我が友、時雨は目が赤い   作:ワレオオバ

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感想・評価ありがとうございます!
一発屋の短話作品ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

今日の時雨=サン
「包丁で人を傷つけるなんて野蛮な事する訳ないじゃないか。包丁は大切な人に料理を振る舞うための道具。そんな事に使っちゃいけない。
大きな物に使う刃物なら、ちゃんと解体用ナイフを用意しておかないと。その点、ボクの短刀は自慢の一品だよ。しっかりとした重量感に自重で指を落とすほどの切れ味。そして刃こぼれ知らずの頑丈さ。ボクの手にかかれば牛の背骨だって楽々さ。まぁ、所詮はコレクションアイテムだよ。えぇ〜?何さ、提督だって修学旅行で木刀買ったじゃないか。元から自前で持ってたのに。アレと同じだよ。使い所なんて無いけどカッコいいから手元に置きたいって奴。うん、使う予定は無いよ。今はね」


2.ボクほど忍耐が似合う艦娘もそう居ないよ

 

 迫る魚雷に最大戦速

 ドンと水面を蹴り上げ宙を舞う。

 

 敵の魚雷を飛び越えるが、敵はぐれ深海棲艦群の旗艦 重巡リ級の砲塔と目が合った。

 手に持った二連装砲を投げつけ、敵から放たれた砲弾と砲塔がぶつかり爆発。砲撃を防ぎつつもう片方の手に握った爆雷を投擲。

 水柱が立ち時雨の姿を隠す。

 

 身体を丸め重心を低くして着水。

 勢いの余り下半身が沈む。

 だが艦娘の肉体の持つ浮力が加速器となってむしろ好都合。

 

 姿勢の低い時雨を見逃した重巡リ級の胸に渾身の掌底と共にナイフが深々と叩き込まれる。

 と同時にボシュンと時雨の太腿に取り付けられた魚雷管から一本の魚雷が打ち上げられ時雨の頭上を舞う。

 即座にスクリュー部を掴み、重巡リ級のド頭に叩きつける。

 爆発。

 爆炎により生きているか死んでいるか分からない重巡リ級から悠々と時雨は距離を取り、背部のロボットアームに支えられた単装砲を掴んで1発。

 胸元に深々と突き刺さったナイフの柄に仕込まれた炸薬に引火し、

 トドメの大・爆・発。

 

 旗艦は轟沈。

 戦闘の趨勢は決しもはや戦闘の体を成していない。残党狩りとはかくあるべきと言うほど見事な七面鳥撃ちで深海棲艦の群れは壊滅した。

 

 ◇◇◇

 

「別に射程圏外からワタシが一方的に撃てば良かったと思いマスが、ま、野暮な話デスね」

 

『経験値が欲しいお年頃なんや。堪忍したって』

 

 肩をすくめる金剛に通信機越しに龍驤の苦笑が聞こえる。

 

 今回の敵深海棲艦群の旗艦重巡リ級の射程は中距離。

 なんだかんだ戦艦たる金剛の射程は遠距離で、最初期とはいえ一航戦の名を冠した(軽)空母の龍驤もいるのだから、安全を期するなら遠距離を維持して金剛と龍驤に任せておけば良かった。

 

 だがしかし、恋する乙女はハリケーン

 

 魚雷は依然脅威なれど、今や艦娘の改修技術は極まり全ての艦娘が10万馬力越えの戦艦タービン(エンジン)を標準搭載。

(島風、タシュケント、熊野等は元から戦艦級のタービン)

 その膂力、雪風が戦艦タ級の腕をへし折る時代。

 

 何が言いたいかと言えば

 

 大将首だ!! 

 大将首だろう!?

 ねぇ 君は大将首なんだろう!! 

 首置いてってよ!! 

 ボクには君が必要なんだ!!(経験値的な意味で)

 お願いだよ!! 

 どうしても必要なんだ!! (経験値的な意味で)

 ねえ!!!

