塾へのバスは47分に来る、そのはずだった。
僕はバスが来る5分前にはバス停についていた、そのはずだった。
時計を持ってこなかったのがいけなかった。今は何時なんだろうか。わからない。
寒い。
僕は家に帰って他の交通機関を使うことも考えた。
しかし、今から家に帰っても遅刻をしてしまう。
バスが来るのを待つことしか、僕にはできなかった。
何故バスが来ないのだろうか。そんなことはもう何回も考えた。
今日はいつもより早く家を出たはずだし、家から出たとき、まだ空は青かった。
でも、待っても待ってもバスは来ない。
もしかしたら、本当は僕がバス停に着いてから5分もたっていないんじゃないか。
そんなことも考えてみた。
しかし、空はありえない早さで濁っていっている。
この時には僕は塾に遅刻することをもはや確信していた。
確信していたはずなのに僕は家には帰らなかった。
今更バスが来る、なんていう希望はとうになくなっていたはずなのに、僕はまだそんな希望を捨てられなかった。
もしかしたらバスが遅れているのかもしれない。もしかしたらバスの来る時間はもう少し遅かったのかもしれない。
そんな希望を捨てられきれないでいた。
僕はどうしたらいいのだろうか。
今からでも家に帰ったら方がいいのだろうか。でも、もしバスが遅れているだけだったら困る。
バスで行って遅刻をするのと、電車で行って遅刻をするのでは月とスッポンだ。
塾の出しているバスで遅れたのならば遅れた責任は塾に発生するし、電車に乗って行って遅れたのなら、僕の自己管理能力に責任が発生する。
さて、そんな不毛なことを考えていてもやはりバスは来ない。
楽しいことをしている時間は短く感じ、退屈なことをしている時間は長く感じるものだ。
こんなに焦燥感を感じているのだから、単に時間を長く感じているのかもしれない。
けれど、空の濁り具合はもう限界だった。
僕はもう泣きそうになっていた。
泣く原因がわからない。
僕は何故泣きそうなのだろう。
バスが来ないことは確かに不安なことだ。しかし、それは泣くほどのことだろうか。
先生に怒られることが怖いのかもしれない。しかし・・・それも同じだ。泣くことではないだろう。
カラスの鳴く声が僕をおちょくっているようだった。
もう無理だ。
僕は家に帰ることを決意した。
その瞬間に僕の孤独感や焦燥感は消え、激しい高揚感と寂しさに襲われた。
泣きそうな理由もその瞬間にわかった。
僕は希望なんか捨てて家に帰った。
空は青かった。