我が友、時雨は目が赤い 作:ワレオオバ
起床時刻の30分前、ボクは台所を覗く。
今日の献立
麦飯
大根のお味噌汁
白身魚の塩焼き
だし巻き卵
お漬物
よし、付け入る隙有り。
台所には見慣れたお爺さんと数人の助手さん。
「……おはようさん」
「おはようございます、柴田さん」
「今日もなんか作るか?」
「あ、はい、コンロ一つお借りしてもいいですか?」
「ああ」
本職の柴田さんの横で素人のボクなんかが料理するのはちょっと恥ずかしい。
でも、ちょっぴり早起きして少しだけでも朝食を頑張るのがお嫁さんだよね♪
柴田さんのだし巻き卵は砂糖をたっぷり使った甘ーい玉子焼き。
砂糖を使っているのに鮮やかな薄黄色は正に職人芸。
艦娘のみんなに大好評な人気のおかず。
だ・け・ど、
提督は甘い玉子焼きが苦手。
微かに塩気のある甘さがダメらしい。
仕方ないからボクが提督用の玉子焼きを焼いてあげるのさ。
◇◇◇
『玉子焼きの作り方』
分量
卵 2個
塩 少々
麺つゆ 少々
油 そこそこ
全部だいたい目分量
素人が美味しい卵焼きを作りたいのなら砂糖を入れてはいけない。
砂糖を入れると物凄く焦げやすくなって簡単に苦くなっちゃうから。
焦がすぐらいなら卵本来の甘味を信じること。
卵は2つ。1個だと量が少なすぎて綺麗に丸められない。
卵は空気を含まないように静かに底を切るように溶く、卵白がダマにならないように均一になるまで。
主な味付けはお塩、風味付けに麺つゆ少々。
少し行儀が悪いけど箸を舐めてみてほんの少し塩気を感じるぐらいが適量。焼くと味が濃くなるからね。目分量で塩の小瓶をパッパッパぐらいでも良し。
フライパンに油を引く。
たっぷりと。
残念ながら卵焼きはフライパンに油を引かないとそれはもう無惨な姿になる。
必要経費と割り切って使う。
フライパンを十分に熱して、卵を一気に投入する。
ぐるぐるとかき混ぜるとあっという間に固まって螺旋状にシワがよる。
混ぜるのはほどほどに汁気が少し残る程度で混ぜるのは止める。
端っこが固まってきたら小刻みにフライパンをゆする。
10秒もすれば卵全体が滑るようになって、そうなったら頃合い。
コツは「焼く」じゃなくて「固める」つもりで手早く切り上げること。
フライ返しを使って円形の卵を半分に折りたたみ、そのままお皿に着地。
完成
素人流ふわふわオムレツ
……卵を焼いたんだから玉子焼きには違いないよ。
「柴田さん、ありがとうございます」
「別にいい。女向けの味付けしてんだから男好きされなくて当然だ。そもそも俺の店じゃねぇんだ。綺麗に使うんなら好きにしてかまわねぇよ」
ぶっきらぼうに柴田さんはそう言って、ボクの作ったオムレツを預かった。
ボクはサッと卵を溶いたお椀とフライパンを洗ってエプロンを脱ぐ。
さぁ、提督を起こしに行こうか。
◇◇◇
提督は眠りが浅い。
というか、軍人相応に物音に敏感だ。
寝た直後でもなければ物音一つで即アウト。
提督の私室は比較的防音性が高くて外の音はあまり聞こえないけれど、部屋の中は休眠状態のゾンビの巣ぐらいの気持ちで静かにしないと提督は飛び起きてしまう。
静かに歩くぐらいじゃ起きちゃうので本当に慎重に。
抜き足
差し足
忍び足
幸運にも部屋の鍵を開ける音で起きられる事もなく、久しぶりに提督の眠るベッドまでたどり着けた。
さてどうしようか。
猶予は一回、取れるアクションは一つだけ。
お布団に潜り込むとか、膝枕とか、そんな高等イベントは起こせない。
ならば仕方ない。
ベッドの横から、膝立ちで、手を広げ、ダイブ。
ギョッと目を開く提督。
構わずギューっと布団ごと提督を抱きしめる。
提督が僕を見つめているが構わず抱きしめ続ける。
フハハハハ、人間が艦娘に力で勝てるとでも!
……
「満足したか、時雨」
「んー、あと1時間ぐらい? なんならもっと」
「終わり」
提督がむくりと起き上がる。
くそう、上半身だけじゃ拘束力が足りなかったか。
「あー、提督に転がされてしまったー、提督のすけべー」
提督の膝枕でにまにま笑うボク。
布団の上端を被せられ、
ころころころ
ぼとん
艦娘の海老フライ風布団包み
非売品
提督のみ無料
……
……同じ手を使いすぎたからか反応が淡白だなぁ。
「時雨、悪いけど布団を干しておいてくれないか」
「りょーかい」
◇◇◇
着替える男性の背中をベッドから眺めるって、ちょっとエッチっぽくていい。あ、ちょっと提督のベッドいい匂い。なんだっけ? 遺伝子的に相性の良い異性の香りは良いとかなんとか。
「男の着替えなんか見ても楽しくないだろ」
「提督の着替えを見るのは楽しいな♪」
「お前も元男だろ、何が楽しいんだか」
「精神は肉体に引っ張られるものなんだよ?」
「……そうだったな」
提督は少ししんみりとした顔をしているけど、ボクとしては別にどうでも良いんだよ。
側から見たら不幸な幸せは実在するけど、ボクの場合は側から見てもそんな不幸ではないし、むしろラッキーなぐらい。
別にボクは元から性別なんて気にしてなかったんだけど、提督が気にするからさー。もー、我儘だよね!
