異端者が歩む道   作:猫咲己

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…妄想って止まらないですよね。


第1話

「こんな事になるなんて知っていたらあんなこと願わなければよかった」

 

 記録的な豪雨の中、傘もささず薄暗い裏路地で膝をつく少年。

 この少年の胸中にあるのは、行き場の無い怒りと深い絶望、どうしようもない虚無感であった。

 ことの始まりは、13年前。なんてことはない、ふと思い立って神社に参拝しただけだった。そこで願ったことさえ健康だのお金だのありきたりのものであったのなら、変わらない日常が過ぎ去っていくだけだっただろう。

 彼が願ったのは『この世界ではない何処かで生きたい』。

 

 結論から言えば彼の願いは叶えられた。行ってみれたらなあ、なんてちょっと妄想していたジャンプ作品の「ヒロアカ」だ、当然大いに喜んだ。しかもおあつらえむきに望んだ通りの個性まで持って。

 これでヒーローになれる!なんてはしゃいでいる彼を見て優しく微笑む新しい両親を尻目に嬉々として個性の修練に明け暮れる毎日を過ごし、そして自由に外を出歩けるようになって()()を知った。

 

 少し考えれば分かることだ、漫画と現実は違うなんて。

 街中で暴れる敵、現場に駆けつけるヒーロー、アトラクション気分で現場に集まる一般人、ヴィラン受け取り係と揶揄される警察。これが当たり前の風景だ。誰も違和感なんて覚えもしない。

 けれど、世界中でただ一人、その普通を享受出来ない自分がいる。常に死の危険性が充満している街、今すれ違った人がヴィランかもしれないという恐怖。そして”個性”。なまじそれらの常識とは異なる価値観や常識を持っている彼にすれば全てが歪であり異常だった。

 

 その恐怖心は学校生活にも潜んでいた。ほんの少しの過ちで簡単に人を殺められる多種多様な個性とお世辞にも出来ているとは言えない手加減、そして自制心。

 

子供とは実に純粋だ。

 

大人は皆、そう純粋をさぞ良いものの様に語るがしかし、純粋であるが故に最もタチが悪い。

 

何故なら、彼らが善悪を判断することはないのだから。

 

 いい例が緑谷出久だろう、無個性であるが故に個性社会から爪弾きにされた人間。人と違うというのはそれだけでコミュニティから外される要因になる。

 そして当然、普通ではない彼もコミュニティから外された。この時の彼はもう人をヒトとして見ることも難しかった。それでもどうにか体裁を保てたのは基本的な生存においては持ちえる常識でどうにかなったからだ。

両親も何かを察していたのだろう、小学校の卒業と同時に引っ越しをして新天地での生活が始まった。中学生活では以前の自分を知る人間は一人も居ない。同年代の子供より成熟している精神性を持っている彼にとってクラスに溶け込み立場を確立することなど実に容易いものであった。

 

そうしているうちに時は流れ、中学一年生のある日、事件は起きた。

 

 両親が外出先で亡くなったと警察からの突然の電話はそう告げた。

 ちょうど帰りが遅いな、などと考えた矢先のことだった。原因はショッピングモールでのヴィラン立て篭もり事件で起きた崩落。そこまで聞いて、何かが壊れるような音が聞こえた。まだ何かを言っている携帯を置き、フラフラと家を出る。最も恐れていたこと、それは変わった息子を愛してくれた両親と自分に被害が及ぶこと。自分の中にあった最後の希望が消えてしまった。そのことだけが頭を駆け巡る。いつの間にか雨が降り始めたがそんなことも気になりはしない。ああ、嗚呼

 

「こんな事になるなんて知っていたらあんなこと願わなければよかった」

 

顔を手で覆い空を見上げる。さっきまで気にもならなかった雨が鬱陶しい、どうにもする気すら湧かず無気力でいると、少し離れた所に何かが立っている。

 

「…安曇 傑で合っているな、警察からの捜索要請で来た」

 

