我が友、時雨は目が赤い   作:ワレオオバ

6 / 12

お久しぶりになり申し訳ありません。
また閑話です、時雨=サンは今日も元気です。

感想・お気に入り登録ありがとうございます!
艦娘それぞれの短編設定は気になる方、多いんですね
君、作家の素質あるかもよ(時間遡行者)
お前も作家にならないか?(鬼)


大和、抜錨します!

 

 2つの艦娘の適性を持つ特別な才能。

 『複合適性』

 厳しい戦況であった頃においては優秀な艦娘が手早く戦線に復帰できる上、適性の兼ね合いによっては1人の艦娘が異なる役割を持てることにより、それはもう重宝されたそう。

 

 ですが

 

 幸か不幸か深海棲艦との戦争がもう完全に頭打ちを通り過ぎてモグラ叩きまで成り果てた現在。

 

 そりゃあ、あるに越した事はないのですが

 

 過ぎたるは及ばざるが如し

 

 無用の長物

 

 月夜に提灯

 

 大和型の適性を持っていた所で使い所なんて全くありません。

 シクシク

 

 ラストエリクサーと言うより、

 レベル99の究極必殺技のような、

 オーバーキルすぎて逆にいらない子

 

 それが世界最強の艦娘

 超弩級戦艦大和

 

 駆逐艦の20倍の燃費は哨戒任務には重すぎたのです。

 グスン

 

 ◇◇◇

 

「大和ー、大和さーん」

 コンコンと自室のドアが叩かれて、部屋の外から声がします。

 今の私は非番です。

 すなわち出かけている可能性もあります。

 このまま居留守を決め込めば、扉の向こうの誰かにとって私が部屋の中にいるかどうかは不確定事項。

 いわば今の私はシュレディンガーの大和になります。

 

 さぁ帰ってください。

 私の涅槃を邪魔するものは何人たりともこの大和が許しま

「もう、大和さん、自室だからってだらけすぎじゃありませんの?」

 

 気付かないうちに部屋に入られ、籠もったコタツを捲られました。

 シュレディンガーの大和は存在するで確定されました。

 

 パジャマにラムネに包装を半分剥いたままの丸々一本の羊羹。

 手元に漫画本まで積んであると言えば、休日を全力で満喫しているのは想像に難くありません。

 眼鏡までかけていれば数え役満でしたが艦娘は目もいいので眼鏡はかけていません。

 

 ソソソっと炬燵の裾で顔を隠します。

「熊野さん、私は大和じゃなくて矢矧です。大和なんてこの鎮守府には居ないのですよ」

 

「な〜に言ってるんですの。どこからどう見ても貴女は大和じゃありませんか」

 不肖、この大和/矢矧

 艦娘としての見た目は10割大和なのですが

 

「見た目は大和でも、どうせ矢矧の艤装しか使わないんですから、私はただの大和っぽい矢矧なんですよ」

 

「矢矧は元から大和に似ている事で有名ですわよ」

 

 出撃比率は矢矧10:大和1

 ……盛りました

 矢矧50:大和1です

 

 大和として海軍艦娘学校を卒業したのに、いまだ大和として出撃した回数は両手両足で足りるほど。

 

 硬い! 

 強い! 

 重い! 

 決戦兵器の居場所は戦場にしかありません。

 見回りにパトカーを差し置いて戦車を動かす馬鹿はいないのです。

 

「はぁ〜、前回の演習で当日になって大和から矢矧に変更になった事、まぁーだ根に持ってるんですの」

 

「うっ、だって久しぶりの演習でしかも大和で出れるって言われていたんですよ。それなのに当日になってやっぱりダメなんて」

 

「その時の相手方は純正水雷戦隊だったでしょう。艦隊相性はこちらが超有利でしたわ。ガチガチの戦艦艦隊で弾着観測しながら一方的に砲撃するなんて塩試合、演習でやる訳にはいかないでしょう」

 

「なら大和タッチで近接戦に持ち込めば「どっこの世界に近距離で大和に勝てる軽巡や駆逐艦がいるんですの!」

 

「えーっと、神通流……とか」

 

「アレはもう軽巡じゃなくてNINJAですわ。それにそんな実在するかも怪しい超一軍と私たちが演習する訳ないじゃないですの。ほら、シャキッとなさいな」

 

 ずるずるずる

 脇に腕を通され炬燵から引きずり出されてしまいました。

「あ゛あ゛〜」

 

「なんて声出しやがりますの全く。はい、こちら回覧板ですわ。次の演習、貴女も出るんですから目を通しなさい」

 

