キーンコーンカーンコーン
「ふー、よーやく終わったぜ。帰ろうぜ貴明」
「ごめん、今日は珊瑚ちゃんと帰る約束してて」
いつもと変わらない学校の放課後。親友である貴明は申し訳無さそうな顔をしてそう言った
「けっ、そーかよ。相変わらずの恋愛ブルジョアめ」
「だからその恋愛ブルジョアってのやめてくれよ」
「やめてほしけりゃさっさと一人の女の子に絞りやがれ!」
「絞るもなにも俺は」
「女が苦手ってんだろ?いい加減その言い訳も通用しないからな?んじゃ、俺は帰る」
貴明が後ろでなにか言っているが無視して教室から出る。階段を降りていると姉貴とこのみと珊瑚ちゃんの声が、遅れて貴明の無様に狼狽する声が聞こえてきた。もう少し遅ければ俺も巻き込まれていたわけか。クワバラクワバラ
「さて、どーすっかな」
姉貴がいないからゲーセンに行ってもいいし小腹がすいたからヤック行ってもいい。そういや、明日は緒方理奈のCDの発売日だし、フラゲできないか回るのもありだな
そんなことを思いながら歩いていると、ふと、公園のブランコに見知った顔の女の子が座っているのを見つけた。赤紫っぽい髪にお団子ヘアー。先ほど貴明との会話で話題になった珊瑚ちゃんの双子の妹、瑠璃ちゃんだ
「そんなとこでなにしてんだ?」
特に親しいわけでもないどころか向こうは貴明と一緒にいるだけの俺のことを覚えてるかどうかも怪しいが、いつも珊瑚ちゃんとセットのように一緒にいる彼女がこんな場所で黄昏れているのが気になり声をかけてしまった
「誰やあんた。ナンパなら他行け」
案の定覚えられてなかった
「俺は向坂雄二。ほら、朝とかよく貴明と一緒にいるだろ?」
「・・・ああ」
どうやら思い出して貰えたらしい。俺はとりあえず空いているブランコに座る
「貴明の奴は珊瑚ちゃんと帰るって言ってたけど瑠璃ちゃんは一緒に帰んねーの?いつも一緒にいるっぽいのに」
「あんたには関係ないやろ」
「そりゃそうだけどさ。貴明や珊瑚ちゃんには言えないことで悩んでるからこんなところにいるんじゃねーの?話しぐらいなら聞くぜ」
瑠璃ちゃんは俺の言葉に反応せず、それっきり沈黙が流れる。・・・・・・ああ、沈黙が痛い
しかし、こちらから話しかけた手前このまま帰ってしまうのも後味が悪い。
「ウチとさんちゃんってそんなに似てるか?」
どーしたもんかと考えていると唐突に瑠璃ちゃんから話しかけられた
「そりゃ、似てるな。口調はともかく見た目は瓜二つだと思うぜ」
正直毎日貴明の周りで見てなかったら見分けはつかないだろうと思う
「そっか」
それから、瑠璃ちゃんはぽつぽつと話しだした。先日珊瑚ちゃんにお弁当を届けに来栖川の研究所に行った際、他の研究員に珊瑚ちゃんに間違われたらしい。それだけならよくある話だろう。実際、学校でも二人が間違えて呼ばれているのを目撃することはある。二人だって今さらその程度では嫌な顔をしない。しかしその研究員はあろうことか声をかけたのが瑠璃ちゃんだと分かると明らかに嫌そうな顔をして舌打ちをしこう言った
『なんだ、出来損ないの方か』
「やっぱり、ウチみたいな頭も愛想も悪いのはいらんのやって思ったら、さんちゃんにも貴明にも会いた無くなってん」
そこまで話し終えると瑠璃ちゃんは黙ってしまった。瑠璃ちゃんは、あんまり接点はない俺でも分かるほど、きつい口調とは裏腹に寂しがりやで傷つきやすい。その言葉のせいで周りの人間全てが自分と珊瑚ちゃんとを比較して見ているように見えたのだろう。それは珊瑚ちゃんや貴明も例外ではない。どんな言葉でも今の彼女にはあまり届かないだろう。だが、ここまで話を聞いてしまった手前、何も言わずに去るのも男が廃れる
「そんな珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの見分けもつかないような野郎の言葉なんか無視しとけ」
結局、俺の口から出てきたのはそんな当り障りのない言葉だった
「お互い、出来る姉貴がいると大変だな。俺にも姉貴がいるんだけどこれがまた完璧超人でさ。勉強も家事も出来るし腕っ節も強くて信念もあって妙なカリスマまでありやがる。正月のたびに親戚から比較されてお小言をもらったもんだぜ」
なんで俺は自分の格好悪い昔話をしてるんだか
「・・・お姉さんのことが嫌いになったりせんかったん?」