ヒーロー、赤、ぶっきらぼう…エンデヴァーか。警察の要請で動くようなヒトには見えなかった、意外だ。何もかもがどうでもいいと思っているのに廻る頭が腹立たしい。

 

「…ええ」

「御両親のことは聞いている。その、ご愁傷さまです。」

 

目の前の(ヒーロー)は本当にそう思っているのだろうか、柄にもないだろうかしこまった言葉で僅かに戻った理性で彼の瞳を見る。

 

「…」

 

曇りのない、しっかりと自分のことを視ている。嘲りや侮蔑、およそ負と呼ばれる感情はない。少し揺らいでいるのは同情だろうか。

この人もこんな顔が出来るんだな、家族にもそうしてあげればいいのに。抱いたのはそんな感想。

 

「…どうも」

 

頭を下げる、礼を尽くされたなら返さなければならない。父さんがよく言っていたのを思い出す。

 

「…君は、他に身寄りがあるのか?」

「居ないはずです、居ても寄せるつもりはありません」

「そうか、御両親のもとへ今からいく予定だ。何か質問は?」

「……いえ」

「行くぞ。近くまで迎えが来ているはずだ」

 

相変わらずモヤがかった様にしか見えないが炎が燃えているのが分かる。狐火の様にゆらりと動くのを見てついて行く。このまま黄泉に行けたらさぞ楽だろうとありもしない妄想をする。生きる理由があった、父さんに孫を、母さんには奥さんを見せてあげたかった。けれどそれも叶わない夢でしかない。

 

 

もう理由など、どこにもないのだから。

 

 

 

棺の中にいる父さん、母さんをただ眺める。瓦礫による圧死だったろうに少し修復が施されているのか、傷はあるものの顔は原型を留めていた。

二人と自分の間には確かに愛があった、それは間違いようのない事実のはずなのに。

悲しみはあった、絶望もあった。

 

けれど涙の一滴すら出ることは無かった。

 

 事件から三日後、親族は私だけの葬儀が行われる事となった。

 葬儀には現場に駆けつけていたヒーロー、警察、知人とそれなりの数がきた。皆、一様に「ご愁傷様です」ばかり。知人は「運が悪かった」ヒーローは「助けられなくてすまなかった」。

 

 運が悪かった?助けられなくてすまなかった?なんの冗談だ。相手が子供だからと舐めているのか。現場に到着し、相手の個性を見て自分と相性が悪いからと何をするでもなく譲り合うバカ共が。これでヒーロー社会?警察の人間が最もまともではないか。

 

 沸き上がる怒りで震えていると「やあ、安曇君。君の今後の話がしたいのだけれど少し時間良いかな?」

 人じゃない…?よく見れば足元にいるのはネズミ。驚きで少し落ち着いたところに言葉を重ねてくる。

 

「もちろん無理にとは言わないさ!後日改めてでも大丈夫なのさ。」

 

 表面上とはいえ、ここまで礼を尽くされて否と言える程、常識は欠いていない。全く、食えない狸だ。

 

「いえ、大丈夫です。ここではなんですから控え室に行きましょう。」

「本当かい?助かるのさ。」

 

 喪主控室にネズミと僕の二人。状況だけ見れば正気を疑われるほどに筆舌に尽くしがたい光景だろう。言うまでもないことだが目の前に座るのはネズミだ。靄がかっていない以上人類ではないということだ。

 

「君にとっては、失礼に当たるだろうから挨拶は省かせてもらうよ。」

 

…よく分かっている。さすがは”個性”「ハイスペック」察するくらい簡単というわけだ。

 

「まず自己紹介から僕は根津、雄英高校の校長をしている。僕が来た理由は先ほど言った通りだけど、君の今後についてなのさ。ひとまず結論から言えば君の親族は既に存在していない。よって孤児院への移動が確定的となったんだけど、我が校の教員に君のご両親と交友を持っていた者が居てね。君を引き取りたいと言っているんだ。本人は少し気が動転しているということでひとまず、僕が代わりに来たのさ。」

 