「はいはい、矢矧矢矧……。って、あれコレ大和って書いてありますよ?」

 

「だぁから、貴女に一声掛けたんでしょうに。次の演習相手は戦艦も入っているらしいですから今度こそ大和で出れるそうですわ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「そんなしょうもない嘘つく訳ないでしょう」

 

「や……」

 

「や?」

 

「やりました! さすがに気分が高揚します!」

 バンザーイ

 

 ◇◇◇

 

 演習当日

 

「今日はよろしくお願いしますね」

 

「はい、こちらこそ、良い演習にしましょう」

 

 朗らかに笑うやや小柄な女性

 真白い頭巾に鯨を模した髪留め。

 首元の白いスカーフで海兵風に仕上げた深い青色の丈の短い浴衣。やや灰色に近い黒髪を三つ編みと左右にピンと跳ねたハネのついた髪型。真紅の瞳。

 迅鯨型潜水母艦一番艦『迅鯨』

 

 私たちの鎮守府にやってきた今回の演習相手の旗艦の方です。

 

 私は彼女から差し出された手を握り返しました。

 

「ところで、その手に持っている大きな風呂敷は何なんですか?」

 

「ああ、これですか?」

 片手に持った風呂敷に入った真四角に近い大きめの箱。布の向こうが透けて黒い事が分かりました。重箱でしょうか。

 

「これはお弁当ですよ。せっかくの外出ですから、少し頑張ってみたんです。大和さんは提督にお料理などなさらないんですか?」

 

 何故そこで提督

「いえ、私は提督とはそういう関係ではないですから」

 

「あら、そうなのですか。では他にお相手が?」

 

「そう言う訳でも……」

 

「そうなのですね……。良いものですよ、人を愛すると言うことは。貴女に良い出会いがある事を願っておきますね」

 

「ありがとうございます」

 

「ああ、それと」

 

「はい」

 

「提督の手前、負ける訳にはいかないので今回の演習、勝たせていただきますね♪」

 にこにこ笑顔の迅鯨さん、バッチリ勝利宣言です。

 

「あ、はい。あ、いや! 負けませんよ! 私だって大和ですから!」

 私だって負ける訳には行きません! 

 大和型の名にかけて! 

 

 ◇◇◇

 

 演習は予め30km以上大きく距離を取っておき、中間地点に立つ判定役の大淀さんの信号弾の合図で開始されます。

 

 敵

 迅鯨艦隊

 旗艦 潜水母艦 迅鯨

 潜水艦 伊168

 潜水艦 伊8

 雷巡 北上

 戦艦 金剛

 軽空母 龍驤

 潜水艦隊

 

 私たち

 大和艦隊

 旗艦 戦艦 大和

 航空戦艦 日向

 航巡 熊野

 駆逐艦 磯風

 駆逐艦 冬月

 駆逐艦 涼月

 戦艦艦隊

 

 迅鯨さんたちの艦隊と挨拶を交わした後、お昼を挟んで演習を開始します。索敵から始める演習には相当の距離を取らなければならないので予め移動しておかなければなりません。

 恐らく迅鯨のお昼は提督と共に随伴の船の上で楽しいひと時を過ごした事でしょう。

 こちらの用意したお弁当を受け取りながら(迅鯨さんのお重は全て提督+自分用)金剛さんは「いつもの事デース」と笑っておりました。

 

「信号弾、確認しました!」

 涼月さんが声をあげました。

 遠くに開始を告げる赤い煙があがっています。

 

 演習開始です。

 

「こちらも確認しました。艦隊前進、警戒陣。熊野さんは偵察機を上げてください」

 

「了解、瑞雲発艦しますわ」

 

「私は出さなくても良いのか?」

 

「ひとまず索敵は熊野さんに任せます。日向さんは接敵しだい無理のない程度に観測を狙ってください」

 

「承知した。熊野、責任重大だぞ」

 

「わたくしの瑞雲隊は優秀ですわ。見落としはありえませんわよ」

 

「ははっ、心強いな」

 

「敵の航空隊への警戒は?」

 

「冬月さんは対空を、涼月さんと磯風さんは対潜を重視して索敵お願いします」

 

 艦隊に指示を出して、偵察機の報告を待ちつつタービンを温めるように少しずつ前進。

 急ぐ必要はありません。

 この演習は距離を取った方が私たちに有利に働くからです。

 

「相手はどう来るでしょうか」

 

「索敵しこちらを見つければ距離を詰めてくる。結局はそれだけだ」

 

