5月の初旬。皆が待ちに待った時期が来た。そう
今年のGWは最大7連休のちょっとした旅行にも行けるくらい長い休みになっている。かく言う聡のクラスでも「南の島にバカンスに行く!」とか「避暑地に行くんだ!」とか言っていた。
聡もこれといった予定はないが、夏休み前の試験対策ともう一つ別の用事がある。その用事について考えていると、教室のドアが開いてある人物が、教室の中に入ってきた。
その人物は、目的の場所に着くと隣人に挨拶をするのであった。
「おはよう聡」
「おはようございます。速水さん」
「もう、そこは奏って言って欲しかったわ」
「そんな事言われても…」
「まぁいいわ。ところで~聡はGWどうするか決めているの?」
遠回しに誘っているように見えているが、聡本人は涼しい顔で返すのであった。
「僕?僕は予定あるよ」
『!?』
意外な答えに驚く奏とクラスメイト達。あの勉強にしか興味がない聡にどんな予定があるのか。奏は、恐る恐る聞いてみることにした。すると、これまた意外な答えが返って来た。
「へ、へぇ~ち、因みにどんな予定なのかしら?」
「友達と会うんだよ」
『!?』
勉強ばかりで、友達がないと思っていたクラスメイト達(大変失礼)。そんな聡から『友達と会う』と言われたら、驚くのも当然だ。
「そうなのね。そう…友達なら、ここにもいるじゃない」
「うん?何か言った?」
「何でもないわよ!」
奏がボソッと言った一言を上手く聞き取れなかった聡。その後は、特別な事もなくただ時間だけが過ぎていく。
そして、気が付けば放課後。奏は夏向けの撮影がある為先に学校を出て行った。聡も特にやる事がないため、帰路についていた。
そんな中一通のLI〇Eが聡のスマホに掛かってきた。相手は…
「美嘉ちゃん?どうしたんだろう?」
城ケ崎美嘉からのL〇NEだった。内容は
「どうしたの?」既読
『GWの予定だけど、莉嘉が一緒に遊びたいって言っているんだけど大丈夫?』既読
「僕は全然大丈夫だよ」既読
『ホント!ありがとうね』既読
『莉嘉が「聡お兄ちゃんと一緒に遊びたい!」って駄々こねて…』既読
「そうなんだ。それじゃあまたね」既読
そう言って、OKの熊のスタンプを送ると美嘉から『了解』と敬礼しているウサギのスタンプが返って来た。それを確認すると、聡は急いで帰路に着くのであった。
都内某所の撮影スタジオ。ここでは、『プロジェクトクローネ』のメンバーによる夏向けの撮影が行われていた。撮影は順調に進んでおり、奏もつい数分前に撮影を終えたばかりである。
しかし、その表情は冴えていない。今日の教室での、出来事がまだ頭の中に残っているのだ。
聡は自分の誘いを断ってまで、会う人が居る。果たしてそれは、誰なのか。もしかしたら同業者なのか……あり得ないことはない。
聡はここに来たこともある。それに、校外にも友達がいるかもしれない。
そんな風に思っていると、ショートボブでとても大人しそうな子と、タブレット端末を持ってショートボブの子に付いてくる子が奏の元へとやって来た。
「あの…大丈夫…ですか?奏さん」
「ああ、文香にありす。大丈夫よ」
そこに現れたのは、ジャージ姿の鷺沢文香と橘ありすであった。彼女たちもプロジェクトクローネのメンバーである。
奏がくらい顔をしていたので心配して来てみたのだ。
「本当に大丈夫ですか?調子が悪いなら、トレーナーさんやプロデューサーさんに言っておきましょうか?」
「…多分…大丈夫だと思いますよ…ありすちゃん」
「ええ、文香が言っている通り私は大丈夫よ」
そう言って、奏は両手で頬をパァンと叩いて、集中するのであった。そこからはノーミスで練習を再開。
練習を終え帰宅後家に帰ると、既に両親が帰って来ており、夕食の準備をしていた。
