勇者一行の料理人-外伝-   作:ドゥナシオン

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大魔王様に祝福を:中編

あ~・・・・なぜ余はあのような事を・・・・さりとて起こしてしまった事を無かったことにはできず、そしてどうしても心の中に生じてしまった淀みを消せないでいる・・これではただの暴君ではないか、こんなざまではダイ達に合わせる顔など・・・・

 

キルと一頻チェスをし終え、一人で執務室にいるバーンは自己嫌悪の沼の中にずぶずぶと嵌って苦悩している。

 

自己の事ではあるが、自分は怒りを覚えても表に出さない自信があった。怒りを露わにしても敵味方どちらにも良い事にはならないのを知っているから。

味方の前ですれば自軍の士気が下がってしまうか動揺してしまうか、敵からすれば自分を乱すことができると調子づかせてしまう・・・・調子づいても勝てるがそれはともかく・・・本当にこんな事は父と母と引き離され、地獄のような世界き続けてきた七千年の時を経ても滅多にない事であった。

 

長い人生の中で怒り狂い激高を表に出したのは、魔界が瘴気に侵され始めて治めた村が滅んだ時に天界を呪った。

その後は・・・地上が太陽の恩恵を知らず享受していたのを知ったあの時のたった二度だけ。

どちらも重き理由あっての事で何ら恥ずることなぞ無かったのが此度は・・・・

 

バーンは今回の事で己を責める。どう考えても自分が悪いとしか言いようがなく、そもそもがなぜ自分があのように怒鳴り上げてしまったのかが分からない。

ただ・・・・自分は穏やかに聞いていたかっただけなのに・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ティファや、この事態を収められそうかの?」

「う~ん、これってそこまで深刻な事なのかな?」

「あのねお嬢ちゃん、魔界の神様が五日も怒り治めてませんは大事件に入ってもいいと僕は思うよ?」

「そうだな、この疫病神の言う通り今回は甘く見ない方がいいんじゃね?」

 

ミストがいきなり来て大魔王の怒りといてくださいの発言に、周りはともかくティファはいまいちそこまで大ごとになる事なのかと首を傾げた。

あの後全員でダイ達の家に戻り、ちょうど空間を通って合流してきたキルとブラスも交える中での発言に、さしものお嬢ちゃん大好きキルに諫められるがどこ吹く風で、サクサクと事態の発端を合流してきたキルに聞く。

 

キルがチェスを終えて執務しに戻ったバーンは、ミストがいないのを何故かとも聞かずにうわの空で仕事を始めだした。

その書類は全て魔界の今後の事と、とある駄目竜王が隠居した時その領地をどうするかの案を募集して集めた大事な書類だというにのだ。

 

親友の手前ティファを諫めてはみたキルだが、主が怒りに任せて怒鳴ってしまった事は、ミストにとっては驚きではあったがキルにとってはティファ同様そこまで重要視はしていない。

主だとて感情を持った生身の者、笑い悲しむものであり時には怒りに駆られてる事があってもそれは自然な事なのではないかと、オートドールであった頃の自分だからこそ成り立つ思考ではあるだろうが。

まだ感情が疑似的であったあの頃、周りの感情の豊かさを羨み、反対に押さえつけているようにしていた主と親友の不自然さに目が行って、いつしかそれならば自分が喜楽の感情であの二人の周りを満たせばいいと陽気な死神が誕生して長い年月を共に渡ってきたの日々に比べればずっといいではないか。

それよりも、自分の怒りを持て余して悄然としている主の気落ちのほうがずっとずっと切なくなる。

大戦が終わり、ティファが目を覚ましてからはずっと陽の気で満ち溢れ始めた愛しい主、早く早くまた元の状態に戻してあげたい。

 

「そもそも大魔王は-途中まで-は楽しそうに聞いていたのですよね?」

「そこは間違いないね。今魔界で評判の売り出し中の歌姫で、忙しいバーン様の御心を慰めになればって貢物の一環として歌が披露されてね。

僕とミストも悪くないって感じで聞いていたんだけどね・・・最後のあたりでその子が欲を出しちゃったのが運の尽きだったのかな?」

 

キルから聞く限り、大魔王は途中まで献上された歌を心地よく聞いていたみたいだ。

その歌っていた子の声が急に媚を含んだ声に変わったと同時に怒鳴ったって・・

 

「大魔王っていう地位にいる限り、大なり小なり-そう言った事-って起こりますよね?今回だけが特別なことだとは思えないのですがどうでしょうかキル、ミスト?」

「そうだね、、こと芸事をバーン様に認められれば子々孫々の芸事繁栄約束されたも同然だからね〜。」

「・・・・今まで数多くあったが、今回のようなことは初めてだ。」

 

だからこそ戸惑っているのだというミストに、ダイ達はなんと声をかけていいのか分からない。

自分達の前では敵対者としてか、もしくは深い愛情を持つ尊敬の念に値する大魔王としてしかバーンの事を知らない。

七千年、その長い時の間にどれほどの経験をしてきたのかを、たった十数年しか生きていない自分達に推し量れることなぞ出来ようはずもなく、途方に暮れそうになるのを破るのはいつもティファ。

 

「いい傾向だと思うんですがね~。」

 

・・・・はい?