「完全に攻撃方法がすれ違って真正面からの殴り合いしかおきないですものね」

 

 相手方は潜水艦隊

 

 こちらはオーソドックスな戦艦艦隊

 

 迅鯨さんは潜水母艦の持つ固有の通信能力により、艦隊から離れた潜水艦に正確に攻撃の指示を出せます。

 更に雷巡の北上さんの大量の魚雷と相まって多方向から魚雷の飽和攻撃を受ければ逃げ場はありません。強烈な一矢を持ってこちらを倒す一撃必殺の陣容。

 

 対する私たちは2隻の戦艦を中心に射程の有利を押し付け近づかれる前に倒す圧倒型。

 

 潜水艦は乾坤一擲の好機が来るまでは顔を出さないでしょうし、潜伏に徹する潜水艦を捕まえるのは至難です。

 こちらが敵水上艦を倒すのが先か、魚雷の射程に納められるのが先か。

 

「向こうの空母は龍驤さんでしたわね」

 

「一種類の艦載機の運用が特に上手い方ですが、単艦の空母が重用するのは戦闘機。制空権を取るのは難しいですね」

 

「単艦空母は防空が仕事ですわ」

 

「ああ、こちらは私と熊野が艦載機を扱えるが、流石の瑞雲といえど純粋な戦闘機には分が悪い」

 

「相手方にしても対空装備の駆逐艦が居るから艦載機を飛ばした所で有効打は望めない」

 

 つまり超遠距離の航空戦はやる意味が薄い。

 

「堅実に行こう。定石通りに」

 

 ◇◇◇

 

「シッ、迅鯨! 例のアレプリーズ」

 

「はい、どうぞ」

 

「thanks! おおー、コレが本物の精神注入棒デスか。なかなか重くてインパクトが出そうデスね」

 

「気ぃつけや金剛、うっかりウチに当てたらウチは三途送りやで」

 

「ノープログレムデース、そんな事はしまセンよ」

 

「ならええよ」

 

「艦隊、複縦陣! 金剛さんは龍驤さんの前へ、北上さんは私の後ろへ、敵艦隊を見つけ次第突撃します!」

 

「いや突撃て」

 

「ま〜、距離取ったってこっちが不利だかんねぇ」

 

「バッティングセンターで鍛えた腕が鳴るネ!」

 

 ◇◇◇

 

「敵艦隊発見! 砲撃用意!」

 水平線のギリギリに迅鯨さんたちがチラっと見えました。

 まだまだ全然遠い距離。

 ですが大和の46cm連装砲は超長射程。見える範囲は全て届くのです。

 

「大和に合わせて装備した46cm砲。重いが調子は悪くない」

 どうしても長距離砲撃は命中率に不安が残ります。単艦の砲撃ではアテにならないので、日向さんにも46cm砲を担いで来てもらいました。

 

「一斉射! 撃て!」

 大きく大きく山なりに飛んでいく砲弾

 当たるも八卦当たらぬも八卦

 

 ドボンドボン

 と迅鯨艦隊の回りで水柱が立ちますが、当たっている様子はありません。

 

「この距離ではなかなか当たりませんね」

 

「一発は当たったようですが、跳弾されてしまいましたわ」

 

「さすが高速戦艦、大和砲も弾くか」

 

 ────

 

『お゛ぉぉ、これが46cm大和砲の威力デスか。手がビリビリしマース。素手でパリィするのはごめんデスネ』

 

「ですがおかげで無傷で正確な位置を知れました。後の先、取らせていただきます。北上さん、潜水艦の皆さん魚雷斉射お願いします!」

 

 ◇◇◇

 

 警戒陣のまま、おそらく一直線にこちらへ来るであろう迅鯨艦隊を迎え撃つため横方向に航行中。

 姿は見えてもまだ金剛さんの有効射程には入っていないようで砲撃は飛んできません。

 この間に私と日向さんで戦力を削っておきたいのですが……。

 

「右前方広範囲に高速推進音多数! 魚雷だ!」

 この距離で貴重な雷撃を使うなんて、迅鯨さんはなかなかチャレンジャーな様です。

 

「全艦独立転進! 魚雷通過後再度転進して陣形を元に戻します!」

 旋回して魚雷の軌道を避けます。

 こちらの前進を封じられるため、その間に距離を詰めるという作戦でしょう。

 

「続報! 艦隊右舷正面にも魚雷群! 多数接近中です!」

 前言撤回します。

 迅鯨さんたちは本気でこちらを魚雷で仕留めに来ていたようです。

 やられました。

 魚雷群の範囲から抜ける事が出来ません。

 