「ただいま」
「……おかえり」
「おかえり~奏ちゃん~」
「あれ?今日2人とも早いんだ?」
「ええ、帰り道でばったりパパと会ってね。偶には夕食を作ってみたいと思ってね~」
「……たまたまだ」
そう言って、母の速水
しかし、この仕草は照れ隠しだと思い、沙織はくすくすと笑うのであった。
「そうだ~奏ちゃん。GWはどういう予定なの?」
「そうね……特にレッスンは休みだから予定はないわね」
「なら、良かったわ!それならば3人で旅行でも行かないかしら?」
「えっと…父さんは大丈夫なの?」
「……大丈夫だ」
奏の両親は、近くの会社で共働きしており母はOLとして、父は営業部長として手腕を発揮している。
家ではあまり喋らない方だが会社に入ると、饒舌になる。母はそんな姿に惚れて、結婚したのだ。
「……会社は休みだ」
「そうなのよ。だから奏ちゃんが良ければだけどね」
「…いいわよ」
「本当~良かったわ~!なら、お母さん腕によりをかけてお弁当作るわね!」
「うん。楽しみにしている」
そう言って、奏は自室に戻って行く。聡には会えないが、偶には家族全員でゆっくりと過ごすのもいいと思ったのだ。
そして、GW初日。
聡は美嘉と莉嘉を待つために、地元の駅前に居た。もちろん、待ち時間も勉強している。今は社会の年号帳をペラペラと眺めている。
そんな感じに待っていると、改札口からこちらに歩いてくる人達がいた。1人は、ピンク髪にツインテール。芸能人が被る様な帽子をかぶり、周囲の目を隠しながら歩いてくる。
そして、もう1人は金髪にツインテール。こちらも芸能人が被る様な帽子を被っているが、聡を見かけた途端に猛ダッシュしてきた。
金髪ツインテールの子は、惜しげもなく聡に抱きついて来た。
「聡お兄ちゃんーー!」
「うぉ!…って莉嘉ちゃんか」
「うん!元気にしてた?」
遅れること数分でピンク髪にツインテールの子美嘉も合流してきた。
城ケ崎莉嘉。美嘉の妹で、姉に憧れてアイドルデビューしたのだ。今は『シンデレラプロジェクト』のメンバーに所属している。
「ちょっと待ってよ~莉嘉…ハァハァ」
「あ、お姉ちゃん遅いよ~」
「ハァハァ…アンタが…早いだけでしょうが…」
「あははは…お疲れ様。美嘉ちゃん」
「久しぶりだね。聡君★」
この前遊んだことがある美嘉と聡はそんなに時間が経っていない。しかし、莉嘉にとっては、久しぶりの聡との再会である。
「え?なになに?お姉ちゃんと聡お兄ちゃんって会ったことがあるの?」
「うん。この前ちょっとね」
「莉嘉がレッスンの時に、志希達と遊んだ時があってね。その時に会ったんだ」
「え~!いいなぁ~お姉ちゃんだけ。莉嘉も聡お兄ちゃんと遊びたかったよ~」
駄々をこねる莉嘉を見て一人っ子の聡は実際の妹が居たら、こんな感じなのかなぁと思っていた。
そんな事を思っていると、周囲の人が何かに気が付いたようだ。
「ねぇねぇあれってファミリアツインの城ヶ崎姉妹じゃないの?」
「え~!?人違いじゃない?」
「だってさぁピンク髪にツインテールってどう見たって美嘉ちゃんじゃん」
「じゃあ、隣にいるのは妹の莉嘉ちゃん?」
「けど、一緒にいる男の人って誰なの?」
流石の芸能人がここに居ると拙いと思った聡は、2人を連れて何処か行こうと思った。
「と、兎に角何処かに行こうか。ここじゃあマズイ」
「そうだね!行こう行こう!」
「ちょっと待ってよ莉嘉!」
そう言って、莉嘉は聡の手を引いて美嘉は、莉嘉と聡の後を追いながら近くのカフェに行くのであった。
カフェに入ると、3人は違う物を注文した。莉嘉はオレンジジュース。美嘉はカフェオレ。聡は紅茶にした。
「てか、久しぶりだね聡お兄ちゃん」
「僕も驚いたよ。まさか、莉嘉ちゃんがアイドルになっていたなんてね」