 

「だってですよ、今まではそれこそ人生丸ごと魔界の為だけに使って来たと言っても過言でない大魔王が、自分の怒りを周囲に発露した、というのはおそらく初めてだと思うんだよ。

それって、大切なことだと思うんだよ・・・・・分かりやすくいえばさ、-アバン先生模倣した料理人-しすぎてた私と、喜怒哀楽全部とまではいかないけれど今の私とみんなはどっちが・・・」

 

 

「「「「「当然今のティファがいい!!!!!!」」」」」

 

ティファの言わんとしたことで、ティファの言いたいことの意図を察したダイ達は即答した。

なるほど、確かにあんなに何もかもを押し殺し、己の望みよりも大勢の命を救う悲願を優先して遂には壊れたティファを見るなんて二度とごめんであり、つまるところ大魔王も同じだったとすれば・・・どれ程の苦難の道を一人で抱え込んで歩いてきたのかと思うだけで悲しくなってぞっとする。

バーンの心が、ティファと違って強靭な精神を宿し、かつきちんと参謀ミストを脇に据えて覇道をいたからこそ破綻せずに済んだのだろうが、魔界の事もこれからの事もともに歩いていきたい全員にとって、今回の事をやはり何とかしてあげたい。

 

「そのためにもですね~。」

 

ティファはにんまりとした顔で-解決策-を提示した。

 

 

 

 

 

バーンが苛立ちから怒鳴ってしまって七日目のある日、一通の手紙がバーンに届いた。配達人は言わずと知れたキルであり、お手紙ですと渡されキルは出ていってしまった。

何事かと開けてみればそこには

 

-前略大魔王へ

最近お忙しそうですが大丈夫ですか?ミストが作った美味しいものを沢山食べてきちんと休んでいますか?-

 

それは労りに満ちた優しい手紙であった。

苛立っている自分を見せたくないので仕事が忙しいと誤魔化しているのを知らずに、何と温かい手紙を書いてくれたのだとじんとした

 

-私はいつも通りであまり報告することはありません。昨日からダイ兄達が遊びに来て島がにぎやかになっているくらいです。

いまだにやんちゃな兄達が来年お式を挙げるというのが信じられませんが、レオナ姫様、マァムさん、メルルさんはそんな兄達とは違って日に日にきれいな娘さんになっていくのでまぁ大丈夫じゃないかとも思えます-

 

その文章に、バーンはクスリと笑ってしまった。

いまだに時々ぞんざいな口調になりながらも周囲を明るくするポップ、いまだに妹にべったりとしているダイと、そんな兄達に甘えるティファが目に浮かび、久方振りに心から笑みがこぼれ出る。

ティファだけではない、もうじき結婚式を挙げるマァム、レオナ、メルルの花嫁衣裳を見るのは本当に楽しみで、あの-子供達-の子を見るのが楽しみで仕方がない。

そう、子供達なのだ、かつて敵対し殺し合いをした勇者一行の者達全員が・・・クロコダインは別枠ではあるが、それでも愛おしい者達。

それを思い胸の中で転がすだけで優しい気持ちが蘇ってくる。

 

特に最後の文が秀逸であった。

 

-ここ最近ブラスじいちゃんも大魔王に慣れてきたようです。

今度こそ、皆で浜辺で鍋パーティーしませんか?

ダイ兄達の予定も聞いてみれば、明後日なら夕飯と一泊だけなら何とかなる目途も立ちました。

大魔王、たった一日だけ、大魔王の時間を私にもらえませんか?

皆でどんちゃん騒ぎしたいのです。-

 

何ともティファらしい優しくもみょうちきりんで面白い手紙であろうか。

魔界の神たる自分に来る手紙と言えば、格式高く麗しい言葉で飾られたものであったが・・・・

 

「ミストよ、近頃は-皆-に無理な仕事の量をさせてしまったな。」

「バーン様・・・・それは・・」

「良い、己が悪いと余自身が一番自覚している。明後日と次の日も完全に休みにし・・余も休もうと思うのだが。」

「はっ!すぐに各所に通達してまいります!!」

 

バタン

 

「ふっふっふ、慌てて行っちゃいましたね~ミスト。」

「うむ、あれもずいぶん変わったものよ。」

「そうですね~。一昔前なら御意の一言で淡々と仕事をしていたミストも、それに休みを欲しがるバーン様も。」

「・・・揶揄うでない、此度の事は余が・・」

「大丈夫ですよバーン様。そんな事よりも、お嬢ちゃんのところに行けるようにもうひと頑張りしないといけませんね。書類書けませんが、届けるお手伝いくらいはできますよ?」

「そうか・・・頼もうキル、ティファに返事を書くゆえまずはそちらを先に届けよ。」

「はい、バーン様。」

 

色々と様々に変わっていく周囲と自分。その原因たるティファとダイ達と共に楽しい時を過ごすべく、バーンは手紙の返事を書きはじめ、その姿にキルは安堵する。

 

優しい顔で穏やかな主の姿に

 

 

「これが、、、バーン様直筆の、、」

「額縁に飾って家宝にする?」

「そうじゃの!大切にせねば!!」

 

ティファヤギさんからお手紙届きバーンヤギさんが書いた返書をキルが届け、魔界の神様の直筆に感動したブラスは家宝にすると大張り切り。

 

優美で繊細なキル文字とは違い優美ながらもおおらかな筆致にティファはうっとりとする。

大魔王は全てが素敵な大人な人だと。

早く明後日になってほしい。

 

 




今宵ここまで
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