「大胆不敵ですわね」

 

「魚雷の殆どを先制雷撃で使い切るとはな」

 艦娘の魚雷は斉射2回+半分が一度の戦闘に使える限界数です。

 この先制雷撃で相手は魚雷を自衛分以外は全て使ったと考えて良いでしょう。って

 

「感心してる場合ですか! 艦隊右舷旋回! 雷撃は受けるしかありません! 熊野さんは私の後ろへ! 駆逐艦は跳躍回避を試みて下さい! 日向さんは私と迎撃です! ただでやられませんよ!」

 

「了解した。万が一のために瑞雲を飛ばしておくが良いか?」

 

「提案を受領します! 日向瑞雲隊発艦させて下さい!」

 

「承知した。瑞雲攻撃隊、全機発艦!」

 

 魚雷群が私たちの足元を通ります。

 流石に運良く隙間を縫うというのは戦艦では望めません。2発の魚雷が私の足元で爆発、日向さんも1発被弾。駆逐艦の皆さんは上手く魚雷を飛び越え躱しました。

 

『日向 小破』

 大淀さんの声が通信機越しに響き、日向さんの艤装に小破の印の黄色の旗が立ちます。

 

「反撃します! 主砲! 斉射!」

 

「やはり大和のようにはいかない……なッ!」

 

 戦艦2隻の主砲斉射、超長距離射程ギリギリの一射目よりも近いのでよりゆるい山なり。敵艦隊に着弾確認。

「きっちり1発は跳弾を取っているな。手強い」

 

『金剛 小破』

 今の所は痛み分け。

 どんどん距離は近づいていきますが、魚雷の大部分を失った今、近距離戦では私たちに分が──

 

「くそっ! 推進音確認! 規模同等! 魚雷第三波だ!」

 

 えええぇぇぇぇ!? 

 一度の戦闘で使える魚雷は2回+半分って学校で習ったのですが!? 

 貯蔵弾薬庫から魚雷に加工する時間の関係で魚雷の追加は間に合わないはずなのですが!? 

 

「大和! どうする!!」

 磯風さん、そんなどうするってどうしましょう!? 

 

 さっきと同じように……いや、それには距離が詰まりすぎています。

 駆逐艦の皆さんが無防備になる。金剛さんや北上さんの砲撃で損傷すれば私たちの潜水艦に対する対抗手段が無くなります。

 避けられない。

 認めましょう。

 その上で最小の被害を

 

「艦隊! 大和後方に集合! 単縦陣! 大和タッチで近距離に突入します!」

 えーい! 当たって砕けろ! 大和型がこの海で一番硬いんですから! 

 

 ◇閑話◇

 

 ネルソンタッチ(大和タッチ)

 昔、偉い軍人のネルソン提督が考案した突貫戦術。

 船を単縦陣(縦一列)に並べて()()()()()敵艦隊に突っ込み、敵艦隊を分断して片面ずつ一斉射を浴びせる超攻撃的戦術。

 要するにT字不利(Tの横棒が敵側で正面の船が十字砲火を受けるため危険)を敵艦隊に突っ込んで十字にする事で敵の砲撃の死角(昔の船は横しか撃てない)に入り自分たちは超近距離で敵艦隊に攻撃を集中させるという荒技。

 

 艦娘や深海棲艦の場合、小回りが効くため超近接戦においても攻撃不能になるほどの死角はないが、距離が近ければ砲撃の威力は増し、艦娘は深海棲艦より敏捷性、現在は膂力においても優れるため攻撃力は増す。

 

 要するに

 装甲車でドーン! って行って白兵戦ゴーゴーゴー! 

 という事。

 戦艦を盾にして至近距離まで無理やり距離を詰める戦術である。

 当然、詰め切るまで先頭の船は敵全艦からの集中砲火に晒されるため大変危険。

 

 ◇◇◇

 

 魚雷が速い! 

 

 駆逐艦のみんなの退避が間に合わないっ! 

 駆逐艦を落とされると戦艦と重巡の私たちでは潜水艦に有効打がありません! 

 守らないと! 

 

 前方に迫る無数の魚雷

 

 飽和攻撃

 

 なら、当たる前に着火させれば全部吹っ飛ぶはず! 

 

「皆さん屈んで下さい! 魚雷を誘爆させます!」

 迫る酸素魚雷の薄い雷跡の前に照準を合わせる。

 はやる気持ちを抑えてよく狙って……。

 

 全主砲、斉射ッ! 