「ふふん!お姉ちゃんと一緒にアイドルしたかったからね~」
「莉嘉もアイドルになって、私と一緒に歌っているんだ★」
莉嘉が同じアイドルになった事を喜んでいる美嘉。莉嘉の喜んでいる姿を見ていると、突然莉嘉が本来の目的を言い出してきた。
「そう言えば今日は聡お兄ちゃんと一緒に遊ぶんだった!」
「そうそう。聡君は何処か行きたい所とかあるの?」
「僕?そうだなぁ……これと言って行きたい所はないかなぁ」
苦笑いながら答える聡。その答えを聞いた途端城ケ崎姉妹の目が光った。
「なら、一緒に原宿とか行かない?」
「うんうん!そして、聡君にコーデとか選んでもらおうかな★」
「ええ!僕そんな自信ないよ…」
「大丈夫だよ。聡お兄ちゃんが変な物を選ぶ訳ないよ~」
「えっと…お手柔らかにね」
そう言って、3人はカフェを後にした。そして、原宿の街へと繰り出すのであった。
一方で奏の家も都内に出掛けていた。実は、沙織が『偶には若い子の服も見てみたい』と言い出した。
奨は『人混みは苦手だ』と言い、近くに泊めていた車の中で待機している。そんな奨を放置し、沙織と奏はとある場所に出掛けていた。
「でも、意外ね。母さんが服を見たいなんて」
「そうかしら?奏ちゃんくらいの子達が、どんな感じの服を着るのか、興味があるからねぇ~」
「ふ~ん」
「あ!絶対に思っていない顔しているわね!もういいもん!」
「こら、拗ねないの…わかったわ。それじゃあ、何処に行きましようか?」
「そうね……
「いいわぇ~お母さんワクワクして来たわ!」
そう言って、速水家も原宿へと向かうのであった。
城ヶ崎姉妹と聡は、早速原宿を物色していた。今まで外出した事がない聡にとっては、新鮮な感じがする。
あっちをキョロキョロ。こっちをキョロキョロ。まるで、田舎から都会に触れて来た人みたいだ。
そんな姿を城ヶ崎姉妹は、笑いながら見ていた。さて、時間帯からお昼ご飯を食べたいところだ。無難にハンバーガーでもいいが、ここは違う物を食べたいと思った。
「それじゃあ、何処でお昼ご飯にしようか★」
「あ!アタシ、スパゲッティとか食べたい!」
「聡君はどうする?」
「僕は、何かさっぱりした物が食べたいな」
「そう。なら、びっくり〇ンキーにでも行く?」
「美嘉ちゃんに任せるよ」
そう言って、美嘉を先頭にびっくり〇ンキーに向かう。そして、店に着くと3人が座れる席を探すが、生憎と時間帯がお昼時とあって店の中は混雑していた。
そして、奥から店の人らしき人が現れて、現状を説明するのであった。
「只今店内大変混み合っておりまして、相席となりますがよろしいでしょうか…」
今から他の店を探すとなると、余計な時間を必要としてしまう。背に腹は代えられないと思った3人は相席を受け入れるのであった。
「僕は大丈夫だよ」
「仕方ないね。莉嘉もそれでいい?」
「聡お兄ちゃんが良いなら大丈夫だよ!」
「ありがとうございます。では、席まで案内致しますので…」
そう言って、3人は店員に案内される。最悪の場合、聡は相席で食べてアイドルである2人は、別の席が出来た時に、そっちに移ってもらえればいいと思っていた。
「こちらの席になります。…ごゆっくりどうぞ」
店員が案内した席には、暖簾がかかっており顔が見えない。聡は覚悟をして入って行く。そこには、親子と思われる3人が座っていた。
その内の1人は美嘉や莉嘉の様な芸能人が被る様な帽子をかぶり、素顔を見せてくれない。
だが、次の一言が聡達を驚かせた。
「ほら、早く料理を決めないから人が来ちゃったじゃない」
「だって~
「…おろしハンバーグ一択だ」
聞き慣れた声。それに、
「は、速水さん?」
『え?』
「さ、聡?」
『え?』
聡は