「別に?私生活に過剰に関与してくるのはうぜーって思うけどな。俺は自分が姉貴ほど出来た人間じゃねーって分かってるからそもそも張り合おうとも思わなかったし、親戚の言葉もテキトーに聞き流してたからな。貴明に聞いたけど瑠璃ちゃんは料理が得意なんだろ?メイドロボのイルファさんが唸るぐらい」
「まぁ、さんちゃんよりは出来るけど」
「俺はそれだけで十分だと思うぜ。人間何でもかんでも出来る奴なんていないんだからさ。俺の姉貴だって機械に弱かったり犬が苦手だったりするんだ。出来てない所を比べるよりも出来ることを誇ろうぜ。つーか、メイドロボよりもうまいもん作れるとか普通に誇ってもいいって。そんな料理食えてる貴明が羨ましい!」
しかも美少女の手作りである。若干俺の守備範囲とは異なるがそれでも瑠璃ちゃんが可愛いのには変わりない。そんなことを力強く言っていたら瑠璃ちゃんに若干引いた目で見られた
「と、とりあえずこんな所で悩んでないで珊瑚ちゃん達に正直に話してみろよ。絶対大丈夫だからさ」
「・・・そうしてみる」
ふぅ、どうやらそれなりに悩みを軽くしてあげることは出来たらしい。よかった、よかった
「じゃあ、俺は帰るぜ。しっかりと話しあえよ」
「・・・あ、ちょっと待って!あの、まださんちゃんに出せてない料理のレシピがあるんやけど、よかったら今度試食してくれへん?」」
ブランコから立ち上がって歩き出そうとしたら呼び止められた。振り返ると夕焼けで顔が真っ赤に染まって見える瑠璃ちゃんがそう言った
さっき羨ましいといったからお礼のつもりで誘ってくれたのだろうか?そのお誘いは大変ありがたいのだが、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃん同様貴明狙いだ。ならばここは本気で妬ましいが貴明に譲ったほうがいいだろう
「いや、そーゆーのは俺みたいなどうでもいいやつじゃなくてほんとに狙ってる奴にしとけって、貴明とか」
たく、貴明の野郎め。あいつの周りにはこんないい子ばかりなのになんであんな優柔不断な態度なのか俺には理解できないな
なんて思っていたら何故か瑠璃ちゃんが俯いて肩をプルプルと震わせていた
「お、おい?どうかしたのか?」
突然調子でも悪くなったのかと近づいた瞬間
「雄二のアホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
突然の怒声とともに鳩尾に腰の入った正拳突きをもらった
「ゴハッ!?!?」
痛みと驚きによってうずくまる俺をよそに瑠璃ちゃんはそのまま公園を出て行った
「な、なんだってんだ」
俺はそんな瑠璃ちゃんの後ろ姿を間抜けな体勢で見送るしかなかった
「うーよ、そんな所で寝ていると風邪を引くぞ」
しかもなんか妙な美少女に心配された
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翌日。あいも変わらず姉貴のDVすれすれどころか暴行罪が適用されそうな目覚ましで起きた俺はいつも通り貴明たちと一緒に登校する。その途中で仲良く登校する姫百合姉妹に遭遇した
「あー、たかあきやー。るー」
こちらに気づいた珊瑚ちゃんが駆け寄ってきて両手を上げる独特な挨拶をする。そーいや昨日あった謎の美少女もおんなじ事してたな。なんて思っていると瑠璃ちゃんもこちらに駆け寄ってきた
「さんちゃん、貴明なんかに近寄ったらアカンって言ってるやろ!エロいことされるで!」
いつも通りの貴明への罵声。どうやら昨日で悩み事はすっかりと解決したらしい。と、その時瑠璃ちゃんと目があった
「あ、おはよう、雄二」
「あ、ああ。おはよう、瑠璃ちゃん」
たったそれだけの挨拶を交わすと瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんを連れて先に行ってしまった。どうやら俺の名前を覚えてくれたらしい。その様子を見ていた貴明が奇妙なものを見るような目でこっちを見る
「なんだよ?」
「いや、いつの間に瑠璃ちゃんに名前覚えられたんだ?」
「昨日ちょっと話したんだよ」
「あんた、まさかあんな小さい子をナンパしたんじゃないでしょうね?」
「んなわけねーだろ!」
「でも、ユウくんだから」
三人のジトッとした目が突き刺さる。お前ら、俺をなんだと思ってんだ
結局、登校中どころか下校時にまで追求される羽目になった