 

 海を揺らす砲撃の衝撃波が並ぶ魚雷を誘爆させてビルのように高く津波と見紛うほど巨大な水柱が上がりました。

 

 土砂降りの雨のように吹き飛ばされた海水が降り注ぎ虹を作ります。

 

「良かったぁ」

 

 艦隊の被害はゼロ。もうそろそろ互いに本格的な砲撃戦の射程に入ります。

 上手く足止めされました。

 迅鯨さん恐るべし。

 

 ──

 

 水の向こうに影が差しました。

 

 ドパァン!!

 

 飛沫の中から足が伸びて

 

 蹴りが飛んで

「タッチ成功ですね」

 迅鯨の声

 

 ギリギリで構えた傘が蹴りとの間に挟まりました。

 

 敵艦隊旗艦 迅鯨の蹴りが私の傘を軋ませます。

 

 重い!! 

 重い!? 

 この大和にとって重い蹴りって一体!? 

 

 傘を振り払い迅鯨を押し退けると、迅鯨さんは宙を舞って、

 

 身体を捻りながら迅鯨が両手に持った14cm連装砲が火を吹きました。

 

「きゃあ!?」

 

「何ッ!!」

 

 冬月さんと涼月さんに砲火が飛んで被弾してしまいます。

 

 着水

 発砲音

 しかし当たらず。

 

「なんッて動きしますの!?」

 迅鯨さんの着水時を狙った熊野さんの砲撃。

 スクリューが推力を得るまでまともに動けないはずの瞬間を狙ったはずなのに、迅鯨さんは一瞬足が沈んだと思った刹那に横方向にかっ飛んで砲撃を避けるどころか私の視野角の外に消えました。

 

『涼月 中破 冬月 小破』

 

「思ったより結果が渋いのですが……。ああ、秋月型は固定砲台だから手の重要性が低いんですね」

 手持ち砲塔の火力には限界があるが、その代わり、照準速度も射撃精度も持ち主依存。瞬間的な精度と速さは固定砲台に勝る。

 

「雷撃第四射! 今!」

 

 迅鯨さんの鋭い支持が飛びました。

 既に斜線から退いている迅鯨に変わり、残る水上艦の3人が私たちの前に立ちます。

 

「おっけー」

 北上さんが全身に装備した魚雷管が一斉にこちらを向いていました。

 まだ魚雷残っているんですか!? 

 

「させない!」

 日向さんの声

 

「ノーthank you!」

 

 ドドォン

 二つの爆音が2回ずつ

 

『北上 轟沈判定、日向 中破判定』

 

「shit! 間に合いまセンでしタ!」

 

「良い腕だ。だが瑞雲は既に全機発艦済みだ」

 

「空はウチのもんや! 爆装零戦は既に発艦済みやで! いてまえー!」

 

「まだ! この程度の損傷で軽空一隻の艦載機を落とせない防空駆逐艦ではないですよ!」

 

「左右雷跡! 旋回しろ!」

 

 左右から迫る酸素魚雷。

 潜水艦の4度目の雷撃。北上さん以外にこの海域には潜水艦2隻に加え、それぞれが操る小型潜水艇「甲標的」が合計3隻も潜んでいます。

 北上さんの分が減って4隻となってなお、その脅威度は極めて高いままでした。

 

『涼月大破』

 

「涼っ! くっ、潜水艦と同時はキツいぞ」

 

「散開して! 磯風と涼月は対潜を! 冬月は対空! 被弾を抑えて! 砲撃は速やかに龍驤に集中してください!」

「金剛は龍驤の護衛を! 潜水艦は以後独断の攻撃を許可します! 狙いやすければ誰でも良いです!」

 

 主砲が使えるまでまだ数秒。

 だけどその時間すら惜しい。

 戦艦の副砲は駆逐艦の主砲に勝る。

 迅鯨さんは強い! 大型艦全員で龍驤・金剛さんたちを落として数の力で勝利を収め

 

「貴女の相手は私ですよ?」

 ゾッとしました。

 

 ほぼ真横から声がして振り返ると

 

 大上段

 

 鉄棒を振りかぶる迅鯨さんの姿。

 

 叩きつけられる鉄の棒

 傘の面で袈裟斬りを受け止めます。

 パキパキと戦艦の砲撃を耐える傘の骨組みが折れるのを感じました。

 体勢がくずれるほどのインパクトを受け切り、私と迅鯨の抜き撃ち勝負。

 

 速いっ!! 