 

「寝ても覚めても愛のため、正に Burning Love デスねぇ」

 

「無駄にいい動き。ありゃ初期型(オリジナル)の夕立と同じ戦闘IQ()バカ高いタイプだねぇ」

 

「にしては平常時の言動がいまいちポンコツやんね」

 

『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえっちゅー奴や。くわばらくわばら』

 

「ですが、あの気迫と装甲の貫通具合的に時雨さんは既にケッコン艦の火力ですよ」

 

「まぁー、そりゃあ、ねぇー?」

 

 艦娘は戦闘練度とは別の『意志の強さ』と言うべきモノが一定値に達すると深海棲艦に対して特効が付くようになる。

 少し混み合った言い方をすれば霊気が高まって深海棲艦の中身を成仏させやすくなる。

 戦力的に言えば装甲部分はあまり変化しないけれど、生身部分に入るcriticalダメージ倍率が雑に100倍にまで伸びると考えれば良い。大抵の棲姫はワンパンだ。

 

 ケッコンカッコカリはその一つの目安。

 

 特効値は艤装との親和(練度)と意志の強さの合計なので、練度が低くても実質火力がケッコン艦級になる場合もあると言えばあるのだ。

 

「結局つまりはLove is All デスね」

 

 ◇◇◇

 

 漁業船団護衛任務

 大成功

 

 既に日本近海の拠点を根絶されたとはいえ、自然発生かつ不規則な活動をするいわゆる「はぐれ深海棲艦」群は絶えず、海の作業は今も艦娘の護衛が必須。

 

 漁船の護衛は今や海軍の主要な任務の一つだ。

 

 鎮守府に一隻の船が帰港する。

 艦娘ではなく本物の船。

 

 全長20m

 ちょうど漁船と同じぐらいの大きさ。

 超大型艤装

『複合電探搭載 簡易海上拠点艤装艦』

 技術の発展によって艦娘の艤装扱い出来るようになったレーダー艦。

 空母に潜水母艦に続く艦娘を乗せて運べる艦娘母艦。

 空中、海上、海中を等しく見張り、深海棲艦を敵探知範囲の3倍以上の索敵射程で捕捉し、先制攻撃の起点を作る艦隊の目。

 

 船から顔を覗かせる。

 波は穏やかだけど走る船の上はいつもより風を強く感じて少し肌寒い。でも、僅かに赤くなった沈みかけの太陽の照らす海原はキラキラとワイン色に輝いていて美しい。

 レーダーで補足してから準備しても間に合うぐらいの索敵範囲があるため、護衛中はまだしも帰りぐらいは船に乗って帰るのも悪くない。

 

 レーダー艦を制御(装備)している旗艦の龍驤に

 金剛、北上、浜風、浦風

 そしてボクこと時雨。

 

 ゆっくりと近づくボクたちの帰る場所、辻鎮守府。

 ボクたちの鎮守府は、艦娘を運用、生活している場所であるため鎮守府*1と呼称されているものの基地としての規模はかなり小さい方、漁業船団護衛が主な任務で、規模で言えば中小企業一つ分ぐらい。海洋警察支部とかそんな感じ。まぁ、あまり規模が大きいと面倒ごとも増えるし、今ぐらいがちょうどいいとボクは思うけどね。

 足るを知る。節度ある艦娘、時雨です。

 

 港の発着場に提督が姿が見えた。

 横にいるのは真白い頭巾に豊満なボディ。首元の白いスカーフで海兵風に仕上げた深い青色の丈の短い浴衣。赤茶色の髪を三つ編みおさげに編み込んだ髪型。青色の瞳。

 迅鯨型潜水母艦二番艦『長鯨』

 長鯨は提督と腕を組み、引っ張る様に波止場を歩いていた。

 それはもう仲睦まじく腹わたが煮えるほど。

 

 

 時雨の目の色が暗く変わる。

 バチンと音が聞こえそうなほど分かりやすく雰囲気が変わる。

 切ったばかりの戦闘スイッチが勢いよくONに切り変わる。

 

 よし、頃

 

 時雨の手元が閃いた。

 駆け寄る金剛、渾身の力で木の棒の中に入った鈍色に光るなんだか物凄く物騒な気配のする代物が船のヘリから飛び出さないよう押し留める。

 

「ヘイヘーイストップ時雨、STOP!! 長鯨をテートクの秘書艦にchoiceしたのはアナタ自身デスよ? それなのに長鯨に怒るなんてお門違いもイイとこネ」

 

 努めて明るく、遠目からは軽口に見えるように、片手で全力で時雨の殺意を封じ込めつつ、金剛さんは笑った。口の端が引き攣っているのは気のせいだろう。

 時雨は投げナイフの名手である。彼女ならこの距離でも危険であると戦友の厚い信頼があった。

 

