中心として背を向けている。当然覗き込める者は居ない。
そんなことは承知の上で彼女は緊張しているようだった。
不意打ちでの公開お漏らしと違い、今回は言わば宣言お漏らし。
多少なりとも勝手が違うのだろう。
下らないことを考えていると、レティシア様が背中越しにこちらを睨み、お漏らしの催促をした。
顔はやはり真っ赤だった。
俺は安心しきっていた。
魔力が検出されるはずがないのだ。俺とは別口の手段だろうと、純粋な物質すら構築するのは難しいと授業か何かで聞いた覚えがある。諸々の不純物の混じった聖水を胎内に生成する。それを31人分。フェチ神謹製の力だからこそ可能なことなのだと今更ながらに思わされる。
また、魔力が宿っているなどという情報は俺すらも知らない事実である。犯人がどのような手段を方法を用いたか定かではないが、聖水すら再現しているとは到底考えられない。
だからこれは悪あがきなのだ。
31のベッドシーツに付いているのはおねしょに見せかけられた跡か、或いは本当に純粋なおねしょの跡。そしてこれから出てくるのは五大貴族の潤沢な魔力を帯びた聖水。
これで茶番が終わる。
故の安堵。
「ゼ、ゼニス!貴様!!からかっているのか!!さっさとやれ!!」
再びの催促が耳に飛び込み、無性に腹が立った。
思えばレティシア様は最初から俺を犯人と決めつけていた。
恨まれる覚えは存分にあるが、だとしてもあまりにも公平を欠いている。
「おい!!聞いているのか!?」
痺れを切らせ彼女は立ちあがろうと腰を浮かし、こちらに身体を向けている最中だった。
決してそのタイミングを狙ったわけではない。少し苛立ちをぶつけるつもりで、合図を出さずに力を使っただけなのだが、結果、意趣返しとしてはバッチリなタイミングとなった。
レティシア様の荒げる声と中々始まらないお漏らしを訝しみ、そろりと目を開けた生徒も数人いる中、それは始まった。
「……ッ!!き、貴様ッ!!」
自らの身体の急変を感じ取り、すぐさま腰を下ろすも初動の遅れにより的を外した聖水が床を跳ねる。
それに合わせガラスを弾いたような軽快な音が響いた。
「は、はぁッ!?ちょっ……そんな……」
彼女の爪先が足元に用意していたビーカーを小突いたのだ。
咄嗟に手が伸ばされるも指先が僅かに触れただけで、その弾みを止めることは叶わなかった。むしろ勢いを助長するように、彼女の中指に背中を押され、ビーカーは軽快な音を鳴らしながら壁の方へ転がって行く。
既に襲い来る尿意により、四つん這いから体制を変えることも出来ず、未練たらしく手を伸ばしたまま絶望と苦悶の表情を浮かべていた。
そして聖水が滲みだす。
宙を彷徨っていた手が股ぐらを抑えるために使われる。レティシア様は自分の手が濡れるのも構わず、少しでも勢いを弱めようと些細な抵抗をしていた。だが、それで止まるはずもなく。溢れ出た聖水はレティシア様のスカートの裾を越え、膝を超え、床を濡らしていく。
最早レティシア様は諦めと達観の境地に至り、スクっと立ち上がると内股になりつつも確かなる歩みで壁際で静止しているビーカーを拾い上げ、聖水の噴出口に当てた。その動作の最中、ふと目が合う。その瞳には涙が溜まっていた。
羞恥か屈辱か怒りか哀しみか。そのどれともはかれぬ感情がない交ぜの顔をして、俺を一睨みするとレティシア様は最後の一滴まで流し込んだ。
◆◇◆
レティシア様の着替えが済み、査問会が再開された。
半円卓の上には未だ生産者の体温が仄かに残る聖水が静かに佇む。
「では行くぞ」
慎重に魔石を近付けていく。
採取できた量が少なかったのか、中々光を宿さない───
ということはなく、魔石はすぐさま光を帯びた。
スカラの説は正しかったようで、五大貴族産の聖水は潤沢な魔力を湛えているようであった。
「ほらね、私の言った通りだ」
「……だが、ゼニス・アーデの無罪が証明されたわけではない。誰のでもいい、ベッドシーツを持ってこい!!」
そうなのだ。
レティシア様が身を挺して証明したのは俺の力によって漏たらされた尿は魔力の宿る聖水となること。それだけ。
俺が無罪であることを証明するには、昨日の事件で形成された31のおねしょ跡から魔力が検知されないこと。これが条件である。
ややあって傍聴席がにわかに騒然とする。ベッドシーツが運び込まれたのだ。
31ある内の1枚に過ぎないが、それが自分の物だとも自分の物じゃないだとも断言できる者は居ないだろう。しかし確実にあの場にいる誰かの物が運び込まれたのだ。
ベッドシーツは既に乾燥した後なのか明確な跡は見られなかったが、中央やや下辺りに薄っすらとおねしょの痕跡が感じられた。
「では……」
レティシア様が再び魔石を近付ける。
おねしょ跡を探るように、ベッドシーツの上から下へ、右から左へと魔石を押し当てていく。が、魔石は光らなかった。
光るわけもないだろうと思いつつ、内心はバクバクだっただけに、この様子を見て安堵の息を漏らす。
誰がやったか知らないが、俺の無罪は証明されたも同じだ。とんだとばっちりであった。
ここまでの結果をもたらしてくれたスカラに目をやると、彼女も勝ち誇ったように笑い、勝利宣言を行う。
「ふむ、魔力は検知されないようだな。時間経過で薄れてしまった可能性もあるが数時間なら多少は残っているはずだ。やはり元から魔力を帯びてはいかなったと───
しかし、その言葉は最後まで続かなかった。
この場にいる全てのものがその光に目を奪われていた。
ベッドシーツのある一点から魔力を検知して。
仄かに、しかし確かな光が。