 

 私の副砲が砲塔を動かすより先に、まるで手品のように迅鯨さんの左手には14cm連装砲が握られていました。

 

 向けられる14cm連装砲

 傘をを前に向けて即席の盾にして、同時に私も正面に主砲を揃えて斉射します。

 傘で視界が妨げられていますが、そう躱せる距離ではないはずです。

 

 斉射の爆音が耳を遮り、次に聴こえたのは波の音。何かの走る音。

 

 バガン

 

 右側に衝撃

 

 ……バガン? 

『大和 小破 第三主砲損傷』

 えええええええええええ!? 

 

 今! 直に殴りました!? 

 艦娘同士の攻撃は大きなダメージにならないはずですが、コレ本当に壊れてないですよね! 

 

 

 キーン

 

「なんで今のが守れますのよ!!」

 私の背後を取った迅鯨さんの側面を熊野さんが撃ちましたが、砲撃を弾かれてしまった模様。

 砲弾パリィって一応高等技術のはずなんです。

 特に軽巡以下の装甲の艦娘は失敗すれば中破以上は確定の博打。

 なんで平気な顔してそんなリスキーな事できますね! 

 

 迅鯨さんが直角に曲がり、更に直角に曲がり、曲がるたびに加速する姿は稲妻の如く。

 

 艦娘は船の挙動を取ります。スケートのようにと言い換えても良いでしょう。

 無理に旋回しようとすれば足が滑らずつっかえて転んでしまいます。

 

 そのひっかかりを足場にして三角跳びをする技術も存在しますが、言うまでもなく超高等技術です。船の領分を逸脱した挙動にはそれ相応の難易度があるのです。

 軽装の艦娘向けの超高機動航行術

「神通流軽装体術」って言うんですけどね!! 

 

 なんで迅鯨さん使えるんですか!? 

 

 そりゃあ、砲弾パリィだって成功させる自信ありますよね!! 

 

 迅鯨さんの動きを追い、砲塔を動かしますが、

 

 熊野さんが間に挟まり互いにギョっと

 

 ドンッ!!

 

『熊野 中破』

 背後から撃たれて熊野さんは中破。

 

 これが……一線級の強さッ!! 

 機銃を絡め、副砲を連射……したのは山々ですが迅鯨さんの後ろには日向さんや駆逐艦の皆が。

 射線管理完璧ですねコノー!! 

 前に冗談のつもりで言いましたが、まさか本物の神通流がここまで速いなんて。

 

 熊野さんが不意に私たちから背を向けた。砲塔を向ける先には金剛さん。

 

 発砲音が二つ。

『龍驤 中破、熊野 轟沈』

 不意を突かれた金剛さんを龍驤さんが庇い、

 隙を見せた熊野さんを迅鯨さんが再度緑色に塗った。

 

「これで良いのですわ。肉を切らせて骨を断つ。ですわよ」

 

 1対2だから背後に隠れられた。

 しかし1対1ならだけなら隠れ場所はありません。

 迅鯨さんだけを打ち抜けば背中に味方を背負われようと撃てる! その覚悟を私に決めろと。

 熊野さんは私が1人で迅鯨さんに勝てると信じてわざと撃たせのでしょう。

 

 なら、その期待に答えなければいけません。

 

「迅鯨さん! 私は、この演習絶対に負ける訳にはいかなくなりました!」

 

「その言葉は5時間前に言うべきでしたね?」

 

「まだッ! 間に合います!」

 

 迅鯨の左手が海面を撫でました。

 真横に近い形で海上をドリフトしています。

 制御失敗による横転? 

 そんな訳がありません。

 艦娘のカットバックターンは飛び込んだ時の浮力の反動を利用します。

 だからあえて急旋回して遠心力で身体を海に沈めているのですね。

 

 とてつもない角度の旋回から繰り出される砲弾のように撃ち出される迅鯨さん。私の前を横切り、右前方で再度海を蹴り、私の脇をかっ飛んで。

 完全に後ろを取った。

 

 と思っているのでしょう。

 

 不肖、この大和 

 軽装艦娘と違い旋回能力に乏しい戦艦ですが、戦艦が背後を向く技術を習得しております。

 

 やり方そのものは簡単です。

 艤装の持つ船としてのジャイロ機能を全てオフにして、水上に立つ斥力だけを残し、後は純粋な自分の馬力で重い艤装を支えて、

 思いっきり振り返る! 

 

 初めて迅鯨さんの顔に驚きが写りました。

 その顔が見たかったんです! 