 長鯨が船に向かって手を振っている。屈託のない笑みはとても明るく、彼女を見る提督の瞳は少しだけ優しげだ。

 ギシリと時雨の歯が唸る。

 

 更にハイライトが仕事を辞めた。

 

 押し合いが時雨に傾き、 ぬっ と時雨の短刀の刀身が顔を見せギラギラと獰猛に輝く。硬い笑みを浮かべた金剛さん。もう片手を足して両腕で時雨の腕を静止させる。

 残念ながら近代化改修によって膂力に大きさ差は無く、押し留めるのが精一杯。

 

「金剛、やっぱり姉妹艦と言えど許せない事はあると思うんだ。たとえ妹と言えどボクの提督に色目を使って、姉妹艦の風上にも置けない。許すまじ」

 

 いやまだ時雨の提督ではNoデスし、時雨は白露型……あ、いや、そういえば……いや、どっちみち風上に置けないのは時雨の方デース……。

 

 ちょっとなかなか深海棲姫も怯むドス黒い瘴気を放つ時雨に金剛さんは語りかける。

「時雨、そんな事をしてもテートクのハートはGET出来まセン! それで手に入るのはテートクのボディだけデス。時雨はそれで満足出来るんデスか?」

 金剛さん渾身の説得。時雨=サンに効果はバツグンだった。

 

 そもそもね。

 今は咄嗟にちょっと頭に血が登ってしまっただけで、本来の時雨=サン(ボク)は大和撫子なので好きな人を無理やり縛りつける様な事はしないのです。

 大和撫子なので。

 恋の戦争は蹴落とすのではなく勝ち取る正統派な大和撫子なのです。

 

 怒りの6秒さえ耐えれば時雨も元通りの大和撫子。

(6秒あれば8発撃てるのは内緒、8発あれば棲姫を沈めるのに事足りる事はもっと内緒)

 冷静さを取り戻した時雨はそっと短刀を胸元に納め、目をつぶって少しだけ荒んだ呼吸を整える。

 

「……。そうだね、金剛の言う通り、ごめん、ボクちょっと興奮してたみたいだ」

 

「Oh、喧嘩っ早いのはテートクの心象的にもあまり良くないデスよー?」

 

「うん、気をつけるよ」

 

 言ったそばから時雨がスラリと短刀を抜き放つ。

 殺気が無かったからか金剛さんも反応が遅れた。

 ギョギョッとビビり散らかす金剛さんに時雨が朗らかに笑う。

 

「大丈夫。手鏡を持ってなかったから代用するだけだよ。ほら、顔が映るぐらい磨いてあるんだ」

 

 殺意はもうすっかり残っていない。

 時雨が見せた短刀はしっとりと濡れているかの如く一点の曇りもなく磨き上げられていて、煌めく刀身には微かに微笑む爛々と輝く炎のような瞳の時雨と金剛の顔が映し出されている。

 

(Oh.Bladeが鏡みたいにギンギラデース。使い捨ての投げナイフには無用な切れ味、いったい何用なんデスかね)

 A.解体用

 

 サッサッサっと戦闘で少し乱れた髪をすき左右のハネっ毛とアホ毛がピンと形よく跳ねる。

「うん、バッチリだね」

 

 タンと軽い音を立てて短刀が仕舞われる。

 

「それは良かったデース」

 金剛さんの声音は疲れたようにやや低かった。

 

*1
船が管理されている「鎮守府」、停泊施設+重要な施設「警備府」、停泊施設有り「泊地」、小さめの海軍施設「基地」




時雨=サン
練度35+64(99)
なぜ、まだ時雨改なのに犬耳があるのか
なぜ、目が赤いのかァ!
その答えはただ一つ…
ボクが時雨であると同時に■■だからさ!

龍驤さん
練度40+5
船の運転手のアネさん
初期メン
「ウチが言うのもなんやけど、時雨、その黒字隠す気あるんか?」

提督
本名 辻 鷹典
「時雨、武装の放棄は実質小破判定なんだ」
顔は凛々しくもやや強面。頭脳明晰、文武両道、口数は少ない。
「この名前とボクの適性!やっぱりボクと提督は運命の赤い糸で結ばれているんだよ!」(偶然)
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