友人。家に遊びに来たヒトもいたがどれもよく覚えていない。

希望者の資料だと机に封筒が置かれるのを見て視線で確認すると頷かれたので手に取り書類に目を通す。

 

……香山睡。28歳。ヒーロー名「ミッドナイト」。関係…歳の離れた幼馴染。

 失う前なら迷うことなく返答していたであろう提案、けれども僕は既に生きる理由を失った身、当然受ける理由もない。

 

「大変ありがたい申し出ではありま「結論を出す前にこれを読んでほしいのさ。」、何でしょう」

 

半ば強引に手渡されたのは白い便箋。

 

「いいから、読むんだ。」

 

 有無を言わせない圧を掛けてくるネズミに言いようのない嫌悪感を覚えながら手紙を開き、そして眼を見開いた。

 

『愛する息子へ

お誕生日おめでとう。もう13歳なのね、本当に時間が過ぎるのはあっという間。覚えているかしら、貴方はまだ幼い頃にヒーローになるって毎日のように言っていたわよね、いつからか一言も言わなくなってしまった夢だけれどまだ、なりたいと思っているかな?それとも別の夢ができたのかしら?いつか聞かせてくれることを、お父さんもお母さんも楽しみにしているわ。やりたい事、やらなければいけない事、辛いこと楽しいこと沢山あると思うけれど、貴方が生きていてくれることが私たちの一番の幸せです。好きに生きなさい。愛してる。』

 

「ーーーーーー」

 

 ー忘れていた。そういえば明日は自分の誕生日か。

 ヒトを”個性”を恐れる様になってから、随分と変わってしまった息子に変わらず愛情を注いでくれた。親としての葛藤、普通でないことへの悩み。全てを知っていながら、それでも願うのは我が子の自由。そんな両親の最期の願いが「好きに生きなさい」か、コレを言われてしまえば、自決など到底選択できるはずもない。

 

失った熱が再び宿る。

吹けば消えてしまいそうな程に小さく、儚い種火ではあるが、これほど迄に燃えることを渇望している者もまた己のみであろう。

 

「誓って言うけど、僕は一切中身を見ていないのさ!…どうだい?結論は。」

 

 随分と意地の悪い質問をするものだ、このネズミは。

 

「…好きに生きろ、と書いてありました。……その申し出、受けさせて頂きます。手続きの方はどのように?」

 

「良い返事を貰えて良かったよ。これで僕も彼女に顔向けできると言うものだ。手続きは本人を交えて行う必要があるから、また後日。それまで君の身柄は雄英高校で預かることになっているよ。」

 

『これは決定事項であり、その間に心変わりされて死なれても面倒だ。』言いたいのはそんなところだろうか、意図を含むにしてもこれはまた随分な言われ様である。

 これから付けられるであろう護衛兼、監視役の事を思うと哀れで仕方ない。雑談くらいは付き合ってくれるヒトであれば嬉しいのだが、どうせコレも読めているであろう珍獣は思う通りの環境を用意しているのだろう、実にご苦労な事である。まだ見ぬ世話役に想いを馳せながら、合意の握手を行い席を立つ。

 

 さながら、悪魔との契約にしか見えないのはご愛嬌。

 

 生を願われた以上、何が起ころうと生きるしかないのだろう。

 実に短く、そして深い絶望であった。それでも先へ進むしかないのだ。

 

 

 

 願いという名の祝福(呪い)を受け取ってしまったのだから。

 

 

 




ちなみに主人公も後で知るのですが、この時期にヒーローの集会があり、トップヒーローたちは首都圏に集中していました。
ですので、管轄地域ではないエンデヴァー、そして根津などが主人公の捜索や葬儀などに参加しているのです。
また根津である必要は本来無かったのですが相手が子供であること、ミッドナイトの直属の上司であることを加味した上で葬儀に赴いています。
ミッドナイトは一般人として葬儀に参列しており、今は顔を見ることも厳しいと判断し、根津にお願いしています。
ちなみに何故オールマイトが捜索に参加していないのかは、No2であるエンデヴァーが既に現場に行っている事と、イベント時に活動限界を消費しまくった為です。
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