 14cm砲では大和の装甲は貫通出来ないでしょう?! 

 

 この一撃で私は流れを変えます! 

 

「いただきます!!」

 全砲門一斉射!! 

 

 迅鯨さんを狙って真正面に放った砲撃はもはや面の攻撃となって空を裂きました。

 砲撃の後、迅鯨さんの姿はありません。

 

 流石に模擬弾とはいえ吹き飛ばしてしまったのでしょうか? 

 なにはともあれ

「やりました」

 

 水面が揺れて ぬっ と何かが浮かびました。

 

 濡れた黒髪、真紅の瞳、セーラー服風の和服。

 手に持った小さな何か、投げつけられて、私の顔面で弾けました。

 

『大和 轟沈』

 

 ◇◇◇

 

「あ゛あ゛〜」

 声がよく響きます。

 

「お風呂でなんて声出しますの、はしたないですわよ大和さん」

 

「だって熊野さん、全身が痛いんですよ」

 艤装を無理矢理動かした代償は全身の筋肉痛でした。

 

 演習後、身体や艤装に浴びた潮や塗料、また模擬弾とはいえ砲撃を受けたダメージの回復のため私たちは入渠します。

 

 演習結果は迅鯨艦隊の勝利A

 潜水母艦である迅鯨が潜水艦や北上さんにまで魚雷補給を行ったことで実現した定石を超えた雷撃数と迅鯨さん自身の戦闘能力に終始圧倒されてしまいました。

ちなみに私の轟沈理由は顔面にナイフが刺さっての即死だそうです。怖っ!!

 

「隊列の選択を失敗してしまいました。私の落ち度ですね」

 

「定石が定石になるには理由がありますわ。貴女だけの失敗ではなくってよ」

 

 敗因の一つとしてむやみに隊列を伸ばしていた事。

 潜水艦隊には単横陣を徹底すべきでした。

(単横陣は横一列に並ぶ陣形。横に逃げる時は被弾面積が少なく、潜水艦を攻撃する時は爆雷の投下面積が広くなる)

 それなら魚雷の連続斉射で駆逐艦の皆さんを守るためにアタフタする必要がありませんでしたから。

 

 なにより迅鯨さんのあの水雷戦隊さながらの切り込み。

 いや単艦突撃とか本来なら絶対やっちゃダメなんですけどね。

 あの速度なら単艦突撃の範疇に入らないんでしょうね、あの界隈だと。

 

「そういえば迅鯨さんが見当たりませんね」

 

「迅鯨ならここに居マース」

 振り向くとシュンと落ち込んだ迅鯨さんと、まるで犯罪者を車に運ぶように肩をせっつく金剛さんの姿。

 

「……どうしたんですか?」

 

「提督……」

 

「はい?」

 

「提督がお風呂に入れてくれないんです」

 え、なんですか、DV彼氏的なアレですか

 

「オー、大和、そんな心配しなくてもダイジョブネー。テートクが混浴風呂に入ってくれないって意味ネ」

 

「それはそれで心配なのですが」

 

「私、頑張りました。MVPも取ったのに提督は『帰ってから』って」

 

「帰ってからなら良いんですの?」

 

「そう言っておかないと後が怖いデース」

 迅鯨さんの艦隊の皆さんは最近出来たばかりの基地の所属ながらなかなかの粒揃い。

 何かあれば後方支援部隊として太平洋戦線に参加する事もあるでしょう。

 

「金剛さん、ちなみになのですが迅鯨さん、こう言っては何ですがなんで地方哨戒任務をやっているのですか?」

 実力的にもっと戦闘の激しい所に行く腕前はあるはずなのですが。

 

「海軍に入る前からホの字だったからテートクの配属先を自分の配属先にしたらしいデース。成績優秀かつ艦娘のモチベーションが戦闘能力に直結する特性だから出来たゴリ押しネ」

 

「流石、迅鯨と言うべきでしょうか」

 

「あれは迅鯨うんぬんじゃなくて元からネ」

 

 …天職と言うのでしょうか、ああ言うのを。




あとがきに設定を書き連ねるってどうなんでしょうね。
私は設定資料集とか大好きなんで書いてしまうのですが(自己顕示欲)

大和
練度45+10
大和と矢矧の複合適性持ち
見た目は完全に大和
(複合適性はより適性の高い方に容姿が偏る)
ぶっちゃけた話、未強化戦艦程度なら矢矧で粉砕出来るため大和で実戦に出た事は無い(本当に大和を出す必要が無いため)
演習で大和を出した数より、ご当地大和としてイベントに出た回数の方が多い。逆鱗なので怒らせた場合は間宮パフェを奢るべし。
素直でアニメ吹雪と大和を足して2で割ったような性格。
非理法権天と間違えて不退転と書いたソックスがある。