元々、ボクと提督は異性なら結婚してもいいぐらい仲が良かったんだしさ。なら異性になった今ならもう結婚でしょ。
強い友情は、浅薄な愛情に勝るんだよ?
直に言うのはちょっと重いと思われちゃうからまだ自重してるけどね。
白い軍服のボタンをキッチリ閉めて帽子をキュっと被り提督が振り向く。
「さ、朝食に行こう」
「お供するよ」
◇◇◇
食堂、提督と席を向かい合わせる。
提督は優しいからみんなにも人気、だけど相席しようって子はあんまり居ない。遠巻きに見てるだけ。
別にボクだって相席ぐらいで怒ったりしないんだけどなぁ。
提督の食事の所作はかなり綺麗。士官学校で習ったりしたのかな?
「しかし俺だけ別の卵料理なのは悪いな」
「提督、オムレツはね、だし巻き卵より簡単なんだよ」
素人の場合は。
「そう言うモノか?」
「それに、どーせ普通の奴を食べても他の駆逐艦の子にあげちゃうよ」
「そんな事はしないと思うけどなぁ」
「じゃあ、食べてみる? ほら」
自分の分の玉子焼きを箸で摘んで差し出す。
「いや、皿から取るから「ほら、あーん」……」
ボクが引かない事を理解している提督が渋々開けた口に玉子焼きを入れてあげる。
「あー、んー」
提督、なんとも言えないって顔。
世間一般に美味しいけど、趣味に合わないって感じ。
提督は本当に甘い卵焼きが大の苦手でね。
学校の給食に出ると半分ボクにくれるぐらい嫌いだったんだ♪ 全部あげないのは給食を作ってくれた人に悪いから半分は食べようってね。
『頑張って食べるけどやっぱり苦手だから半分手伝って』って可愛いよね〜。
「アハハ、もう、提督は昔から甘い卵焼きが苦手なのに。柴田さんも分かってくれてるんだから、大人しくオムレツ食べてよ」
「申し訳ないが、そうさせてもらおう」
提督がスッとオムレツを一口大に切り分けて口に運ぶ。
「あまりジッと見ないでくれ」
「いいでしょ、減るものじゃないんだし」
「俺の羞恥心が減る」
「なら減っていいよ?」
提督の頬が僅かに赤らむ。
「……。恥ずかしいから見るな」
「えー? まぁいいよ。で、オムレツはどうかな?」
「無難に美味い」
「そう、ボクにも一口くれない?」
「好きにとってくれ」
提督がボクの方にオムレツの乗ったお皿を寄せる。
「えー、『あーん』してくれないんだ。ボクはしてあげたのに」
「お前が勝手にしたんだろ」
「いいじゃないか、あーんしてよ、あーん!」
雛鳥の様に提督にあーんを要求するボクに提督は何も言わずボクに切り分けたオムレツをくれた。
我ながらほどよい塩加減と卵の甘みにふわふわの舌触りがなかなか良い出来だと思った。
「うん! 美味しいね!」
「自分で作った奴で喜ぶのか」
「あれ? ボクが作ったって提督に言ったっけ?」
「食えば分かる」
「あ、えへへ、そう?」
「柴田さんならもっと半熟に仕上げる」
「悪かったね家庭料理で!」
「別に悪いとは言ってない。毎日食べても良い」
「え、本当! じゃあボク毎日作るよ!」
提督がギクっと何か失敗したような顔。
「……やっぱりいい、毎日はオムレツは飽きる」
「えー、じゃあ毎日お味噌汁作ってあげるよ! 具はちゃんと毎日変えるよ?」
「……悪くはないが、カレーライスに味噌汁はいらないな」
「もー! 提督は我儘だなぁ」
◇◇◇
「やっぱり朝は無糖に限りマスねぇ、あっま」
「今日も元気だねぇ」カンラ カンラ
独自設定
艦これ世界観
深海棲艦出現より数十年経過。技術力の発展により戦況は極めて優勢。政治的理由により根絶を保留するほど。
艦娘は「自然発生又は御霊下ろしの初期型」と「人間を霊・物理的に改造した転換型」の2種。現在は転換型が99%以上を占める。
転換型が艦娘になるのに男女の区別は不要。平等に艦娘に改造可能。
時雨=サン
練度30+69(99)
座右の銘 Gravity & Burning
転換型艦娘(元男性)
提督とは幼馴染。
提督に関しなければ気さくで優しい。
今日も薬指が寂しいけれど練度99はまだ遠い。
金剛さん
練度32+1
座右の銘 守護神
趣味 バッティングセンター
転換型艦娘(元男性)
今日も(時雨が)元気だ紅茶が甘い。
座右の銘を時雨に取られた常識人。
配属当初は悪名高い()金剛である事から蛇蝎の如く警戒されていたが、『まだ』男に興味が無かったため和解。現在は艦隊主力として時雨と背中を預けられる戦友となっている。
北上さん
練度30+40
座右の銘 鎮守府三羽烏
転換型艦娘(元男性)
朗らかで男前な性格。幼馴染の彼女持ち。休みの日には高確率で実家(近場)に帰るので割と忙しない。