熊野
練度48+15
大和さんの同期
べらんめぇお嬢様言葉を使う
いわゆる清純派鈴谷を焚き付けるタイプの熊野
誰が呼んだか奇声のお姉さん
面倒見が良くボケもツッコミもこなせる

日向
練度61+??
「まぁ、そうなるな」
迅鯨が大和を倒している裏で指揮代理として金剛と龍驤を1人で抑えていた強者。装備している刀は強度を重視しているため切れ味が悪いが、それでも直撃すれば頭は割れる。

迅鯨=サン
練度42+57(99)
「私の力なんて些細なものですよ。この勝利は、提督とみなさんのおかげです♪」
黒髪なのによく髪が銀色になっているのが目撃されている。曰く、気合が入ると髪が発光するらしい。
MVP取れたしレベルは上がるし提督には褒められたしでホクホクのご様子。
補助艦艇でありながら何故か神通流軽装体術を皆伝している。
奥義カットバックターンに加えて、秘技である自沈回避まで使える。
通常、食糧を保管している艤装内側のラックには味方に補給するための燃料・弾薬を始め爆雷や刃物が多数仕込まれている。

転回浮上(カットバックターン)
軽装の艦娘が魚雷を回避するなどの理由で海上をジャンプした後、着地の後隙を消すため一時的に浮力を弱めて膝まで沈み、浮力を再度展開させる事で反発力で急加速する技術。
を更に好きな方向に移動できるようにしたもの。
を更に急旋回で沈むという動作を代用した超高等技術。
その速度は瞬間時速200kmを超え、砲弾を見切る艦娘も目では追えても、身体や艤装は着いて来れず、圧倒的な早さで敵の死角に回り込める。
ただし失敗すれば妙高の中破絵みたいに空中に吹っ飛ぶ。
トランポリンに膝まで刺さった状態から重心移動だけで好きな方向に射出するようなもの。

自沈回避
砲撃を軌道修正で回避する隙が無い状態から、浮力を完全に切りわざと海に沈む事で海中に逃れる技。
単純な技ではあるが、艦娘は海に沈む事に対して本能的な恐怖を持っている上、浮上できるとは言え事実上、鉄の塊にくくりつけられて海に沈められるようなモノであるため、この技を使用するには本能にも恐怖にも負けない強固な意志が必要となる。

『大型艦の不採用について』
理由はいくつかあるが大まかに
1.燃費が悪い事
2.装甲、艦載機は艤装艦で補強出来る事
による哨戒任務には過剰戦力である事が挙げられる。
また全ての深海棲艦に最大で集積地焼き(4桁ダメ)レベルの超絶除霊特攻が入るため装甲で全身を覆うようなタイプ以外には駆逐艦の火力で事足りてしまう。

神通流軽装体術
駆逐艦のような高速艦と艤装が軽装の艦娘を対象とした超近接戦を主とする戦闘技術
「殴れる幽霊は殴れば倒せる」
殴可殴倒の理念の元
敵の攻撃を掻い潜り敵のド頭にスイカバーを叩き込む術を伝授している。
魚雷を飛び越える事に始まり、棒で砲撃を撃ち返す鍛錬の末、最終的に艦娘の持つ水に対する反発力を自在に操り海を駆けるNINJAと化す。
この他に
金剛式基礎航海術
長門式戦艦砲撃術
空母道
潜水忍法(息のころし方、孤独の耐え方等)
正統雷撃術
など様々な流派がある

『軽装・重装の違い』
ざっくり言うと、ジャンプ出来そうなぐらい身体の自由が効くなら軽装、殴りかかれそうなぐらい艤装が後ろに寄っているなら中装、それより重そうなら重装となる。
重装備であるほど、艤装のジャイロ機能が向上し直線航行の安定感が増すが、旋回能力は低下する。
出力や艦種ではなく、艤装が邪魔になるかどうかが判定の基準となるため、軽装重巡・重装軽巡などが発生する。
顕著な例である軽装重巡「利根」と重装軽巡「矢矧」を比較すると
全体的なバリアの耐久力は利根の方が高く瞬発力にも優れるが、
最高速度は矢矧の方が早く、またバリアを突破するほどの攻撃の場合、艤装を盾に出来る矢矧の方が最大耐久値は高くなる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。